魔物の群れと衝突です
「前方に魔物の群れ! しかも多数!
「構わん! このまま突っ込め!」
駆けて行くと、大量の魔物の群れが見えてくる。
そこへと、止まる事なく突っ込んでいく兵士達。
しかし、数が多くて対処は難しい。
「このままだと囲まれるかっ。」
「その為の私達です。上の二人。よろしくお願いします。」
「えぇ!」「了解です。」
カミーユの指示で、層が厚い方へと魔法を放つ。
そのお陰で、囲まれる程の魔物の数が減っていく。
「助かった!」
「良かったです。このまま行きますよ。振り落とされないで下さいねっ。」
兵士達から離れないように馬車が追いかける。
そして、魔物の群れを吹き飛ばしていく。
そんな馬車へと魔物が群がる。
「そっち行ったぞ!」
「分かってるが、四方から来るので止められない!」
群れへと突っ込んでいるので、来るのも当然四方からだ。
こうなると、どうしても兵士達では止められないが…。
「はあっ!」
にゃっ!
てやっ!
そんな魔物達を、フィーと俺が吹き飛ばす。
あえて前線に出ずに馬車を守る事にしたのだ。
「ありがとうございますっ。」
「構わんっ。周りはどうにかするから、砲撃に集中してくれっ。」
「はい!」
さぁ、守るよ!
近づく魔物は吹き飛ばす。
こうして守られる馬車もまた、群れをなす魔物達を吹き飛ばす。
残ったものは、付き添いの兵士が斬っていく。
「魔法に合わせて攻めますぞ!」
「残ったものは気にせずに!」
「助かります!」
撃ちもらしても、兵士達が斬ってくれる。
だから、反撃を恐れず撃ち続けられるのだ。
すると、探知の魔法で何かが来るのにアイナが気づく。
「大物接近!」
「なっ、場所は!?」
近くにいた兵士長が周りを見る。
しかし、大きい魔物は何もいない。
かわりに、キュリアとリュノが前に出る。
「上だよん!」「上、だよ!」
アイナよりも早く探知した二人が、上空からきた影へと飛び込む。
そして、上空からも飛び込んでくる大きな鳥へとカウンターを与える。
「大物は私達が相手にするよん。」
「だから、群れの方を、優先、してね。」
「た、助かるっ。」
一瞬で大物が狩られる光景に引きつつも群れへと攻める兵士長。
大物を気にする必要が無いのなら大分楽になるだろう。
そんな風に連携を取りながら進んでいく。
その様子を、フィーが敵を斬りながら眺める。
「随分と楽になったな。向こうも数は増えてる筈なんだが。」
「人が増えると、こうも楽になるのね。」
「えぇ。ここにいる者達は、訓練を重ねた者達。このような魔物達には負けませんよ。」
「だな。ありがたい事だっ。」
うん、感謝しなきゃねっ。
代わりに戦う兵士達に感謝しつつも、自身の役目を果たす俺達。
馬車に群がる魔物を斬りながら進んでいく。
すると、前方から大きな爆発が起こる。
「あはははっ。面倒だから一気に吹き飛ばすよん!」
「良いけどっ。せめて、人が、いない、方にねっ?」
キュリアとリュノの攻撃によるものだ。
その攻撃で、魔物達が吹き飛んでいく。
その光景に呆れるフィー。
「暴れているなっ。頼りにはなるんだがっ。」
「あの二人は別格ですから。時々、こちらを気にしない所がありますが。」
そうカミーユが言っている一方で、魔物と一緒に兵士も舞う。
どうやら、どちらかの魔法に巻き込まれたようだ。
「おい! こっちは味方だぞ!」
「あはははは!」
「あははっ!」
「ちょっ、聞いてねぇ! 巻き込まれないように離れろ!」
前方で大きな騒ぎが起きている。
兵士達は、二人の魔法に巻き込まれないように離れて戦い始める。
「時々か?」
「あはは…。ま、まぁ、お陰で囲まれないように戦えていますし。」
「それはそうなんだがな…。」
厄介な事に、一番活躍してるのがね…。
あ、また飛んだ。
それでもこちらが戦えているのは、左右から二人が押さえているからだ。
その為にも、前に出てきた味方もろとも敵を飛ばす。
ただ、攻撃魔法に巻き込まないのは温情だろうか。
そんな事もありつつも戦場を駆けていく。
そのお陰だろうか…。
「王都が見えてきた!」
「おっしゃ。このまま進むぞーっ!」
目の前に王都が見えてきた。
それもあって、兵士達の士気が上がるが…。
「いや待てっ! 王都が見えて来たという事はっ…。」
兵士長が盛り上がる兵士達へと呼びかける。
王都が見えてきたという事は、敵の本陣間近という事だ。
実際に、前から大量の群れが現れる。
「き、来てるっ! ぶつかるぞ!」
「やはりだっ。騒ぎを聞きつけて集まって来たかっ!」
これだけ暴れれば、向こうもこちらに気づくだろう。
そのせいで、向こうの陣営の魔物が一斉に来ているのだ。
しかし、前で暴れる二人は気にしない。
「その為の私達! 集まれば集まれば作戦勝ち! さぁ、暴れるよん!」
「巻き、込んだら、ごめん、ね!」
群れに対して、キュリアとリュノが左右に分かれる。
今まで通り、左右から挟むのだろう。
その筈だが、群れを無視して更に左右に進んでいくのにフィーが気づく。
「あの二人、どこに行く気だ?」
「分からん。いや、そういう事か。なるほどな。」
「どういう事だ?」
「群れを見れば分かる。」
「群れ?」
群れがどうし…あっ!?
兵士長に促され群れを見るフィーと俺。
すると、群れの先頭が三つに分断されていく光景が目に入る。
前に出た二人を追った事により分断されたのだ。
「そうなれば、やる事は一つ。総員っ、分かれた群れを横から叩け!」
「「「おおおおおおっ!」」」
群れに合わせて、兵士達も三つに分かれる。
まずは、真ん中通しがぶつかり押さえる。
その間に、左右へと分かれたのが群れの横へと突っ込む。
そうして、三つの戦場が生まれる。
「上手くいったか。では、このまま分かれて進むとしよう。魔法部隊よ。よろしく頼む。」
「はい! 二人とも、狙いを奥へ! 集まる群れを減らしますよ!」
「えぇ!」「了解です。」
二人が放った魔法が、奥から集まる魔物を吹き飛ばす。
こうして、兵士達の負担を減らしていく戦法だ。
そのお陰か、一番厚い層の真ん中を押していく。
ただそうなると、当然騒ぎも大きくなる。
すると…。
「敵襲! 大物が来てます!」
「なに!?」
アイナが叫んだ直後、群れの魔物を大きくしたようなものが現れる。
その大物は、大きな足音を鳴らしながらこちらに来る。
「くっ。相手をしてくれる二人は別の場所だぞ?」
「どうやら、俺達で相手するしかないという事だなっ! かかれ!」
迫ってくる相手へと突っ込む兵士達。
その頭上を飛び越えるように、火の魔法が飛んでいく。
「魔法の支援かっ。今のうちだっ!」
大物が手で魔法を振り払うと同時に兵士達が接近。
まずは、数人で大物の足を斬って倒れさせる。
続いて、大物のお腹へと一斉に斬り込んで胴体を押し倒す。
「押せ押せ!」
その上に乗りこんだ兵士達が、次から次へと斬っていく。
それでも、表面にだけしか傷がつかない。
「くそっ、固いっ!」
ダメージは殆どないようだ。
それどころか、倒れた大物が起き上がる。
そして、地面に下りた兵士達へと拳を振り下ろす。
「ぐうっ。」「させん!」
それが振り落とされる直前に、紫の聖火が割り込む。
その直後、フィーが紫の斧の側面で拳を逸らす。
「下がれ!」
「すまんっ。」
兵士達が下がるのを見たフィーが斧を剣に戻す。
そんなフィーへと、大物が逸らされた拳で横から叩く。
「あまり力は使いたくないがっ!」
その拳を、伸ばした剣で逸らす。
更に一回転して、相手の足を斬る。
「何度お前のようなのと…。」
そうして、再び膝をつく相手のお腹を斬る。
それにより下がった相手は、倒れまいと腕をつく。
「戦っていると…。」
その腕を斬り飛ばす。
すると、支えを失った相手が前に倒れてくる。
そこに対して、後ろへ踏み込むフィー。
「思っている!」
地面から伝わる力を乗せた剣で、倒れてくる首を叩き斬る。
その一撃で、大物の首から血が吹き出る。
そして、そのまま動かなくなる。
「やった。やりやがった!」
「おし! このまま小物も押し通すぞ!」
「あぁっ。王都までこのまま突っ走るぞ!」
「「「おおおおおおっ!」」」
大物が倒された事により、兵士達の士気が上がる。
その勢いで、魔物の群れを押していく。
更に群れが増えるが関係ない。
例え大物が増えてもだ。
「さっきのウルフ! しかも沢山!」
「数はこっちが上だ! 押せ押せ!」
どんな相手だろうと、止まる事はない。
勿論それは、ここにいる兵士だけではない。
別の陣地からの援軍も左右から現れる。
「助けに来たぞ…って、なんて数だ。」
「急いで合流だ!」
援軍達も魔物の群れを挟み込む。
それに加えて、先ほど分かれた二つの兵士達も現れた群れへと突っ込む。
これにより、五ヶ所から群れへと攻め入る。
それを支えるように、馬車からの魔法が群れを襲う。
「着いて行きます。フィーさん、援護を!」
「任せろ!」
兵士達を抜けて馬車へと向かう魔物をフィーが斬る。
その頭には、被ったままのお面がある。
「王都に着けばお役ごめんだ。出し惜しみはしない!」
そうだね。
どんどん行っちゃえ!
俺達の役目は、王都までの魔物を倒すだけ。
その王都が目の前まで来ているのに、温存する必要は無いだろう。
そうして、聖火で作った武器で敵を蹴散らしている時だった。
「おーい! 助けてくれー!」
「なんでしょう。誰かいます。」
馬車の上から、アイナが声がした方を見る。
声がする方を見ると、群れの中には人を乗せた複数の馬車が見える。
その横では、全身に鎧を着たものが戦っている。
「王都の騎士! 横には人を乗せた馬車がみえます!」
「避難民ですかね。王都から逃げ出している所でしょうか。」
「そんな。助けなきゃ。」
「分かってます! フィーさん!」
「ん?」
方向を変えた馬車が、避難民を乗せた馬車へと向かう。
その横を、何も分からないフィーが並走する。
「どうした?」
「避難民です。着いてきて下さい。」
「なっ!? わ、分かった!」
本当なら急がなきゃ。
前の群れを魔法で吹き飛ばす。
更に、残ったのをフィーが斬り飛ばす。
「見えてきた。」
「フィーさん頼みます!」
「任せろ!」
助けなきゃね。
魔物を倒しながら、避難民の馬車へと辿り着く俺達。
そして、騎士に混じって魔物と戦うフィー。
その間に、戦っていた騎士の一人へとカミーユが問いかける。
「大丈夫ですか!」
「ん? 貴方は。い、いえ、貴方様はっ!?」
「話は後! 事情を!」
「避難民を引き連れここまで来ました。しかし、魔物が多く。」
避難民の警護中のようだ。
しかし、連れてきたのは良いものの魔物の数に苦戦しているようだ。
「他には?」
「います。しかし、ばらばらに逃げましたので。」
「なら、まだどこかで襲われているのですね。」
ここの馬車で全てでは無いようだ。
そうなると、同じような目に合っている避難民がいるかもしれない。
そんな話をしていると、不審に思った兵士達が追いかけてくる。
「これは一体。」
「避難民です! 他にもいます! 今すぐに救助を!」
「と言っても、前線が手薄になってしまうが。」
ただでさえ、魔物と戦うので精一杯なのだ。
前線の一部を引かせる訳にはいかない。
それを聞いたフィーが割り込む。
「その為の陣取り合戦だろ? 守るのは後から来るのに任せれば良い。」
「そうだったな。では、避難民の救助を指示しよう。」
「お願いします。それと、私達も行きます。少し援護が手薄になりますが。」
群れとの戦いにおいて、魔法の援護は役に立っただろう。
しかし、戦いの中に入るとなると望むような援護は出来ない。
それでも、兵士長は首を横に振る。
「構わん。救助を優先してくれ。」
「分かりました。フィーさん、行きましょう!」
「分かった。方角を頼むっ。」
アイナの指示で馬車が動き出す。
その後ろを、魔物を斬り飛ばしたフィーが続く。
そうして、避難民の救助へと向かっていく。