思いよ届け、心よ動け
スタークの横にフラリア王達が並ぶ。
そして、剣聖のゴーレムと相対する。
「我らも戦うぞ。声を届けるなら、多い方が良かろう。」
「全員で気合いをぶちこもうって訳か。嫌いじゃねぇぜ。」
これだけの人数がいれば、声が届く可能性も増えるだろう。
その可能性を信じて、スターク達は武器を構える。
すると、それに合わせて剣聖のゴーレムの数も増える。
「増えただと!?」
「どうせ残像だ。気にすんな。あいつとの勝負、目に頼った時点で死ぬぞ。」
「お、覚えておこう。」
そうだね。
さっきの戦いと変わってない筈だよ。
目に映る全てがまやかし。
そこにあるものに従った瞬間に斬られてしまう。
これが剣聖の戦いかただ。
「ほら、言ってるうちに来るぜ!」
「え?」
え?
見る限り、相手の動きは無い。
そう思った次の瞬間、フィーの剣が大きく弾かれる。
「ぐっ、危なっ。」
「おっと。気ぃ抜いてる場合じゃねぇぞ!」
そう言いながら、同じく斬撃を受けたスタークが駆ける。
その後ろから、フラリア王も続く。
「フィー殿は妹殿の援護を!」
「分かった!」
アルティスを庇うようにフィーが立つ。
その間にも、スタークとフラリア王が武器を振るう。
「おら! とっとと、目ぇ覚ましやがれ!」
まずはスタークが、本体へと殴り付ける。
すると、それを防いだ剣聖のゴーレムが大きく後ずさる。
「平和の導き手になるのではなかったのか!」
続いて、フラリア王が大剣を叩き込む。
それにより、大きく体勢を崩す。
しかし、また相手の姿がかき消える。
「はっ。何度しても意味ねぇって。いや。来るぞ! 守れ!」
「なに…がっ!?」
気づいた瞬間、空間が歪んでいく。
そして、激しい斬撃が幾度も襲いかかる。
「ぐうっ。」
何が起きてるのっ。
まさか、
幾多の斬撃が、見える光景を歪ませているのだ。
当の本人もその奥にいる筈なのだが、斬撃がその姿を隠している。
すると、フィーの背中をアルティスが支える。
「支えます!」
「助かる!」
頑張って!
止まる事のない斬撃に、体が押されていく。
それを、二人の力で耐えていく。
そして視界が一色に染まっていくと、ついに斬擊が止まる。
「はあっ。相変わらずきつい攻撃だなっ。」
「疲労した腕にちと効くな。」
「でも、しばらくは動けねぇ筈だ。」
スタークの指摘通り、剣聖のゴーレムは座り込んでいる。
先程の斬撃の反動で動けないようだ。
そこに向かってスターク駆ける。
「反則とは言わせねぇぞ!」
そう言いながら、剣聖のゴーレムへと殴りかかる。
それを相手は防いでいくが、反撃の様子はない。
「動きを封じさせて貰う!」
続いてフラリア王も斬りかかる。
そんな二人の攻撃を、相手は防ぐ事しか出来ない。
その隙にフィー達も接近する。
「私達も行くぞ! アルティス、声をかけるんだ!」
「はい! 兄さん、起きて!」
アルティスがフィーの後ろから声をかける。
それでも、立ち直った剣聖のゴーレムが斬撃を飛ばす。
それをフィーが受け止める。
「ぐうっ、続けろ!」
「兄さん! 私よ! アルティスよ! 目を覚まして!」
声をかけ続けるアルティス。
それでも、相手は隙を見つけては剣を振るう。
どうやら、声は届かないようだ。
「止まらない。やっぱり駄目なの?」
「そんな事はない! 絶対に届く! 大事なのは心だ!」
「嬢ちゃんの言う通りだぜ! 気合いだ気合い! 本腰入れて呼びやがれ!」
「は、はい! 兄さーん!」
心のない声では届かないのも当然だ。
なので、兄への思いを乗せて呼び続ける。
それでも、剣聖のゴーレムは剣を振るう。
「アルティス、兄との思い出を思い出すんだ!」
「兄との思い出?」
「そうだ。心は思い出に宿る。きっと兄も同じ筈だっ!」
がたっ!
そうだよ!
今まで出会った皆もそうだった!
思い出があって心が育つ。
それは誰だって同じこと。
アルティスは、昔の事を思い出す。
「兄さん。」
手を繋いで散歩をした時の事。
ご飯を分け合って食べた時の事。
剣を教えてくれた時の事。
そんな兄の背中に憧れた時の事。
『アルティス。僕は、強い剣士になるよ。皆を守り導ける立派な剣士に。だから、側で見ていてくれ。』
その背中からは、兄の覚悟を感じた。
自分の自慢の兄。
そして、誰よりも優しい兄。
「私は見てきたよ。ずっと側で見てきた。私の兄は誰よりも強くて優しいんだ。」
そう言いながら、アルティスが歩き出す。
そして、フィーの前に出る。
「お、おい!」
危ないよ!
フィーが止めるも、その歩みは止まらない。
ゆっくりと、兄の下へと歩いていく。
しかし、そんなアルティスへと剣聖のゴーレムが剣を構える。
「おい! 下がってろ!」
「大丈夫です。」
それでもアルティスは止まらない。
そんなアルティスへと、無慈悲にも剣が振るわれる。
筈だったが…。
「………。」
アルティスに当たる直前で剣が止まる。
そして、その剣が震え出す。
「ア、ア、アァ…。」
震えと共に、声が漏れ出す。
そして、苦しそうに後ずさる。
その様子に、スタークが疑問を持つ。
「どうなってやがんだ?」
「簡単な話です。私達の声はとっくに届いていたんですよ。」
「届いていた?」
声は既に、兄の心へと届いていた。
だから、自分への攻撃を躊躇うだろうと接近したのだ。
それには、きちんとした理由がある。
「戦っているうちに、腰に手を当てる姿が増えてました。兄の癖です。」
「癖? そんなの初耳だが。」
「俺もだ。そんなの見た事ねぇぞ?」
剣聖本人の癖が、戦っているうちに出てると言うのだ。
しかし、長い付き合いである筈の二人には身に覚えがない。
それもそのはず…。
「そうでしょうね。王都へと旅立つ前に、癖が出ないように訓練してましたから。こんな偉そうな姿では、導き手に相応しくないとね。」
剣聖の目標は、皆を導けるような存在。
それなのに、偉そうにしている姿に誰がついて行くと言うのか。
いつも近くで見ていたからこそ気づけた事。
「その癖が、心を取り戻す度に出てしまったのね。押さえる意識がまだ無いままだから。」
無意識下での仕草が表に出てしまったのだろう。
本来押さえつけているものが失ったままだから。
妹のアルティスを斬らなかったのも、無意識下で拒否をしたから。
「意識はない。でも、心はある。だから、後は意識さえ呼び起こせれば。」
「助けられるという事か?」
「はい。間違いありません。」
今の剣聖は、無意識下で動いているようなもの。
だから、意識さえ呼び起こせば元に戻る。
その為にも、アルティスが苦しむ剣聖のゴーレムへと近づく。
「さぁ兄さん、思い出して。あの時の気持ちを。夢に向かって胸を張って立っていた自分を。私と過ごしたの時を。」
「ウグウ、アァ。」
アルティスの声に、剣聖のゴーレムがうめき出す。
そして、何かに抗うように頭を抱える。
しかし、その事に術者が気づいてしまう。
「なっ。剣聖との繋がりがっ。」
「抵抗している? まさか、仮死状態の筈なのに。」
ほぼ死んでいるのに、抵抗なんかする筈がない。
だけど、武将達は知らない。
その心が動いている事に。
「まずいね。どうにかした方が良いかもね。」
「すぐに対処をしなくてはね。」
このままでは、完全に繋がりが切れてしまう。
それを阻止する為には、介入して繋ぎ直す必要がある。
それをすべく動こうとした時だった。
「動くな。」
「なっ。」「くっ。」
体がいきなり動かなくなる。
そして、それをした者が背後で笑う。
「さっきの仕返し。一緒にここで見てような。」
「くそっ。だけど、動ける者は他にいるからね。お前達! あの集団を襲いな!」
武将の指示で、武将の屍達がそちらを見る。
そして、そこへ向かって走り出す。
その屍達に、フラリア王達が気づく。
「ぐっ、狙って来たか。止めるぞ! 邪魔はさせてはならん!」
「おう! 分かってらぁ!」
迫る屍に、フラリア王とスタークが立ち塞がる。
しかし、その前で武将の屍達が高く跳ぶ。
「跳んだだと!?」
「何をする気だっ。」
そう驚くと同時に、高く跳んだ武将の屍達が剣を振るう。
それにより、魔科学の武器から魔法が飛び出す。
それらの魔法が合わさると、大きな塊へと姿を変える。
「なにっ!」
「で、でけぇ!」
その大きさは、村一つ分の大きさだ。
人間など、簡単に飲み込んでしまうだろう。
その光景に、武将達が歓喜する。
「やれば出来るじゃないか! どうせなら、全部まとめて潰れちゃいな!」
「良いね。それなら、全ての問題が解決するからね。」
大きな魔法の塊は、真っ直ぐと落ちていく。
それに立ち向かう、スターク達とフラリア王。
その後ろでは、アルティスの下にフィーが駆け寄る。
「一旦逃げよう! このままでは巻き込まれる!」
「いいえ。兄さんを放っておく訳にはいかないから。」
言ってる場合っ!?
このままだとっ。
もし破壊が出来ても、壮大な余波が後ろを襲うだろう。
そうなると、ただではすまないだろう。
そうしている間にも、魔法の塊が落ちてくる。
「止めるぞ! スターク!」
「おう! 足引っ張んなよ? 怪我人。」
そう言って、武器を構える二人。
そして、カミーユ達も迫る魔法の対処へと動き出す。
「アイナ! セイラさん! 結界の準備を!」
「はい!」「えぇ!」
カミーユ達の指示で、結界の魔法を作りだす二人。
そんな中、アルティスが剣聖のゴーレムへと寄り添う。
「私、兄さんと約束したの。」
「約束?」
「えぇ。いつも側で見ていると。」
それは、あの時の言葉の返事だ。
いつも見ているから頑張れと。
そうして、王都へ向かう兄を見送った。
「だから、これからも見てるんだ。その為に、私も騎士を目指したんだから。」
あの日の約束を果たすために。
いつでも見ていられるように、側にいられる騎士を選んだのだ。
そして、それを聞いた剣聖のゴーレムの目つきが変わる。
「それを……言われたらね。」
迫る魔法の塊で、周囲が明るくなる。
そこに、二つの影が待ち受ける。
そんな中で、王都の壁の前で大きな爆発が起こる。
大きな火柱が立ち、全てを破壊に飲み込む。
それを見た武将達が笑う。
「はっ、決まったね。剣聖を失ったのは痛いけど。」
「でも、これで我らに風向きが傾いたね。」
剣聖のゴーレムは失った。
しかし、目障りな魔法陣も消える筈。
それでも、後ろでオルティが笑う。
「あんたら舐めすぎだよ。人間をね。」
そう呟いたと同時に、広がる黒煙の奥から三つの影が現れる。
「ったく、とんだ目に遭ったぜ。どっかの誰かさんが寝坊したせいでな。」
「それはすまないが、こっちは君に本気で殴られてるんだ。おあいこだろう。」
「あ? どこがだよ。こっちの面倒の方が多いだろう。」
「いやいや、操られる前の事も加えるとだな。」
「だから自分は悪くないと? 礼儀がなってねぇな。」
「いや、謝罪はしただろう。それでも言うというのなら…。」
その両側を歩く者達は、言い合いをしながら歩いてくる。
どちらも、譲らないとばかりに喧嘩をする。
すると、真ん中にいる人物が声を張り上げる。
「やかましい! 全く、お前達は。一度張り合うとずっとだな。」
「ヘイヘイ。すいませんね。」「すみません、師匠。」
その人物の声で、両側の人物が黙り込む。
そして、その人物が黒煙の向こうから現れる。
その人物とは、フラリア王、スターク、剣聖ファウスト。
「スターク。ファウスト。お客様がお待ちだ。お相手してあげなさい。」
「任せろ!」「御意。」
こうして、大陸の最強戦力が動き出す。