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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
153/284

目覚める力です

「闘気だと? しかしあれは、難しいから無理という話だが。」

「そうですね。普通なら、実力を持った者しか出来ません。」


 繊細な力故に、実力がある者しか纏えないという話だ。

 だから、フィーには早いとの決断に至った筈だ。


「ですが、貴方はすでに答えを持っていますよ。」

「答えを持ってる?」


 持ってるの?

 知ってるとかじゃなくて?


 カミーユの言葉に、フィーは自分の手元を見る。

 そこにあるのは、刃先が大きく欠けた一本の剣。


「この剣か? そう言えば、聖火は魔力だったな。」

「その通りです。そして、その聖火こそが外に溢れた魔力なんですよ。」

「これがなのか?」

「はい、そうですよ。」


 そうなんだ。

 自然に使ってたんだね。


 いつも剣先に灯る聖火こそが、纏うのに必要な溢れた魔力なのだ。

 自分達でも知らない間に、使いこなしていたようだ。


「そうか。なら、この聖火を纏わせれば良いんだな?」


 みたいだね。

 頑張れ。


 剣に宿る聖火へと意識を向けるフィー。

 すると、聖火が剣全体を包むように燃えだす。


「こうか?」

「違いますね。それはただ包んだだけです。」

「そうか。では、どうするんだ?」


 包むと纏うは別のものようだ。

 聞かれたカミーユは、手を前で動かしだす。


「そうですね。こうぎゅっと、ぐあっとです。」

「ぎゅっと、ぐあっとか。…具体的にどうするんだ?」

「ですからこう、ぎゅっとしてぐあっとです。」


 自信満々な顔で説明するカミーユ。

 しかし、それを聞いたフィーが固まる。

 必死に意味を考えているようだが…。


「うむ。分からん。」

「ええっ!? 上手く説明出来ていると思ってるのですが。」

「いや、全然分かりにくいんだが…。」


 それで理解出来るのは天才ぐらいだよ…。


 そう指摘されたカミーユは慌てている。

 それだけ自信のある説明だったのだろう。

 そんな説明に困り果てているフィーへと、兵士が耳打ちする。


「すみませぬな。うちのお嬢様は、こういう時だけ残念になるのですぞ。」

「言い換えると、説明が下手くそなのですな。」

「なるほど、どうりで。」

「納得しないで下さいフィーさんっ。後二人も言葉を少し選んでっ!」


 残念ながら、同情の余地なしかな。

 どんまい!


 必死に呼び止めてるカミーユを無視して納得し合う俺達。

 そんなカミーユを、上にいるアイナが助ける。


「お嬢様は、魔力の捉え方が私達とは違いますからね。仕方がないのです。」

「アイナ…。」

「でも、もう少し何とかならないかなと。」

「アイナ!?」


 助けてくれたと思ったら、思い切り梯子を外されるカミーユ。

 上にいるアイナを見上げるも、目線を逸らされる。

 思うところがあるのだろう。

 代わりに、横にいるセイラが話をまとめる。


「あはは…。まぁ、まずは魔力の扱い方からね。使い続けたら分かると思うわよ。魔法学校でも、最後には習うより慣れろって教わるし。」

「そういう事です。さぁ、使って使って使いまくりましょう!」

「分かった、それなら得意だ。」


 習うより慣れろか。

 基本は大事だけど、使って慣れてこそだもんね。


 要するに、経験が大事という事だ。

 そうすれば、いつかは分かる事が出来るだろう。

 そう結論づけたところで、次へと向かおうとした時だった。


「使うのには戦闘あるのみ。さぁ、次へ向かいましょう。」

「いえ、待って下さい。探知に反応があり。近くを早い速度で通過中です。」


 馬車を走らせようとしたのをアイナが止める。

 なにやら、近くで動きがあるようだ。


「魔族か?」

「魔族ではありますが。いえ、人の気配もします。」

「なっ!? 急いで向かおう!」

「はい! 回り込みます。アイナ、方向を!」

「分かりました。」


 対象は早い速度で動いている。

 このまま追いかけても間に合わないだろう。

 なので、回り込むべく先回りを目指す。



 その先では。


「おい待てよ。まさか、逃げれきれると思ってるんじゃねぇだろうなぁ?」

「はあっはあっ。くうっ。」


 フードで姿を隠した人が走っている。

 その後ろを、複数の魔族が追いかけている。


「いい加減諦めたらどうだ? こちとら、捕虜を逃したと知られればどうなるか分かんねぇんだ。大人しく捕まってくれねぇかなぁ?」


 呼びかけるように追いかける魔族。

 何か理由があるようだ。

 だからといって、魔族相手に捕まる訳にはいかない。


「ちいっ。面倒だなぁっ。いっその事殺すか。そうすれば、逃げた事もちゃらだろうさ。そうだ、それがいい。おいお前ら、やれ!」


 その魔族の指示で、周りの魔族が魔法を撃っていく。

 それでも、それを避けるようにフードの人が逃げていく。

 しかし、魔法の余波で地面を転がってしまう。


「くうっ!?」

「おっ、よくやった!」


 転がる人間の側で魔族が止まる。

 そして、手元の剣を振りかざす。


「ったく、面倒かけさせやがって。でももう終わりだ。死ねっ!」

「ぐっ。皆、ごめん。」


 逃げようとするも、足が傷んで動けない。

 そんな人間へと、魔族が剣を振り下ろす。

 その時だった。


「させん!」


 飛び込んだフィーが、魔族の剣へと自身の剣を叩き込む。

 それにより、魔族の剣を大きく弾く。


「あ?」


 突然現れたフィーを睨む魔族。

 それでもフィーは止まらない。


「ついでだっ。貰っとけ!」


 魔族の胴体への追撃。

 剣を叩き込まれた魔族は大きく退く。


「ぐうっ。」


 それでも魔族は吹き飛ばない。

 よろめきながらも体勢を直す。


「なんだてめぇ。人間か?」

「見ての通りだ。まさか、今の攻撃を耐えるとはな。」

「はん。人間ごときの攻撃なんか効くかよ。」


 固そう。

 普通のとは違うよ。


 先程の攻撃は、普通の魔族でも斬れる一撃だ。

 しかし、それを受けた目の前の魔族には傷一つ着いていない。

 それでも、魔族を無視して後ろへとフィーが呼びかける。


「走れるか?」

「はい。」

「なら逃げろ。後ろから仲間が来ている。」


 そうフィーが言うと同時に、曲がり角から馬車が現れる。

 その指示席にいるカミーユが叫ぶ。


「早くこっちへ!」

「行け!」

「はいっ。」


 フィーの指示で馬車へと、フードの人が走り出す。

 しかし、それを黙って見ている魔族ではない。


「ちっ、させるかよ!」

「させん!」

「くうっ。」


 させないよ!


 迫ってくる魔族へと斬りかかるフィー。

 向こうもまた剣で受け止める。

 そうして止める事は出来たが…。


「しゃらくせぇ!」

「ぐうっ。」


 つ、強い!


 魔族の一振りで、今度はフィーが退く。

 力勝負は、向こうの方が強いようだ。


「何なんだよテメー。こっちは急いでんだっ。邪魔をするな!」

「邪魔になったか? それは良かった。」

「くそっ、人間ごときが。よえぇくせによぅ。」


 強いけど止めれたね。

 良かったよ。


 邪魔をしてくるフィーに苛立ちを増す魔族。

 その間に、フードの人が馬車へと辿り着く。


「回収しました!」

「くそっ。お前ら見てんじゃねぇ! まとめて潰せ!」


 剣を持つ魔族の指示で、宙に浮く魔族達が魔法を撃つ。

 しかしそれは、馬車の上からの魔法が撃ち落とす。


「させないわ!」

「全て撃ち落として差し上げましょう!」


 互いの魔法がぶつかり合う。

 それどころか、数で増したこちらの魔法が魔族を落とす。

 それを見た剣を持つ魔族の苛立ちが増していく。


「何してんだ雑魚が! くそっくそっ!」

「どうした? 逃げても良いんだぞ?」

「ふざけんな! こうなったら、俺が全部潰してやる!」


 そう叫んだ直後、魔族の体から瘴気が溢れる。

 それと共に、殺気をフィー達へと向ける。


「死ねっ!」

「はっ!」


 駆けた魔族が剣を振るう。

 それをフィーが逸らす。


「貰った!」

「ほざけ!」


 今度はフィーが剣を振るうも、魔族に受け止められる。

 そのまま押し合うも、フィーの剣が押される。

 そのまま距離を取ったフィーは、剣を構え直す。


「ぐうっ。」

「はん。その程度でよく逆らえたな。雑魚が。」


 


 技術ではこちらが上。

 しかし、押し合いになると負けてしまう。

 そんなフィーへと、フードの人が叫ぶ。


「その魔族の中の魔力は、普通の量ではない! 気をつけて!」

「なるほど。どうりで強い訳だ。」

 

 気をつけてね。


 この戦いは、体の中に流れる魔力量の勝負。

 今の所、向こうの方が上手のようだ。

 そんな魔族は、ニヤリと笑って駆け出す。


「それが分かったところでどうする気だぁ? もしかして、今更負けを認めるつもりじゃあ無いだろうな?」


 そう言いながら、剣を振るう魔族。

 その剣をフィーが逸らす。


「残念だが、もう手遅れだ。まさか、俺を苛立たせておいて許して貰おうとか思ってるんじゃ無いだろうなぁ?」


 それでも魔族が、次から次へと剣を振るっていく。

 その剣を、フィーを逸していく。


「どうした? 受けているだけじゃあ勝てないぜ? おら、さっきの威勢はどうしたよ!」


 魔族が振るう剣を、フィーが逸らすの繰り返しだ。

 フィーが反撃に出る余裕はない。

 そしてついに、フィーの剣が押し返される。


「俺様に逆らったことを、後悔しながら死ねっ!」


 体勢を崩したフィーへと斬りかかる魔族。

 これでは避ける事も出来ないが…。


「それを待っていた。」


 フィーの目つきが変わる。

 それと同時に、剣を槍へと変える。


「貰った!」

「っ!?」


 槍を構えたフィーが前に突き出す。

 相手の魔族は、剣を振りかぶっている為避けられない。

 そんな魔族へと槍が刺さるが…。


「なっ!?」


 相手に刺さった筈の槍が砕けていく。

 それを見た魔族は、笑いながら剣を振るう。


「はっ。奥の手だったろうがなぁ! 効かなければっ。」


 槍を砕きながらの前進。

 そのまま剣をフィーへと叩き込む。


「意味がないんだよっ!」


 それを剣で受け止めるフィー。

 それでも、剣ごと押されて弾き飛ばされる。


「ぐうっ。」


 だっ、大丈夫?


 地面へと倒れるフィー。

 それでもすぐに起き上がる。

 そんなフィーを嘲笑する魔族。


「まだやんのか? いい加減、大人しく死んでくれねぇか?」

「断る。」


 だよね。

 諦める理由がないよ。


 そうは言っても、こちらの攻撃は通じない

 ならば、勝てる見込みはないだろう。

 そんなフィーを見たフードの人が慌てだす。


「やっぱり無理なんだ。あの人が死んじゃう。助けにいけないと。」

「待って下さい。行っては駄目です。」

「なっ! どうしてです!」


 助けに行こうとするフードの人をカミーユが止める。

 今のままでは、フィーは負けてしまうだろう。

 それでもカミーユは助けない。

 何故なら…。


「フィーさんは、諦めてませんから。」

「え?」


 実力は向こうの方が上だ。

 それでもフィーは、剣を構える。

 笑みを浮かべながら。

 それを見た魔族が睨む。


「何がおかしいんだ? もしかして、狂ったのか?」

「いや。この程度の敵に苦戦をしている自分がおかしくなってな。」

「はあっ? 舐めてんのかテメェ!」


 馬鹿にしてくるフィーへと怒鳴る魔族。

 そんな魔族をフィーは見る。

 しかし、正確には目の前の魔族ではない。


「確かにお前は強い。でも、それだけだ。」

「分かんねぇ事言ってんじゃねぇ! それ以外に何があるってんだ!」

「あるさ。少なくとも、あの時の魔族にはあった。」


 そう言いながら、目の前の魔族に被さる影をフィーは見る。

 その影とは、研究所を襲ったあの魔族。

 その時に魔族から感じたものを思い浮かべる。

 そして、あの時に言われた事を思い出す。


「そうだ。私は既に持ったんだ。」

「は? 何言って…。」

「剥き出しの力。それがヒントだったんだ。」


 ヒント?

 それって…。


 剥き出した力では、魔族には通じない。

 あの時に魔族から言われた事だ。

 それを意識しながら目を閉じる。


「剥き出しなら収めればいい。ぎゅっとして。」


 次第に、剣を纏う聖火が固まっていく。

 まるで、剣を覆うように。

 そして…。


「ぐあっとする!」


 次の瞬間、剣が紫に輝き出す。

 しかし、聖火の火による輝きではない。


 凄い。

 これが、闘気?


 剣自身が輝いている。

 正確には、纏った聖火が輝いているのだ。

 その輝きを見たカミーユが笑う。


「そうです。それで正解です。」


 その輝きこそが闘気。

 闘気を纏ったフィーの剣は輝き続ける。

 それを見た魔族が慌てだす。


「なんだっ。その輝きはっ。」

「私が超えたい…。いや、超えるべき力だっ!」


 そう叫ぶと同時に、フィーが前へと踏み出す。

 そして、魔族へと剣を振るう。


「はっ!」

「ぐうっ。」


 しかし、魔族がその剣を受け止める。

 それでも魔族には敵わない。


「はっ、ついびびっちまったがよう!」


 フィーの剣を弾いた魔族が斬りかかる。

 その剣をフィーが逸らす。


「何も、変わらないじゃねぇか!」


 再び魔族が攻勢に出る。

 フィーは防ぐ事しか出来ない。

 これでは、先程と変わらないが…。


「そうだ。こんなものじゃない。」


 今は剣だけ纏った状態だ。

 それでは何も変わらない。

 だから今度は、闘気を体に流す。


「あの固さのように。」


 思い浮かべるのは、あの時の魔族の固さだ。

 フィーの剣を体で受け止めていた。

 あの魔族のように、闘気を体に纏わせていく。


「あの力のように。」


 あの魔族の力は圧巻だった。

 その一撃を受けたフィーなら分かる。

 あの魔族のように、闘気で体を動かしていく。

 すると、次第に自分を襲う剣を押し返す。


「なっ!? くそっ!」


 それでも相手は剣を振るう。

 しかし、フィーの剣が押し返し始める。

 それにより、ついに攻防が逆転する。

 そして…。


「はあっ!」

「なっ。」


 フィーの剣が、相手の剣を大きく弾く。

 更に、フィーがそこから大きく一回転。

 思い浮かべるのは、あの魔族の影。


「吹き飛べ!」


 その影へと、強力な一撃を叩き込む。

 すると、それを受けた魔族は吹き飛ぶ。

 その体からは、血が垂れている。


「がはっ。何なんだよ。一体、お前は何なんだ!」


 そう問いかけられるも、フィーは答えない。

 何故なら、あの一撃でも立っている影を見ているからだ。


「これでもまだ届かないか。」


 先程の攻撃でも、届くような気配がしない。

 そう決断を下すと、その影が消えていく。

 代わりに、先程の魔族が現れる。


「こんな土壇場に、強くなりやがった。一体何があった。一体何がお前を強くした!」

「そんなの決まっている。」


 フィーが思い浮かべたのは、魔族の影だけではない。

 それは、その時に背後で倒れていた者達。

 自分が守れなかった者達。


「友を守りたいという思いだ。」


 常に、その者達の影を守って戦っていたのだ。

 それこそが、フィーを強くしたのだ。

 今度こそ守ると思いを込めて。

 それを聞いた魔族が笑う。


「はっ、あはは、あははははははっ! 流石人間! つまんねぇ事をほざきやがる!」

「つまんないか。それで結構だ。」


 そう言いながら、お互い武器を構える。

 そして、お互いが前に出る。

 そのまま、お互いの剣が混じり合う。


「私には。」


 剣を押し合う二人。

 すると、フィーの剣が魔族の剣を弾き飛ばす。

 そこから更に、フィーが踏み込む。


「それで、充分だ。」


 魔族の体をフィーが斬る。

 すると、瘴気と共に血が吹き出る。

 そのまま地面へと魔族が倒れる。


「お前は強い。だが、守るものもないお前には負けられない。」


 そう言って、フィーが剣に着いた血を振り払う。

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