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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
149/285

動く屍の群れです

「右斜めに馬車! 魔法で誘導します!」


 避難民が乗る馬車が見える方へと魔法を放つアイナ。

 それに従って、カミーユは馬車の行き先を変える。


「くっ、敵が多いっ。」

「先導するっ。ついてこい!」


 馬車の前に出たフィーが敵を斬り飛ばす。

 更に一回転して、鞭のように伸ばした剣で吹き飛ばす。

 そうしながら進んでいくフィーに馬車が着いていく。


「やはり、敵が多いなっ。」

「すみません。群れの真ん中にまでつき合わせちゃって。」

「問題ないっ。全て吹き飛ばせば良いだけだっ!」


 だねっ。

 吹き飛ばしてしまえば、いないのと同じだよ!


 そう言って、伸ばした剣をしならせながら進んでいく。

 そして、届かなかった魔物へは付き添いの兵士が斬っていく。


「我々もいますぞ!」

「このまま突っ込みましょう!」

「だな。横は任せたぞ。」

「はいですぞ!」「任せてくれ!」


 任せたからね!


 前の敵は、フィーが斬り飛ばす。

 その横からは、付き添いの兵士が攻めていく。

 そうして、次の避難民の馬車へと辿り着く。


「魔法の援護を!」


 カミーユの指示で、馬車の上から魔法が飛んでいく。

 そして、騎士と戦う魔物を吹き飛ばす。


「フィーさん!」

「あぁ!」


 そこへと、剣を通常に戻したフィーが突っ込む。

 そのまま、魔物達を斬り飛ばす。

 


「あんたらは?」

「助けに来た。その内、援護の兵も来るはずだ。それまで持ちこたえるんだっ。」

「わ、分かった!」


 避難民の馬車へと群がる魔物達を蹴散らしていく。

 すると、見慣れた装備をした兵が現れる。


「避難民はどこだ!」

「こっちだ!」

「っ! 待ってろ! 皆を連れてくる!」


 それからしばらく、複数の兵士がやってくる。

 先程の兵士が呼んだのだろう。


「逃げ場所は確保した! 着いてこい!」

「助かる! 馬車を兵士がいる方へ!」


 騎士の指示で馬車が動き出す。

 それに寄り添う形で、騎士と兵士達が着いていく。

 それを見送った俺達は、次の避難民の救出に向かう。


「これを繰り返せば良い訳だな。」

「そうですね。これなら上手くいくでしょう。後は素早く助けに向かえるか、ですが。」


 次に向かおうにも、沢山の魔物が立ち塞がる。

 これを相手にしていると、時間がかかってしまうだろう。

 しかし、魔物に紛れて兵士達の姿が見えるのにアイナが気づく。


「兵士です。どうやら強行突破しているようです。」

「しかも、そこら中にいるわ。」

「そうですか。先程の方が指示を出してくれたんですね。」


 兵士長の指示で、避難民の救助を優先に動き始めたようだ。

 多くの兵士が、魔物を抑えるのを止めて強行突破に挑んでいる。


「負けてられませんね。」

「あぁ。私も少しペースを上げるかっ。」


 やっちゃえ!


 先程のように、鞭に変えた剣で魔物を斬る。

 それだけでなく、鞭で相手をまとめて包んで持ち上げる。

 そして、その塊を奥の魔物へと叩きつける。


「もうっ、一度っ!」


 更に、その塊を横に振るい魔物を飛ばす。

 その一撃は重く、鞭の時より多くの魔物を吹き飛ばす。

 そのまま、奥の中級の魔物へと叩きつける。


「そこだっ!」


 それと同時にフィーが踏み込む。

 そして、鞭を斧に変えて中級を斬り飛ばす。


「次だ!」


 そうしながら、避難民を助けていく俺達。

 その都度、兵士達に引き渡していく。

 しかし、助ける程にセイラの顔が曇っていくのにアイナが気づく。


「どうされました? 焦っているようですが。」

「い、いえ、疲れただけ。でもまだ大丈夫っ。」


 実際に疲れたのもあるだろう。

 しかし、焦り方からして疲れただけではないだろう。


「魔法学校の生徒さんの事ですね?」

「っ! え、えぇ。」

「見かけませんもんね。心配になるのも仕方ないです。」


 今まで見た避難民の中に、魔法学校の生徒はいなかった。

 何かあったらと心配してしまうのも仕方がないだろう。


「でも、今は避難民が優先で良いわ。こんなのに負けるような皆じゃないもの。」

「そうですか。そうですね、信じましょう。…お互いに、ね。」


 そう言いながら、魔法を撃っていく二人。

 今はただ信じるしか無いだろう。

 それでも、避難民の救助は進んでいく。


「かなり助けたが、まだいるのか?」

「はい。ですが、兵士の方々に助けられています。」

「そうね。やられている馬車は見当たらないわ。」


 進めば進むほど、馬車の数が増えていく。

 しかし、駆けつけた兵士達に助けられている。

 そのお陰か、被害はまだ無いようだ。


「それは良い事を聞いた。この調子で…なんだ?」


 ん? どうしたの?


 駆け出そうとしたフィーが立ち止まる。

 そして、その異変に気づく。

 周囲を漂うその異臭に。


「なんて臭いだ。なんの臭いだ?」

「フィーさんも気づきました?」

「あぁ。気づかない方がおかしいぐらいだからな。」


 そうなの?

 お面だから分かんないけど。


 鼻を抑えて耐えているフィー達。

 それほどの臭いのようだ。

 よく見ると、上の二人も押さえている。


「この臭いは、腐敗臭でしょうか。」

「腐敗? どうしてそんな…あ!」


 セイラがその臭いの正体に気づく。

 群れの更に奥の方から来ている、肌がただれた魔物の群れ。

 それが、ゆっくりとこちらに来ている。


「あれは、アンデッド!」

「アンデッド?」

「動く屍の事よ。」

「動く屍…そういえば、瘴気で動くんだったな。リュノが言っていた。」


 戦った事あるよね。

 あの時は、死にたてだったけど。


 三つ目の犬の時は、死んだばかりで腐ってはいなかった。

 しかし、目の前にいるもの達は皮膚がただれる程腐っている。

 それらから発せられる臭いが、周囲に広がっている。


「人間ではない。と、なると、魔界から引っ張ってきたんですね。」

「あんなものまで持ってくるなんて。どうしますか? お嬢様。」

「行くしかないでしょう。皆さん、お願い出来ますか?」

「当然だ。やる事は変わらん。」

「了解ですぞ。」「了解です。」


 どんな相手だろうと、避難民が襲われるのには変わらない。

 そうなると、やる事も変わらない。

 目の前の屍に向かって進む俺達。

 しかし、その度に臭いがきつくなる。


「ぐっ。鼻がもげそうだ。」

「同じく。」

「近づいているので仕方ないでしょうな。」


 付き添いの兵士もまた鼻を押さえている。

 臭いの下に向かえば、そうなるのも仕方ない。


「出来るだけ近くに。結界で守ります。」

「いや、戦う為に慣れておく。」


 結局は、結界の外に出なくちゃいけないもんね。

 頑張って!


 戦う為には、結界の中に居続ける訳にはいかない。

 そうして臭いに耐えながら、屍の群れへと突っ込んでいく。


「はっ!」


 屍達を斬っていく。

 その屍は、呆気なく吹き飛んでいく。


「噂には聞いていたがっ。」


 噂道理の動く屍。

 生気を感じられない動きで、フィーへと襲いかかる。

 それを避けて斬り返す。

 その度に、嫌な感触が伝わってくる。


「こんなにゾッとする戦いはっ、初めてだっ。」


 良い気分はしないよね。


 見た目や感触がフィーの気分を悪くさせる。

 それでも剣で斬っていく。

 その横で、魔法が屍を吹き飛ばす。


「援護します!」

「「我々も!」」

「頼んだ!」


 魔法と剣で屍を吹き飛ばしていく。

 それでも屍は沢山いる。

 それ以外は見えない程に。


「ここに避難民は無しか。」

「流石に避けて逃げたようですね。」

「だな。気持ちは嫌なほど分かる。」

「あはは…。が、頑張って下さいね!」

「頑張るよ…。」


 そんなに嫌な臭いなんだね。

 流石に避難民も避けて逃げるか。


 近づきたくない程の臭いのようだ。

 そのせいで、遠回りになってでも横に逃げたのだろう。

 だから、ここに避難民はいない。

 代わりに、奥から大きな影が現れる。


「気をつけて! 大物です! しかも、腐敗してます!」

「くっ。そうだろうなとは思ったがっ。」


 現れたのは、同じく腐敗したウルフだ。

 飛べないのか、羽ばたきながら走って来る。

 こんな状況で来るのは、腐った敵以外いないだろう。

 そんな敵へと魔法が飛んでいく。


「魔法で抑えているうちに!」

「あぁ。一気に倒してしまおうっ。」


 何をしてくるか分からないもんね。


 魔法が飛んでいく下を駆けるフィー。

 そのまま踏み込むと、剣を槍に変えてウルフを突く。


「どうだ!」


 その一撃で、ウルフがよろめく。

 耐久力は無いようだ。


「脆いなっ。ならば、このまま攻める!」


 反撃が来ないなら、わざわざ待つ必要はない。

 槍を剣に戻すと、次から次へと斬り飛ばしていく。

 そして、剣を斧に変えて振りかぶる。


「とどめだ!」


 ウルフの胴体を狙った強烈な一撃。

 それにより、ウルフは傷口からモヤを出しながら地面へと倒れる。


「ふぅ、死んだか。いや、死んでるんだったな。まぁ倒したって事で良いだろう。」


 そうだね。

 瘴気もいっぱい出てたし。


 倒れたウルフは、ピクリとも動かない。

 倒したという認識で良いだろう。

 そうして、ウルフへと背中を向けた時だった。


「まだです! フィーさん!」

「え?」


 え?


 後ろから大きな影が落ちる。

 先程のウルフが起き上がったのだ。

 そのウルフは、フィーへと牙を向ける。


「ぐっ!」


 咄嗟にそれを逸らすフィー。

 しかし、いきなりの事でフィーの剣も大きく逸れる。

 ウルフの攻撃を逸しきれなかったようだ。

 そんなフィーへとウルフが迫る。


「しまっ!?」

「フィーさん!」


 危ない!


 大勢が崩されているので、回避行動に移れない。

 そこを狙ってウルフの牙が迫るが…。


「言った、よね?」


 どこからか、その言葉が聞こえた直後だった。

 強烈な爆風と共に、ウルフの体が吹き飛んだ。


「瘴気を、出さなきゃ、倒せないって。」


 そう言葉を放った人物がフィーの前に降り立つ。

 その正体はリュノだ。

 その横にキュリアも立つ。


「甘いねー、フィーちゃん。ちゃんと確かめなきゃ。」

「いや、瘴気なら出した筈だが。」


 うん、見えたけど。


 間違いなく瘴気は出ていた。

 その上で倒れた筈だ。


「足りない、よ。こういうのは、体中に、流れて、るんだから。」

「そうなのか?」

「うん。あの時が、例外な、だけ。」


 三つ首の犬の時は、瘴気を打ち込まれてたのだ。

 だから、その箇所を切ったからどうにかなっただけ。

 しかし、目の前の相手は違う。


「やるなら徹底的に。合わせるよん。」

「出来、そう?」

「大丈夫だ。」


 立ち上がったフィーが二人の後ろにつく。

 それと同時にウルフも立つ。


「行くよん。」「行くよ。」


 そう言ったと同時に二人が駆ける。

 その後をフィーが続く。


「はっ。」「ふっ。」

「はあっ!」


 三人による同時の攻撃。

 それを受けたウルフは、全身から瘴気を出しながら倒れる。

 そして、今度こそ完全に動かなくなる。


「今度こそ倒したのか?」

「うん。完全にね。」

「ね? 言った、でしょ?」

「あぁ、本当だな。」


 瘴気が抜けきった事により、動かなくなったのだ。

 そのウルフを確認するフィー。

 その様子を見てカミーユは安堵する。


「ふぅ。何とかなりましたか。」

「屍がまだいるけど?」

「大丈夫ですよ。あの二人が来てくれたので。」


 二人が来てくれたので、残りの屍もどうにかなるだろう。

 そう思った時だった。


「あーあー酷いなぁ。あたいのお気に入りだったのに。」

「っ!?」


 その声に驚いたフィーがそちらを見る。

 なぜなら、その方角は人がいるはずがない王都がある方だからだ。


「誰だ貴様はっ!」

「気づいてるんだろう? だから、そうして剣を向けている。」


 聞くまでもないだろう。

 屍の真ん中で堂々と立つ存在。

 その正体は一つ。


「魔族か。」

「正解。」


 そう呟き返した女の魔族が剣を構える。

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