新たな三武将です
「魔族がどうしてこんな場所に。…いや、つまりそういう事か。」
「はっ。頭が回るじゃないか。そう、すでにここは取らせて貰ったよ。」
王都はすでに魔族の陣地だ。
それを守る為に、魔族が現れたのだろう。
「しっかし、人間どもが動き出したと聞いたけど、本当だったとはねぇ。そんなに死に急ぎたいのかい?」
「死なない為に戦っている。そっちこそ、死にたくないなら出てってくれ。」
「ぷっ、く、あっははははっ。言ってくれるねぇ。ただの人間のくせに。」
楽しそうに笑いだす女の魔族。
こちらを見下すように、フィーの姿を眺めている。
それに対して、フィーが構える。
「その人間の力を見せて…。」
「待った。フィーちゃん、君の役目はここまでよん。」
「キュリア?」
前に出ようとするフィーを止めるようにキュリアが前に出る。
同じくその横にリュノが出る。
「実力者、だね。フィーちゃんの、攻撃は、通じない、よ。」
「なっ、実力者だと?」
こいつが?
以前戦ったのと同じ実力者。
もしそうなら、こちらの攻撃は通じない。
ならば、フィーの出番はないだろう。
「へぇ、分かるんだ。って、お前ら見た事あるぞ? …そうか、魔界を好き勝手荒らした連中だな? 忌々しい。」
「覚えて貰って光栄だよん。で、どうする? 逃げるなら今だよ。」
「ほざきな。むしろ、この時を待ってたのさ!」
そう言いながら、手を前に構える女の魔族。
すると、地面が光り何かが湧いて出る。
それは、武器を持った大柄な屍達だ。
その屍達を、キュリアが眺める。
「見た事ある顔があるねぇ。」
「ほんと、だね。」
「そりゃそうさ。以前の戦いであんたらが殺した魔族共だからね!」
魔界を攻めた時に戦った相手だろう。
見た事があるのも当然だ。
「へぇ。じゃあ復讐かい?」
「こいつらは、そのつもりだろうけどね。でもあたいは違う。自分の作った人形を試したいだけさ。」
以前の戦いには興味がない。
ただ、自分の実力を試したいだけなのだ。
そんな女の魔族は剣を構える。
「お話はここまでだよ。三武将が一人、屍使いのグルマドーナ。さぁ、私と一緒に踊ろうじゃないか。」
グオオオオオオオッ!
グルマドーナに答えるように、魔族の屍達が動き出す。
それに対して、キュリアとリュノが武器を構える。
「フィーちゃん、カミーユ嬢ちゃんと一緒に離れてね。」
「あ、あぁ、分かった。」
そうするしかないね。
駆け出す二人を見送った俺達は馬車へと向かう。
一緒に戦った所で、邪魔になるのは明らかだ。
「逃げるぞ、カミーユ。」
「はい。誘導をお願いします。」
馬車を引き連れ、屍の群れの外へと向かう。
しかし、目の前をウルフの屍の群れが立ち塞がる。
そして、普通の屍もまた取り囲む。
「なんだとっ。」
「逃がすわけないじゃん? 群れに入った時点で、私の箱庭の中さっ。」
「くうっ。」
襲いかかる屍を斬っていくフィー。
上からの魔法でも吹き飛ばしていく。
しかし数が多い。
次第に、アイナの結界に群がり始める。
「くっ。耐えれない!」
「頑張って下さい! フィーさん、すみません!」
「分かっている!」
結界に群がる屍を斬っていく。
しかし、数は減らない。
次から次へと屍が集まる。
そんなフィー達をリュノが見る。
「フィー、ちゃん! 大変、押さ、れてる!」
「おっと。よそ見をしてる場合じゃいよ!」
「くうっ。」
フィー達を見るリュノへと屍が襲う。
それを避けたリュノが斧で反撃する。
こちらも余裕は無いようだ。
「こいつらは、こんなにもアンタ達を見てるってのにねぇ。それなのに、相手をしてあげないのは可哀想じゃないか。」
「と言っても、私が相手をしてないのもいるけどねぇ。」
「でも、仲間なんだろう? 連帯責任だ。相手をしてあげな。」
ここにいるのは、前の戦いで九人の戦士にやられた奴らだ。
当然、キュリア以外にやられた物もいる。
しかし、恨みを晴らせるならその仲間でも良いという事だろう。
「面倒だなぁ。ちょいとペースを上げようかな。影姫!」
キュリアが叫ぶと、自身の影から泥で出来たような顔が現れる。
それが大きくなると、樹のように枝を伸ばしていく。
「ほら、まとめて固めちゃえ!」
キュリアが指示を出すと、泥の樹が枝についたドクロの身を食べる。
それを吐き出す度に、各地に結晶が出来上がる。
その結晶が、魔族の屍達を止めていく。
「くそっ。あたいの人形達を!」
「おっと、よそ見をしたら駄目なんだろ?」
「何っ?」
よそ見をしているグルマドーナの横にリュノが飛び込む。
そして、その横に向かって斧を振るが…。
「くっ。」
それが直撃する前に、剣で斧を防ぐ。
そのまま、リュノを弾き飛ばす。
そんなリュノは、軽々と着地する。
「やるねぇ。」
「これでも剣の腕も立つんでね。そう簡単にやられやしないよっ。」
手に持つ剣は飾りではない。
実力者相当の力は当然ある。
「それよりも良いのかい? 向こうの事。」
「心配ご無用だよん。ほら、そろそろ。」
「ん?」
屍達に群がられる馬車の方。
その奥から、兵士達が突っ込んでくる。
「避難民は救助した! 後は攻め入るのみ! かかれー!」
叫んでいるのは兵士長だ。
それに従い、兵士達が屍達を斬っていく。
そして、兵士達が俺達と合流する。
「間に合ったようだな。」
「助かった。」
「では、攻めに出ようかっ。」
「あぁ、今度はこっちの番だ!」
お返しだよ!
今までの鬱憤を晴らすかのように斬っていく。
他の兵士達もまた斬っていく。
そのお陰か、屍達が減っていく。
その様子を悔しそうに見るグルマドーナ。
「くそっ、人間どもがっ。」
「さぁどうする?」
自慢の屍達は、見るも無残に倒されていく。
そして、グルマドーナもまた二人に押さえられている。
状況から見れば、グルマドーナが押されているように見えるが…。
「あっはっはっ。やってくれるねぇ。」
「どうするの? いっその事、諦めちゃいなよ。」
「そうだねぇ。それもありかな? …なーんてねっ!」
グルマドーナが手を構える。
次の瞬間、倒した筈の屍達が起き上がる。
「なんだ!?」
「おい。倒した筈じゃ。」
「くそっ。もう一回!」
起き上がってくる屍を斬る兵士達。
しかし、すぐに再び起き上がる。
それは、フィーが斬っても変わらない。
「なっ!?」
不死身なの!?
斬っても斬っても起き上がる。
どれだけ瘴気を出しても倒れない。
体を失っても動き出す。
そのせいで、今度は兵士達が押されていく。
それを見たグルマドーナが笑い出す。
「あっはっはっ。言っただろ? 私は屍使い。こんなことも出来るんだよっ。で、これでも心配はする必要はないって?」
「そうだねー。困っちゃったねぇー。なーんてね。」
「は?」
何をしても起き上がる屍達。
次から次へと起き上がる。
次の瞬間、一斉にキュリアの方へと歩き出す。
「な、なんだ?」
「屍達が引いていくぞ。」
その際、兵士達を襲わない。
それどころか、兵士達を避けて進む。
それに驚いたグルマドーナが再び手を構える
「ぐっ!」
再び何かを命じていく。
しかし、屍達は反応しない。
「コントロールが効かない!? どういう事っ!」
何度指示を飛ばしても反応しない。
命令が届きさえしていない。
「キュリアちゃん、何かした?」
「うん、コントロールを奪っといたよ。」
「な、なんだって!?」
命令が効かない理由は簡単だ。
キュリアが代わりに屍をコントロールしているからだ。
「仕組みは簡単。この臭いに瘴気を乗せてるんだよん。んで、それを使って屍達を蘇らせてる。つまり、瘴気を浴び続けているから屍から出しても無駄って事だね。」
屍は常に瘴気を浴びた状態だ。
だから、屍の体から出しても意味がない。
「それさえ分かれば、介入する事ぐらい簡単だよん。屍に指示を飛ばして、私に従うようにってね。ついでに、あいつの指示は受け付けないようにしといたよん。」
「ば、馬鹿なっ。」
屍達は、瘴気を通じて指示を受けている。
それならば、瘴気を操れるものなら同じ事が出来るはず。
そのような事は、キュリアにとって簡単な事なのだ。
「さて、もう一度聞くよん。諦めちゃったらどう?」
「ぐうっ。」
グルマドーナの周りを屍を囲む。
更には、キュリアとリュノが前に立つ。
「なら、あたいの剣でっ!」
目の前の二人へと、剣を構えて突っ込むグルマドーナ。
しかし、その剣をリュノの斧が弾く。
「なっ。」
「そんじゃ後は。」
「任せてよん。」
大勢を崩した相手へと、キュリアが斬る。
すると、相手の胴体が裂け血が吹き出す。
「ぐあっ。…くそっ。」
下がるように距離を取るグルマドーナ。
悔しそうに傷口を押さえる。
「一人じゃ厳しいか。こうなったら、化けてでもお前達を倒す!」
「おや、まだやるのかい? 諦めたら良いのに。」
「うるさい! そこで見ておけ!」
いきなりグルマドーナから瘴気が溢れる。
そして、自身の姿を変えようとするが…。
「待つといいよ。グルマドーナ。」
「ん?」
突然、どこからか男の魔族が現れる。
すると、その者の呼びかけによってグルマドーナの変身が止まる。
「なんだい。これからだってのに。」
「帝からの命令だよ。引けってさ。こいつらは、王都で撃つようだよ。」
「ちっ。仕方ないねぇ。」
次の瞬間、二匹の魔族が光りだす。
どうやら、ワープで逃げるようだ。
しかし、それを見逃すような二人ではない。
「させると思うか!」
「大人しくここで……っ!? リュノ君!」
「ん?」
キュリアの呼びかけでリュノが止まる。
次の瞬間、二匹の魔族を守るように雷が落ちる。
「なっ。」
「おっと、せっかちなのは頂けないよ。」
二匹の魔族は、雷に囲まれている。
その為、近づく事が出来ない。
「後は王都で。ゆっくり…じっくり…とね。」
「今度は本気で相手してあげるからね。首を洗って待ってなよ。」
「おい待て!」
リュノが呼びかけるも答えない。
代わりに、二匹の魔族が雷に包まれる。
その雷と共に、二匹の魔族も姿を消す。