王都奪還です
帝達が引いた事により、偽物のゴーレム達も消えていく。
そして、王都にいた魔族達も引いていく。
こうして、王都に平和が戻ったのだった。
そんな中、馬車が広場へと現れる。
「フィーさん!」
「カミーユ!」
どうやら、偽物のゴーレムが消えた事により広場へと入れたようだ。
馬車から降りたカミーユがフィーの下へと駆け寄る。
「フィーさん、無事ですか?」
「無事というかなんというか。置いていかれて何も出来なったというか。」
「何も出来なかった?」
そうなんだよね。
ほんとに、見てるだけしか出来なかったよ。
圧倒的な力の差同士の戦いに、俺達が入り込む余地は無かった。
だから、怪我をしようが無かったのだ。
そんな話をしていると、当の三人が合流する。
「やっほー、カミーユちゃん。」
「オルティさん? 来て下さったのですね。」
「まーね。帝が来たなら、うちが動かなきゃいけないからね。」
帝と対抗できるのはオルティだけ。
実際、オルティのお陰で事態が好転したのは事実だ。
「そうですか。では、帝は?」
「倒した。と、言いたい所だったんだけど逃げられちゃってねー。」
「いいえ、相手が相手です。王都を奪い返せただけでも充分でしょう。」
「そう言ってくれるだけでも、ありがたいね。」
以前の状態では、どうにか出来るだけでも未知数だった。
それが、こうして何とか奪い返せたのだ。
大きな前進と言っても良いだろう。
「そんで、そっちの状況は?」
「避難した住民は、あらかた確保しました。後は、王家の関係者ですが…。」
「探してあげないとね。任せれる?」
「はい。今すぐ、騎士の皆さんを呼び戻して探すつもりです。」
「そう? んじゃ、よろしくねー。」
オルティに頭を下げたカミーユは、馬車へと戻っていく。
そして、そこにいた付き添い達に指示を出している。
それを見送ったオルティがフィーを見る。
「んで、君達がフィーちゃんとにゃんすけちゃんでしょ? こんな場所まで来るなんて勇気あるなぁ。」
「戦っていたらいつの間にかな。それよりも、何が起きているのか話して欲しいんだが。」
「知りたいのはこっちなんだけどね。何が何やらさっぱりだし。」
「そうなのか? 事前に動いていたようだから、知っているのかと思ったが。」
うん。俺も思ってたよ。
オルティもまた、詳しい情報を持っていない。
しかし、この三人はフィー達よりも早く動いていた。
魔族が動いたという情報を持っていたのは確かだろうが…。
「残念ながら、知っている事は魔族の襲撃があるって事だけだね。そっから先は、全て憶測だよ。うちが動いたのも、念のためだしね。」
「そうだねー。私がフィーちゃんと会えたのも、本当に偶然だし。」
「僕も、カミーユさん達と、情報を、集めようとした、所だったしね。」
オルティ達の行動は、全て憶測でのものだ。
王都を取り戻せたのも、それが上手く行っただけに過ぎない。
「では、そっちも詳しい情報を持ってない訳だな。」
「ま、そういう事かね。」
「探す時間も無かったしねー。」
気づいたのは最近の事だ。
これから情報を集めようとした時に動かれたようだ。
その事実に、オルティが頭をかきながら溜め息をつく。
「はぁ。どうやら、情報を寄せ集めるしかなさそうかな。王様達の捜索が終わり次第、カミーユちゃん達と場所を設けるからそれで良い?」
「あぁ、構わない。後は、まだ避難出来てない住民もな。」
とにかく、今するべき事は住民達の確保だ。
その事に、オルティ達も異論はない。
こうして、騎士達による王都の探索が始まるのだった。
それからしばらくの事だった。
至る所から、無事を確かめる住民の声で騒がしく聞こえる。
そして、セイラもまた学校の生徒達と合流していた。
そんな風に、王都の奪還に人々が歓喜していた時だった。
「見つけたぞ! こっちだ!」
とある建物の中から、騎士が現れる。
すると、その騎士がいる方へ他の騎士が集まってくる。
すると、その後ろから肩を担がれた者が運ばれてくる。
更に、騎士に守られながら複数人の者が現れる。
王家の者と、その関係者だろう。
「衰弱している! 王様達を安全な所へ!」
「私は構わない。すぐに、次に備えなくては。」
「そういう訳にはいきません。まずは、休んでからです。」
王様らしき者と騎士が、何かのやり取りをしている。
どうやら、離れようとしている王様を押さえているようだ。
そんな王様の下へと、カミーユが向かう。
「お父様!」
「カミーユか! 怪我は無いか?」
「私は無事です。それよりも、皆さんは。」
王様を父と呼びながら抱きつくカミーユ。
そして、その横にいる二人の女性とも抱き合っている。
その光景を見たフィーが驚く。
「やはり、王家の人間だったか。」
「その通りですとも。」
「騙してすみせぬな。」
「いや、そっちにも事情があったのだろう。」
フィーの横に、付き添いの兵士の二人が近づく。
その二人の謝罪に対して、フィーが首を横に振る。
やはり、予測はあっていたようだ。
「しかし、そうなると分からないな。王家の娘は一人だ。カミーユの横にいる者だよな?」
「えぇ。王女アストラ様で間違いありませんよ。」
そうなんだ。
目の前でカミーユの頭を撫でている人物。
その人物こそが、この大陸の唯一の王女だ。
しかし、カミーユもまた王様を父と呼んでいる。
「やはりそうか。では、カミーユは一体何なんだ? どうして王様を父と呼ぶ?」
「ふぅ、もう話しても良いでしょう。実はカミーユ様は、もう一人の王女なのですよ。」
「もう一人の?」
「えぇ。発表されてはいませんがね。」
第二王女ってやつだね。
でも、発表されて無いなんて。
発表されていないだけで、カミーユもまた王家の一人娘。
だから、フィーが知らなかったのは当然だ。
「そうなんだな。ちなみに、どうしてか聞いて良いのか?」
「えぇ。カミーユ様は、命を落とすのが決まっていたからですぞ。」
「命をか!?」
にゃ!?
命を!?
その事実に驚愕する俺達。
カミーユは、死ぬことが決まっていた存在だ。
それが、発表をしなかった理由だ。
「その通りですとも。カミーユ様は生まれた時から重たい病を抱えてましてな、長生きは出来ないと宣告されていたのです。ならばと、その存在を隠す事にしたのです。」
「命を落とすその時まで、何一つ不自由の無い生活を置くって貰う為にとの事ですぞ。」
王女と知られると、その役目に縛られる生活を送らなくてはならない。
その役目を、死にゆく者に負わせる訳にはいかなかったのだろう。
「そんな事が。そういえば、ずっとベッドの上にいたと言っていたな。」
「はい。常に、ベッドの上でアイナ殿の介護を受けておられました。なので、カミーユ様を知るのは、メイドの方と騎士の者ぐらいでしたぞ。」
「そうなのか。」
知るのは、面倒を見る必要があるもの達か。
確かに、兵士の人は気づいて無かったもんね。
王家に関わるのは騎士だけだ。
だから、普通の兵士ではカミーユの存在に気づけなかったのだ。
兵士もまた部外者なのだから。
それを聞いたフィーがある事に気づく。
「ちょっと待てよ。じゃあ、お前達は騎士なのか?」
「いかにも。我らは、誉れある騎士ですぞ。」
「しかも、カミーユ様を守る名誉を与えられたというな。」
にゃー?
本当にー?
胡散臭い者を見る目で騎士達を見る俺。
騎士というには、頼りない感じだ。
すると、それに気づいた騎士達が怒りだす。
「あっ、この獣。今、馬鹿にしましたぞ!」
「失礼な獣だ。」
「はいはい、その辺で。それで、その病気のカミーユはどうして出歩けているんだ?」
そうだね。
歩く余裕も無さそうだけど。
命を落とす程の病にかかっていたのだ。
元気に出歩ける状態では無い筈だ。
しかし、当の本人は王都から離れられる程に元気だ。
「えぇ、それはもう治ったからですぞ。」
「治った? そんな簡単にか?」
「いえいえ。普通なら不可能ですぞ。実際、医療では治らぬ病だったので。」
治せる病なら、存在を隠すには至らない。
なので、不治の病には違いない。
「医療では? ではどうやって治したんだ?」
「勿論、魔法でですぞ。そんじょそこらの魔法とは違いますがな。」
「違う? そんな凄い魔法を使えるなんて…いや、まさか、キュリアか?」
「えぇ、正解ですぞ。」
普通の魔法では治らない。
しかし、そのような魔法を使えるのは一握り。
それが出来そうなのは、知る中で一人しかいない。
「カミーユ様も成長し息が上手く出来なくなった頃、藁にも縋る気持ちで魔法に詳しい人に片っ端から当たったのですぞ。そして、いきあたったのがキュリア殿でした。」
「キュリア殿は、面白そうという言葉と共にカミーユ様の病気と向き合ってくれました。」
沢山の魔術師を訪ねて、その度に断られたのだろう。
それだけの治療が難しい病気のようだ。
その中で、唯一応えてくれたのがキュリアだ。
「なるほど。ここで、キュリア達が出てくるんだな。」
「はい。キュリア殿は大陸に蔓延る瘴気に困っていたようで、病気の後遺症で魔力を強く感知できるようになったカミーユ様を訪ねました。」
キュリア程の者でも、瘴気を探すのは困難だったのだろう。
それで、カミーユなら出来ると訪ねたようだ。
「じゃあ、カミーユはそれに応えたんだな?」
「はい。恩返しがしたいとの事でした。そして、護衛として紹介されたリュノ殿と瘴気を封じる旅に出たのですぞ。」
カミーユからしたら、キュリアは命の恩人だ。
その恩人が困ってるのを見て、協力したくなったのだろう。
「それで、私達と出会ったか。」
その話を聞いて納得するフィー。
その直後、聞こえないようにボソリと呟く。
「息が出来なくなる病気か。まさかな。」
少し悩んだ後に、頭を振って考えを振り払う。
そんなフィーに気づかずに、騎士の一人が続ける。
「ちなみに、フィー殿に隠すように命じたのはカミーユ殿です。それゆえ、嘘をついてでも隠す事になったのです。そういう事で、なるべく怒らないで下さればと。」
「ん? 怒ってなどいないぞ? 良いではないか、カミーユがあんなに嬉しそうにしているのだからな。」
「えぇ、そうですな。」
そうだね。
あんなのを見たら、どうでもよくなっちゃうよ。
当のカミーユは、嬉しそうに家族との再会を喜んでいる。
それを見ると、騙された事などどうでも良いのだ。
むしろ、見ているこちらも嬉しくなる。
そんな光景を眺めている横で、騎士が周りを見渡す。
「ところで、キュリア達はどこへ?」
「王都全体に結界を張ると言ってどこかに消えたな。」
「そうですか。何から何まで感謝が尽きませんな。」
キュリア達は、王都を守る為に動いているようだ。
今頃、王都の上空には見えない結界が張られているのだろう。
その王都の城壁の上で、当の三人が並んで外を眺めていた。
「キャリアちゃん、あいつらが逃げた場所は分かった?」
「うん。あの山の方だよん。隠れるにはうってつけだねー。」
「他の魔族も、いるんだ、ろうね。」
「こうしている間も、準備を進めているってこったな。」
王都から見える場所にそびえ立つ山。
そこに、魔族達の根城がある。
来るとすれば、そこからだろう。
「二つとも。守るよ。」
「だね。」「うん。」
そう言って、三人が城壁の上から消える 。