三武将との戦いです
「一人は抜けられたが、まぁ良いだろう。残りは、我らで止める。良いな?」
「あいよっ!」「いいよっ!」
返事をしながらも、キュリアとリュノを吹き飛ばす武将達。
そして、その間にオーディルが立つ。
それに対して、キュリアとリュノが武器を構える。
「今度こそ君達? 魔王の屍とか来ると思ったのに。」
「まさか。そんな、大それた事はしないよ。正真正銘、こっちの兵は全滅さ。」
屍として操るのにも、礼儀というものがあるようだ。
言葉通り、相手が操るものは一体も残っていないのだろう。
「んじゃ、あんたらを守るのは何もないか。今度こそ終わりだな。」
「それこそまさかさ。だからこそ、屍に使っていた力を自分に回せるのさ。」
二体の武将は、今までの戦いで何もしなかった訳ではない。
持ちうる力を屍に回していたからこそ動けなかったのだ。
つまり、今度こそ本気で来るという事だ。
「ここから先は真剣勝負。」
「やられた分は、きっちりとだね。」
「死ぬか滅ぶか、自由に選べ。」
三武将が横に並ぶ。
その身から発するのは、武将の屍に負けない程の殺気だ。
そうして、各々が武器を構える。
「我は三武将が一人。屍使いのグルマドーナ。」
「我は三武将が一人。絡工りのメイカーラ。」
「そして我は三武将が一人、オーディル。同胞は我を刃の帝と呼ぶ。」
ついに三武将の三体が揃う。
その光景に、対面する者達が固唾を飲む。
その者達を、オーディルが睨む。
「我らが力、その身を持って味わえ!」
そう叫びながら駆け出す三武将。
まずは、オーディルがキュリアとリュノに斬りかかる。
「まずいっ。合わせるよん!」
「了解だ!」
迫る剣を斧と剣を重ねて受ける二人。
直後、重力ごとのしかかるような力が押し寄せる。
「ぐっ。」「ぐうっ。」
そのオーディルの剣に、体ごと押し潰されそうな感覚を感じる。
この二人ですら、耐えるので精一杯になる程の力だ。
「さっきまでの余裕はどうした。まだ我は、力の半分も出して無いぞ。」
「これで…半分ね。いやに…なる…よん。」
二人でようやく耐えれる程の力でも、本気ではないと言うのだ。
それでも、押し潰されそうになるのに耐える。
しかし、その横から他の二体が現れる。
「あたいらを忘れたとはっ。」
「言わせないよねっ。」
「くうっ。」「くっ。」
二人は耐えるのに必死で、横ががら空きになっている。
対処をしている余裕はない。
それを、後ろに跳んで避ける二人。
それでもと、二体の武将が剣を振るう。
「逃がすかよっ!」「逃がさないよねっ!」
「「しつこいっ!」」
その剣を、二人が武器で受け止める。
しかし、すぐに横へと逃げる。
その代わり、その後ろからオーディルが現れる。
「暇は与えんぞ。」
「ちょっ、避けて!」
「分かってる!」
剣を受ける余裕はない。
咄嗟に下がって避ける二人。
しかし、そこへ二体の武将が迫る。
「隙を見せたらっ。」
「当然狙うよね!」
「くうっ。」「ぐうっ。」
回避した直後は隙だらけだ。
そんな隙を逃すような相手ではない。
しかし、そんな二体へと二つの影が迫る。
「隙だらけなのはっ!」
「そっちもだよね!」
現れたのは、スタークとファウストだ。
勢いよく飛び出すと、横から迫る二体の武将を止める。
「こいつらは僕達が。だから、君達は集中して。」
「助かるよん。リュノくん、距離を取るよん。」
「させん!」
下がるのを止めるべく、オーディルが距離を詰める。
そうして、二人へと強烈な一振を振るう。
「横に!」
「了解だ!」
それに対して、横へと逃げる二人。
すると、からぶった剣が地面を叩く。
それだけで、大きな亀裂が走る。
「恐ろしい威力だね。」
「でも、受けなければ良いだけだな。」
「だね。今度はこっちが挟むよん!」
そう言いながら、キュリアとリュノが駆ける。
そして、オーディルを挟むように左右から襲いかかるが…。
「ふん。」
それを交互に受けるオーディル。
そして、そこから横へ剣を薙いで二人を払う。
それを防いだ二人は、大きく後ろへと滑る。
「ちょっ、強っ。」
「やってくれるっ。」
武器を地面に突き刺して、滑るのを防ぐ二人。
軽く振っただけの力でも、耐える事すら出来ない。
「ふっ、そんなものか。慣らしにもならん。」
「言ってくれるじゃん。思ったより強くて焦ってるよん。確か、帝とか言ってたね。」
「周りが呼んでいるだけだ。まだその位にはいない。」
あくまでも、周りが呼んでいるだけ。
しかし、半端な力で呼ばれるようなものではない。
その話を聞いたグルマドーナが、スタークの攻撃を受けながら笑う。
「そいつはね。剣の技術だけで、帝と対等な力を身に付けたんだよ。」
「近々、その位を与えられるかもとも言われているのさ。」
「へぇ。嫌な話を聞いちゃったよん。」
まだ帝ではないだけだ。
しかし、帝に匹敵する力を持っているのは確かだ。
それでも、オーディルは首を横に振る。
「正直、興味は無いのだがな。我が求めるのは、剣の道の極みのみ。」
帝になったからといって、何かを得られる訳でもない。
ならば、自身が求める道の先を求めるだけ。
「それで、それを聞いたお前達はどうする。諦めるような、真似はしないのだろう?」
「諦めたいのは確かだけどね。」
「そうは言ってもいられないんでね。」
「なら来ると良い。いくらでも、受けてたとう。」
どんなに強い相手でも、大陸を襲う以上は避けられない。
元々、その為に戦っているからだ。
そして、それは両側で戦う二人も同じ。
「やんじゃねえか。俺の攻撃をさばくとはなっ。」
「これでも、武将なんでね。そう簡単には負けないよ。」
グルマドーナがスタークの拳を避けていく。
そして、隙を狙って斬りかかる。
それでも、スタークもまた防ぐ。
「それでも僕達は負けないよ。守るものがあるからね。」
「それは結構。しかし、それで足を掬われないようにすると良いね。」
その反対側では、ファウストの見えない剣をメイカーラが受けていく。
一見ファウストが優位に見えるが、時折ファウストが後ろへと滑る。
それでも、体勢を戻して再び斬りかかる。
そして、その真ん中でキュリアとリュノも武器を構え直す。
「こうなったら、無理やり隙を作るしかなさそうだね。」
「んじゃ、それまで押し続けるか。」
「そうなるね。それじゃ、行くよ!」
そうして再び二人が駆ける。
しかし、今度はリュノだけだ。
目の前のオーディルへと斧を振るう。
「良いのか? 一人で。」
「一人じゃねぇよ。」
斧と剣が衝突する。
しかし、すぐにリュノが後ろへと滑る。
すると、今度はキュリアが迫る。
「隙見っけ!」
「本当にそう思うか?」
相手の開いた胴体へと、キュリアが剣を振るう。
それに対して、オーディルが引いた剣を突き出して防ぐ。
それでも、後ろに滑りながらキュリアが笑う。
「貰ったよ。影姫!」
そう叫んだキュリアの影が伸びていく。
すると、そこから樹のようなものが伸びてオーディルを絡めとる。
「ほう、面白い。」
「おっと。余裕ぶってる場合?」
絡み取られているせいで、オーディルは動けない。
その隙を狙って、リュノが相手の頭上へと飛び込む。
「くたばりな。」
そう言いながら、相手へと斧を振るうリュノ。
それに対して、オーディルが腕を捻って影を千切る。
そして、そのまま振り上げて斧を払う。
「くっ。」
「どうした、終わりか?」
「まだだよん!」
そう言いながら、キュリアが溜めた光を解き放つ。
その光は、一直線に線を描きながら飛んでいく。
しかし、その光線をオーディルは簡単に受け止める。
「眩しいな。」
「それだけじゃないよん!」
そう言いながら、キュリアが氷の針を大量に作り出す。
そして、オーディルへと一斉に落とす。
「くだらん。」
光線を払ったオーディルが、頭上で剣を大きく横に振る。
すると、その剣圧だけで砕けていく。
「この程度で。」
「終わりだとでも?」
砕かれるのは、キュリアの計算通りだ。
手を前に構えたキュリアは、砕けた氷の破片で霜を作る。
「目眩ましか。」
「気づいたところでっ。」
次の瞬間、霜を突き抜けるように光線が走る。
しかも今度は複数が四方からだ。
蛇のようにうねった光線は、オーディルへと向かう。
しかし、全ての光線がオーディルの剣で散っていく。
「増えたところで変わらんよ。」
「と、思うよね?」
「何?」
相手が光線を払った隙に、キュリアが懐に入り込む。
その際、周りの霜が剣の先に収束されていく。
「貰ったよん!」
そのまま、霜が収束された剣を相手の剣へと叩き込む。
それでも相手は、顔色一つ変えずに防ぐ。
「ふっ、惜しかったな。」
「それはどうかな? 氷よ!」
その言葉と共に、集まった霜が解き放たれる。
それにより、オーディルを氷が包み込む。
「油断大敵っ。リュノくん!」
「任せろ!」
そこに、リュノが斧を振るう。
今度こそ相手は動けない。
その筈だったが。
「無駄だ。」
そう呟くと共に、オーディルが氷から脱出する。
そして、リュノの斧へと剣を当てる。
そうして、再び吹き飛ばそうとしたのだが。
「風よ!」
後ろからの風に押される事により耐えるリュノ。
その風は、キュリアが出した魔法だ。
それにより、今度はリュノが剣を押し返す。
「残念だったなっ。そう簡単には吹き飛ばんさっ。」
「私の風は、突風級! さぁ、やっちゃって!」
「あぁ!」
風に押されながら、リュノが力を込めて斧を押す。
それに相手が耐えるも、次第に後ろへと下がっていく。
それと共に、相手の剣を押していく。
「貰った!」
「ぬうっ。」
そうして、相手の剣を振り払う。
しかし、それだけでは終わらない。
そこから更に、前に出たリュノが斧を振るう。
「くらえっ!」
「ぐっ。」
その斧は、防がれる事なく相手に叩き込まれる。
それを受けたオーディルは、後ろへと大きく滑る。
それを見た他の武将が驚く。
「「オーディル!」」
そう叫びながら、相手を弾いた二体の武将が駆け寄る。
しかし、オーディルは答えずに胸に手を当てる。
そして、その手に着くのを確認する。
「我が傷を。見事なり。」
先程の攻撃で傷を負ったようだ。
オーディルは、自身の血が着いた手を見続ける。
それを見たスタークが笑う。
「やるじゃねぇか。チビども。」
「何とかね。ただ、ダメージは少なそうだけど。」
よく見ると、流れている血は少ない。
しかも、攻撃を受けたオーディルは余裕そうだ。
それどころか、口元を綻ばせている。
「ふはは、はははは、はあーっはっはっ! なるほど、少しは楽しめそうだ。」
楽しそうに笑い出すオーディル。
その身から溢れる、瘴気による闘気が増していく。
その光景に呆れるキュリア。
「あーらら。むしろ元気になっちゃった?」
「なっちゃったな。これは少し堪えそうだ。」
傷をつけて弱くなるどころか、先程よりも強い気を放っている。
今度は、手加減などしてくれはなさそうだ。
「お前達。俺は好きに暴れる。だから、お前達も好きに暴れろ。」
「それは良かった。いい加減、めんどくさいと思ってたんだよ。」
「右に同意。それじゃ、あれをやっても良いんだね?」
「構わん。好きにやれ。」
他の二体の武将は、先程の戦いに嫌気を感じていたようだ。
そんな二人は、オーディルの前に出る。
それを見たスタークが拳を構える。
「お? まだやる気か? こっちはまだ戦えるぜ。」
「そうだね。でも、今度はこっちも本気で行くよ。」
「本気だと? まだ出してねぇってのか?」
今までの戦いは、手を抜いていたのだ。
そして、これからが本番。
二体の武将は、楽しそうにニヤリと笑う。
「お前達、ここまで私達を追い込んだ事を褒めて上げる。」
「だから、そのお礼に見せてあげる。泣いて喜ぶと良いよ。」
その直後、二体の武将が瘴気に囲まれる。
それが濃くなると、そこに禍々しい口と顔が現れる。
そして、暴れるように瘴気が揺れる。
「これがあたいらの本気!」
「その目でしかと見届けよ!」
「「魔獣化!」」
その言葉と共に、瘴気が収束していく。
そして、二体の武将の姿が大きくなると共に獣の姿へと変わっていく。
グルマドーナは、赤い肉体に骨格の鎧を纏い後ろから数本の腕を生やす。
メイカーラは、周囲の土を集めて纏うと足を蛇の足へと変える。
「こうなったら最後。てめえらが滅ぶまで暴れてやるよ。」
「後悔しても恨まないように。恨んだところで体が残ってはいないだろうけど。」
おぞましい姿の二体の魔族が、人間達を見下ろす。
その間を、人形のままのオーディルが立つ。
「さぁ始めようか。楽しい殺戮の始まりだ。」
武将達は、楽しそうに武器を構える。