乱入者の実力です
「只今、到着。じゃないんだよ。さっきの魔法、うちらを巻き込む所だったんだけど?」
「まぁまぁ、キュリアちゃん。久しぶりの再会に細かい事は無しじゃない?」
先の魔法の範囲に、キュリア達も入っていたのだ。
しかし、魔法を放った本人は悪びれる様子はない。
代わりに、立ち上がったフィーが慌てる。
「いや、それどころじゃないだろうっ。ゴーレム飛んでいったんだが、大丈夫なのか?」
「まー、大丈夫っしょ。何とかなるって、フィーちゃん。」
「ノリ軽いなっ。本当に大丈夫なのか? って、私の名前?」
フィーの知り合い?
そうじゃなさそうだけど。
ゴーレムの心配をするフィーをよそに、その乱入者はカラカラと笑っている。
どうやら、その乱入者はフィーの事を知っているようだ。
そんな術者を、帝が静かに睨む。
「あの時からどれくらい経っただろうか。その顔、二度と見たくは無かったぞ。」
「おんや? どうしたん? そんなに暗い顔をしちゃってさ。ほら、笑って笑って。折角の再会なんだからさ。パーッと盛り上がろうって。」
「そういったところが嫌だと言っておるのだよ。分からんかね?」
乱入者を見た帝は、嫌そうに顔を横に振る。
どこまでも明るく振る舞う相手に、嫌気を感じているようだ。
そんな帝の様子を見ても、乱入者は表情を変えない。
「あ! もしかして、あの時の事を根に持ってる? でもさ、だからって今回の事はやりすぎたと思うよ?」
「下らぬな。こちらがどう動こうが、お前に関係はあるまいて。」
「あるっしょ。実際に、こうして迷惑を受けてるんだからさ。」
今回の騒動は、あの時の戦いの仕返しだろうか。
理由はどうあれ、こちらが迷惑を受けているのは事実だ。
文句を言うのは当然だろう。
そんな乱入者は、帝を見据える。
「それともさ、あの時、ボコボコにしたのを忘れちゃった?」
「っ!?」
乱入者の顔は笑っている。
それでも、なんともいえない冷たい気に帝が動揺する。
すると、そんな空気の中にキュリアが介入する。
「ごめん。それ、私が先に言ったよん。」
「えっまじで? じゃあ、王都を返して貰おうか。」
「それも言ったよん。」
「えー。じゃあ何と言えと?」
情けなく指をさした姿の乱入者は、ジト目でキュリアを見る。
そんなキュリアは、呆れるように見返す。
「取り敢えず、それっぽい事でも言っとけば?」
「そう? じゃあ。帝よ! 正義の名の元に…。あー止め止め。柄じゃないって。」
乱入者は、頭をかきながら諦める。
そして、姿勢を改めて帝を見る。
「手っ取り早く、こいつらを追い出す。そんで、王都を取り戻す。以上!」
「…言ってくれる。あの時と同じだと思わない事だ。」
笑いながらも睨み合う両者。
すると、帝の前にゴーレムが現れる。
「まずはうちらが。」
「ゴーレムの控えなら、まだあるよ。」
どうやら、控えのゴーレムを待機させていたようだ。
次から次へと、地面の下から現れる。
それを見たフィーが構える。
「まだいたのか! 手助けするぞ。えーと。」
「オルティだよ。気持ちだけ貰っとくよ。遅れた分、キッチリと働くからねっ。」
そう言いながら、オルティが駆け出す。
そして、ゴーレム達もまた駆け出す。
「やっちまいな!」「やってしまうと良いよ。」
「おっと、それは困るねっ。」
急に立ち止まったオルティは、目の前に手を伸ばし何かを掴む。
そして、布をはたくように手を上下に振る。
すると、歪んだ空間が波のように突き進む。
「何だ? あれは。」
「見ての通り、波さ!」
波のような歪みは、偽物のゴーレム達を襲う。
すると、その波に押し上げられるように飛んでいく。
「なっ、ゴーレム達が!」
「良い吹き飛びっぷりっ。」
そう言いながら、吹き飛んだ偽物のゴーレム達の高さへとオルティが跳ぶ。
そして、再び手を伸ばして空間を掴み取る。
「散らばったもんはっ。」
空間を掴んだオルティが一回転。
すると、その手に合わせて空間の歪みが伸びていく。
そして、その歪みが偽物のゴーレム達をトリモチのように掴んでいく。
「まとめなきゃねぇ!」
そうして、歪みに絡まった偽物のゴーレム達を一つにまとめる。
それを更に歪みでくるむと、そのまま地面へと投げつける。
「ほらよっと。」
投げつけられた偽物のゴーレム達が地面へと落下。
その上に、オルティが降り立つ。
「良い仕事っと。そんでっ。」
その状態から空間を掴むと、手前に引っ張る。
すると、それに合わせて空間が伸びていく。
「な、何を!」
「忠告しとく。前方注意。」
「なっ。」
次の瞬間、オルティが伸ばした空間から手を離す。
それにより、伸びた空間が一瞬で縮むと同時に何かが飛び出る。
それは、衝撃となって帝達を襲う。
「ぐうっ。この程度っ!」
「耐えられぬ程ではなっ…。」
衝撃を交差した腕で防いだ二体を武将がオルティを見る。
しかし、そこには誰もいない。
代わりに、二体の間から声が聞こえてくる。
「そこで、大人しくしてな?」
「「っ!?」」
突然の声に驚いた二体が振り向こうとする。
しかし、体が動かない。
「ぐっ。」
「体がっ。」
まるで、空間に固定されているように動かないのだ。
そんな二体の間をオルティが抜ける。
「覚悟は良いかい?」
「くっ、雷よ!」
急接近するオルティへと雷を放つ帝。
それでも気にせず前に出るオルティ。
その時だった。
「き、消えた?」
当たる直前に、雷が消えたのだ。
そんな雷の代わりに、オルティが現れる。
そして、そのまま帝の顔面を殴り飛ばす。
「ぐうっ。」
一撃を受けた帝は、衝撃と共に吹き飛ぶ。
殴った際に、衝撃を発生させていたのだ。
そんな圧倒した力を見せつけたオルティにフィーが驚く。
「強すぎる。それに、何が起きたのか全く分からなかったんだが。」
「えぇ。私も魔法を使ったぐらいね。風の魔法っぽかったけど。」
うん、全然分かんなかったよ。
周りから見れば、ただ腕を振るっただけ。
しかし、その度に何かの事象が起きていた。
それが分かるのは、事情を知る者だけだ。
「空間を、弄ったん、だよ。」
「空間を弄った?」
「そうだよん。空間に働く力を自由自在に操作する力。」
「それが、僕達の、組織のNo.3。オルティの、力だよ。」
空間を思うがままに扱う力。
今見せた物は、その力によって引き起こしたものだ。
そして、それを知っているのは仲間だからだ。
「やはり、お前達の仲間だったんだな。私の事を知っているのも教えたからだな?」
「頼りになる仲間でしょ? 時々、めんどくさいからって仲間を巻き込むけどね。」
「いや、それをお前が言うのか?」
ほんとだよ。
まさに、類友って奴だね。
呆れるようにキュリアを見るも、そっぽを向かれてしまう。
どうやら、自覚はあるようだ。
そんな話をしていると、空へと雷が昇る。
「おっと、危ない危ない。」
その雷を避けるようにオルティが飛び退く。
そのオルティの周りに、キュリア達が集まる。
「大丈夫かい?」
「何とかね。」
その目の前では、帝が起き上がる。
その横では、二体の武将も動き出す。
「やってくれおるわ。」
「懐かしい一撃っしょ? よければ、もう一発どう?」
「ほざけ。お前達、あれを出せ。」
「あれですかい? でもあれはまだ調整中で。」
「良い。何かあったらワシが動こう。」
帝の言葉に、武将の二人が困ったように見合う。
そして、仕方ないと頷いた後に再びゴーレムを呼び出す。
「おんや? またゴーレム?」
「そうさ。でも、今までのとは違うよ。」
その現れた偽物のゴーレムは一体だけ。
しかも、他の個体よりも小さい。
そして、その体には鎧のように岩が纏わりついている。
そんな偽物のゴーレムがカクカクとした動きながら立っている。
「へぇ。確かに違うみたいだねぇ。その割には、動きがいびつだけど。」
「ふふっ。まだ、調整中でね。その分、危険だから気をつけた方が良いね。」
「忠告どうも。って、ん? あの手にあるのって。」
オルティは、偽物のゴーレムの手にある一本の剣を見る。
その剣は、魔力を常に纏っている。
「闘気? いや、違う。」
魔力を纏う剣は、闘気によるものだ。
ただし、もう一つ例外がある。
その正体は…。
「聖剣っ!?」
気づいた時には、聖剣が強く輝きだしていた。
それを認識した直後、偽物のゴーレムが聖剣を振るう。
「まっ!?」
その一振により、光の柱が空へと立ち上がる。
その光が一直線に伸びると王都を端まで切断する。
それを、かろうじて逸らしたオルティが手を降ろす。
「まさか、そんな物を持ち出すなんてねぇ。」
「そうなると、中にいるのは剣聖さんかな?」
「そうさ。中々面白いのがいたからね。実験させて貰う事にしたよ。」
聖剣を扱えるのは剣聖だけ。
そうなると、鎧のゴーレムの中の人を考えるのは簡単だろう。
その事実に、リュノが首を傾ける。
「つまり、剣聖さんは、負けた? そんな事が?」
「そういえば騎士の見習いが言っていたな。王家の人が人質にされたせいで負けたと。」
「あーなるほどね。そんで、ゴーレムにされちゃったと。面倒な事になったねー。」
面倒で済めば良いけどね。
疲れたように項垂れるキュリア。
目の前にいるのは、騎士団最強の存在だ。
嫌になるのも分かるだろう。
それでも、オルティは前に出る。
「ちょいとばかし、本腰をいれて王都を取り戻さないとするかね。キュリアちゃん、リュノ君、いけるかい?」
「いつでも良いよん。」「いつでも、良いよ。」
そう言って、オルティの横にリュノとキュリアが立つ。
そして、三者とも同じように武器を構える。