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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
人魔大陸防衛大戦 フラリア王国編
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人工の聖剣とフィーの剣の秘密です

「じゃじゃーん。最後の案内はここでーす。」


 アクティに連れられて来たのは、厳重に管理された場所だ。

 そこの入り口の扉には危険との文字が書いてある。


「良いのか? こんな場所に入っても。」

「本当は駄目なんですけどね。危ないので。」

「良いって良いって。さぁ入ろう!」


 大丈夫なのかな。

 でも、鍵とかも無いみたいだし。


 本当に駄目な場所なら鍵がかかっているだろう。

 しかし、その扉はアクティによって簡単に開けられる。

 そして、そのまま部屋の中へと入っていく。


「ん? 誰だい?」


 部屋の中から声が聞こえてくる。

 その方を見ると、白衣を着た男性がこちらを見ていた。


「いえーい! また着たよー。」

「って君かい。一応関係者以外立ち入り禁止なんだけどね。まぁ良いけど。」


 諦めているのか、仕方ないとばかりにこちらへと来る。

 どうやら、許可を取っているようでは無いようだ。


「ようこそ。保管室へ。」

「ここは何なんだ?」

「おや、聞いてないのかい? ここは魔科学武器の研究所だよ。」

「魔科学武器?」


 魔科学の武器?

 確かに、武器みたいなのが並んでいるけど。


 部屋の隅には、展示されているかのように武器が並んでいる。

 しかし、それらの武器は普通の武器と比べて装飾が着いている。


「なんと言えば良いか。そうだ。君、旅人だよね? なら、武器から魔法が飛んでいる所は見た事があるよね?」

「ある。風みたいなのを飛ばしてたな。」


 あー、確かにあったねー。


「そう、それだよ。魔法を使えるものが武器を通して放つ。それを再現するのが魔科学武器だ。」


 魔科学は、魔法を使えない者を助ける道具。

 それは、戦う者も同じ事だ。


「確かにあったら便利だな。魔法にはよく苦戦させられた覚えがある。」

「魔法には魔法しか対抗手段が無いからね。ただの武器ではどうしても限界がある。」


 遠くから飛ばされては厄介だ。

 しかし、近づこうにも魔法が阻む。


「でも、魔科学武器があれば話は別だよ。魔法を使える相手と対等に渡り合えれる。」


 魔法を使えないものが使える相手と互角に戦えれる。

 更に、使えない者には優位に立てる。

 その為の魔科学武器なのだ。


「なるほどな。あれ? でも、普通の魔科学のアイテムでも魔法は使えるんだよな?」

「あの時のランタンの事ですね?」

「あぁ、そうだ。」


 確かに、使ってたね。


 セイラが言っているのは、でかぶつが放った魔法の事だ。

 武器でもないランタンから魔法が放たれていたのを覚えている。

 つまり、武器以外でも魔法自体は使える証拠だ。


「見た事があるんだね? その通り普通のアイテムでも魔法は使える。ただ、生み出した物を放り投げるしか出来ないけどね。」

「物を作り出し放り投げるのは、魔法の基礎中の基礎ですから。」

「そうそう。一番最初に習う事だよねー。」


 そうなんだね。

 だから、ランタンでも魔法を使えた訳だ。


 すべての魔法は生み出す事から始まる。

 生み出せるなら使う事も出来るのだ。

 そんな話をしていると、科学者の男が剣を取り出す。


「魔科学武器とアイテムの違い。それは、変形するか調整するかなんだ。変換した物の形を変えるのが前者。出す量を変えるのが後者だよ。ちょっと見ててね。」


 そう言って、科学者の男が剣を振るう。

 すると、離れた所にある植物の葉が切れる。


「今の見えたかい? 作った風を刃物に変形させて飛ばしたんだ。」

「あぁ、見えたな。」


 うん。

 飛んでったね。


 剣を振った際に、刃物状の風が飛んでいった。

 それが、植物の葉を斬ったのだ。


「普通のアイテムでやれば風を吹かせるだけ。基礎の基礎しか出来ないからね。その奥に踏み込んだのが魔科学武器という物なんだ。」


 基礎の技術を活かすのがアイテム。

 その応用を活かしたのが魔科学武器だ。


「とい事は、アイテムでは風の刃は作れないんだな。」

「そーそー。そもそも一般人には必要ないからねー。風の刃なんてどう使うのさ。」

「言われてみればだな。」


 一般人には、物を生み出せるだけで役に立つ。

 それ以上の事は、あっても必要ないだろう。


「ちなみにだけど、風の魔法を見たって言ってたね? 風の魔法は一番簡単に作れる魔法だから使用率も高い。」

「しかも、イメージをしやすいから。ほら。」


 セイラが宙を指でなぞる。

 すると、そこから色のついた風が部屋を舞う。


「今のは、指で起こした風を魔法で飛ばしたのよ。」

「飛んでけーって感じだねー。ちなみに、剣から風の刃を出すのも刃物同士で同じだから作りやすいからだよ。」

「そんな簡単な事で良いのか?」

「うんうん。魔法の応用って連想ゲームだしねー。」

「一応、変形させる知識もいりますけどね。」


 知識は必要だが、イメージ通りに形を変えられる。

 そのイメージがしやすいほど、簡単に魔法を実行できる。

 イメージをサポート出来る物を通せば更に簡単だ。


「なるほど。面白いな。」


 勉強になったね。


「興味を持って貰えて良かったー。じゃあ、あれも見せちゃおうか。」

「あれってまさかあれかい? でもあれは…。」

「良いから良いから。その為に、彼女を連れて来たんだから。」

「そうなのかい? そうか、君がそういうなら。」

「ん?」


 あれ? どれ?

 なんの事なの?


 どうやら魔科学武器の見学の為に来たようでは無いらしい。

 アクティに促されるままに、奥の部屋へと入っていく科学者の男。

 しばらくして戻ってくると、細長い箱を机の上に置く。


「良いんだね?」

「どうぞどうぞ。」


 そう短いやり取りをする二人。

 すると、科学者の男が箱を開ける。

 そして、その中の物を見る。


「これは、剣か?」


 箱の中には、一本の剣が入っていた。

 魔科学武器の剣だろう。

 しかし、他のより大きく派手な装飾や刻印がされている。


「何なんだ? この剣。」

「聖剣だよ。人工物だけどね。」


 聖剣?

 なんか凄そう。


 聖剣と呼ばれた剣は、箱の中に丁寧に収められている。

 それだけ、重要な物なのだろう。


「聖剣ってなんだ?」

「王家に伝わる凄い剣ですよ。王家にその身を捧げた剣聖に与えられる伝説の剣。」

「その一撃は、山をも割ると言われています。」

「授業でも必ず習います。」

「そーそー。魔法の全てが詰まったとか何とか。」


 生徒会の面々が説明をする。

 魔法学校でも習うぐらいには有名な物のようだ。

 すると、科学者の男が興奮するように説明を加える。


「ただ、それだけじゃないよ。良いかい? その聖剣はね、常に魔力を発しているんだ。」

「魔力を?」

「そうだよ。魔法そのものかのようにね。」


 科学者の男が注目しているのは、威力や伝承といったではない。

 魔力を常に発し続ける事実が彼を掻き立てる。


「魔法ってのは使えばそれで終わりなんだ。その元となる魔力も同じ事だ。だけど、聖剣は違う。常にその場に力が停滞し続けているんだよ!」


 体から外に出た地点でそれは終わり。

 役目を終えると、力を失い消えていく。


「それって、そんなに騒ぐ事なのか?」

「ええと。ずっと、燃え続ける火って存在しないでしょ?」

「あぁ、火種が消えれば無くなるな。」

「そうよ。だけど、火種も無しに燃え続けている。それと同じ事が聖剣で起きてるの。」

「なるほど。それは確かにおかしいな。」


 おかしいよね。

 どうなってるんだろ。


 消えるはずの魔力が常に残り続けている。

 それは、科学的に見ても魔法として見てもありえない事なのだ。


「つまり、ここにあるのがその剣か?」

「いや。残念ながらそこまでには至ってないよ。一応、僕なりに魔科学に当てはめて作ってみたけど、中から魔力を放出して威力を真似るので精一杯だ。それでも、本物にはほど遠いけどね。」


 人工はあくまで人工なのだ。

 威力を上げる事は出来ても、その維持は不可能なのだ。

 魔科学をもってして到達できない領域にあるのが聖剣なのだ。


「ほう。その本物ってのはそんなに凄いんだな。」

「魔力の停滞現象は、魔法の観点からしても判明してないわ。」

「ほう。つまり、そのありえない事が起きているのがその剣なんだな。」

「そーそー。君の剣みたいにね。」

「え?」


 アクティの発言で、一同が固まる。

 発言主を見たままで。

 その中で、科学者の男が口を開く。


「どういう事なんだい?」

「見た方が早いよ。」

「えーと。見せて貰って良いかい?」

「あ、あぁ。」


 フィーが鞘ごと剣を研究所の男に見せる。

 それを受けとると、鞘を剣から引き抜く。


「なんて事だ。かなりの密度の魔力でコーティングされている。」

「こーてぃんぐ?」

「物体の周りを膜で覆う事よ。その物体を守る為にね。」


 よく木に塗るよね。

 あれみたいな物か。


「ん? えーと。で、その剣がそうだと?」

「そうだよ。ほら。」


 科学者の男が剣を指でなぞる。

 それにより、魔力が可視化される。

 剣を覆う紫の魔力が。


「これは!?」


 聖火と同じ色!


 フィーの剣は、聖火と同じ色に輝いている。

 まるで、その剣を守るように。

 その魔力に驚く一同。


「凄い。こんなに濃密な魔力は初めてよ。」

「しかも一色じゃないわ。」

「え?」

「本当だ。隠れて複数の色の魔力が混じってる。」

「え? え?」


 勝手に盛り上がる生徒会メンバーに戸惑うフィー。

 もはや、黙って見ているしか出来ない。

 その中で、科学者の男が一番深く眺めている。


「間違いない停滞している。聖剣と同じだ。この剣をどこで?」

「えーと。とある村の儀式で使われた物を貰ったんだが。」

「そうか。道理で武器ではなく装飾用の剣なんだね。」

「ええっ!?」


 そ、そうなの?


 その言葉に、今度はフィーと俺が驚く。

 どうやら今まで使っていたのは武器では無いようだ。


「武器では無いのか?」

「そりゃあね。資材自体は脆いから使ったらすぐに折れるよ。こんなのに命を任せるとか普通なら馬鹿がする事だよ。」

「そ、そうか…はは。ばかがすることかー…。」


 そんな剣だったんだ。

 えーと…ドンマイ!


 衝撃の事実に、意識が迷子になるフィー。

 そんなフィーを無視して科学者の男は盛り上がる。


「普通なら折れて当然。だけど、この魔力量なら上質な剣よりも上の筈だ。それにしてもこの魔力どうやって。この持ち手の紋章か? 見た事が無いけど。」


 科学者の男は、のめり込むように剣を見る。

 それだけ異常な剣のようだ。

 すると、後ろから扉が開く音がする。


「それは、収集を意味する紋章ですよ。」

「え?」


 後ろを見ると、先程の大人の女性が立っていた。

 魔法学校の先生だ。


「収集の力って?」

「文字通り、集める力です。聖なる力を剣で集めて鑑に吸収させる。そして、それを大地に奉納する。その為の剣なので。といっても、誰でも出来る事では無いですがね。」


 果物が取れる村で見た祭りの事だ。

 儀式で使われる以上は、当然剣にも力がある。


「それを為す紋章? 普通なら刻印の筈。それに、集めただけでは停滞しない。」

「とある一族は刻印ではなく紋章に意味を込めると聞きます。停滞の方はどうでしょうね。大方理由は予測できますが。」


 とある一族とは、巫女の一族だろう。

 それを聞いた科学者の男はぶつぶつと何かを考え出す。

 それに答える代わりに、大きく手を叩く先生。


「それよりも授業ですよ。急いで。」

「は、はい! じゃあフィーさん、またあとで!」


 生徒会のメンバーが慌てて部屋から出ていく。

 それを見送った先生は、ポツンと立ったフィーを見る。


「そうだ。貴方もどうです?」

「良いのか?」

「えぇ。大事な友人の関係者なら放って置けませんもの。」


 そう言って、にっこりと笑った。

次回から大きく動きます。

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