始まりの物語です
お互いの戦力が分かった所で、作戦の構想へと取りかかる。
集めた情報を元に作戦会議が進む。
それからしばらくの事、フィーと俺は城の廊下に出る。
「始まるな。」
にゃ。
緊張するね。
圧倒的な戦力差の戦いだ。
戦況がどう転がるのかは予測できない。
その事が、不安にさせてくる。
「はぁ。少し休もうか。城の中を自由に歩いて良いみたいだしな。」
にゃっ。
そうだね。
特にフィーは戦いっぱなしだし。
不安の一員に、疲れが溜まっているのもあるだろう。
休んで落ち着く事も必要だ。
そんな事もあり、城の中を歩いていく。
「こんなに広かったんだな。あの時は、想像も出来なかった。」
にゃ。
そうだね。
天井を見るだけで首が疲れるよ。
広い廊下を歩きながら、高い天井を見上げる俺達。
どれも以前来た時には見る事の出来なかった光景だ。
「こうして見られるのも、取り戻す事が出来たからか。しかし、次もこう上手く行くとは限らない。果たして、私に守る事が出来るのだろうか。」
払った筈の不安が甦る。
自分の力では役に立たなかった事を気にしているのだろう。
それでも、フィーは首を横に振る。
「っと、休むんだったな。少し、外の空気でも吸いに行こうか。」
にゃっ。
それが良いよ。
思い詰めてるみたいだし。
不安を持てば、嫌なイメージばかりが浮かんでしまう。
それをどうにかする為にも、外の空気で考えを無くすのも必要だろう。
そう判断した俺達は、庭へと続く通路へと出る。
そこには、庭を囲う壁に沿うように花壇がある。
「ここは…そうだ。ここだ。」
にゃ?
どうしたの?
庭に出たフィーは、花壇へと真っ直ぐに歩いていく。
そして、そこでしゃがむと花壇にある花へと指を添える。
「覚えている。懐かしいな。あの時の花と同じ種類だ。」
そう言いながら、花から手を離したフィーは立ち上がる。
そして、奥へと続く道へと目を移す。
「そうなると、こっちか。」
その道を確認したフィーは歩き出す。
その道を懐かしむように、ゆっくりと歩く。
「あの時、一人で待っていた私はメイドの人に声をかけられてな。そしたら、この道に案内されたんだ。他の人には内緒ですよとな。」
にゃっ。
そうなんだ。
優しいメイドさんだね。
寂しそうにしていたフィーを見かねたのだろう。
そうして、放っておけずに声をかけたのかもしれない。
そんな昔の話をしていると、道を抜けた先に出る。
そこにあるのは、先程よりも一段と広い庭だ。
にゃーっ!
すごーい!
とても広い。
その庭の真ん中には、大きな池が見える。
そしてその池に囲まれた場所には、屋根のついたスペースがある。
そこまでの道は、綺麗なレンガで出来ている。
「ふふっ、凄いだろ。当時の私も驚いたものだ。実家の庭でも、こうはなかったからな。」
にゃ。
だよね。
誰だって驚くって。
貴族の家の庭ですらありえない広さだ。
それが出来るのも、城という大きな敷地を持っているからだろう。
その光景を懐かしんだフィーは、今度は建物を見る。
「あそこだ。あそこで私は、建物の中を見ていたんだ。」
そう言って、その場所へと向かうフィー。
あの時のように、ガラス張りの向こうを覗き込む。
「あの時は確か、中央で皆が優雅な曲に乗って踊ってたな。皆、楽しそうに踊っているのを覚えているよ。」
にゃー。
へー。
物語で良くある感じのなのかな。
フィーの視界に、あの時の光景が甦る。
楽しそうに笑う貴族達。
それと、それを憧れるように見ていた自分。
「何もかもが懐かしい。そして、私の憧れだった。いつか私も中で踊るんだと勇気が湧いたよ。そう思いながら、ずっと見ていた。そうしたら…。」
にゃ?
そうしたら?
「一人の女の子と出会った。」
思い浮かぶのは、パーティーの踊りを見ていた時の事。
その夢の続きを思い出す。
「その女の子は、踊りを見ていた私の背後から近づいてきた。そして、私に向かってこう言ったんだ。興味がありますか? とな。」
その時のフィーは、声が聞こえてきた方を見た。
そこには、貴族とは似つかわしくない質素な姿の少女がいた。
「その時の私は、あると答えたよ。そうしたら、その女の子は私もですと言って私の横に並んだよ。そして、一緒に踊りを見始めた。」
にこりと笑った女の子は、フィーの横で踊りを見る。
そんな女の子の横顔をフィーが見る。
「その時の話では、中に入りたいけど入れないと言っていたな。興味があるけど入れない。だから、こうして見に来たと。」
にゃ?
興味がある?
それってまさか。
「気づいたか? そう、私と同じだったんだ。だから嬉しかった。自分と同じ境遇の者がいるとな。」
自分一人だけではない。
自分と同じ人がいる。
つまり、仲間がいるから寂しくはない。
「そう思うと、何故か見栄を張りたくなってな。その女の子が、皆さん踊りが上手いですねと言うと、私ならもっと上手く踊れる、と返してしまったんだ。」
にゃっ!?
なんでさ!?
「面白いだろう? たぶん格好つけたかったんだろうが、今思うと滑稽だな。」
にゃあ。
ほんとだよ。
下手したら、ただの変な人だよ?
もしかしたら、認めて貰いたかったのもあるだろう。
だから、好感を持ってもらう為に言ってしまったのだろう。
しかし、これでこの話は終わらない。
「だがな。その女の子の返しも面白くてな。なんて言ったと思う?」
にゃあ。
さぁ?
どんな事?
「実はな?」
「私の方こそ上手ですよ。ですよね?」
「え?」
え?
話に割り込むように、どこからか声が聞こえてきた。
そちらを見ると、カミーユが立っていた。
そのカミーユの発言に、フィーが疑問を持つ。
「どうしてカミーユが?」
「そうしたら、貴方はこう言いました。いえ、私の方が上手いですよ、と。」
フィーの疑問を無視しながら続けるカミーユ。
そして、フィーの番を待つ。
「あー。その女の子は、いえいえ、私の方が上手いですよ、と返したな。」
「そして、二人して笑ったんですよね。」
「あぁ。なんか、馬鹿馬鹿しくなってな。」
「ふふっ、私もです。」
その時の事を思い出しながら笑い合う二人。
それが収まると、今度はお互いの顔を見合う。
「カミーユ。だったんだな。」
「はい。ようやく気づいてくれましたね。」
その女の子の正体は、幼い頃のカミーユだ。
その時出会った二人が、時が経って再会する。
「あの時の私は、運良く体調が優れた日でした。だから、メイドの方に無理を言ってパーティーを見に行きました。」
「そこで、出会った訳だな。」
偶然会ったってわけ訳だね。
フィーが庭へと向かった事。
そして、カミーユもまたパーティーへと向かった事。
この二つの奇跡が、二人を合わせたのだ。
「いっぱい話したよな。」
「はい。外の世界で知った知識を話す貴方と、本の世界で知った知識を話す私。」
「私が正しい。いや、私の方だ。と、言い合っていたな。」
なんか子供そのものだね。
仲が良いのか悪いのか。
子供特有の、意地の張り合いだ。
自分が正しいと譲らなかったようだ。
そうして、お互いの知識を比べていた。
「でも、そのお陰で意気投合出来たんですよね。」
「あぁ。結局、お互いの知らない情報に気を取られてな。」
「そっちの情報は面白い。いえ、そちらの情報も。でしたね。」
争いは、知らない情報の披露のし合いへと変わった。
それにより、争っていた事を忘れたのだ。
その結果、二人は仲良くなれたのだ。
「そして、いつか直接見に行こうと。」
「そして、一緒に経験して楽しもうと。」
気になるなら見に行けば良い。
しかし、今はまだ無理だから大きくなってから。
「「そう約束して、私達は友になった。」」
二人を繋ぐのは、その時の約束だ。
いつかまた、こうして一緒に話し合えるように。
これが、二人にとって始まりの物語。
なんか、良い話だね。
「だけど、当時の私は病にかかっていました。長くない命。それでも、約束を果たす為に出来る事を何でもしてきたのですが、日が経つにつれて酷くなっていくばかりで。」
「無茶をさせてしまったんだな。すまない。」
病気のせいで辛くなっていく。
それなのに、約束のせいで不必要な努力をさせてしまった。
しかし、それを聞いたカミーユは首を横に振る。
「いいえ。お陰で、どんなに辛くても病気に立ち向かえました。勇気を貰えました。むしろ、感謝したいぐらいです。」
「感謝なんて。私は何もしていない。」
「そんな事はないですよ。貴方とした約束は、唯一の希望でしたから。」
どんなに辛くても、立ち向かう事が出来た。
それは、生きたいという目標を持てたから。
それがあったから、諦めずに頑張れた。
「だから、病気が治った時は、真っ先に貴方に会いたかった。でも、私は貴方の事が分からなかった。お互いの名前を聞く前に別れたから。」
「あんな別れ方をしたからな。聞くどころでは無かったから仕方ない。」
仲良くなって、将来の約束をした程の仲だ。
それなのに、お互いの名前すら知らなかったのだ。
なぜなら、名乗る前にとある事件が起きたから。
「お互いの名前を名乗ろうとしたその時、私の病気が悪化してしまったんですよね。」
「あぁ。いきなり胸を抑えて苦しみだしてな。そのまま、メイドの人に連れていかれたんだよな。」
病気の悪化により、引き離されてしまったのだ。
名前を聞くなんて余裕もない。
その光景を思い出したフィーが俯く。
「悔しかったよ。苦しむ友を前に何も出来なかった。もう、こんな目に会いたくはないってな。だから、代わりにこれから出来る友の手は絶対に離さないと誓ったんだ。」
そうなんだ。
もしかして、フィーが友に拘るのって。
その時の光景が目に焼き付いているのだろう。
だから、同じ目に合うのは嫌だとあがき続けたのだ。
今度こそ、大事な友を守るために。
「そんな貴方に、私は謝りたかった。心配かけてごめんなさいと。でも、名前もどこにいるかも分からない。その時、キュリアさんからお願いをされました。」
「まさか、瘴気を探す依頼の事か?」
瘴気を探し当てられるのはカミーユだけ。
だから、探して欲しいとの事だ。
「はい。大陸全土を回ると聞いて、貴方を探せると思い受け入れる事にしました。勿論、キュリアさんに恩を返したいのもありましたよ?」
「そんな事があったのか。」
依頼を受けたのは、命の恩人への恩を返す為。
しかし、本当の目的はかつての友を探す為なのだ。
「でも、こうして貴方と出会えました。私の判断は間違いじゃなかった。」
結局は、こうして目的を達成する事が出来たのだ。
探したかいがあったという事だ。
そんなカミーユは、フィーへと手を差し出す。
「改めて、私と友になって下さい。」
それは、名もなき二人の間に交わすものではない。
フィーとカミーユ、お互いの事を知った上でとの思いがこもっている。
「そんなの、決まっているだろう。」
その思いは、フィーも同じ事だ。
それを伝えるべく、手を差し伸ばした時だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
突然、地面が激しく揺れる。
「きゃっ。」
「危ない!」
倒れてくるカミーユをフィーが支える。
その間も、地面は揺れ続ける。
「くっ、激しいなっ。」
地震!?
どうしていきなり?
その間にも、王都が揺れ続ける。
そしてついに、魔族が再び動き出す。