王様に会いました
無事だった騎士達が、王都の復興を進めていく。
その間に、俺達は城へと案内される。
これからの事を話し合う為だ。
大きな城門を越えて扉の前で立ち止まる。
「まさか、こんな形で入る事となるとはな。
にゃ?
どういう事?
「私の家族がパーティーに呼ばれて来た時は、いつも中に入れて貰えなかったんだ。入って良いのは、才能に目覚めた者だけだってな。」
フィーの事を見せたくはなかったんだろうね。
相変わらず、手厳しい家族だ。
お城に集まるのは、相当な身分がある者だけ。
そのような人達に、才能が無い家族を見せたくは無かったのだろう。
才能に目覚めていないのは、恥という考えがあったからだ。
「だから私は、いつもお城の庭からパーティーを覗いていた。そうする事しか出来なかったからな。そこから見ていた光景を今でも覚えているよ。」
そうなんだね。
もしかして、憧れとかあったのかな。
その時の事を覚えているのは、それだけ印象に残っているからだろう。
相当な思いが無ければ、覚えている事など無いからだ。
それだけフィーは、パーティーの事を思っていたという事だ。
そんな話をしていると、遠くからカミーユの声が聞こえてくる。
「フィーさん、どうしました?」
「いや、なんでもない。今行こう。さ、にゃんすけ。」
にゃ。
そうだね。
行こう。
見慣れた中庭への道を見ていたフィーが歩きだす。
そして、その後を俺が続く。
そのまま俺達は、カミーユに案内されながら扉を潜る。
「フィーさん、にゃんすけさん、ようこそお城へ。」
「ありがとう。」
にゃー。
お邪魔しまーす。
まず目に入ったのは、横に広がるホールだ。
そこにあるのは、複数の扉と待ち受け用の長い机。
招いた人達を確認する為の場所だろう。
「さぁ、こっちです。」
「分かった。」
カミーユの誘導に従い、扉とは別の通路へと向かう。
そして、その長い通路を歩いていく。
その際、カミーユが俺達の事を見る。
「私の事、聞きましたよね。ごめんなさい、黙っていて。」
「いや、気にしていない。少しだけ驚いたけどな。」
にゃ。
少しだけね。
それっぽい感じはあったし。
実は王女だったという話の事だ。
確信が無かっただけで、察する事は出来ていた。
その分、驚きは無かっただけだ。
「それよりも、病気の方が驚いたよ。死にかけたんだったな。」
「はい。私の体は、排出出来る量を越えた桁違い魔力を取り込む体質でして、それが体を圧迫する事で本来の体の機能が止まってしまうとの事でした。」
基本的な生き物は、周囲に溶け込む魔力を取り込み体の機能を補助できる。
しかし、そうでもない場合もあるようだ。
「そうなのか。体に良いだけの物じゃないんだな。」
「あくまで体の動きを促進させる物ですからね。それが過ぎると、異常も当然起きます。」
魔力を取り込む事は、単純に体の動きを良くするものではない。
体に与える影響によって、そうなるだけの事だ。
その量を間違えれば、異常も起きるだろう。
「そうか。私も気を付けないといけないな。」
「いえ。普通の人が取り込める量では大丈夫ですよ。私が取り込めた量がおかしいだけなので。」
「そんなになのか。」
普通に取り込むだけでは起きる事ではない。
なので、普通の人間に起きる事ではない。
その事が、カミーユの身に起きた事を物語る。
「でもまぁそういう事なので、気にせずにどんどん流しちゃって下さい。そうでもしないと、生き残る事は不可能ですから。」
「そうだな。折角纏えるようになったんだ。やらない選択肢は無いだろう。」
にゃ。
そうだね。
ようやく手に掴んだ力なんだから。
強敵と戦う事が出来る唯一の力。
かつては、それが無いせいで大事な人を失いかけた。
しかしもう心配する必要はないだろう。
「奴らと渡り合う力は手に入れた。後はぶつけるだけだ。」
「そうですね。その為の会議です。本気で挑みましょう。さぁ、着きましたよ。」
そう言いながら、たどり着いた扉を開くカミーユ。
そには、豪華な絨毯やソファーが並んだ部屋があった。
会議というには豪華すぎるだろう。
「随分な部屋だな。会議室というよりも、客人を招く場所か?」
「その通りだよ。君達は大事な客人だからね。」
「え?」
口を開けて見渡していた俺とフィーに声がかけられる。
そちらを見ると、部屋に似合った豪華な服装の男性が立っていた。
その後ろには、大人びたメイドが立っている。
「ようこそ、我が城へ。」
「貴方は、王様?」
「いかにも。私がこの城の主、フラリア王だよ。」
そこにいたのは、この大陸で一番偉い存在。
そして、大陸の顔である王そのものだ。
その王を見たフィーは姿勢を正す。
「えぇ、会えて光栄です。フラリア王。フィーとにゃんすけです。」
にゃっ。
こーえいです。
で、良いのかな?
王へと、礼儀良く挨拶をする俺達。
慣れない事に、俺はフィーの真似をして挨拶をする。
そんな俺達を見たフラリア王は笑みを見せる。
「ふふっ、こちらこそだ。君達の事は娘から聞いたよ。国を守ってくれて感謝する。」
「いえ、守ったなどと。私では、魔物を払うぐらいしか出来ませんでした。そういえば、お体の方は大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。と、言いたい所なのだがね。結構、無理をしておるよ。」
そう言って、肩へと手を置くフラリア王。
よく見ると、顔色も悪い。
普通そうに見えるが、ダメージは大きいのだろう。
「そうですか、無理をなさらずに。」
「ありがとう。しかし、やるべき事は沢山ある。寝ている訳にはいかないのだよ。流石に、他の家族には休んで貰っておるけどな。」
一連の魔族の襲撃の件は、まだ終わったわけではない。
そんな中で、国の長である王が何もしないわけにはいかないのだ。
「なんとしてでも、奴らを追い払う。今回の件も、しっかりと償わさせてな。」
「同じ気持ちです。これ以上、奪わせつもりはありませんから。」
「そうだな。共に頑張ろう。」
「はい。頑張りましょう。」
にゃ。
そうだね。
頑張ろう。
共に魔族にやられた者同士。
身分は違えど、考える事は同じだ。
これ以上、魔族の隙にさせるつもりはない。
そんな風に、話がまとまった時だった。
「時に、我々どこかで会った事があったか?」
そう言いながら、フィーの顔を覗き込むフラリア王。
そんなフィーは、首を横に振って否定する。
「いいえ。私とは、初めてですよ。」
「とは?」
「あー、いえ。こっちの話です。」
その筈だもんね。
会える筈が無いし。
城に入らなかったフィーと王様が会える筈が無い。
それでも、フラリア王は不思議そうにフィーを見ている。
「そうか、すまないな。どこかで見た顔だと思ったんだが。」
「気のせいでしょう。恐らく、どこかの誰かと見間違えたのですね。」
それって、フィーの家族の事?
それなら、会ってる筈だもんね。
フィーの家族と王様は見知った存在の筈だ。
そして、家族なら似た風貌もしているだろう。
そのせいで、勘違いしたのだろう。
「ふむ。まぁよいか。ところで君達は、娘の知り合いだそうだな。」
「えぇ、お世話になっています。」
にゃ。
なってます。
「そうか。もしよければ、これからも話し相手になって欲しい。おてんば過ぎて大変だと思うだろうがな。」
「お、お父様!?」
急に話を振られたカミーユが慌てだす。
父親に、性格をしてきされたのが恥ずかしいのだろう。
そんな父親を止めるべく、カミーユが詰め寄る。
「フィーさんの目の前で止めて下さい!」
「いやいや。基本、お前さんはアイナとしか話さないだろう? だから、歳の近しい話し相手を増やすべきだろうと思ってな。だから、私がこうしてな。」
「私の事は私でどうにかします。」
「えー。」
「えーじゃないですよ。恥ずかしい。」
どうやら、父親に世話を焼かれたのが恥ずかしかったようだ。
娘に詰め寄られるフラリア王は、不満そうな顔をしている。
そんな二人を見たフィーが笑う。
「娘が心配なのですね?」
「当然だとも。本当は、旅に出すのも反対だったのだ。」
「お陰さまで、苦労しましたよ。大丈夫だって説明したのに。」
「しかし、十何の巡りと寝込んでたのだよ? 心配ぐらいするだろう。」
「だからといって、過保護過ぎます!」
まぁ、王様の気持ちは分かるけどね。
だって、実際に死にかけた訳だし。
死にかけた事があった分、親としての心配も増したのだろう。
それが、過保護として現れているのだ。
そうなってしまうのも無理はない。
「とにかく。心配してくれるのは嬉しいですが、私はもう一人で出来ますから。」
「そうか。でも、何かあったらいつでも言ってくれよ?」
「…分かってますよ。だから、もう心配はなさらずに。」
そう優しい声で答えるカミーユ。
しかし、フラリア王は寂しそうにしている。
そんな話をしていると、後ろの扉が叩かれる。
そして、扉が開かれるとアイナが現れる。
「ただいま着きました。…取り込み中でしょうか?」
「いいえ。いつものです。」
異常な空間を、アイナが不思議そうに見ている。
しかし、その言葉で理解したのかすぐに元の顔つきに戻る。
「そうですか。では、客人をお連れしたので中へ案内します。」
「お願いします。」
「はい。では、どうぞ。」
そう言いながら、横へと避けるアイナ。
すると、代わりにセイラとアルティスが現れる。
よく見ると、セイラは震えている。
「し、しし、失礼します。」「失礼します。」
そう挨拶をすると、ぎこちない様子でセイラが入ってくる。
その後ろを、手慣れた感じのアルティスが続く。
そんなセイラへと、フィーが声をかける。
「どうした? セイラ。」
「き、緊張してるのよ。悪い?」
「悪くはないが、そこまでか?」
「あ、当たり前でしょ。こんな場所に連れてこられたらさ。」
まぁ、これが普通の反応だよね。
実は自分も、現実離れし過ぎてるお陰で平気だし。
お城にある豪華なお部屋。
そして、目の前には王様がいる。
普通の人間では、耐える事は難しいだろう。
しかし、勇気を出したセイラがフラリア王を見る。
「お招き頂き、ありがとうございます。」
「来てくれて歓迎するよ。さ、ソファーに座って寛いでくれ。」
「は、はいぃ。」
消え入るような声で返事をしたセイラがソファーへと向かう。
そんなセイラに苦笑する俺達も後に続く。
そして、アルティスもまた後に続いてからうつむく。
そんな俺達を見たフラリア王が微笑みを取り戻す。
「ふふっ、緊張をしなくて良いんだよ。そうだ。カイナ、彼女達に美味しい紅茶を入れてあげてくれ。」
「分かりました。」
王様の指示で、後ろで立っていたメイドが動き出す。
そのまま、持ち運んでいたお湯で紅茶を作り始める。
すると、それと同時に再び扉が開かれる。
「んじゃ、その紅茶、三つ追加でねー。」
そうして部屋に入って来たのはオルティだ。
その後ろから、キュリアとリュノも現れる。
そんな三人を、フラリア王が歓迎する。
「おぉ。来てくれたか。」
「来てあげたよ。どうやら、揃ってるみたいかな。」
「みたいだね。あ、ジャムある?」
「僕、砂糖、たっぷり、で。」
そう言いながら、堂々と俺達の向かいに座る三人。
それを聞いたメイドが、新たなコップを取り出す。
そんな光景に、フィーが呆れる。
「図々しい態度だな。」
「それが取り柄なもので。」
「格好つける所か? 別に良いが。」
決めポーズをするキュリア。
その悪気の無い姿勢に、フィーは追求を諦める。
そんなフィーの前で、オルティが足を組む。
「まぁご愛敬という事でよろしく。」
「言葉と態度があってないんだが?」
「ははっ、まあ良いじゃないの。それじゃあ早速始めようか。逆転の為の作戦会議をね。」
こうして、魔族に勝つ為の会議が始まる。