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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
156/283

雷の帝です

 その場所は、激しい戦いで崩壊している。

 見る限り、そこら中の地面が砕けて穴ぼこが出来ている。

 しかも、見上げると魔族を閉じ込めた結晶が至るところにある。

 そんな場所を見渡すフィー。


「随分と荒れてるな。」


がたっ。


 だね。

 それだけ激しい戦いがあったって事かね。


 俺もまたお面を通じて広場を見る。

 広場の現状が、戦いの激しさを物語る。

 そんな光景に感心する俺達を、キュリアとリュノが見る。


「ここまで来ちゃったか。予定は無かったんだけどね。」

「でも、纏えてる、よ。闘気。」

「だねぇ。本当に面白い人だよん。」


 二人もまた、フィーが纏う闘気に驚いている。

 ここまでの成長の早さに驚いているのだろう。

 そしてその向かい側の魔族もまたフィーを見る。

 正確には、その頭にあるお面を。


「それが例の聖獣か。まさか、そちらから来てくれるとは。」

「にゃんすけの事を知っているのか?」

「そいつを探す為に、無駄な苦労をさせられたのだ。知らない訳が無かろうて。」

「苦労だと?」


 どういう事?

 もしかして狙われてる?


 その魔族によると、俺の為に色々と動いていたらしい。

 そんな相手が、こうして目の前に現れたのだ。

 それなのにも関わらず、嬉しそうな顔をしていない。


「しかし残念だ。思ったよりも弱すぎる。こんなものに時間をかけていたとは情けない。」

「随分な言い方だな。勝手に時間をかけたのはそっちだろう。」

「否定はせぬよ。全ては勝手に夢想した我の失態だ。」


 意外と素直だね。

 見下されているようでむかつくけど。


 素直に認めたものの、自分勝手な考え方は変わらない。

 その目からは、俺への興味は感じられない。

 そんな話をしていると、先程吹き飛ばした魔族が起き上がる。


「帝、様。私に力を。」

「ん?」

「あいつ、まだ生きていたのか。」


 しぶといね。


 あれ程までに斬ったのに、まだ動ける余裕はあるようだ。

 その化け物は、帝と呼んだ魔族へと両手を広げる。


「こいつら人間を屠れる力をっ!」

「それが、お前の願いか?」

「そうです! そして私を武将に!」

「…そうか。良いだろう。」


 そう言いながら、帝と呼ばれた魔族が手を掲げる。

 その直後、化け物へと雷が落ちる。


「ぐおおおおおおうっ!」


 その雷を受けた化け物は、歓喜の雄叫びを上げている。

 流れてくる力を実感しているようだ。

 その様子を、雷の余波に耐えているキュリアが観測する。


「魔力の譲渡。かなりの力だよん。」

「でも、あの量、だと。」

「うん。容量を越えちゃうね。確実に。」


 この間にも、化け物へと魔力が注がれていく。

 それを受けている化け物の体は、更に大きくなっていく。


「うははははは! 力が溢れてくる! はち切れそうだ! この力があればっ。」


 その直後、化け物の体が四散する。

 そして、弾けるように辺りへと飛び散る。

 その様子に驚くフィー。


「なっ。」


 な、何が!?


 訳もわからず、足下に転がる破片を見つめる俺達。

 とうの化け物の顔は、転がった後に見開いた目で帝を見る。


「な、何故…。帝様…。」

「どうしてそんな目で見る。願いを叶えたのだ。喜べ。」

「そんな、俺はっ…。」


 帝からの冷たい視線を受けながら、化け物が息を引き取る。

 その様子をみるに、初めからこうするつもりなのだったのだろう。

 それを見たフィーが憤る。


「仲間なんじゃないのか!」

「仲間だとも。いや、だったと言うのが相応しいか。」

「だった?」


 過去形?

 何かあったのかな?


 敵対視される程の事をしたのだろうか。

 それが、この結末を生むに至ったのだろう。

 それをした本人は、残念そうに首を横に振る。


「こう見えても、我々は同胞を思い合うのだ。こやつの事は非常に残念だよ。」

「自分で殺しておいてか?」

「だからこそだよ。」


 大事な仲間に手をかけた。

 それでも、悔いは感じられない。

 その事に疑問を覚えるフィー。


「どういう事だ?」

「簡単な事。我々にも目的がある。共に誓った目的がな。しかしこやつは、自身の事を優先させた。まさに、我々への反乱だ。」


 自身の事とは、武将にしてくれと願った事だ。

 それが、誓いを破ったと捉えたのだろう。

 それでもフィーは納得しない。


「そんな理由でか。」

「そんな理由で、だよん。魔族にとって誓いは絶対。」

「破れば、敵と、見なされる。だね。」


 それほど大事なものなんだね。


 帝の代わりに、キュリアとリュノが答える。

 それ程までに、魔族にとって誓いとは大事なものなのだ。

 例え、仲間を殺す事になったとしてもだ。


「その通り。どんなに辛くても、裏切り者は処罰する。群れを率いるものの義務だよ。でないと、裏切り者だらけになるからな。」


 一人を見逃す度に、誓いは緩んでいく。

 そうなると、守る同胞も緩んでいく。

 そうならない為に、罰を与えているのだ。


「要するに、見せしめって事か。」

「流石人間。野蛮な考えだ。大事と言っても、無理やり守らせるものではないよ。必要なのは、共に向かうと言う共鳴だからな。」


 無理やり従わせても、関係にひびが入りやすくなるだけだ。

 そうならないように、自主的に守るようにする事が大切なのだ。


「だからといって殺すのか。理解が出来んな。」

「してもらわなくて結構だ。所詮我らは敵同士。分かり合う事など出来やしない。」


 元々考えが違うものどうし。

 いくら話し合ったところで意味がない。

 

「さぁ。そうと分かれば、戦いの続きといこうか。もう価値はないとはいえ、折角の追っていた相手だ。ついでに貰っといてやろう。」


 そう言いながら、自身の腕から雷を迸らせる帝。

 更には、身体中に紋様のようなものが浮かび上がる。

 それに対して、フィーが構える。


「にゃんすけは物ではない! そう簡単に奪わせるか!」


 そーだ! そーだ!

 奪われる気は無いよ!


「ふっ。ならば守って見せるんだなっ!」


 そう叫ぶと同時に、帝が腕を横に振る。

 すると、それに合わせて雷が地面を四方に走っていく。

 その一部がフィーへと向かうが…。


「なっ。」

「させない、よ!」


 前に出たリュノが斧を地面に叩きつける。

 すると、地面を走る雷がかき消える。


「忘れて、貰ったら、困るよ。」


 リュノが魔法で消したのだろう。

 そんなリュノの背後からキュリアが飛び出す。


「あんたの相手は、私達だよん!」


 そう言いながら、光の針を飛ばしていくキュリア。

 しかし、帝によってかき消されてしまう。


「ふん。忘れてはおらぬよっ。」


 今度は腕を縦に振り下ろす帝。

 すると、着地したばかりのキュリアへと雷が迫る。

「おっと。」


 その雷をワープで避けるキュリア。

 代わりに、雷をかき消したリュノが前に出る。


「貰った、よ。」


 帝へと斧を振るリュノ。

 それを、帝が腕で受け止める。


「無駄なのが分からぬか?」

「見えてる、くせに。」

「ふんっ。」


 睨み合う両者だが、帝の意識は別にある。

 帝が振り向いた瞬間、地面から飛び出したキュリアが仕込み刀を振るう。


「こっちだよんっ!」

「知っておる。」


 仕込み刀が当たる直前、帝が後ろへと手を伸ばす。

 そして、仕込み刀を弾いてキュリアの腕を掴む。


「ちょっ!」


 そのまま振り回してリュノへと叩きつける。

 筈だったが、その直前にワープで逃げる。


「危なっ!」


 そのまま、リュノの横へと着地するキュリア。

 しかし、そこへと雷が迫る。


「うおっ!」

「ぐっ!」


 咄嗟に魔力をぶつけて防ぐ二人。

 それでも、押し負けた二人は後ろへと弾かれる。


「危ないねぇ。」

「流石に、ひやりと、したかな。」


 何とか着地する二人。

 そんな二人へと、フィーが駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「まあね。ギリギリだけど。」


 それは良かったけど。

 二人がかりでも敵わないなんて。


 流石の二人でも、ギリギリの戦いのようだ。

 それに比べて、帝は平然と立っている。

 まるで、大した事でも無かったかのように。


「二人の相手を軽くあしらうとは。口だけではないな。」

「だねぇ。厄介な事に、あの体から出てる静電気ってので、こちらの動きを把握されていてね。そのせいで、さっきからこちらの攻撃を避けられるんだよね。」

「あいつ、そんな事も出きるのか。」


 どんな動きをしても、筒抜けって事?

 それは厄介過ぎるよ。

 

 体から放たれている静電気によって、周囲の動きを読んでいるのだ。

 そのせいで、こちらのどんな攻撃も通じない。


「近距離戦も駄目。遠くからの攻撃も消されちゃう。」

「打つ手無し、って、感じだね。」

「だねー。あははっ。」

「あははって…。」


 どんな攻撃も、帝には通じない。

 その上、向こうにはどんな距離でも届く雷を放つ事が出来る。

 攻防のどちらをも兼ね揃えた最強の存在。

 それが、雷の帝という存在なのだ。


「どうするんだ? このままでは勝てないぞ。」

「まあね。でも、向こうの攻撃もこちらには通じない。まぁ、気長にやるつもりだよん。」

「気長って、大丈夫なのか?」


 どうだろうね。

 困ってるようには見えないし。


 こちらの攻撃は通じない。

 しかし、それは向こうも同じ事。

 それならば、やられる事は無いだろうとの考えだ。

 そんな話をしていると、再び帝が雷を迸らせる。


「話は終わったか?」

「まあね。んじゃ、続きでも始めようか。」

「そうだな。と、言いたい所だが時間だ。」

「時間?」


 そう言いながら、迸る雷を引っ込める帝。

 どうやら、戦う気は無いようだ。

 代わりに、指を打ち付け音を鳴らす。


「お前達!」

「はっ。」「はっ。」


 帝が呼ぶと、二体の魔族が現れる。

 その魔族とは、王都の入り口で出会った奴らだ。


「あいつらはっ。」

「隠れてたんだね。どうりで見なかった訳だよん。」


 今まで見えなかったのは、離れた所にいたからだ。

 そんな二体へと、帝が呼びかける。


「お前達。そろそろ始めてくれ。」

「お戯れは宜しいので?」

「もう充分だ。そろそろ終わらせてしまおう。」

「了解です。」「了解です。」


 そう返事をすると共に、二体の魔族が前に出る。

 そして、俺達を軽く睨みつける。


「先程は世話になったね。」

「どうするつもりだい?」

「なあに。もう一盛り上がりをするだけさ。」

「楽しんでいくと良いよ。」


 そう言いながら、二体の魔族が魔力を溜める。

 そしてその魔力は、段々と大きくなっていく。

 その様子に慌てるフィー。


「ちょっ、何かするつもりだぞ。」

「興味深いねぇ。何をするつもりなんだろうね。」

「興味深い。っておい。止めなくて良いのか?」

「あはっ。だって止めたらつまんないじゃん?」

「ま、まじか。」


 まじみたいだね。

 この人、完全に楽しみにしちゃってるよ。


 キュリアは、相手の策を見る事に興味を持ったようだ。

 こうなると、どう説得しても揺るがない。

 すがるようにリュノを見るも、呆れるように首を横に振るだけだ。

 その間にも、相手が魔力を溜め終える。


「相変わらず、むかつく奴だねぇ。」

「ま、その余裕もすぐだろうね❗️。」


 二人の手には、強い魔力の塊が輝いている。

 もう止めるのは無理だろう。

 だというのに、キュリアは楽しそうだ。


「ワクワク。」

「してる場合かっ!」


 してる場合かっ!

 って言っても、もう遅いけどねっ。


「仕方、ないね。受け、よう。」

「まじか。」


 止めようにも手遅れだ。

 このまま受けるしかないだろう。


「はあっ!」

「はっ!」


 そう叫びながら、魔力の塊を地面へと叩きつける。

 すると、魔力の塊は地面へと吸い込まれていく。

 その直後、王都が激しく揺れ始める。


「何だ?」

「どうやら、干渉してるね。」

「干渉?」


 さっきの塊が?


 先程の魔力が地面へと溶け込んでいく。

 そして、それは王都全体へと広がっていく。

 それからしばらくすると、揺れが治まる。


「何が起きると言うんだ?」

「決まっているだろ? パーティはこれからって事さ。」

「さぁ。君達の踊りを見せてくれよ。」

「一体何を言って…。」


 フィーが聞くも答えない。

 代わりに、再び地面が揺れ始める。

 そして、王都が動き出す。

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