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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
164/283

始まりの物語です

 お互いの戦力が分かった所で、作戦の構想へと取りかかる。

 集めた情報を元に作戦会議が進む。

 それからしばらくの事、フィーと俺は城の廊下に出る。


「始まるな。」


にゃ。


 緊張するね。


 圧倒的な戦力差の戦いだ。

 戦況がどう転がるのかは予測できない。

 その事が、不安にさせてくる。


「はぁ。少し休もうか。城の中を自由に歩いて良いみたいだしな。」


にゃっ。


 そうだね。

 特にフィーは戦いっぱなしだし。


 不安の一員に、疲れが溜まっているのもあるだろう。

 休んで落ち着く事も必要だ。

 そんな事もあり、城の中を歩いていく。


「こんなに広かったんだな。あの時は、想像も出来なかった。」


にゃ。


 そうだね。

 天井を見るだけで首が疲れるよ。


 広い廊下を歩きながら、高い天井を見上げる俺達。

 どれも以前来た時には見る事の出来なかった光景だ。


「こうして見られるのも、取り戻す事が出来たからか。しかし、次もこう上手く行くとは限らない。果たして、私に守る事が出来るのだろうか。」


 払った筈の不安が甦る。

 自分の力では役に立たなかった事を気にしているのだろう。

 それでも、フィーは首を横に振る。

 

「っと、休むんだったな。少し、外の空気でも吸いに行こうか。」


にゃっ。


 それが良いよ。

 思い詰めてるみたいだし。


 不安を持てば、嫌なイメージばかりが浮かんでしまう。

 それをどうにかする為にも、外の空気で考えを無くすのも必要だろう。

 そう判断した俺達は、庭へと続く通路へと出る。

 そこには、庭を囲う壁に沿うように花壇がある。



「ここは…そうだ。ここだ。」


にゃ?


 どうしたの?


 庭に出たフィーは、花壇へと真っ直ぐに歩いていく。

 そして、そこでしゃがむと花壇にある花へと指を添える。


「覚えている。懐かしいな。あの時の花と同じ種類だ。」


 そう言いながら、花から手を離したフィーは立ち上がる。

 そして、奥へと続く道へと目を移す。


「そうなると、こっちか。」


 その道を確認したフィーは歩き出す。

 その道を懐かしむように、ゆっくりと歩く。


「あの時、一人で待っていた私はメイドの人に声をかけられてな。そしたら、この道に案内されたんだ。他の人には内緒ですよとな。」


にゃっ。


 そうなんだ。

 優しいメイドさんだね。


 寂しそうにしていたフィーを見かねたのだろう。

 そうして、放っておけずに声をかけたのかもしれない。

 そんな昔の話をしていると、道を抜けた先に出る。

 そこにあるのは、先程よりも一段と広い庭だ。


にゃーっ!


 すごーい!

 とても広い。


 その庭の真ん中には、大きな池が見える。

 そしてその池に囲まれた場所には、屋根のついたスペースがある。

 そこまでの道は、綺麗なレンガで出来ている。


「ふふっ、凄いだろ。当時の私も驚いたものだ。実家の庭でも、こうはなかったからな。」


にゃ。


 だよね。

 誰だって驚くって。


 貴族の家の庭ですらありえない広さだ。

 それが出来るのも、城という大きな敷地を持っているからだろう。

 その光景を懐かしんだフィーは、今度は建物を見る。


「あそこだ。あそこで私は、建物の中を見ていたんだ。」


 そう言って、その場所へと向かうフィー。

 あの時のように、ガラス張りの向こうを覗き込む。


「あの時は確か、中央で皆が優雅な曲に乗って踊ってたな。皆、楽しそうに踊っているのを覚えているよ。」


にゃー。


 へー。

 物語で良くある感じのなのかな。


 フィーの視界に、あの時の光景が甦る。

 楽しそうに笑う貴族達。

 それと、それを憧れるように見ていた自分。


「何もかもが懐かしい。そして、私の憧れだった。いつか私も中で踊るんだと勇気が湧いたよ。そう思いながら、ずっと見ていた。そうしたら…。」


にゃ?


 そうしたら?


「一人の女の子と出会った。」


 思い浮かぶのは、パーティーの踊りを見ていた時の事。

 その夢の続きを思い出す。


「その女の子は、踊りを見ていた私の背後から近づいてきた。そして、私に向かってこう言ったんだ。興味がありますか? とな。」


 その時のフィーは、声が聞こえてきた方を見た。

 そこには、貴族とは似つかわしくない質素な姿の少女がいた。


「その時の私は、あると答えたよ。そうしたら、その女の子は私もですと言って私の横に並んだよ。そして、一緒に踊りを見始めた。」


 にこりと笑った女の子は、フィーの横で踊りを見る。

 そんな女の子の横顔をフィーが見る。


「その時の話では、中に入りたいけど入れないと言っていたな。興味があるけど入れない。だから、こうして見に来たと。」


にゃ?


 興味がある?

 それってまさか。


「気づいたか? そう、私と同じだったんだ。だから嬉しかった。自分と同じ境遇の者がいるとな。」


 自分一人だけではない。

 自分と同じ人がいる。

 つまり、仲間がいるから寂しくはない。


「そう思うと、何故か見栄を張りたくなってな。その女の子が、皆さん踊りが上手いですねと言うと、私ならもっと上手く踊れる、と返してしまったんだ。」


にゃっ!?


 なんでさ!?


「面白いだろう? たぶん格好つけたかったんだろうが、今思うと滑稽だな。」


にゃあ。


 ほんとだよ。

 下手したら、ただの変な人だよ?


 もしかしたら、認めて貰いたかったのもあるだろう。

 だから、好感を持ってもらう為に言ってしまったのだろう。

 しかし、これでこの話は終わらない。


「だがな。その女の子の返しも面白くてな。なんて言ったと思う?」


にゃあ。


 さぁ?

 どんな事?


「実はな?」

「私の方こそ上手ですよ。ですよね?」

「え?」


 え?


 話に割り込むように、どこからか声が聞こえてきた。

 そちらを見ると、カミーユが立っていた。

 そのカミーユの発言に、フィーが疑問を持つ。


「どうしてカミーユが?」

「そうしたら、貴方はこう言いました。いえ、私の方が上手いですよ、と。」


 フィーの疑問を無視しながら続けるカミーユ。

 そして、フィーの番を待つ。


「あー。その女の子は、いえいえ、私の方が上手いですよ、と返したな。」

「そして、二人して笑ったんですよね。」

「あぁ。なんか、馬鹿馬鹿しくなってな。」

「ふふっ、私もです。」


 その時の事を思い出しながら笑い合う二人。

 それが収まると、今度はお互いの顔を見合う。


「カミーユ。だったんだな。」

「はい。ようやく気づいてくれましたね。」


 その女の子の正体は、幼い頃のカミーユだ。

 その時出会った二人が、時が経って再会する。


「あの時の私は、運良く体調が優れた日でした。だから、メイドの方に無理を言ってパーティーを見に行きました。」

「そこで、出会った訳だな。」


 偶然会ったってわけ訳だね。


 フィーが庭へと向かった事。

 そして、カミーユもまたパーティーへと向かった事。

 この二つの奇跡が、二人を合わせたのだ。


「いっぱい話したよな。」

「はい。外の世界で知った知識を話す貴方と、本の世界で知った知識を話す私。」

「私が正しい。いや、私の方だ。と、言い合っていたな。」


 なんか子供そのものだね。

 仲が良いのか悪いのか。


 子供特有の、意地の張り合いだ。

 自分が正しいと譲らなかったようだ。

 そうして、お互いの知識を比べていた。


「でも、そのお陰で意気投合出来たんですよね。」

「あぁ。結局、お互いの知らない情報に気を取られてな。」

「そっちの情報は面白い。いえ、そちらの情報も。でしたね。」


 争いは、知らない情報の披露のし合いへと変わった。

 それにより、争っていた事を忘れたのだ。

 その結果、二人は仲良くなれたのだ。


「そして、いつか直接見に行こうと。」

「そして、一緒に経験して楽しもうと。」


 気になるなら見に行けば良い。

 しかし、今はまだ無理だから大きくなってから。


「「そう約束して、私達は友になった。」」


 二人を繋ぐのは、その時の約束だ。

 いつかまた、こうして一緒に話し合えるように。

 これが、二人にとって始まりの物語。


 なんか、良い話だね。


「だけど、当時の私は病にかかっていました。長くない命。それでも、約束を果たす為に出来る事を何でもしてきたのですが、日が経つにつれて酷くなっていくばかりで。」

「無茶をさせてしまったんだな。すまない。」


 病気のせいで辛くなっていく。

 それなのに、約束のせいで不必要な努力をさせてしまった。

 しかし、それを聞いたカミーユは首を横に振る。


「いいえ。お陰で、どんなに辛くても病気に立ち向かえました。勇気を貰えました。むしろ、感謝したいぐらいです。」

「感謝なんて。私は何もしていない。」

「そんな事はないですよ。貴方とした約束は、唯一の希望でしたから。」


 どんなに辛くても、立ち向かう事が出来た。

 それは、生きたいという目標を持てたから。

 それがあったから、諦めずに頑張れた。


「だから、病気が治った時は、真っ先に貴方に会いたかった。でも、私は貴方の事が分からなかった。お互いの名前を聞く前に別れたから。」

「あんな別れ方をしたからな。聞くどころでは無かったから仕方ない。」


 仲良くなって、将来の約束をした程の仲だ。

 それなのに、お互いの名前すら知らなかったのだ。

 なぜなら、名乗る前にとある事件が起きたから。


「お互いの名前を名乗ろうとしたその時、私の病気が悪化してしまったんですよね。」

「あぁ。いきなり胸を抑えて苦しみだしてな。そのまま、メイドの人に連れていかれたんだよな。」


 病気の悪化により、引き離されてしまったのだ。

 名前を聞くなんて余裕もない。

 その光景を思い出したフィーが俯く。


「悔しかったよ。苦しむ友を前に何も出来なかった。もう、こんな目に会いたくはないってな。だから、代わりにこれから出来る友の手は絶対に離さないと誓ったんだ。」


 そうなんだ。

 もしかして、フィーが友に拘るのって。


 その時の光景が目に焼き付いているのだろう。

 だから、同じ目に合うのは嫌だとあがき続けたのだ。

 今度こそ、大事な友を守るために。


「そんな貴方に、私は謝りたかった。心配かけてごめんなさいと。でも、名前もどこにいるかも分からない。その時、キュリアさんからお願いをされました。」

「まさか、瘴気を探す依頼の事か?」


 瘴気を探し当てられるのはカミーユだけ。

 だから、探して欲しいとの事だ。


「はい。大陸全土を回ると聞いて、貴方を探せると思い受け入れる事にしました。勿論、キュリアさんに恩を返したいのもありましたよ?」

「そんな事があったのか。」


 依頼を受けたのは、命の恩人への恩を返す為。

 しかし、本当の目的はかつての友を探す為なのだ。


「でも、こうして貴方と出会えました。私の判断は間違いじゃなかった。」


 結局は、こうして目的を達成する事が出来たのだ。

 探したかいがあったという事だ。

 そんなカミーユは、フィーへと手を差し出す。


「改めて、私と友になって下さい。」


 それは、名もなき二人の間に交わすものではない。

 フィーとカミーユ、お互いの事を知った上でとの思いがこもっている。


「そんなの、決まっているだろう。」


 その思いは、フィーも同じ事だ。

 それを伝えるべく、手を差し伸ばした時だった。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 突然、地面が激しく揺れる。


「きゃっ。」

「危ない!」


 倒れてくるカミーユをフィーが支える。

 その間も、地面は揺れ続ける。


「くっ、激しいなっ。」


 地震!?

 どうしていきなり?


 その間にも、王都が揺れ続ける。

 そしてついに、魔族が再び動き出す。

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