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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
157/283

帝の罠です

「なんだこれはっ、地面がっ。」


 大きく揺れる王都は、更に波のように揺れ出す。

 すると、何かが地面から出てくる。

 それは一見、人のような物をしている。


「人が地面から? いや違う。」


 地面そのもの?

 でも人っぽい?


 その人形のようなものの材質は王都の地面。

 砂やら石やらが纏わりつくと、巨大な岩へと変わる。

 そうして、姿形を形成しながら歩いてくる。

 しかも数は沢山だ。


「囲まれたか。一体何なんだ!」

「ゴーレムだよん。」

「ゴーレム?」


 ゴーレムってあの?


 その正体は、ゴーレムと呼ばれる存在だ。

 岩の姿のまま、人に近い姿に近づいていく。


「ゴーレムってのは、岩で出来た魔物だよん。」

「魔物? という事は、こいつらは生き物なのか?」

「の、筈なんだけど、生体反応が感じられないねぇ。」


 本来なら、生き物の筈なのだ。

 しかし、目の前のゴーレムは生き物の感じがしない。

 その疑問を、魔族の一人が説明する。


「当然さ。こいつらは、私達が再現したゴーレムもどきだからねぇ。」

「魔法でそれっぽくしてるだけで本物ではないんだよ。」


 あくまでも、それっぽく見せただけの偽物だ。

 だから、生体反応が無いのも頷ける。


「へぇ、面白いねぇ。でも、ただのゴーレムには違い無いんでしょ?」

「いんや。当然、ただのゴーレムでは終わらないさ。まぁ、見てなって。」

「ん?」


 魔族の言葉に、偽物のゴーレムを見る。

 すると、偽物のゴーレムに周囲の瓦礫が吸い付くのが見える。

 それにより、段々と大きくなっていく。


「瓦礫が体に集まっていく。なるほど、補強してるんだね。」

「いかにも。こいつらは、周囲のものでいくらでも強くなるのさ。」


 偽物のゴーレム達は、通り道の瓦礫を吸い取っていく。

 しかも、崩れた建物からも吸い取っていく。

 そうして大きくなった偽物のゴーレム達が俺達を囲む。


「どうする? 囲まれてしまったが。」

「そりゃあ、やるしか無いっしょ? 逃してくれそうも無さそうだしね。」


 四方を囲まれている為、逃げる事が出来ない。

 初めから、逃がすつもりは無かったようだ。


「ふっ。ここまでして逃がす訳ないだろう?」

「そういう事さ。それじゃあお前達、やってしまいな!」


 魔族が叫ぶと同時に、偽物のゴーレムが動き出す。

 まずは、前に立つ数体が拳を振り下ろす。

 それらの拳は、俺達へと突き刺さるが…。


「行く、よ。」


 そうリュノが呟いた直後だった。

 激しい衝撃が広がると、偽物のゴーレム達を吹き飛ばす。

 それと同時に、三つの影が四方に散る。


「各個撃破。出来るかい?」

「や、やってみる。」

「無茶は、駄目、だよ。」

「分かっているっ!」


 そう叫びながら、目の前の偽物のゴーレムへと斬りかかるフィー。

 しかし、刃が通る事なく弾かれてしまう。


「固い!」

「そりゃそうでしょ。岩なんだからねっ。」


 そう言いながら、キュリアもまた斬りかかる。

 しかし、斬った部分が吹き飛んでいく。


「分かってはいるが。うわっと。」


 危ないっ。

 動きも早いよ、こいつら。


 フィーが着地した所へと拳が迫る。

 それを、飛び退いて避ける。

 その横で、リュノが偽物のゴーレムを吹き飛ばす。


「でも、今のフィーさんなら、出来る、筈だよ! その纏った、鬪気、ならっ。」

「いけるのか? 分かった。やってみよう。」


 そう言いながら、迫る拳を回って避ける。

 その際、鬪気へと集中する。


「はっ!」


 そのまま、相手の腕へと剣を振るう。

 それにより、腕から先が吹き飛ぶ。


「行けたぞ!」

「やるう。んじゃ、そのままでね。」

「分かった。」


がたがた。


 って、危ない!


「ん? と、うわっ。」


 気づけば、吹き飛ばしたばかりの腕が落ちてくる。

 しかも、切断した筈の腕がくっついているのだ。


「何っ!?」


 咄嗟に避ける事には成功した。

 しかしその先で、斬られた腕が落ちているのが目に入る。


「まさか、再生してるのか?」

「みたいだねぇ。私達が斬ったのも戻ってるよ。」


 周りでは、キュリア達が斬り飛ばしたものが立ち上がっている。

 しかも、斬られた箇所が元に戻っている。

 それを見た魔族が笑う。


「はっ。そりゃそうさ。こいつらは、複数の瓦礫をくっつけただけの存在だよっ。」

「欠ければまたくっつければ良いのさ。素材なら、そこら中に転がっているからね。」


 欠けたところで、くっつけた一部が崩れただけ。

 ならば、別の物で補えば良い。

 しかも、補う物は元の瓦礫や岩でなくても良いのだ。


「壊したいなら壊してどうぞだよ。すぐに直してやるからね。」

「その姿はまさに、無敵の存在。あぁ、美しい。もっと、その姿を見せておくれ。」


 片方の魔族は、自分で作った偽物のゴーレムに酔いしれている。

 それだけ、この偽物のゴーレムに自信があるのだろう。

 そしてそれは、キュリアも同じ。


「確かに美しいね。待ったかいがあったよ。」

「ほう。どうやら、人間にもこの美学が分かるのがいるようだね。」

「それほどでもー。」

「って、分かり合うなよっ!」


 追い込まれているんだよね?

 まぁ、言った所でなんだろうけどね。


 魔族と分かり合っているキュリアに突っ込みを入れるフィー。

 そんな事をしている間にも、偽物のゴーレムが倒していく。

 しかしすぐに、元に戻って立ち上がる。

 倒す術は見つからない。


「しつこい上に再生も早いっ。」

「これだけ数が、多いと、ね。」


 リュノが攻撃を避ける。

 しかし、その先に別のが待ち受ける。

 対処するので精一杯だ。


「面倒だなっ。キュリア! さっきみたいに乗っ取れないのか?」

「むーりっ。さっき出来たのは、操る為のものに触れれたからだよん。でもこいつらの場合、しっかりと中に納めやがってるからね。」

「ぐっ。そうかっ。」


 流石に対処してきたみたいだね。

 そこまで甘い相手じゃないって事か。


 既にやられた事を繰り返すほど、相手は馬鹿ではない。

 対策を取るのは当然の事だろう。

 結局は、対峙するしかないという事だが。


がたっ!


 危ない!


「ぐうっ。」


 死角からの攻撃を剣で逸らすフィー。

 止まらない攻撃に、対処が難しくなってくる。

 そして遂に、体勢が崩れてしまうが…。


「しまっ。」

「させないわ!」


 どこからか飛んできた魔法が、迫る腕を吹き飛ばす。

 それと共に、一つの影が現れる。


「セイラか!」

「えぇ、待たせたわね。」


 その正体はセイラだ。

 どうやら、駆けつけて来たようだ。

 そんなセイラを魔族が一瞥する。


「またなんか来たね。」

「どうせ虫けらさ。放っておくと良い。」


 魔族からすれば、本当に虫のような存在だろう。

 しかし、フィーにとっては違う。


「助かった。しかし、どうしてここに?」

「ゴーレムを見たから急いで来たのよ。カミーユさんに手伝って貰って抜けてきたわ。」

「そうか。それで、そのカミーユは?」

「流石に馬車では乗り込めないってね。外からゴーレムを攻めているわ。」


 このゴーレムの中を、馬車で移動するのは無理がある。

 間違いなく、入った瞬間に潰されるだろう。

 そんな話をしている間にも、次の偽物のゴーレムが現れる。


「さぁ、止まっている場合じゃないわ。行くわよ!」

「あぁ。心強いな!」


 今度はこっちの番だよ!


 迫る偽物のゴーレムを、セイラの魔法で足を止める。

 その間に、フィーが偽物のゴーレムを斬り飛ばす。

 しかし、それでもすぐに再生する。


「厄介ね。攻撃魔法じゃ無理そうだわ。」

「あぁ。だから、どうすれば良いか困っていてな。」


 そうなんだよね。

 魔法でも無理となるとどうすれば良いんだろう。


 相手には、普通の攻撃は効かない。

 それは、魔法の攻撃でも同じ事。

 手段を変えたところで意味がない。


「何か弱点があれば良いんだが…。」

「弱点ね。…あるわ。」

「本当か?」

「えぇ。あるにはあるわ。」


 本当に?

 もしかして、倒せるの?


 今まで何をしても倒せなかった不死身の敵。

 そのせいで、手も足も出なかった。

 しかし、弱点があるとすれば話は別だ。


「頼む。教えてくれ。」

「そうね。あれが術者によって動いてるのなら、命令を受けているものがある筈。」

「つまり、それを壊せば良いんだな?」

「え? えぇ、そうね。」


 ただの岩が、なんの仕組みもなく動く筈もない。

 そうなると、命令を受けている何かがあってもおかしくはない。

 それを壊せば、止まるとの考えだ。

 しかし、それには欠点がある。


「しかし、それを探すにはどうすれば良いんだ? 中を探そうにも、外のを剥がさないといけないだろう?」

「それなら何とかしてみせるわ。一瞬だけど。」

「充分だ。その間に壊してみせる。」


 だね。

 再生される前に壊しちゃえば良いもんね。


 破壊できるのは一瞬。

 それでも、充分な一瞬だ。

 相手を倒す事が出来るのならば。


「良いのね?」

「あぁ、頼む。」

「…じゃあ、行くわ。」


 狙いは、丁度こちらへと来ている相手だ。

 一瞬頭を横に振るセイラだが、そこに向かって手を前に構える。


「水よ!」


 手から飛び出した水が、偽物のゴーレムの足を止める。

 そして、そのまま偽物のゴーレムの中へと水が入っていく。


「フィーさん!」

「分かった!」


 セイラの指示で飛び出すフィー。

 すると、セイラが構えた手を横に切る。

 次の瞬間、偽物のゴーレムの中の水が吹き荒れる。

 その勢いで、纏わせているものを吹き飛ばす


「今よ!」

「あぁっ!」


 行けっ!


 吹き飛んだ瞬間に、一気にフィーが詰め寄り高く飛ぶ。

 その先に見えるのは、岩とは違う何かの影。

 そこに向かって、剣を振るうが…。


「フィーちゃん、ストップ!」

「え?」


 キュリアの声で、フィーの剣が止まる。

 そして、それと対面する。


「なっ!?」


 えっ!?


 驚きのあまり、フィーが硬直する。

 しかしすぐに、咄嗟に避ける。


「ぐうっ。」

「フィーさん!」


 そのままフィーは、偽物のゴーレムの側面に衝突する。

 そして、地面へと叩きつけられる。


「大丈夫!?」

「あぁ、それよりだ。」


 寄り添うセイラを無視してそれを見る。

 そこにいるのは…。


「どうして人間が…中に?」


 剥き出しになった偽物のゴーレムの中。

 そこには、収まるように人が入っていた。

 その様子を見た帝が笑う。


「どうした? やらぬのか?」


 意地悪そうな顔をしてフィーを見る。

 まるで、その様子を楽しんでいるかのように。

 それに答えるように、フィーが憤る。


「どうしてだ。どういう事だ! 説明しろ!」

「説明も何も見ての通りだよ?」


 まさに、目の前の光景が全てだ。

 偽物のゴーレムを動かすには、指示を受けるものが必要だ。

 そして、そこにいるのが人間。

 つまり…。


「嫌な予感があたったね。」

「キュリア?」


 帝の代わりに、キュリアが答える。

 どうやら、気づいていたようだ。


「こんなこったろうと思ったけど、まさかとはね。」

「知ってたのか?」

「うっすらとはね。」


 どうやら、全てを知っていた訳では無さそうだ。

 その事に、セイラが納得する。


「やっぱりね。あなた程の術者が、弱点に気づかない筈がないものね。」

「うん。やろうかどうか迷っててね。やらなくて正解だったよ。」


 弱点の存在には気づいていたようだ。

 それでも攻撃しなかったのは、嫌な予感のせいだろう。


「いやね? 戦っている途中でおかしいとは思ったんだ。普通、こんなに器用に人の動きは再現できはしない。しかも、この数だよ。そうなると、中のものに委ねるしかないという考えに至った訳だね。」

「委ねる? どういう事だ?」

「君も見たでしょ? 王都の外にいた奴ら。」


 それって、あの腐った奴ら?


 それは、外に大量にいたアンデッドの事だ。

 あれもまた、生き物では無いものを操っていたものだ。


「要は、人の屍にゴーレムを纏わせて操っている。それが、こいつらの正体だね。」

「なっ!? 本当…なのか?」


 ひ、酷い。


 仕組みは、アンデッドと同じものだ。

 ただ、それをゴーレムのように見せかけただけのもの。

 しかも、使っているのは人間だ。

 今度は、横の魔族が説明する。


「勘違いして貰っちゃあ困るけど、あの人間は生きてるよ。」

「ん? でも、生体反応は…。そうか、仮死状態か。」

「いかにも。殺したのを使えば、君達は躊躇しないだろう?」


 わざと生かしたのを使っているのだ。

 そうすれば、キュリア達は攻撃を与える事は出来ない。

 そう考えて殺さないでいるのだ。


「相変わらず、ゲスい、ね。」

「お褒めの言葉、感謝するよ。」


 その魔族の顔に、一つの迷いも感じられない。

 生きた人間を使っている事に、罪悪感が無いのだろう。

 その様子を見たキュリアが帽子を深く被って顔を隠す。


「全く、流石の私もドン引きだよ。」

「それは残念。君とは分かり合えると思ったのだけどね。」

「そうならなくて感謝だよ。」


 流石のキュリアも、目の前の光景に怒っているようだ。

 そんな一切の悪びれもしない魔族へと、フィーの怒りは高まっていく。


「許せんな。」

「許して貰わなくて結構。そう結論付けた筈だが?」


 魔族と会話するのは不可能だ。

 それは、充分に思い知った筈だ。


「キュリア達を招いたのも、これを見せる為か?」

「いかにも。罠だと気づかずによく来てくれたものだ。」


 これら全ては、帝が考えた罠だ。

 おびき寄せておいて、攻撃が出来ない所を襲うつもりだったのだろう。


「そうか。だが、生きているのなら話が早い。解放して貰う。」

「どうやってだね?」

「簡単な事だ。お前達を倒す!」


 そう叫んだフィーが踏み出す。

 しかし、その前を偽物のゴーレムが立ち塞がる。


「ぐうっ。」

「どうした? 攻撃しないのか?」

「くそっ。」


 相手が人間だと知ると、手を出すのは不可能だ。

 向こうも、こちらが手出しできないと知って余裕の表情だ。


「ならば、こちらから仕掛けようか。さぁ、続けさせよ。」

「了解。」「了解。」


 そう返事した二人が指示を出す。

 すると、再び偽物のゴーレムが動き出す。

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