明らかになった真相です
芸術の町を襲った武将の名前を変えました
突然現れたのは、光る剣を持った魔族。
その魔族に注目が集まる中、フィーと俺が睨みつける。
「あいつはっ!」
あいつはっ!
そうなるのも無理はない。
なぜなら、その正体は芸術の町を襲った因縁の相手。
最初に出会った武将そのものだ。
そして、フラリア王達も睨み付ける。
「強いな。」
「まだあんなのがいたとはな。」
「警戒した方が良いですね。」
研ぎ澄まされた本能が、警告を発しているのだ。
それほどの相手なのだろう。
その武将は、冷静に戦場を一瞥する。
「屍はどうした。つれて行った筈では無いのか?」
「オ、オーディルっ。これはその、理由があってだね。」
「思ったより、本来の力を出しきれなかったというか。」
オーディルと呼ばれた武将へと、他の武将が慌てて説明する。
しかし、オーディルは顔色一つ変えずに睨む。
「つまり、負けたと。」
「「ひっ。」」
その声からは冷たく鋭いものを感じる。
それを受けた武将達は震え上がる。
「情けない。折角、奪った剣も持たせたというのに。」
負けたという結果に、呆れるように首を横に振る。
そんなオーディルに、オルティが声をかける。
「あんたが、残りの武将? 帝はどうしたん?」
「帝様は準備中だ。」
「つまり、来ないと。」
「必要もあるまい。」
そう言って、一歩前に出る。
それだけで、周りの騎士が後ろへ下がる。
それでもオルティは動かずに相対する。
「それって、君達で大丈夫って事?」
「もとよりそのつもりで来た。屍なんぞはついでにすぎん。」
「そりゃ、随分な自信なこった。」
あれだけの戦力をついで扱い。
実際に、これだけの戦力差を見て動揺一つしていない。
そんなオーディルは、その手にある光る剣を構える。
「所詮は、儚き命。集まった所でなんになる。早々に散るといい。」
「ちょっ、いきなり!?」
オルティ達の反応も見ずに、オーディルが剣を振り下ろす。
すると、その先から破壊の光が放たれる。
その光は、目の前の全てを飲み込む。
直後、光の中からパドルを振ったオルティ達が現れる。
「たはあっ。威力は殺したけど無事だよね? 生きてる?」
「なんとかな。お陰で助かった。」
フラリア王達三人は無事なようだ。
その後ろにいる騎士達にも被害はない。
威力を殺してなければ、後ろの被害は甚大だっただろう。
「はぁ、やってくれるね。人工の聖剣だったっけ。下手したらやられてたよ。」
「やるつもりで放ったのだがな。なるほど、こいつらがてこずるのも頷ける。」
顔色一つ変えずに、剣の側面を眺めるオーディル。
この結果を、気にとめている様子はない。
そんなオーディルにオルティが疑問を持つ。
「へぇ、案外素直じゃん。悔しがるとか思ったんだけど。」
「興味ないな。そんな感情など、とうに削ぎ落とした。」
両横にいる二体の武将と違い、心を乱す事はない。
そもそも、その心が無ければ乱れない。
すると、それを聞いたフラリア王が前に出る。
「感情がない? ならば、襲う理由も無い筈だ。早く大陸から出てってもらおうか。」
「そうはいかない。こちらにも目的がある。」
そう言いながら、剣を構えるオーディル。
今度は光を溜めていない。
直接戦う気なのだろう。
それを見たオルティもパドルを構える。
「どうやらやる気のようだね。王様、行けるかい?」
「当然だ。このような奴ら、早く追い出してくれよう。」
「面白い。何処からでもかかってこい。」
武器を構えて睨み合う両者。
今にも飛びかからんとする雰囲気だ。
その時だった。
ズドーーーーーーン!
「きゃあああああああ!」
当然の雷鳴と叫び声が後ろから聞こえてくる。
その音に、その場の者達が後ろを振り向く。
「何がっ。」
そうして、フラリア王の目にそれが映る。
壊れた馬車、倒れた人、焼け焦げた地面。
そして、宙に浮く帝とそのの中にいる自分の娘を。
「カミーユ!」
「お父様!」
カミーユが暴れるも、逃れる事はない。
それだけしっかりとした捕まれているようだ。
それを見たフラリア王が駆け出す。
「カミーユ!」
脇目も振らずに駆けるフラリア王。
しかし、そんなフラリア王をファウストが止める。
「駄目です! そこにも結界が!」
「何っ。」
気づいたフラリア王が立ち止まる。
直後、雷の壁が一瞬だけ映る。
そんなフラリア王を帝が笑う。
「ふはは。知恵を着けたなフラリア王。」
「くそっ。カミーユを離せ!」
「そうはいかん。こいつは大事なバッテリーなのでね。」
「バッテリーだと?」
思いがけない言葉に、眉をひそめるフラリア王。
どうやら、狙ってカミーユを襲ったようだ。
そんな帝は、疑問に答えずに部下を見る。
「圧倒的な魔力を持つ娘。報告ご苦労だ。」
「「勿体なきお言葉。」」
帝の礼に対してお辞儀で返す二体の武将。
カミーユを襲ったのは、二体の武将の報告によるもののようだ。
そんな帝へと、フラリア王が叫ぶ。
「意味が分からない事を! 早くカミーユを離せ!」
「ならば、取り返してはいかがかな? 雷の結界を通れたらの話だが。」
「くうっ、良いだろう! そこで待っておれっ!」
そう叫びながら、フラリア王が雷の結果へと大剣を振るう。
すると、大剣を通して雷がフラリア王へと流れる。
「ぐううううううううううううっ!」
「お父様!」
「「師匠!」」
激しい激痛がフラリア王を襲う。
それでも、フラリア王は大剣を押し続ける。
しかし、途中で後ろへと倒れてしまう。
「ぐ、うっ。」
苦痛の表情を浮かべるフラリア王。
その体は、小刻みに震えている。
その姿を見たカミーユは、悲痛な顔をする。
「お父様っ。」
自分のせいでこうなったのだ。
辛くて仕方ない筈だ。
そフラリア王へと、スタークとファウストが駆け寄る。
「師匠!」
「おい! 無事かよ!」
「ぐっ。」
そう言いながら触れるも、更に苦しそうに呻く。
先程の雷のせいで、全身に激痛が走り続けているのだろう。
その様子を見たスタークが結界と向き合う。
「くそっ。じゃあ、俺がっ。」
「駄目だ! 同じ目に遭うぞ! 今は、戦力を減らせない事ぐらい分かるだろう!」
「何言ってんだ! お前の妹も中にいるんだぞ!」
「それは。ぐっ。」
例えスタークでも、同じ結末になるのは変わらない。
そうなると、こんな大事な場面で大事な戦力を失う事になる。
しかし、このまま放っておく訳にもいかない。
その様子を見た帝が笑う。
「心配しなくても、手は出さん。用事があるのは、この娘だけだからな。」
「何だと? 何で嬢ちゃんを狙いやがる!」
「言っただろ? バッテリーと。我らは元より魔力がある者を集めていた。あやつを自由に暴れさせる為にな!」
そう言いながら、奥の山へと指さす帝。
そこにいるのは、寝たままの四つ首の蛇だ。
あれを動かす為に、カミーユを連れ出そうと言うのだ。
「あれは少々燃費が悪くてな。一度の砲撃で、殆どの魔力を使ってしまうのだ。ならば、他の者で補えばいい。そうして狙っていると、丁度いいのが見つかったから利用してやろうと思ってな。全く私は運が良い。」
カミーユは、常に大量の魔力が流れてくる体質だ。
魔力が必要な四つ首の蛇にはうってつけなのだろう。
しかしそれは、向こう側の都合だ。
「ふざけんな! 嬢ちゃんには関係がないだろっ!」
「その通りだ! 君達の都合に彼女を巻き込むな!」
「知った事か。そう思うのなら取り返せば良い。出きるのならな。」
「ぐっ、くそがっ!」
魔族が人間に合わせる訳がない。
しかし、助けようにも雷の結界を破らないといけない。
これでは、手を出す事すら出来ないだろう。
その時、帝の下で何かが動く。
「ならば私が…。」
「ん?」
その言葉と共にフィーが起き上がる。
それと共に、足に力を入れる。
「助ける!」
そう叫びながら、フィーが帝へと飛び込む。
そして、帝へと剣を振るう。
「はあっ!」
「ふんっ。」
それでも、簡単に受け止められてしまう。
そんなフィーに、周りが驚く。
「フィーさん!」
「嬢ちゃん!」「お嬢さん!」
周囲の視線の中、フィーが剣を押し続ける。
己の思いを闘気に込めて。
「カミーユ! 今助けるからな!」
だから、待っててね!
「くだらん。その程度の力で勝てると思っているのか。舐められたものだっ!」
そう叫びながら、フィーを振り払う帝。
すると、呆気なくフィーは飛ばされる。
「ぐあっ!」
「フィーさんっ!」
ちょっ!
吹き飛ばされたフィーは、そのまま地面へと落下する。
それを見た帝は、軽蔑しながらフィーを見る。
正確には、その頭の俺を。
「邪魔だな。始祖の子供だからと生かしてやっていたものをっ。」
「始祖の、子供だと?」
俺が?
始祖の子供?
始祖とは、聖獣を創ったとされる始まりの存在。
俺がその始祖の子供だと言うのだ。
そんな俺へと、帝が雷を溜める。
「弱い貴様に用は無い! そんなに消されたいのなら消えるといい!」
「フィーさん! にゃんすけさん!」
「おい! 逃げろ!」
逃げろと言われても、逃げる時間はない。
そうして、俺達を消すべく帝が雷を落とす。
その時、急に空間が歪む。
「繋いだあっ!」
「なっ。」
その空間から、オルティが飛び出す。
そして、迫る雷を受け止める。
「彼女達は大事な護衛対象でね。それ以上は止めて貰おうかな。」
「ふん。まさか、結界を飛び越えて来るとはな。」
結界の向こうと外を繋いでワープしてきたのだ。
本来は、結界で断絶されている為に不可能だ。
それが出来たのは、空間を弄れる彼女だからこそだ。
「いつまで抵抗する気なん? もうあんたらは追い込まれてるのにさ!」
「まだだ。まだだよ。今頃、放った魔物達が大陸を荒らしている。いや、もう滅ぼした頃かな? そうなれば、この土地は完全に我らのもの。むしろ、これからなのさ!」
先ほど解き放たれた魔物達の事だ。
それらの魔物が人を滅ぼせば、この大陸は魔族のもの。
その事に、フィーが驚く。
「全てをだと?」
「そう全てさ!」
大陸中を魔物が襲っている。
それは、フィーと俺が訪れた場所も同じ事。
それを聞いたオルティが動く。
「やっぱり狙いは大陸かっ。なら、早いこと追い出さないとね!」
「ぐうっ、させん!」
迫るオルティへと、帝が雷を放つ。
それをオルティがパドルで受ける。
そして、縦に回って着地する。
「やってくれるっ。」
「お互い様だっ。」
そう言って、顔を覆う腕を下ろす帝。
あの瞬間、防ぐと同時にオルティが攻撃を仕掛けていたのだ。
しかし、ダメージにはなっていない。
「本当に厄介だなっ。これ以上は、相手をしてやれんっ。」
「逃がさないって…くっ。」
迫ろうとするオルティを雷で牽制する帝。
その間にも、帝の下に魔法陣が展開される。
「早いこと、さよならさせて貰う。ではな! 愚かな者どもよ!」
「待ちなってっ。」
動こうにも、もう間に合わないだろう。
それでもと、オルティの横をフィーが駆ける。
「カミーユーーーーっ!」
「フィーさーーーーん!」
お互いが手を伸ばし合う。
それが届き合う瞬間、帝とカミーユの姿が消える。
ワープの魔法で飛んだようだ。
「カミー…ユっ。」
そうして手を透かしたフィーが地面に落ちる。
その後ろで、オルティが動く。
「逃がさんよっ!」
そう言いながら、歪んだ空間へと戻るオルティ。
そのまま帝を追おうとするが…。
「通さないよ!」
「帝様の所へは行かせない!」
その前を、二体の武将が立ち塞がる。
しかし、動いたのはこちらも同じこと。
キュリアとリュノが武器を振るう。
「させないよん!」
「今の内に行け!」
「助かる! 後は任せるよっ!」
「互いにね!」「互いにな!」
そうして、二人が武将を止めている間を抜けるオルティ。
しかし今度は、オーディルが立ち塞がるが…。
「行かせんよ。」
「邪魔っ! 入れ替えっ!」
「ぬ?」
次の瞬間、オルティとオーディルの位置が変わる。
そうして抜けたオルティは、そのまま姿を消す。
オーディルが後ろを見るも、何処にも姿が無い。
「抜けられたか。やってくれるな。」
そう言いながらも、オーディルは冷静なままだ。
どうやらオルティは、無事に追いかけられたようだ。
しかし、その後ろの方でフィーが悔しそうに膝をつく。
「カミーユ。」
その声は、虚空へと消えていく。