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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
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師匠と二人の弟子です

 フラリア王と剣聖のゴーレムの視線が合う。

 しかし、それを邪魔するかのように武将の屍が襲いかかる。


「お前達にっ。」


 そう言いながら、迫る剣を弾き飛ばすフラリア王。

 更に、大剣を振るって相手を吹き飛ばす。


「用はない!」


 その一擊で、武将の屍遠くへと吹き飛ぶ。

 そこにもう一体が迫るが、横顔に大剣が突き刺さる。


「うおおおおおっ!」


 叫びながらの、大剣の斬り上げ。

 その一体も、同じように吹き飛ばす。


「ふん。」


 その隙に迫る剣聖のゴーレム。

 その剣を受け止めると同時に、相手を押し飛ばす。

 その光景にフィーが喜ぶ。


「つ、強すぎるだろっ。」


にゃっ。


 ほんとだよっ。

 何なの、この王様。


 苦戦した相手を、軽く吹き飛ばして見せたのだ。

 その実力は、相当のものだろう。

 そんなフラリア王へと、アルティスが呼び掛ける。


「フラリア王!」

「すまぬな。弟子の不始末は師の責任。汝の兄の事は、私に任せてくれ。」


 呼び掛けるように優しく諭すフラリア王。

 心配を拭ってあげる為だろう。

 すると、話を聞いていたフィーが驚く。


「師? 兄? どういう事だ?」


 関係者だったの?


 事情を知らないフィーと俺が驚く。

 二人は剣聖の関係者だったのだ。

 そして、カミーユも同じく驚いている。


「師弟の関係なのは知っていましたが、まさか妹がいたなんて。」

「国を任せるに当たって、家族を巻き込まないように秘密にしていたのだよ。知っておるのは、王である私だけだ。」


 大事な家族を狙われては、いくら剣聖でもどうしようも出来ない。

 なので、家族の存在を隠す事にしたのだ。

 そんな話をしていると、再び剣聖が動き出す。


「甘いな。」


 剣聖のゴーレムの剣を軽々と受け止める。

 そこから更なる連撃が始まるが、それに大剣を合わせて弾く。


「ふっ。」


 その隙を狙っての大剣の一振。

 しかし、相手がそれを後ろに下がっての回避。

 次の瞬間、一気に飛び込んでからの連撃を繰り出す。


「見えておるよ。」


 その剣を、腕の鎧で受け止める。

 空中で、見えない何かとぶつかり合う。

 そして、そのまま拳を振り上げ相手を殴り飛ばす。


「お前の剣は何度も見てきた。だから分かる。お前はそんなものじゃない筈だ。」


 何度も剣を打ち合った同士だ。

 だから、相手の剣が本調子じゃない事ぐらい分かるのだ。

 それでも、剣聖のゴーレムは立ち上がる。


「お前がそうなったのは、私が弱いからだ。許せ。そして、もう休め。」


 そうして再び打ち合う二人。

 謝罪の意味も込めての大剣を振るっていく。

 その様子に、オルティが気づく。


「あれ、王様が出てる。思ったより元気そうじゃん。」

「あ? あの野郎。帝様の攻撃を受けたってのにまだ動けるのか。」

「しぶといよね。」

「はっ、あんたらが言うなって。」


 そう言いながら、オルティがパドルを振るう。

 それを武将の二人が受け止めていく。

 そうしている間にも、フラリア王が大剣を振るう。


「どうした! そんな攻撃では、私に届かぬぞ!」


 目に見えない剣撃を受けていくフラリア王。

 それに対して、剣聖のゴーレムは剣を振るっていく。

 更に、縦への大振。

 その振りを生かして、宙へと浮いてからの連撃。

 体を捻ったり縦へと回転しながら斬っていく。


「なんのっ。」


 その剣を、フラリア王は受け止める。

 そんなフラリア王へと多種多様な斬撃が襲いかかる。

 しかも、その威力が上がっていく。


「なんのっ。」


 それでもフラリア王は受け止める。

 どんな剣撃だろうが、いとも簡単に受け止める。

 一見だと、フラリア王が優位に見えるが…。


「まずいです。お父様、無理をしてる。」


 実の娘だから分かる。

 フラリア王に余裕が無い事が。

 その顔は、苦痛に歪んでいる。


(やはり、先の戦いの傷が残っているか。)


 まだ回復しきってはいないようだ。

 それが、激しい剣撃でぶり返しているのだ。


「ぐうっ。」


 止まらぬ剣撃に、次第に後ろへと押されていく。

 そしてついに、激しい大振りの一撃で膝をついてしまう。


「フラリア王!」

「お父様!」


 どうやら、限界が来てしまったようだ。

 それでも、迫る剣を受け止める。


「師をなめるなよ。」


 限界が来ているにも関わらず、膝に力を入れる。

 そして、起き上がると同時に大剣を振るう。


「うおおおおおおおおおおおっ!」


 残った気力を振り絞っての一撃。

 それにより、剣聖のゴーレムを吹き飛ばす。


「はぁはぁ。流石に厳しいか。操られたとて剣聖。やりおるな。」


 苦しそうに、地面に手を着くフラリア王。

 どれだけ弱くなろうが、剣聖の一振は強力だ。

 そんなフラリア王へと、アルティスが駆け寄る。


「オルティ王!」

「すまぬな。偉そうに言っておいて、勝てそうにない。師として誇りに思うよ。ほほっ。」

「言ってる場合ですかっ。それ以上は無理です。お下がりください。」

「なに、心配はいらぬよ。秘策があるからな。」


 そう言って、震える膝で無理に立ち上がる。

 その顔に絶望はない。


「本当は一人で倒したかったのだが仕方あるまい。もう一人の弟子を呼ぶとしようか。」

「もう一人の弟子? まさかっ。」

「あぁ。呼びつけておいて正解だった。出番だ! 来い!」


 そうフラリア王が叫ぶ。

 その声は、後ろの王都へと響き渡る。

 そして、それを聞いた奴が高く跳ぶ。


「ウイイイィィィィィィィッ!」


 戦場に響き渡る歓喜の雄叫び。

 その聞き覚えのある声に、フィーと俺が気づく。


「この声はっ!」


 ま、まさかっ!


 かつて、共に争った人物。

 闘技場の戦士にしてチャンピオン。

 王者スタークが着地する。


「だから言っただろ。あいつに勝てるのは、俺しかいねぇってなっ! がはははっ!」


 両手を広げて高笑いをするスターク。

 その全身からは、自信に満ち溢れたオーラを発している。

 そんなスタークの横に、フラリア王が並ぶ。


「やる気があるのは良いが、油断をするなよ?」

「誰に言ってやがる。って、ん? あんた。」


 そこでふと、後ろにいるフィーに気づく。

 知った顔を見て驚いているようだ。

 すると、フィーに向かって片手を上げる。


「よぉ、嬢ちゃん。ここにいるってこたぁ、やっぱり戦いが好きなんだな。」

「まだ引っ張るか。違うと言っているだろう!」

「あーそうだったか? まぁ気にすんな。がははっ!」

「おいっ!」


 覚えていないのか、覚える気が無いのか。

 気にする素振りは感じられない。

 そんなスタークへと、剣聖のゴーレムが迫る。

 それを、フラリア王が受け止める。


「おいっ。油断するなと言ったばかりだろうっ。」

「あぁ、すまんすまん。まぁ、気づいてたけどな。」


 油断して気づかなかった訳ではない。

 気づいた上で、よそ見をしてたのだ。


「気づいてたのならよそ見をするな。それよりも、お前達が知り合いなのか?」

「色々あってな。っと、来るぜ!」


 世間話をしている場合ではない。

 吹き飛ばされた剣聖のゴーレムが動き出す。

 それに対して、スタークもまた動き出す。


「あんたと戦うのは、久しぶりだなぁ!」


 そう言いながら、殴りかかるスターク。

 しかし、触れた瞬間に姿を消す。

 それでも相手の剣撃は残るが、スタークが拳で防ぐ。


「はっ。上がってきたじゃねぇか。」


 防ぐと同時に駆けるスターク。

 しかし、その横に剣聖のゴーレムが接近するが…。


「逆だぁ!」


 相手がいない方へと拳を振るうスターク。

 すると、激しい音と共に剣聖のゴーレムが現れる。

 そして、剣と拳を押し合う。


「おらっ!」


 押してくる相手へと、逆側の拳を振るうスターク。

 しかし、同じように剣聖のゴーレムが消える。

 それと入れ替わるように、真正面から現れる。


「見えてるぜ!」


 迫る剣へと拳を振るうスターク。

 と、見せかけてからの真正面へと突っ込む。

 そして、そこにある空間へと拳を振り上げる。


「もらった!」


 当然、宙から現れた剣聖のゴーレムのお腹への直撃。

 そのまま相手を吹き飛ばす。


「その残像、あんたの得意分野だったなぁ。見飽きてんだよ、いい加減っ。」


 そう言って、倒れた相手へと殴りかかるスターク。

 それでもと、剣聖のゴーレムが姿を消す。

 そして、視界の外からの攻撃。

 それに対して、関係ない場所を殴り付けて防ぐ。

 それの繰り返しが始まる。


「懐かしいな。あの時を思い出すぜ。剣聖の座をかけて戦った時をよう。」


 どこからともなく現れる見えない剣撃を弾いていく。

 まるで、昔を懐かしむように。

 それを聞いたフィーが疑問を持つ。


「剣聖の座をかけて戦った?」

「そうだよ。二人が私を越えた時に、剣聖の座を奪い合わせたのだ。それが、修行の終わりと定めていたからな。」


 師を越えた時が、修行の終わり。

 つまり、剣聖の座を与える時。

 そうして、二人が戦ったのだ。


「二人を剣聖にする事は出来なかったのですか?」

「それも考えた。しかし、剣聖になるには絶対的な力が必要だ。だから、競い合わせたのだよ。対等な力を持つもの同士で戦い、乗り越えた者こそが次の領域へ至れると。」


 それだけ重い称号なんだね。


 絶対的な力を得る為には、自身の限界を越える必要がある。

 それを成す為に、限界の力をぶつけ合わしたのだ。

 剣聖とは、そうしないとなれない程の存在なのだ。


「そうして残ったのが、今の剣聖と。」

「そうだとも。二人は最後まで良きライバルだったよ。」

「えぇ、分かりますよ。あの戦いを見てればね。」


 うん、楽しそうだよね。


 剣と拳を叩き込み合う二人。

 その拳を振るうスタークは楽しそうに笑っている。

 この時を全力で楽しんでいるように。


「おらおら! 楽しくなってきやがったぜ! てめぇもそうだよなぁ! あぁ?」


 呼び掛けるように。

 思い出を共有するように。

 相手の意識を呼ぶように。

 ただひたすら拳を振るっていく。


「だからよう。いい加減、そのつまんなそうな面をやめやがれっ!」


 そうして、勢いのある拳を前に放つ。

 すると、その拳が相手のお腹へと突き刺さる。

 そのまま力を込めると、勢い良く吹き飛ばす。

 それを見た、フラリア王が動き出す。


「ふっ。あの二人の戦いを見てると心がざわめく。あそこに混ざりたいとな。」

「えぇ、私達も行きましょう。さぁ、アルティスも。」

「え? でも、足手まといになるのでは?」

「それでも声をかけられる。届けば、意識を取り戻すかもしれないだろう。」


 そうだよ。

 きっと出来る事がある筈だよ。


 戦う事は出来ない。

 それでも、出来る事は必ずある。

 すると、フラリア王が手を差し伸べる。


「兄を助けたいのだろう? さぁ、一緒に彼を助けよう。」

「はい!」


 こうして、俺達も走り出す。

 今度こそ、剣聖を取り戻す為に。

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