陣取り合戦の開始です
そんな話をしながらも、魔物の群れを討伐しながら進んでいく。
「こっちは倒したぞ!」
「こっちもだよん!」
地上の敵は倒しきった。
すると、頭上で爆発音が起きる。
「こっちもよ!」
目の前にいた魔物の群れは倒しきった。
しかし、あくまで一つの群れだけだ。
見える限りでも、まだまだ他の群れが見える。
「はぁ、多すぎる。一体どうなってるんだ。」
「元々いたのと、向こうから呼んだのがいるんだね。協力してるようには見えないけど。」
「そうね。どっちかと言うと、逃げて来てるってとこかしら。」
「こっちの魔物は弱いからねー。」
向こうの魔物は、瘴気を取り込み強くなっている。
こっちの平和な魔力を浴びて育ったのとは雲泥の差だ。
だから、怯えて逃げているのだ。
「つまり、これからもっと強くなっていくのか。」
「そういう事だね。しかも、数も増えていくと思うよー。」
だよねー。
大変そうだなー。
今まで戦ってきたのは、逃げて来た方だ。
つまり、これから瘴気の混じったのが増えるという事だ。
「大変な戦いになりそうね。」
「だな。どうする? にゃんすけを纏って一気に突破するか。」
「いんや。反動があるのを知ってるよね? 君達の場合は特にだよん。」
そうだよね。
いつも異常に疲れてるしね。
身体能力を補っているとはいえ、動いているのは間違いない。
だから、その分疲れてしまうのには変わらない。
しかも、一気に動きを増す装身の状態なら尚更だ。
「でも、それならセイラもだろ?」
「そうだけど、今の所は問題無いわね。特に激しく動いている訳でもないし。」
「なら、これからも地道にか。先が遠く感じるな。」
結局そうなるよね。
頑張らなきゃ。
無理に疲れるような事は出来ない。
だから、今まで通り最低限の戦いで挑むしかないのだ。
しかし、普段の戦いならばの話だ。
「その必要はないよん。」
「どういう事だ?」
「言ったでしょ? 君が出来るのは兵士でも出来るって。」
「兵士? 確かに言ってたが。」
魔物の討伐は兵士でも出来る。
だから、わざわざフィーがでしゃばる必要がない。
という話だった筈だ。
「これだけの事態だよ? 動いていない訳がない。それに、君みたいなハンターも動員されているかもしれない。戦力ならあちこちにいる筈だよん。」
「なるほどな。つまり、協力を仰ごうって事だな?」
「そういう事ー。」
なるほど。
それなら、こっちの疲労も減るもんね。
なにも、フィー達だけでどうにかする必要はない。
戦力が他にあるなら頼れば良い。
ただそれだけの事だ。
「でも、皆にも守る場所があるのでは?」
「うん。だから、私達で取り返すんだよ。そうすれば、問題ないよねー?」
戦っている者達に協力しろとは言えないだろう。
ならば、代わりに取り返してあげればいい。
「つまり、取り返す代わりに協力してもらうと。」
「そだね。それに、それを繰り返したら安全な場所も増えていくからねー。その分、戦力も増える筈だよん。」
「なるほど。それなら、避難できる場所も増えるわね。」
安全な場所が増えれば、一般の人間が逃げ込む場所も出来る。
しかも、こちらと一緒に戦ってくれる戦力も増える。
「つまり、人間と魔物による陣取り合戦。やるかい? やらないのかい?」
陣地を奪って動ける範囲を増やしていく。
その度に、こちらが優位になっていく。
良いことづくめだが、フィーは浮かない顔をする。
「兵士か。あまり顔を合わせたくないんだがな。」
「どうして?」
「いや、ちょっとな。」
これから多くの兵士と会う事になるもんね。
兵士が増える程、フィーの事を知る兵士も出るかもしれない。
身分を隠す身としては、あまり嬉しくはない。
「でもさっきは普通に話してたよね?」
「町に駐在してる兵士なら問題ないからな。」
「じゃあ、このまま私達だけで戦う?」
「うっ、それは…。」
確かに、自分の事を知る兵士には会いたくはない。
それでも、事態が好転するかもしれない策を蹴るほどではない。
「分かった。命優先だ。キュリアの案に乗るよ。」
「んじゃ、決まりだねー。そんじゃ、音が激しい方に向かうよん。」
「あぁ、そうしよう。」
「行きましょう。」
にゃー。
そうと決まればだね。
陣取り合戦の開始だよーっ。
まずは、兵士に会わなくてはならない。
ならば、音がする方を目指せば良い。
音がするという事は、戦いが起きているという事だからだ。
そこを目指して駆けていく俺達。
「左方向に爆発音だね。」
「戦っているんだな。急ごう!」
爆発のする方へと駆けていく。
すると、魔物達と戦う兵士達が見えてくる。
案の定、予想通りの光景がそこにあった。
「この先は村だ! 避難はまだ出来ていない! 食い止めろ!」
「おう! ん? 誰か来るぞ?」
「新手か?」
「いや。ひ、人だ!」
「なにっ!?」
そう兵士が驚いた直後だった。
セイラが放った魔法が魔物達へと降り注ぐ。
そして、その下から他の者が突っ込んでいくのが見える。
「お前達は?」
「見れば分かるだろうっ。前後から叩くぞ!」
「あ、あぁ。仕方ない。こちらも攻めるぞ!」
兵士が攻勢に出る。
その反対側からは俺達が攻める。
そのお陰か、混乱する魔物達。
その間に、群れを叩き潰す。
「はぁ。か、勝てたのか?」
「無事か?」
「あ、あぁ、助かったよ。あんた達は一体?」
急な出来事に疑問を持つのも無理はない。
そんな兵士達へとフィーが説明を始める。
「私達は、事情を知っている者だ。今、魔族がこの大陸を奪おうと暴れている。それから守る為に動いている。」
「あんた達だけでか?」
「無理だろうっ。他の場所でも魔物の群れを見たぞ。」
「その通りだ。だから、仲間を集める為に動く事にした。陣取り合戦ってやつらしい。」
「そうか。つまり、俺達に手伝えと。」
そういう事。
判断力が早いね。
それを聞いた兵士が悩みだす。
そして、先程倒した魔物達を見る。
兵士達でも分かっているのだ。
自分達では厳しい事に。
「なるほどな。確かに、こうして死にもの狂いで守り続けるのにも限界がある。ならば、他の兵士団と協力しあうのもありか。」
「では、乗るんですか? 兵士長。」
「そうしたい所だがな。俺達も万能ではない。出来るかどうか。」
前線に出るのにはリスクが伴う。
それを受け入れられるほど強くはない。
すると、キュリアが横から割り込む。
「そこまで無理をして貰うつもりはないよん。こちらが上回る状況の時のみ前進してくれれば良いからね?」
「そうだ。無理だからこその仲間集めだからな。」
無理は駄目。
絶対に!
元々、無理をひっくり返す為の作戦だ。
それなのに、無理をさせては本末転倒だろう。
それを聞いた兵士が頷く。
「分かった。その作戦に乗ろう。それで、どうすれば良い? 誘ったからには、作戦があるんだろ?」
「勿論っ。私達は、始めの一面を取ったばかり。なら、次に狙うのはその両翼だよん。端を取れば、その真ん中を挟めるからね。」
真正面から突っ込むよりも、挟んだ方が効率が良い。
そうして効率の良い状況を増やしながら攻めていく。
そういう考えなのだろう。
「では、攻める部隊二つと守る部隊一つに分けようか。人数は少なくなるが。」
「それなら、向こうで増えるでしょ。って事で、私達も分かれよう。後輩ちゃん、通信魔法は?」
「す、少しの距離なら。」
「じゃあ、距離はこっちで補うからね。そのまま、フィーちゃん達に着いてあげて。」
「分かったわ。」
両翼を取るなら、戦力も分散する必要がある。
しかし、向こうの兵士と合流すれば問題はない。
すると、兵士長と呼ばれた者がキュリアに着く。
「ならば、少ない方に私が着こう。これでも一番腕がたつからな。」
「それはありがたねぇ。んじゃ、始めようか。」
「あぁ。さぁ、腕に自信があるものは前に出よ!」
兵士達が二手に分かれていく。
そして、フィーの班とキュリアの班に着く。
「準備は良いかい?」
「いつでも良いぞ!」
「じゃあ、向こうについたら連絡するね。しゅっぱーつ!」
二手に別れた俺達は、左右へと駆け出す。
目的は勿論、音がする方だ。
しかし、目の前に群れが現れる。
「ま、魔物だ!」
「私達が出る! お前達は討ち漏らしを!」
「それならっ。」
兵士達をおいてフィーと俺が前に出る。
すると、目の前の魔物に魔法が降り注ぐ。
「今よ!」
「助かる!」
これならっ。
吹き飛んだ魔物へと俺が飛び込む。
そこからのポイントダッシュで空間を作り出す。
そして、そこにフィーが飛び込む。
「はあっ!」
そこでフィーが一回転。
押し込むように魔物達を斬り飛ばす。
更に、剣を逆手に持ち変え突いていく。
「俺達も続け!」
それから逃れたのを兵士達が斬っていく。
群れは厳しくても、一匹が相手なら問題ない。
「この調子だ!」
「えぇ!」
にゃっ!
一気に攻めちゃえ!
魔法と剣と蹴りが魔物達を減らしていく。
そして、あっという間に敵を蹴散らす。
「よし。次行くぞ!」
どんどん行くよ!
群れを倒して先へと進む。
また群れが現れたら、同じように蹴散らす。
すると、戦いの音が聞こえてくる。
「フィーさん!」
「あぁ、戦っているな。ならば、する事は一つ!」
状況が変わろうが、する事は変わらない。
魔物の群れへとそのまま突っ込む。
「あんたらはっ?」
「助けに来た。訳あって協力する!」
そう言いながら、反対側から攻めていく。
そうして、魔物の群れを蹴散らす。
「はぁっ助かった。それで、訳とは?」
「えーとだな。」
「待った。あんたはする事があるんだろう? 俺が話しておく。」
「頼む。」
兵士の申し出を受けたフィーは、セイラの下へと向かう。
そのセイラは、耳を押さえて話している。
「どうだ?」
「向こうも取ったそうよ。真ん中で合流しようって。」
「分かった。予定通りにだな。」
お互い目的を果たしたようだ。
ならば、予定通りに真ん中を攻めるだけだ。
セイラが通信を切ると、兵士の一人がこちらに来る。
「話を終えました。丁度対処に来た兵士のようです。まとめて合流出来るようです。」
「おぉ。それは大きいな。」
兵士は町を守っている者達だけではない。
だから、守る者と分ける必要はないのだ。
すると、兵士の一人が割り込んでくる。
「話は聞いた。人手が欲しいんだよな。なら、我々のような部隊が他にいる筈だ。ついでに拾って行くと良い。」
「そうさせて貰う。では行こうか。」
「こちらはいつでも。」
こうして、兵士達を引き連れ駆け出す。
目的地は、両翼が挟む真ん中の土地。
その途中で魔物の群れと遭遇するが…。
「敵だ! 潰せ!」
「「「おおおおっ!」」」
一人の兵士の声で、他の兵士が一斉に飛び出す。
それに混じって俺達も飛び出す。
すると、物凄い早さで魔物達が減っていく。
「おおう。随分と早いなっ。」
「そうね。頼りになるわ。」
出る幕が無いね。
数は正義だ。
群れなどでは相手にはならない。
こうして、次々と進軍していく。
その道中、戦う兵士達と出会う。
「これは一体?」
「攻めに出る所だ。合流せよ!」
「は、はい!」
そしてまた仲間が増えていく。
そのお陰か、逃げ始める魔物の群れが出てくる。
「逃がすかーっ!」
「追え追えーっ!」
逃げ遅れる群れが狩られていく。
そうして追い込まれた魔物達が集まっていく。
どうやら、向こうから逃げてきた魔物とぶつかったようだ。
逃げる事が出来ずに固まっていく。
「増えたぞっ。どうするんだ?」
「構わない。これだけいれば負けないだろう。」
フィーに聞かれた兵士が淡々と答える。
このまま向こうと合流すれば、数は勝てるだろう。
当然、挟み撃ちに出来れば優位に戦える。
そんな事も有って構わず進んだ時だった。
ズドーーーーン。
激しい光の線が魔物達を吹き飛ばす。
いつか見た、誰かさんの魔法だ。
それを見た兵士達が足を止める。
「な、なんだ!」
「凄い高密度の魔法っ。魔法…かしら?」
知らない者なら、驚くのも無理はない。
急な攻撃が発生すれば警戒するのは当然だ。
ただ、一人と一匹を除いてだ。
「すまない。身内の攻撃だ。危険は無い。」
「そうなのか? ならば、問題はないか。皆の者! 進め!」
安全だと知るや、再び兵士達が駆け出す。
そうして、魔物の群れへと突っ込んでいく。
その向こうからも兵士達が来る。
「このまま挟め! 一匹も逃がすな!」
「押せ押せーっ!」
そのまま魔物の群れと衝突する。
その中で、俺達も暴れる。
「この群れを相手にしてたと思うと震えるなっ!」
「えぇ。作戦は成功ね!」
こんなにいたなんてね。
本当に良かったよ。
兵士を集めなければ、この数の魔物を相手にしてたのだ。
そうならずにすんだのは、作戦が成功したお陰だろう。
その事に感謝しつつ戦っていると、当の作戦を考えた者が現れる。
「やぁ、上手く言ったようだね?」
「そっちもな。それより、魔法は控えるんじゃ無かったのか?」
「まぁあれだけ固まれるとね? こう、撃ちたくもなっちゃうよね?」
「私に聞かれても。」
だね。
助かったのは良かったけどさ。
あの攻撃のお陰で数が減ったのは事実だ。
そのお陰で、兵士達が苦戦する事なく魔物を狩れている。
そうして、あれだけの魔物が簡単に蹴散らされるのだった。