魔科学の町、芸術の町です
「時が来た。」
数えきれない程の魔族達。
その視線が集まる中で、一体の魔族が立つ。
「思い出すは、先日の敗北。これから行うのは、その恨みを晴らすための戦いだ。」
魔族達は、一人立つ魔族を黙って見ている。
「負ければ終わり。しかし、負けるつもりなど微塵もない。」
その視線を受ける魔族は、高らかに片方の腕を挙げる。
「さぁ、出陣せよ!」
「「「うおおおおおおおおっ!」」」
その魔族の声に合わせて、魔族達が声を張り上げる。
その声で、魔族達の気持ちが一つになる。
「貴様らの領地、もらい受けるぞ!」
魔族達の気持ちを束ねるかのように魔族が拳を握る。
その背後で、巨大な咆哮と共に山のような物から生えた複数の首が蠢く。
鳥の鳴き声や川のせせらぎが聞こえる静かな平地。
そんな中を、一台の馬車が走っていく。
「この先には何があるんだ?」
「大陸の中でもっとも文明が発展した場所だよ。」
「文明?」
文明?
「そうさ。王都に近い場所だからね。それだけ技術も発達してるんだ。」
近未来的な物?
って、流石にそれは進みすぎか。
そう言いながら干し肉を口に運ぶ俺。
染み出た汁に乗った塩分が口に広がる。
その横で、フィーもまた一口食べる。
「むぐむぐ。技術とはどういったものだ?」
「そうだなぁ。例えば、このランプとか。」
運転手が馬車に付けられたランプを指差す。
そこにあるのは、いつか見た魔法のランプだ。
「こいつは燃料と違って魔力が宿った石で動いてるんだが…。」
「知っている。魔法も撃てるんだよな?」
「その通り。これは魔法が使えない者でも魔法を使えるようにって開発されたものなんだからね。詳しいね、君。」
「まあな。」
お世話になったからね。
特にその中の石にはね。
そのランプには、何度も助けられたのだ。
しかも、中の石を食べて魔法の力も宿った。
知っているのも当然という事だ。
「俺達人類はそれを魔科学と呼んでいる。それが更に発達すれば、普段の生活も楽になると言われているんだ。」
「ほう。移動も楽になるのか?」
「ははっ、そりゃ勘弁だ。俺達の仕事が無くなっちまう。」
「確かに、言われてみればだな。」
そうだね。
魔物だらけの世界で、どれだけ出来るか分からないけど。
一歩歩けば魔物が蔓延る世界だ。
乗り物が出来たとしても、運用するのは難しいだろう。
環境が変われば、出来る事も変わってくるのだ。
「はぁ。仕事続けられるかな。」
「なんかすまないな。干し肉でもどうだ? 美味しいぞ?」
「ありがとう。頂くよ。」
フィーから受け取った干し肉をにかじりつく運転手。
こうして、二匹と一匹が干し肉を噛み千切るシュールな光景が出来上がる。
「まぁ暗くはなったけど、悪い物だけではないんだよ。この先の町では、魔科学の道具を使った料理が豊富なんだ。」
「そうなのか? それは興味深いな。」
「だろ? 折角寄って行くんだ。堪能していくと良いよ。」
「そうさせて貰うよ。」
にゃ。
うん、楽しみだね。
魔科学料理かぁ。
どんなのだろ。
次の町の食事に胸を膨らませる俺達。
そうしているうちに、次の町が見えてくる。
「っと、見えてきたよ。」
「着いたか…ん?」
にゃ?
ん?
うーんと。
見えてきた町を見て言葉に詰まる俺達。
ただじっと町を見る。
それもそのはず…。
「今までの町と変わらないな。」
確かに、ごく普通の町だ。
少し大きいぐらいかな?
そこにあるのは、今まで何度も見てきたような町だ。
文明が発展した場所のようには見えない。
「文明が発展した町には見えないが。もしかして、間違えたのか?」
「あっはっは。大丈夫、間違えてないよ。良い反応ありがとう。」
「え?」
にゃ?
一体何なの?
キョトンとする俺達を見て笑う運転手。
行き先を間違えている訳ではないらしい。
そうしている間にも、馬車が入り口へと近づく。
「まぁ見てなって。ほら、町に入るぞ。」
そうして、その町の本当の姿を知るのだった。
「うわっ。」
にゃ!
うわっ!
町に入った瞬間に、水しぶきが巻き上がる。
そして、水の反射で輝く町の姿が目に入る。
敷き詰められたレンガ。
道沿いに並ぶ彫刻がされたランプ。
そして、町中を自由に走る透明なパイプ。
そのパイプを通る水が宙に模様を浮かべる。
「おぉ。」
にゃー。
おー。
その華やかな光景に、目を奪われる俺達。
ただただ現実を忘れて見入ってしまう。
それほどの美しさを持つ光景だ。
「綺麗だ。」
「だろ? 魔科学の町、芸術の町ってな。いつ見ても見事なもんだ。」
ほんとだね。
テーマパークみたい。
町中に浮かぶ芸術のような光景を見つけては見入るの繰り返し。
それほどまでに、目を奪われる物で溢れているのだ。
「すごいだろ? 夜になるともっと凄いんだ。辺り一面が幻想の世界に入ったみたいになるからな。」
「そうか。どこまでも芸術に拘っているんだな。」
本当にテーマパークだね。
夜なんて、出歩いている人は殆どいない筈なのに。
誰が見ているかどうかは関係ない。
芸術の町の機能の一つとして存在しているだけ。
それでも、人を楽しませる物であるのは間違いない。
「にゃんすけ、しばらくはこの町にいるか。」
にゃ。
良いね。
楽しみだよ。
フィーもまたすっかり虜のようだ。
こうして、この町での宿泊が決まったのだった。
そんな話をしていると、停車所に馬車が停まる。
「ほい着いた。んじゃ、心いくまで楽しんでいくと良いよ。」
「あぁ、ありがとな。」
にゃっ。
ありがとね。
礼を言って馬車から降りる。
すると、華やかな花壇と水に冷やされた風が俺達を迎える。
「戦いの疲れを癒すには丁度良いな。行こう、にゃんすけ。」
にゃー!
行こー!
ここにいれば、心も体も癒されるだろう。
そんな、癒しを感じる町を堪能するべく繰り出す俺達だった。