剣聖のゴーレムとの戦いです
力を取り戻した者達が、武将の屍を押しはじめる。
それにより、押されていた形勢が逆転する。
その様子を見たオルティが笑う。
「どうした? それで終わりか?」
「ふざけんじゃないよ。傷一つ付けれてないくせに!」
「思い上がるは早すぎるよね。」
確かに、こちらが攻めれてはいる。
しかし、武将の屍へと傷を与えられている者はいない。
強化をされた所で、実力が追いついた訳では無いのだ。
それでも、オルティは余裕の表情をする。
「それで充分っ。足りない分は、うちの仲間が補うからね。」
その言葉と共に、キュリアとリュノが武将の屍を斬り飛ばす。
無理に戦わずとも、出来る者に任せれば良いのだ。
それを見た武将が、悔しそうに目元を歪める。
「ちいっ。どうにかした方が良いね。誰でも良い! 魔法陣の根本を撃ちな!」
武将の指示で、近くの武将の屍が動き出す。
集まる者達を吹き飛ばして駆け出す。
そして、魔法陣の真ん中にいるフィーへと迫る。
それでも、カミーユは笑う。
「無駄ですよ。だってフィーさんは…。」
その言葉と共に、フィーが地面から剣を抜く。
そして、相手の剣を避けて足下へと滑り込む。
そこから相手へのお腹への斬り上げ。
それにより、後ろへ倒れる相手の上に乗って一回転。
そのまま首を叩き斬る。
「強いですからね。」
斬られた武将の屍は、地面へと倒れる。
そして、そのまま動かない。
今の一撃で倒す事が出来たようだ。
「友だからといって、大事な力を授けた訳ではありませんから。」
大事な関係という理由で与えるような、簡単な力ではない。
その力を扱いこなせると信じて預けたのだ。
それを見た武将が、更に悔しそうに怒りを剥き出す。
「くそっ。何が歴戦の武将だっ。どうしてこうも雑魚ごときに敵わない!」
「やはり、屍では半端な力しか出せないようだね。残念だけど。」
「はっ。ならば、新鮮なのをぶつければ良いさっ。来な!」
その言葉と共に、一つの影が現れる。
それは、聖剣を携えた偽物のゴーレム。
つまり、操られた剣聖だ。
「ほら! やっちまいな!」
武将の指示で、剣聖のゴーレムが駆け出す。
しかし、そこにオルティがパドルを振るう。
「通さないよっ。」
パドルが剣聖のゴーレムに直撃。
その筈だったが…。
「残像!?」
パドルに触れた瞬間に、剣聖のゴーレムが消えてしまう。
オルティが叩いたのは、残像そのものだったのだ。
当の本人は、既に後ろへと抜けていた。
「フィーちゃん!」
「くっ、次から次へとっ。」
それを目視したフィーが剣を構える。
そんなフィーへと、剣聖のゴーレムが剣を振るうが…。
「駄目だ! 攻めるな受けろ!」
「っ!?」
オルティの声に、咄嗟に防御体勢に移るフィー。
次の瞬間、見えない何かに弾かれて後ろへと大きく引きずる。
「くうっ、剣が見えなかった。」
そうだね。
遅れてたら斬られてたよ。
見えない程の早さを持つ一振。
フィーでは、防ぐ事が出来なかったであろう。
それを見たオルティが駆け出す。
「流石のフィーちゃんでも荷が重すぎるっ。」
フィーの助けに向かうのだろう。
しかし、その前に二体の武将が立ち塞がる。
「どこにいこうってんだい?」
「くうっ。」
武将の屍が邪魔で、助けにいく事が出来ない。
しかも、その後ろには武将の屍もいる。
抜け出すのは厳しいだろう。
その間にも、剣聖のゴーレムがフィーに斬りかかる。
「ぐうっ。」
見えない攻撃が数発。
もはや、何回受けたか分からない程だ。
それを必死に受け止めるフィー。
「解いたら負けるっ。それだけは分かるがっ。」
守る事にしか頭が回らない。
考える余裕を与えてくれない。
その時、横から影が現れる。
「団長! やめて下さい!」
飛び出したアルティスが、剣聖のゴーレムの剣を受け止める。
しかし、すぐに弾き飛ばされる。
「きゃっ。」
地面へと倒れるアルティス。
そこへ、剣聖のゴーレムが剣を振るうが…。
「させん!」
横から現れたフィーが剣を弾く。
その隙を狙ってフィーが剣を振るうが避けられる。
「大丈夫か? 無理をするな。」
「ありがとう。でも、私がやらなきゃいけないんだ。」
そう言って、フィーの横に並ぶアルティス。
どうしても、剣聖のゴーレムを止めたいようだ。
そうして睨み合う両者。
「団長! もうやめて下さい! 貴方はそんな事をするような人じゃない!」
そうアルティスが呼びかけるも返事はない。
その代わりに、再び剣を構える。
「団長っ。」
悲痛な声で呟くアルティス。
こちらの声は、一切聞こえていない。
そして、再び剣聖のゴーレムが動き出す。
「ぐっ。下がれ! アルティス!」
前に出たフィーが受け止める。
そうして、再びの一方的な攻撃が始まる。
それを見たセイラが動こうとするが…。
「カミーユ様! 私達も援護を!」
「駄目です。こちらにターゲットが向けば一貫の終わり。フィーさんを信じましょう。」
「そんなっ。」
仮にターゲットが向けば、一瞬にしてこちらに来る。
そうなれば、一瞬にして壊滅する。
なので、今はフィーに任せるしかないのだ。
「駄目だ、反撃の隙がない。腕もそろそろきつい。ぐうっ。」
速いだけでなく、力も相当なものだ。
受け続けるフィーの腕の感覚がなくなり始める。
しかも、それだけではない。
「なっ、屍がっ!」
先程、フィーが斬った二体の武将の屍が起き上がる。
どうやら、時間が経って復活したようだ。
そうして起き上がった二体の武将の屍は、フィーに向けて剣を振るう。
すると、剣から放たれた炎と風がフィーを襲う。
「まずいっ。」
それに気づいた剣聖のゴーレムが避ける。
それにより、二つの魔法がフィーを襲う。
「ぐうあっ!」
それでも、フィーは剣を振るって魔法を叩き斬る。
しかし、そこに武将の屍の剣が迫る。
がたっ!
危ないっ!
「ぐうっ!」
俺の声で気づいたフィーが剣で防ぐ。
しかし、大きく弾かれて吹き飛んでしまう。
人の身で受けるには、遥かに大きすぎたのだ。
そんなフィーへと駆け寄るアルティス。
「大丈夫!?」
「あぁ。なんとか無事だが。」
上手く防げたので、その身に傷はない。
しかし、それどころではない。
上体を起こしたフィーが前方を見る。
そこにいるのは、二体の武将の屍と剣聖のゴーレム。
「これはまずいか。」
どうやら、敵同士で争う気配はない。
共闘するように一致したようだ。
その真ん中にいる剣聖のゴーレムが歩いてくる。
すると、それに対してアルティスが叫ぶ。
「やめて、やめてよ。」
声をかけるが止まらない。
その剣聖のゴーレムは剣を構える。
このままとどめをさすつもりのようだ。
「やめてっ! にいさーーーーーん!」
そう叫ぶアルティス。
それと同時に駆ける剣聖のゴーレム。
その時だった。
「やめなさい、ファウスト。弱きを斬れと教えたつもりは無いぞ。」
フィー達の目の前に、たなびく豪華なマントを着た者が立ち塞がる。
そして、その手に持つ大きな剣で迫る剣を受け止める。
その人物に気づいたフィーとカミーユが叫ぶ。
「フラリア王!」「お父様!」
その人物であるフラリア王は、剣を振って剣聖のゴーレムを振り払う。
そして、剣を構えたまま横目でフィー達を見る。
「少し休んでいなさい。後は、私が引き受けよう。」
そう言って、目の前の剣聖のゴーレムを睨み付ける。