決戦の始まりです
召喚陣から現れたのは、複数の魔族の屍達。
しかし、その大きさは他のものよりも大きい。
そして、その身には鎧のようなものが装着されている。
それを見たオルティが真剣な顔つきになる。
「随分と見た事がある顔ぶれだねえ。」
「それもそうだろう。こいつらもまた、先の戦いでお前達に殺された魔族たち。しかも、全員が当時の武将だよ。さぁ、決戦としゃれこもうじゃないか!」
ここにいるもの達は、戦いで命を落とした武将達。
先程の屍の群れとは違い、どれもが圧倒的な圧を放っている。
そして、そいつらが持つ剣にフィーが気づく。
「そいつらが持っている剣。まさか、魔科学武器か!」
「例の取られたって奴?」
「そうだよ。よく気づいたね。褒めてあげるよ。」
その剣こそまさに、研究所で取られた魔科学の剣。
しかも、全ての武将の屍が持っている。
「こいつらを運用するにあたって、あたいらの仲間がくれたものさ。しかも、それだけじゃ
ないよ。ほら、目覚めな!」
そう武将の一人が叫ぶと同時に、武将の屍達が肥大化していく。
体中に筋肉が着きはじめ、その顔は獣のようになっていく。
まるで、先程の変質した化け物のように。
「魔獣化とやらかっ。」
にゃ!
間違いないよ!
しかも沢山っ。
魔族の最終兵器の魔獣化。
しかも、目の前にいる全ての武将が変化している。
そして、変化を終えた武将達が一斉に吠える。
ウオオオオオオオオオオオオオッ!
それは、怒りをぶつけるように。
世界の全てを怨むように。
武将達による負の気が辺りへと広がる。
それを見た騎士や兵士が震え出す。
そして、フィーもまた体を震わせる。
「体が、戦うのを拒んでいる。手を出すなと警告している。」
にゃあ。
ヤバイ。
体が動かないよ。
動いたら終わりだと、認識しているのだ。
それ程の気迫が俺達を襲っている。
その様子を見たオルティが眉を潜める。
「ちょっとまずいかな。キュリアちゃん、乗っ取れそう?」
「魔獣化と一緒にぷっつんだね。完全に自立してるよ。」
「流石にかぁ。そう上手くはいかないよな。」
化けたと同時に、術者との繋がりが切れてしまった。
こうなると、今までみたいに指示を乗っ取る事は不可能だ。
そんな話をしていると、武将の一人が笑い出す。
「話してる場合かい? おら! 暴れちまいなあっ!」
ウオオオオオオオオオオオオオッ!
雄叫びをあげながら駆け出す武将の屍達。
その気迫によって、ここにいる者達は動けない。
代わりに、オルティ達が受け止めるが…。
「駄目だっ、多すぎるっ。」
こちらの戦力に比べて、敵は圧倒的だ。
流石のオルティ達も、止められたのは数体だけ。
残りは、後ろの騎士や兵士達を襲う。
「わあっ!」
「く、来るなあっ!」
逃げる騎士の背中を、武将の屍が斬る。
中には抵抗するものもいるが、呆気なく斬られてしまう。
その光景に、オルティが焦り出す。
「二人とも、援護に!」
「分かったよん。」「分かった、よ。」
武将の屍を押し飛ばす二人。
そのまま、周りの援護へと向かう。
すると、それを見た武将が笑う。
「良いのかい? 一人になったけど。」
その言葉と共に、吹き飛んだ二体が戻ってくる。
そして、オルティを挟むように襲いかかる。
「しょうがないっしょ!」
そう言いながら、抑えている武将の屍を吹き飛ばすオルティ。
そして、横から襲いかかる内の一体の剣を逸らして受け止める。
「おらっ。」
そこから、もう片方の相手も同じように蹴飛ばす。
しかし、最初に飛ばした相手が戻ってくる。
「無駄無駄っ!」
「はっ、数が多いからってなっ!」
迫る武将の屍の剣を受け止めようとするオルティ。
しかし相手は、その目の前で剣を振るう。
そこから出た炎がオルティを襲う。
「なっ。ぐうっ。」
咄嗟にパドルを振って炎を払う。
すると、その奥から後の二体が現れる。
「ちょっ、まっ。」
その二体の剣を、オルティが見えない壁で防ぐ。
先の炎は、視界を奪う為のもののようだ。
「忘れちゃいないだろうね? こいつらが持っているのは魔法の剣ってさ。」
「攻撃だけでは無いのだよ。覚えておくと良いよ。」
「言われなくともっ。」
二体の武将の屍を押すオルティ。
しかし、二体となると押し込めない。
「流石に武将。二体相手では、ちと厳しいかな?」
二体の武将の屍との押し合いが続く。
そんなオルティの頭上を、もう一体が飛び越える。
「しまった!」
飛び越えた一体は、そのまま前に駆け出す。
そこにいるのはフィー達だ。
それを見た武将が叫ぶ。
「おらっ! 助けなくて良いのかい?」
「フィーちゃん!」
助けようにも、二体の武将の屍を止めるので精一杯だ。
その間にも、迫る一体がフィー達の下へ辿り着く。
「ぐっ、動けっ。」
駄目だっ。
敵が来てるのにっ。
しかし、フィーと俺は動けないままだ。
そんなフィーへと、剣が振るわれるが…。
「させませぬ!」「させん!」
「なっ。」
付き添いの兵士の二人が突っ込む。
それにより一瞬だけ相手が怯むが、吹き飛ばされてしまう。
しかし、時間は作った。
「ぐっ、ア、アイナ殿!」
「はい! セイラさん!」
「えぇ!」
「雷よ!」「雷よ!」
兵士の合図で、馬車の上のアイナとセイラが魔法を放つ。
それを受けた相手は、後ろへと足を下げる。
そして、それを見たカミーユが叫ぶ。
「フィーさん!」
「っ!」
その声で意識を取り戻したフィーが横に避ける。
その直後、フィーが居た場所が大きく裂ける。
「はぁ、危なかった。」
起き上がったフィーが立ち上がる。
そんなフィーへと、カミーユとセイラが呼び掛ける。
「フィーさん、貴方は一人じゃないっ。」
「私達が後ろに着いてますからね。」
「そうか。そうだったな。それだけで充分だ。」
笑いながら武器を構えるフィー。
その目には、もう恐れはない。
そんなフィーを無視した武将の屍が、今度はアルティスを狙う。
それを見たフィーが駆け出す。
「アルティス! にゃんすけ、お面だ!」
ふ、ふにゃ!
わ、分かったよ!
フィーに担ぎ上げられた俺がお面になる。
そして、それをフィーが被る。
その間にも、武将の屍が剣を振り上げる。
「きゃっ。」
「させん!」
剣を斧に変えたフィーが、相手の足へと叩き込む。
それにより、アルティスへと迫る剣が横へと逸れる。
その代わり、フィーの腕が激しく痺れる。
「ぐっ、重すぎるっ。よくもこんなものを蹴飛ばせたものだ。」
鈍い音がしたね。
大丈夫?
武将の屍の体の固さは、もはや生き物のそれではない。
こうして膝を折るので限界な程だ。
そんなフィーへと、武将の屍が剣を振るう。
「しまっ。」
「危ない!」
咄嗟の事で対処に遅れるフィーへと、アルティスが飛び込む。
そのまま突き飛ばされたお陰で、迫る剣を避ける事に成功する。
「助かった。」
「っ! さ、さっきのお礼です。」
照れたように驚くアルティス。
そして、フィーを無視して立ち上がる。
そんなアルティスをフィーが見る。
「嫌われてるのか?」
がたっ。
さぁね。
そう疑問に思いつつも、フィーもまた立ち上がる。
それと同時に、武将の屍が動き出す。
それを見たアルティスが武器を構える。
「来てます!」
「あぁ! 避けるぞ!」
左右に飛んで剣を避ける二人。
代わりに、地面が裂けてしまう。
その瞬間をフィーが見る。
「風だ! こいつは風の刃を飛ばしている! 斬擊の前には立つな!」
「わ、分かりましたっ。」
地面を裂いているのは、剣から放たれた風の刃だ。
なので、その前に立たなければ問題はない。
しかし、こちらの攻撃も弾かれる。
「ぐっ、それでも!」
相手の攻撃を避ける。
その隙を狙っての一撃。
それでも弾かれてしまう。
「やはり、あの時の剣でないと駄目か。」
自身の闘気では、傷一つ付けることさえ出来ない。
それでもフィーは攻め続ける。
すると、横からアルティスも斬りかかる。
「あの。」
「ん?」
「どうして貴方は、そこまでして戦うのです?」
攻撃を仕掛けながら質問するアルティス。
それを聞いたフィーもまた、続けながら答える。
「決まってるさ。一緒にいてくれる友がいる。それだけだ。」
「それだけ? 本当に?」
「そうだ。」
フィーが動くのには、それだけで充分だ。
明らかになった昔の後悔と無力さ。
それがフィーを突き動かす。
「まぁ、無力なのは相変わらずだがっ。」
そう言いながら、フィーが相手へと斬りつける。
攻撃が効かなくとも、諦めるよりかはましだろう。
そうすれば、手を差し伸ばし続ける事が出来るから。
その話を聞いたカミーユが動き出す。
「それでこそです。フィーさん! 私の魔力と貴方の剣を繋げます!」
「繋げる? それって大丈夫なのか?」
「少し疲れますが大丈夫です。さぁ、剣を上に!」
「こ、こうか?」
カミーユの言葉通りに、フィーが剣を上へと掲げる。
そこへ、カミーユが魔力を送り込む。
その際、見えないラインでお互いを繋げる。
その間にも、武将の屍が剣を振るうが…。
「邪魔は!」「させぬ!」
「一歩も通しません!」
迫る剣を、付き添いの兵士とアルティスが弾く。
その間にも、剣と魔力のラインが繋げきる。
すると、激しく剣が輝きだす。
「この力はっ。」
先程と同じく、膨大な魔力が注がれている。
その魔力は、カミーユへと流れ込む魔力がラインを通して宿ったものだ。
「さぁ、フィーさん!」
「分かった!」
この魔力は、以前の力をも越える程の量だ
その魔力を闘気で囲んだフィーが前に踏み出す。
「後は任せろ!」
フィーの声で、兵士とアルティスが横へと避ける。
すると、武将の屍がフィーへと剣を振るう。
それでもフィーは止まらない。
「当たらなければっ。」
相手の剣を避けたフィーは、再び剣を斧へと変える。
そして、先程のように膝を斧で折る。
更に、そこからの逆回転。
「はあっ!」
降りてきた相手の顔へと斧を叩き込む。
しかし、相手の顔が少し揺れただけで終わる。
すると、そんなフィーへと相手が剣を横に振る。
「ぐうっ。」
斧の側面で剣を逸らす。
その威力を利用しての一回転。
今度は相手の顔の横へと叩き込む。
すると、相手の顔が横へと弾かれる。
「更にもう一発! ついでにっ。」
そこから更に一回転。
今度は下から上へと振り上げる。
「食らっとけ!」
振り上げられた斧は、相手の顔へと叩き込まれる。
すると、それを受けた相手が後ろへと吹き飛ぶ。
「凄い力だ。これが、カミーユの力か。」
「えぇ、この辺りの魔力が注がれてますからね。それでは、そのまま剣を地面に刺して!」
「じ、地面に? わ、分かった!」
カミーユの言葉通りに、フィーが剣を地面に突き刺す。
すると、そこから四方へと魔法陣が広がっていく。
「こ、これはっ。」
凄い力が流れていくよ。
その魔方陣は、ここにいる全ての人の足下へと広がる。
その事に、前線で戦うオルティ達が気づく。
「これは? へぇ、面白い事をするねぇ。」
その魔方陣の意味に気がついたようだ。
一方、分からない武将達は困惑する。
「この魔方陣はなんだい!」
「忌々しい光だね。」
不思議な現象に苛立ちを隠せないようだ。
その様子をみたオルティが笑う。
「はっ、知らなくて結構。そんじゃ、こっちも参加しますかね。」
そう言いながら、オルティがパドルを魔方陣へと突き刺す。
それにより、更に強く魔法陣が輝きだす。
その魔力に、キュリアとリュノも気づく。
「そういう事。それじゃ。」
「僕達も、だね。」
二人もまた武器を地面に突き刺す。
すると、更に魔法陣が輝きだす。
そして、それを受けた騎士や兵士が起き上がる。
「おぉ、これは。」
「体が動くぞ。」
「あぁ、力が沸いてくる!」
斬られて倒れたもの。
力を使い膝を着くもの。
そこにいる全ての者が立ち上がる。
その光景に、武将が驚く。
「どうして斬られた奴が…。まさか、魔法陣かっ。」
「正解。それじゃあ、反撃といきますか!」
武器を振り上げる騎士や兵士達。
そして、武将の屍へと斬りかかる。
更に、オルティもまた武器を振るう。
「やっぱ、決戦といったらこうじゃないとね。さぁ、覚悟しなよ!」
こうして、人類側の反撃が始まる。