作戦会議です
「まずは、相手の情報をまとめようかね。相手の事を知らないと始めらんないし。」
「異論はないよ。」
オルティの主張にフラリア王が同意する。
何を話すにしても、まずは相手の事からだ
「見たところ、来た帝は一体だけ。主な戦力は、帝と二体の武将かな。」
「もう一体いるよん。芸術の町を襲ったやつね。ね? フィーちゃん。」
「あぁ。とても強いやつがな。」
うん、忘れる訳がないよ。
キュリアとフィーが補足する。
フィーにとっての因縁の相手だ。
忘れる筈もないだろう。
「へぇ。でも、いなかったけど? まさか、二人が先に追っ払ったとか。」
「そうできたら苦労はないよん。飛び抜けて強かったし。」
直接力を比べた訳ではない。
しかし、与えた被害はその武将が多いのは間違いない。
「そうなのかい? それじゃあ、そいつも追加で。後は?」
「いないと思うかな。三武将って言ってたし。」
「うん。他に、強そうなのは、いなかった、よ。」
キュリアとリュノが説明する。
見たかぎり、飛び抜けた魔族はその四体だ。
「つまり、相手の戦力は四体ってことかな。」
「他に出てないのがいないのならね。でも、間違いないと思うよん。」
他に出ていない者がいれば分からない。
しかし、武将と言うからにはそれ以上はいないだろうとの考えだ。
「なるほどね。それなら、私達でどうにかなるとは思うけど。」
「そうならないから困ってる訳だねー。」
「残念な事に、ね。」
直接的な戦いでは、負ける事は無いだろう。
しかし、実際にそうなる事は無かった。
何故なら、それ以外の原因があったからだ。
「問題は、あの厄介な力って訳か。」
「そうなるね。あの力せいで、戦力を底上げされたからね。」
「しかも、人質を、取られたような、ものだからね。」
ほぼ不死身の存在である偽物のゴーレムの事だ。
仮に破られたとしても、中の存在が攻撃を止めさせる。
まさに、最強の戦力と言えるだろう。
それを聞いたフィーが冷たい目でオルティを見る。
「そも人質、吹き飛ばしたけどな。」
「あーあれの事? ちゃんと安全に降ろしたから安心していーよ。」
「ちなみに、かけられてた術式は壊しておいたよん。」
「そういう問題か? まぁ、無事なら良いか。」
無事が何よりだもんね。
ただ無責任に飛ばした訳ではないようだ。
怪我がないのなら問題はないだろう。
しかし、問題は他にある。
「ただなぁ。さっきの量なら同じように飛ばせるけど、その度に新しいのを出されまくったらどうにもならんかな。」
「確かに、次から次へと出されたらな。」
いくら飛ばしたところで、無限に沸かされたらどうしようもない。
しかし、そうならない筈なのも確かだ。
気づいたキュリアが説明する。
「でも、中の人が人間なら限界はある筈だよね? だって、連れ去った人達を入れてる訳だし。それ以上のゴーレムは作れない筈だよん。」
「まぁ、そうなるね。どれだけ連れ去られたか知んないけどさ。」
「そこは当事者にってね。王様分かる?」
連れ去られた数さえ分かれば対策は練れる。
そして、その数が分かるのは現場にいた王様だけだ。
しかし、その王様は首を横に振る。
「残念ながらな。帝と戦うので精一杯だったよ。それ以外の場所で起きた事は、知る術が無かった。王失格だな。」
悔しそうに王様が俯く。
周りの事に配慮出来なかった事が悔しいのだろう。
それを聞いたオルティは面倒そうな顔をする。
「あーはいはい後でなー。でも、そうなると対策のしようが無いかな。連れ戻した騎士さんも、全然目を、覚まさないし。」
「いえ、もう一人だけいますよ。現場の事を知ってる人。」
諦めようとしたオルティをカミーユが止める。
そして、返事が来る前にその人物を見る。
「ですよね? アルティスさん。」
「はい。」
その人物とはアルティスの事だ。
現場で直接捕まっていた人物。
だから、そこでの事も分かるのだ。
「彼女は、捕まっていた中の一人です。だから、どれだけ捕まっているのかも分かるそうです。教えて下さいますね?」
「はい。その場所にいたのは、六十人ほどでした。」
「他には?」
「いないです。一ヶ所に集められていたので間違いないです。」
連れ去られた者達は、全員が同じ場所にいた。
なので、それ以外の者はいないとの考えだ。
数は、それで正しいだろう。
「六十人かー。確か、取り戻したのは二十人ぐらいだっけ。」
「あってるよん。つまり、まだまだ作れるって事だねー。」
まだまだ連れ去られた人はいる。
つまり、それだけ新たに偽物のゴーレムを作れる。
それでも、数は分かったのだ。
「まぁでも、それが分かれば充分かな。そもそも、止めるだけなら他の騎士さんでも良いし。まぁどうにかなるっしょ。」
「だねー。じゃあ、普通のゴーレムなら問題は無さそうって事で。」
「普通のなら。ね。」
普通の偽物のゴーレムは確かに強い。
しかし、倒さなくてはいけない相手ではない。
そうなると、いくらでも手は打てる。
止めれる相手ならばの話だが。
「問題は、うちが飛ばした剣聖さんかな。」
その言葉に、アルティスがピクリと小さく震える。
それは、剣聖を操って出来た偽物のゴーレムの事だ。
「咄嗟の事で王都の外まで飛ばしちゃったけど、回収されちゃったかな?」
「されてるよね。手放す必要も無いし。」
「確定事項、だよね。」
キュリアとリュノが同意する。
あれだけの実力を持った偽物のゴーレムだ。
放っておくような事はしないだろう。
「となると、また剣聖さんとも戦うのか。下手したら、盤面をひっくり返されるかな。」
「それが一番の懸念だよねー。」
当然、普通の偽物のゴーレムとは違うだろう。
現れるだけで、どう戦場が変わるのか知る事は出来ない。
すると、それを聞いたフィーが手を上げる。
「一つ聞きたいんだが、剣聖というのはそんなに強いのか?」
「そりゃね。剣聖ってのは国が認める最高の称号だし。」
「称号?」
肩書きみたいなもん?
剣聖とは、人に与える称号を指す。
しかも、簡単に与えるような代物ではない。
代わりに、カミーユが説明する。
「一つの国に一人の剣聖。一人で国防を賄える程の実力者に与えられるもの。実際に、人間同士で争いが無いのは、各国に剣聖が存在しているお陰と言われる程です。」
「剣聖を止められるのは剣聖だけ。それほどの存在なのだよ。」
剣聖が動けば、国が落ちる程の存在だ。
それと対等な存在は、同じ剣聖でしかありえない。
そんな剣聖同士で睨み合っている為、争いは起きないのだ。
「ほう。とんでもない存在なんだな。」
「沢山いる人間の中から、たった八人しか出てないからね。それで、どれだけヤバイのか分かるっしょ?」
「そうだな。ってあれ? 八人?」
オルティの発言に疑問を持つフィー。
気になるのは剣聖の数。
そんなフィーは、かつての話を思い出す。
「国は七つだよな? そして、一つの国に一人。なら、一人多くないか?」
「その一人なら、うちの組織のNo.2だよ。どっかの国に着いてる訳じゃないけど。」
「ありなのか? それ。」
「まあね。色々と事情があるんだよ。」
異例ってやつ?
よく分かんないけど。
どこかの国に属する存在な訳ではないようだ。
しかし、尋常な実力を持った者には間違いない。
「つまり、そんなヤバイ存在と戦わないといけない訳だ。」
「それに加えて、剣聖を倒せる程の一体の帝と三体の武将も忘れずに。」
「しかも、弱いのが、うじゃうじゃ、だよ。」
「…そうか。今、猛烈に忘れたくなったよ。」
剣聖という存在だけでも大変なのだ。
それなのに、それを倒して操っている者達もいる。
現実逃避をしたくなるのも仕方がない。
そんな風に沈黙が続く中、机にカップが置かれていく。
「紅茶、出来ましたよ。」
「おっ、ちょうど良いな。ちょいと一休みといこうかな。」
それが良いね。
一段落したら、考え方も変わってくるだろうし。
カップを雑に掴んだオルティが紅茶をすする。
それ以外の者も、各々自由に紅茶をすする。
そうしての一段落を楽しむ。
「まぁあれかな。相手の戦力が分かった。それで充分って事。それをどうにかする為に集まった訳だし。」
「そうだな。では、今度はこちらの情報の番という事か。」
「そういう事。前向きで助かるよ。」
相手が強いのは、最初から知っていた事だ。
それを崩す為の会議だ。
悩むのはもう終わりだ。
そんな事で、紅茶を飲み干したオルティがカップを置く。
「まずは、戦力の確認といこうかな。当然、うちら三人は参加するよ。魔族を止めるのが仕事みたいなもんだし。」
「異議なしだよん。」
「頑張る、よ。」
魔族を倒す為に集まった三人だ。
今更、戦わないとは言わないだろう。
今回の戦いの大きな戦力だ。
「うちからは、騎士を出そう。それぐらいしか出来ないのが申し訳ないのだが。」
「別に構わないよ。数は正義な所もあるし。ゴーレムに押されていたのだって、数で負けていたからっしょ?」
王都から出せるのは、生き残りの騎士だけだ。
一人一人は弱くとも、出来る事はあるだろう。
それを聞いたキュリアが提案する。
「それなら、集めた兵士達も使っちゃおう。折角だしねー。」
「なるほどね。でも、誰が指揮するん?」
ここまで来た時に一緒に戦った者達だ。
しかし、あれだけの数を指揮者なしでは誘導は出来ない。
すると、カミーユが手を上げる。
「それなら私がします。兵士の偉い方とは知った仲ですし。」
「まさか、出るのか?」
「はい、お父様。私も王家の一人。役目を果たして見せましょう。」
「いや。しかし、危険すぎるだろう。」
今回の戦いは、前のようにはいかないだろう。
そうなると、今回ばかりは過保護になるのも無理はない。
すると、カミーユがフィー達を見る。
「では、フィーさん達に護衛を頼みましょう。良いですよね?」
「当然だ。戦える力も手に入れたからな。」
「はい。フィーさんが行くなら私も。」
にゃ。
それに、心配だしね。
カミーユの提案に、フィーと俺が同意する。
そして、セイラもまた参加する気のようだ。
それを聞いたカミーユは、満足そうにしている。
「だ、そうです。これで問題は無いですよね?」
「そうか。そうだな。いや、うーん。」
それでも、フラリア王は悩んでいる。
それだけカミーユを、戦場に出したくは無いのだろう。
そんな中、俯いていたアルティスが顔を上げる。
「私も、行きます。」
「え? しかし。」
「連れて行って下さい。見習いとはいえ、私も騎士の端くれなので。」
その目には、先程のような暗さはない。
行きたいという気持ちは充分なようだ。
それを見たカミーユが頷く。
「分かりました。しかし、遅れるなら置いていきますよ。」
「はい。ありがとうございます。」
「そういう訳で決まりました。兵士を率いながら戦場を支えます。」
こうして、カミーユ達の参加も決まる。
やることは、兵士の誘導をしながらの後方支援だ。
「そう? ほんの一人納得してないようだけど。」
「大丈夫です。後で分からせますので。」
「言い方が怖いな。もしかして、娘に頭が上がらないのですか?」
「娘だけではないよ。悲しい事にね。」
可哀想に。
尻に敷かれるタイプなんだね。
フィーの問いかけに、縮こまったまま答えるフラリア王。
その姿からは、父親らしからぬ哀愁が漂う。
言い方から、良くある事なのだろう。
こうして話がまとまると、オルティが空のコップを掴む。
「そんじゃ、全員参加という事で。後は作戦を練るだけ。でも、その前に。」
そう言いながら、オルティが空のコップを持ち上げる。
先程のメイドに見せるように。
「景気づけのもう一杯。お願いするな。」
気分を上げる為のおかわりを要求する。