魔族の襲撃です
「いたた。何が起こったんだ。」
上にのしかかる瓦礫を押し退けるフィー。
そして、目の前の惨劇を目にする。
「な、なんだ。これは。」
見渡す限りの瓦礫の山。
お洒落な建物の面影は一切残っていない。
フィー達のいた教室も同じだ。
その瓦礫の中から俺が這い出す。
にゃ?
何があったの?
「にゃんすけ、無事だったか。しかし…。」
周辺を見ると、生徒達が瓦礫の下で倒れている。
その生徒達は起き上がろうとしない。
「おい、誰か! そうだ、セイラ。」
横で倒れているセイラの肩を揺する。
それでも目を覚まさない。
「起きないか。血が出て無い所を見ると怪我は無さそうだが。」
ほんとだ。
無事そうではあるけれど。
確かに悲惨な現状だ。
しかし、不自然にも血を流している生徒はいない。
実際に、俺達にも怪我は無い。
その様子を不思議に見る俺だったが…。
あ、あれは!
空に浮かぶ大量の何かに気づく。
それは鳥でも何でもない異形の存在。
にゃにゃっ!
何かいるよ!
「どうした? にゃんすけ。空? あ!」
俺が見る先を見る事によってフィーも気づく。
そこに浮かぶ沢山の影に。
「魔物か! まさか、さっきのも。」
にゃ!
そうだよ!
あいつらの仕業だ!
先程からの爆発は、研究所での物では無いようだった。
そうなると、目の前の魔物の仕業としか思えない。
「くっ、またさっきのをやられたら終わりだ。止めにいくぞ!」
にゃっ!
うん、行こう!
また食らえば、今度こそ終わりだろう。
すぐに止めないといけない。
その前に、セイラをそっと地面に置く。
「少しだけそうしていてくれ。すぐに倒して戻るからな。」
そこに瓦礫が落ちないかを確認する。
そして、安全だと知るとすぐに俺達は走り出す。
魔物達が集まる場所へ。
「あそこは確か、魔科学武器の部屋があった場所だな。」
にゃ。
そうだったね。
離れた所にあるから覚えてるよ。
魔物の群れの支線が向いている場所。
それは、魔科学武器の保管庫だ。
その場所へと駆けていくと、目の前に地に立つ魔物が現れる。
「普通の魔物もいるのか。こっちを見ていない間に斬るぞ。」
にゃ!
戦闘開始だね!
魔物達は、保管庫へと向かっている。
なので、こっちには気づいてない。
その隙を狙って斬っていく。
「はあっ!」
まずは手前の魔物へと一撃を与える。
そのまますぐに次の魔物を斬る。
更に、もう一匹を斬る。
すると、目の前の一匹が気づく。
「にゃんすけ!」
にゃっ!
くらえっ!
振り向いた魔物がこちらへと来る。
その瞬間、そいつの顔を俺が蹴飛ばす。
そこに、フィーが迫る。
「はっ!」
相手の胴体への一突き。
それを蹴飛ばして払う。
すると、周りの魔物が一斉にこちらへと振り向く。
「今更遅い!」
魔物が振り向いた時には、すでにフィーと俺は接近していた。
まずは、俺が群れへと飛び込む。
にゃ!
おら!
蹴りで魔物を押し込む。
それにより、開いた空間へとフィーが入る。
「はあっ!」
その場所での一回転。
周りの数匹をまとめて斬り飛ばす。
「臆するものか。まとめて来い!」
そう言いながら斬りかかる。
その隙を狙う魔物を俺が蹴り飛ばす。
すると、空が明るく輝く。
「なんだ?」
明かりの方を見ると、空の魔物が魔力を溜めている。
どうやら、魔法を撃とうとしているようだ。
「くうっ!」
空からの一斉砲撃。
それと同時に、フィーが魔物の群れへと滑り込む。
すると、フィーの代わりに魔物が魔法を受けていく。
「危なかった。」
魔法を受ける事は無かった。
しかし、壁となった魔物は残らず吹き飛んだ。
そこへと再び空が輝く。
「ぐっ。」
再びの魔法の攻撃。
それに対して、走りながら避けていくフィー。
「今回の敵は面倒この上ないな。」
そのまま駆け抜けると、目の前の魔物を刺す。
そして、レバーのように押し倒し引き寄せる。
それにより壁となった魔物で魔法を防ぐ。
「なんとかなったが。」
それでも魔法は続く。
今度は、一匹では防げないだろう。
しかし、その魔物の後ろをフィーが見る。
「にゃんすけ、頼む!」
にゃっ!
あいよ!
魔法には魔法で!
いつの間にか回り込んでいた俺が魔法を放つ。
すると、それを受けた空飛ぶ魔物が落ちていく。
にゃ!
落ちたよ!
後はっ。
「任せろっ!」
落ちてくる魔物をフィーが斬る。
そうして、近くの魔物を倒しきる。
その筈だが…。
にゃっ!
こっちに来てる!
「くっ、騒ぎすぎたか。」
騒動を嗅ぎ付けた他の魔物が来ているのが見える。
このままだと、まとめて襲われてしまうだろう。
にゃっ?
どうするのっ?
「魔法を使う魔物がいなければ相手にするのだが。」
近距離戦では負けはしない。
それでも、空にいるのは魔法を使う。
地にいるのと囲まれると厄介だが…。
「待てよ? 逆に考えると向こうは手薄だ。今のうちに乗り込むぞ。」
にゃ。
そうだね。
それが良いよ。
一度、建物だった場所から出る俺達。
そして、瓦礫に隠れるように遠回りをしながら進んでいく。
そんな俺達に魔物は気づかない。
「よし気づいてない。」
にゃ!
このまま行くよ!
魔物を避けるように目的の場所へと向かう。
すると、先程見た部屋が見えてくる。
「酷いな。」
そこもまた、教室のように跡形もない。
しかし、所々何かに守られているように無事な箇所がある。
にゃ!
研究員達だ!
「あぁ、魔法で防いだようだな。でも、ダメージを受けているな。」
防ぎ切れなかったんだね。
とっさに魔法でダメージを軽減したのだろう。
それでも、完全に防ぐまでにはいたらなかったようだ。
すると、どこからか物音がする。
「誰か…いるんですか?」
「っ、貴方は。」
声がする方へと向かう。
そこには、先程の魔法学校の先生がいた。
起き上がろうとする先生をフィーが支える。
「無事…でしたか。生徒達は…。」
「皆無事だと思う。ここにいる人達みたいに倒れている。」
「そうですか。恐らく、アクティ辺りが魔法で防いだのでしょう。」
手を地面につく先生だが、すぐに地面に倒れそうだ。
起き上がるのも辛いのだろう。
「お願いです。今すぐ生徒達を起こして避難して下さい。」
「貴方達は?」
「大丈夫です。すぐに…追いかけますから。」
それでも無理に立ち上がろうとしている。
そんな相手を放っておけるフィーではない。
「無理だ。貴方達も一緒に。」
「駄目です。早く逃げて…。」
急かすようにフィーを押す先生。
その時だった。
「どこに逃げようと言うのかね。」
「っ!?」「っ!?」
っ!?
どこからか声が聞こえてくる。
そちらを見ると、赤黒い何かがこちらへと来る。
「まだ魔物がいたか。」
「ふん。そんなちっぽけな物と一緒にされては困る。」
魔物は喋らない。
となると、正体は一つ。
「…魔族か。」
「ほう、どうやら詳しいようだ。先程の騒動もお前達だな?」
「そうだ。それがどうした?」
フィーが聞くも答えない。
顔色一つ変えずにフィーを見る。
「まさか、先程の攻撃で無事な奴がいたとはな。少々威力を誤ったか。」
「なっ。お前の仕業か! どうしてあんな事を!」
「それを知った所でどうなる。」
「こうする!」
そう言って、武器を構えるフィー。
しかし、後ろにいた先生が止める。
「駄目です! 戦っては駄目!」
「だからといって、放っておけば先程のが来るだろっ。」
先生を振りほどいて前に出る。
その途中に踏み込んで加速する。
そして、剣を振るが…。
「ふん。」
「なっ!?」
指一本で!?
フィーの攻撃を魔族が指一本で止める。
しかも、力を込めて震えるフィーと違って魔族は微動だにしない。
それを見て後ろに下がるフィー。
「何なんだ、お前はっ。」
「すぐに散り行く儚き者に教えても無駄だろうて。知りたければ我を倒す事だ。」
「くうっ。」
そう言われたフィーは、再び剣を構える。
力量差を知ってもだ。
そんなフィーへと先生が叫ぶ。
「駄目です! 逃げなさい!」
「逃げたら尚更だろう!」
自分が逃げれば、ここにいる者達に魔の手が迫る。
もはや、逃げるという選択肢は取れない。
「我はどちらでも構わんよ。」
「なら、覚悟をしてもらおうか!」
そう言いながら、フィーが前に出る。
「駄目!」
先生が止めるもフィーは止まらない。
そのまま剣を振るうが同じように止められる。
「また同じか。」
「と、思うなよっ。」
姿勢を落として一回転からの斬り上げ。
それでも指一本で防がれる。
「変わらんよ。」
「だと良いなっ。」
すぐに反対側へと一回転。
隙だらけの横を狙うが指一本で止められる。
その間、魔族は腕以外を動かさない。
「見ずに止めるとはな。」
「見る必要などどこにある。で、それで終わりか?」
「いや、こっからだっ。にゃんすけ!」
にゃっ!
うんっ!
剣を相手の腕の内側に回して弾いたフィーが一回転。
その際、お面になった俺をフィーが被る。
そして、剣先に紫の聖火を灯す。
「聖獣!?」
「ほう、面白い。」
それを見て驚く先生と笑う魔族。
その魔族へと剣を突き出す。
「お前達は聖火に弱い!」
魔族は、腕を動かさない。
その隙に、フィーが剣で突く。
その筈だったが…。
「これでも、無理なのかっ。」
フィーの剣が魔族を貫く事は無かった。
その魔族の胴体で、剣先が止まっている。
「いや、中々面白い余興だ。しかし、それを振るうお前に力が無い。闘気も纏わぬその身では我が身は貫けぬよっ。」
そう言いながら、フィーを殴り飛ばす。
というより、軽く払う。
それだけでフィーが吹き飛ぶ。
「ぐうっ。」
「あ、貴方っ!」
転がるフィーは、先生の前で止まる。
そんなフィーへと、魔族が手を向ける。
すると、手が輝き出す。
「つまらぬ時間を過ごした。去れ、儚き者よ。」
輝きが増していく。
フィーを魔法で葬るようだ。
「起きて!」
「ぐっ、かはっ。」
起き上がろうにも、先程の一撃で動けない。
その間にも、輝きは増していく。
「防がないと。」
「遅い。」
そう呟いたと同時に光が放たれる。
それに先生が手を向けるも間に合わない。
その時だった。
「一斉に!」
その直後、魔力の塊がフィー達に直撃する。
それを見て魔族が一瞥するが…。
「ふん。ん?」
煙が晴れたと同時に、気配の数が増えているのに気づく。
その正体は…。
「ふんふん。面白い事になってるね。」
「慎みなさい。遊びでは無いんですよ。」
「えーと、そ、その辺で。アクティさんのお陰で私達助かったんですから。」
生徒会のメンバーの声だ。
それを見て驚く先生。
「貴方達!」
生徒会のメンバーは、フィー達を囲むように現れる。
「フィーさん。助けに来ましたよ。」
そう言いながら、その中心にいるセイラが手を前に構える。