堪能しました
「まずは宿屋と言いたい所だが、こう色々あると目移りしてしまうな。」
にゃ。
しちゃうよね。
どこを見ても楽しいから。
下を見れば、お洒落なレンガの模様の着いた歩道。
横を見れば、様々な形をした建物。
上を見れば、綺麗なランプや紙の飾り。
そして、所々にある花壇が道を彩る。
「人も多いな。王都に近いのもあると思うが。」
それにしてもだね。
観光名所にでもなってるのかな。
埋まる程でもないが、賑わうぐらいには多いだろうか。
道行く人達もまた、俺達みたいに町を楽しんでいる。
「まぁでも仕方あるまい。ここを知れば誰でも足を運ぶだろうな。」
にゃー。
だよねー。
でも、そうして周り見てるとさ。
周りを見ながら歩くフィー。
すると、花壇の縁に勢いよく足をぶつける。
「あだっ。」
ほらみたことか。
「くぅっ。」
注意が逸れれば、そうなるのは当然だ。
足を押さえてうずくまるフィーは、痛そうに唸り声を上げる。
しかし、漂って来る匂いにすぐ顔を上げる。
「この匂いは?」
ん? お肉の匂い?
匂いにつられて建物へと向かう。
そこでは、太めに焼いたお肉が鉄の板の上で焼かれていた。
その様子を見ている俺達に店主が気づく。
「どうだい?」
「そうだな、二つ頂こう。」
「はいよ。」
返事をした店主は、パンの切れ端を取り出す。
そこの上に肉や野菜を乗せると、色の着いた液体をかける。
それらを詰められるように乗せた上にパンの切れ端を乗せる。
ハンバーガー?
っていうよりBLTバーガー?
「ほいよ。いつもより多めに乗せておいたぜ。」
「良いのか? 値段に見合ってないようだが。」
「おうとも。細かい事は気にしない性格なんでね。」
「そうか? では、ありがたく頂こう。」
紙に包まれたそれを受け取りお金を支払う。
その紙からの香ばしい匂いがお腹を刺激する。
「食べたばかりだが、我慢できないな。行儀悪いが食べていくか。」
「それがいい。うちのは焼きたてが一番だからな。」
分かるよ。
お肉は焼きたてが最高だしね。
お店の小窓から離れると、壁を背にして食べ始める。
味のかかったお肉のガッツリ感が染み渡る。
「まさか食べ物の店だったとは。てっきり人の家かと。」
「まぁ、この辺は出店エリアだからな。来た人は食べ物を買って出る人は土産を買う。どちらも違うけど腹を満たしたい奴らも来る。」
ここは馬車の停車所に近い。
それに、手軽にお腹を満たせる事も出来る。
人が集まるには充分な場所なのだ。
「エリアか。じゃあ、ここ以外にもあるんだな?」
「おうとも。主に自然豊かな公園エリア。宿泊所や落ち着いて食事が出来る店がある来客エリア。魔科学を研究する研究所エリアがある。居住区があるのもそこだな。そして、時計塔がある中央エリアだ。」
いくつかのエリアに別れた場所が存在する。
ここは、その内の一つという事だ。
「なるほどな。なら、目指すは来客エリアか。場所はどこだ?」
「ここから右上。中央エリアを通って右だな。どうせなら時計塔を見ていくと良い。この町の目玉だからな。」
「ありがとう。そうさせて貰うよ。」
楽しみだね。
こっちの世界の時計か。
どんなのだろう。
食べ終えた俺達は、店主に別れを言って移動する。
目指すは、町の真ん中にある中央エリア。
そのはずだったが…。
「なんだ? これ。」
にゃあ?
さぁ?
なんだろうね。
お店の中で変な機械が動いているのを見たり。
「お金を入れて回してください? よっと。あ、なんかでた。」
飴玉?
うん飴だ…ん?
うわっ。
「なんか口の中で弾けてるぞっ! あ、でも旨い。」
飴玉みたいな何かを味わったり。
「空中で文字が書ける? あ、書けた。…消えた。」
消えたね。
雑貨の店をあさってみたり。
「なんかしているぞ? あ、紙を燃やしたら花になった。」
マジックかな?
若い人っぽいけど。
何かを披露し拍手を受けている人を見物したり。
「ん? さっきと違う味が。あれ?」
んー?
同じ飲み物なのに。
時間が経つと味が変わる飲み物を飲んだりと楽しむのであった。
そして、ついに広い場所へとたどり着く。
「時計塔ってあれじゃないか?」
にゃ。
ほんとだ。
知ってる形そっくり。
変な形だけど。
そこには、俺が見知っている時計塔に近い物がそびえ立っている。
それは、文字通り塔のような構造で大きな時計盤が着いている。
「おー。おっきいな。」
にゃ。
大きいね。
お城みたい。
時計塔の下には建造物もあり、見た目は城のようだ。
それでも、大きく着いた時計盤から時計塔だと分かるのだ。
「凄いな。ついつい楽しんでしまった。」
にゃっ。
楽しかったね。
時間を忘れそうになってたよ。
この町にあるのは、どれも楽しい事ばかりだ。
時間を忘れるのも無理はない。
「そして、ここも芸術的なものばかり。見飽きさせてくれないな。」
にゃ。
ほんとだね。
町全体が芸術に偽りなしだよ。
町そのものが芸術なのだ。
それは、出店エリア以外でも同じ事だ。
すると、フィーが近くの建物に気づく。
「宿屋か? 見渡せる位置にあるんだな。流石…。あ。」
にゃ?
どしたの?
「宿屋の予約。忘れてた。」
あ。
宿屋を見つけるのが目的だった筈だ。
しかし、思う存分楽しんでいる間に忘れていたようだ。
「やばいっ。もう昼過ぎだぞ。」
にゃっ?
もうそんなにっ?
いつぞやの嫌な記憶が甦る。
しかし、この人だかりだ。
見つけるのも一苦労だろう。
「とにかく行くぞ! 急げ!」
にゃー!
急げー!
取れなければ野宿だろう。
そんなのは嫌とばかりに走り出す。
そして、そんな俺達へと一人の少女が振り向く。
「今の声って。確かどこかで。」
人の身長を越える長さの剣を抱える少女。
そんな彼女は聞いた事のある声の主を探すが…。
「生徒会長!」
「ひゃい!」
突然呼ばれた少女は、驚いて振り向く。
そこでは、眼鏡をかけた少女がこちらを見ていた。
「先導する貴方が遅れてどうするんです。急いで下さい!」
「え、えぇ!」
そう叱られた少女は走り出す。
聞いた事のある声の事も、頭の隅に消えていく。