解放を告げる送り火です
「良かったな、ココル。これで解決といきたいが…。」
ココル達の近くに立ったフィーが上を見上げる。
そこでは、顔を歪めた魔族が固まっている。
「あ、が、が、があっ! はぁはぁはぁ。」
意識を取り戻した魔族は、激しく呼吸をしながら下を見渡す。
そして、自身の計画の失敗を知る。
「私の計画がっ。ちっぽけな奴らの分際で!」
「そのちっぽけな奴らに負けたんだ。諦めろ。それとも、まだやるか?」
「ぐうっ。」
低く冷たいフィーの言葉に魔族がたじろぐ。
フィーの周りにいた者達が武器を構える。
「ここまで派手に散らかして何もないとは言わないよな? 清算をして貰おうか。」
「ぐぬぅ、ど、どうすればっ。」
フィー達の圧を受けた魔族が後ろへ下がっていく。
必死に打開策を探すも思いつかない。
その時だった。
グオオオオオオオオオオッ!
「な、なんだ!」
倒れていたドラゴンが起き上がったのだ。
その口からは、迸るほどの強い光が溢れる。
「まずい!」
フィー達が光に包まれる。
次の瞬間、激しい爆発が闘技場に広がる。
戦場に舞う激しい炎と煙。
それが晴れると、地に倒れるフィー達と斧を構えて立つリュノが現れる。
「ぐっ、直撃は防げたけどっ。」
ドラゴンから放たれた光は、リュノが結界で受け止めた。
それでも、衝撃を防ぐ事は出来なかったのだ。
それからも、ドラゴンの攻撃を結界で受け続ける。
その光景を見た魔族が逃げる。
「よくやった! 今のうちにっ。」
「待て! …ちっ。」
追いかけようにも、目の前のドラゴンを放っておく事は出来ない。
その間に、なんとか起き上がるフィー達。
「どういう事だ。こいつはもう死んでいるのでは?」
「見えてるはずだよ。ほら。」
「…そうか、瘴気か!」
ほんとだ!
ドラゴンの体からは、大量の瘴気が溢れている。
あの力が、死んだドラゴンを動かしている。
先日戦った大きな犬のように。
「でも瘴気は出させただろ?」
「肉体の分はね。」
「肉体の?」
「うん。魂が瘴気に染まってる。ここまで行くと、存在そのものが瘴気だよ。」
穢れが溜まりすぎて、ドラゴンの魂にまで及んだのだ。
こうなると、幾ら取り除いても意味がない。
それを聞いてフィーが武器を構えるが…。
「それなら止めないと…ぐっ。」
ちょっ、大丈夫?
すぐに膝をついてしまう。
そして、剣を持つフィーの手も震える。
これまでの戦いと先程の攻撃による疲労のせいだ。
同じくバレットも膝をつく。
「駄目だ。ダメージが多すぎる。」
「なら私が…あれ?」
ココルが立ち上がるも、魔装が解けてしまう。
これでは力も使えない。
「ど、どうして。」
「あれは魔力を沢山使う。初めてであそこまで動けたのは奇跡だよ。」
魔力を失えば魔装も解ける。
これでもう戦える者はいない。
「それならどうすれば。」
「僕が止める。その間に皆は逃げて。」
「一人でか?」
「こいつだけならね。魔族を逃がすのは悔しいけど。」
戦える者がいない以上、逃げるしか方法はない。
それを聞いたフィーは決断する。
「撤退だ! 動ける者は倒れている戦士を! 一人でも多くを連れ出すんだ! 早く!」
フィーが叫ぶと、頷いた者達が動き出す。
バレットの側近やカミーユの従者達が倒れている戦士達を運び出す。
「それだけなら俺達でも!」
「民を守るのが我ら兵士の役目!」
一人一人と戦士達が運ばれていく。
そして、バレットがスタークを肩に担ぐが…。
「いらねぇよ。」
「無事なのか?」
「はっ、こんなのでへばる鍛え方はしてねぇよ。それよりも他の戦士を運べや。」
そうして、二人もまた戦士を運び出す。
更に、入り口の方から鎧を着た者達が現れる。
「兵士です。助けに来まし…。な、な、何じゃこりゃっ!?」
「見れば分かるでしょ! 早く貴方達も運びなさい!」
「は、はいぃ!」
バレットの姉の叱咤で兵士達も動き出す。
そのお陰で、残りの戦士達も運ばれていく。
それを見たカミーユが叫ぶ。
「急いで下さい! フィーさん達も!」
「分かった! さぁ、行こう。」
「うん。」「えぇ。」
ココルとマレーヌも、ウィロを肩に担いで逃げ始める。
それを守るようにフィーが後に続く。
そして、カミーユと合流する。
「すまない遅れた。急ごう。」
「えぇ。」
ウィロを庇いながら出口へと向かう。
脱出までもう少しの筈だった…。
「ぐああっ!」
「ウィロさん!」「師匠!」
ウィロが突然苦しみだしたのだ。
そして、体から瘴気が溢れだす。
「これは、瘴気か!」
「な、なんで。もう大丈夫な筈なんじゃ。」
「えぇ。そのはずですけど。」
カミーユがウィロに手を当てる。
そして、瘴気の出所を探る。
「外から流れて来てる。まさか、ドラゴンから?」
「でももう剥がしたんだよ? どうして。」
引き離した以上は、流れる事はない。
実際に、苦しんでいるのはウィロだけだ。
「まさか契約。強制じゃない本物の契約だから繋がったままなんだ。それを通じて…。」
「そんな。それじゃあ、師匠はどうなるの!」
「このまま蝕まれて、いずれ命も…。」
「そんなっ!」
瘴気を人の身で浴びるには、あまりにも強すぎるのだ。
その内、体が崩壊を起こしてしまうだろう。
そんな様子のフィー達を見たバレットが駆け寄ってくる。
「何をしている! 先の攻撃で闘技場は崩れ始めている。急ぐんだ!」
「し、しかし。」
闘技場は既に限界だ。
崩れる前に逃げないと、崩壊に巻き込まれてしまう。
しかし、それどころではないのだ。
「駄目、顔色が! ウィロさんしっかり!」
「ぐううっ。」
カミーユが呼ぶも、瘴気が増すばかり。
ウィロの顔色も悪くなっている。
それを見てココルが座り込む。
「どうして? 私、助けたのに。なんでこうなるのっ!」
もはや、逃げる気力もない。
ただ、茫然自失と項垂れるだけだ。
「どう…して…。」
ココルの目から涙が零れる。
そして、それを見たフィーの震えが止まる。
「おい! 気持ちは分かるが、早く逃げないとあんたらまでって…なっ、なにしてんだ!」
怒鳴るバレット。
何故なら、フィーがドラゴンへと振り向いたからだ。
「ドラゴンを止める。」
「は? あんたもダメージが蓄積して戦えないはずだ! どうしてそこまでする!」
その言葉通り、フィーもまた限界だ。
それでもフィーは行く。
「決まってるだろ?」
何故なら…。
「友が…泣いているからだ!」
そう言って、フィーは走り出す。
そして、リュノと戦うドラゴンを斬り飛ばす。
「魔族を追ってくれ。」
「良いのかい?」
「あぁ。」
「分かったよ。」
ドラゴンを衝撃で倒して上を越えるリュノ。
そのまま魔族を追いかける。
その代わりに、ドラゴンの前に立つフィー。
「すなない、にゃんすけ。もう少しだけ力を貸してくれ。」
がたっ!
勿論!
一緒に止めよう。
その返事に満足したのかフィーが笑う。
そして、自分の両頬を叩く。
「よし。一本集中。やるぞ!」
がたっ!
おーっ!
そうして、立ち上がったドラゴンへと向かっていく。
まずは、ドラゴンの顔へと一発叩き込む。
「どうだ! …あれ?」
叩かれてもすぐに体勢を直す。
更にその口からは、大量の炎が迸っている。
「まずっ!?」
ちょおっ!?
気づいた直後、大量の炎が押し寄せる。
それを避けるフィーだが、その後を炎が追いかけてくる。
「うおおおおおおおおっ!」
がたがた!
来てる来てる!
ドラゴンを中心に周るように逃げるフィー。
その後を、炎が追いかけてくる。
「ぬあっ!」
そのまま地面に飛び込むと、炎が上を通過する。
なんとか避ける事が出来るも、今度はドラゴンが突っ込んでくる。
「ちょっ!?」
直接狙ってきた!?
すぐに起き上がり回避するフィー。
そのまま走って距離を取る。
すると、そこに再び炎が迫る。
「ぐうっ!」
今度は、フィーも聖火で応戦する。
炎と聖火のぶつかり合いだ。
「逃げるのは終わりだ! 私には、守るものがあるからなっ!」
聖火を出しながら笑うフィー。
守るものがあるから負けられない。
負ける道理などない。
その時、聞き慣れた鈴の音が響く。
チリーーーン。
「この音は?」
その音が聞こえたのは腰につけた鈴からだ。
その音と共に、聖火の威力が増していく。
「な、なんだ!? にゃんすけかの仕業か?」
がたがた。
ち、違うけど。
なんなの?
自身ですら分からない力に困惑する俺達。
すると、どこからか声が聞こえてくる。
「聖火は聖獣の魔力! あなたの思いに答えてくれる!」
「ん? カミーユ!?」
声がした方を見ると、カミーユが立っていた。
魔力とは思いの力。
「貴方の思いはなに?」
「そんなの決まってる! 私と共にいてくれる友を守りたい!」
「なら、その気持ちを聖火に!」
「私に力を! 守る力を! 貸してくれーーー!」
フィーが叫ぶと、聖火の形が変わっていく。
すると、剣が一本の槍へと変わる。
「うおおおおおおおお!」
その槍を前に向けて炎へと突っ込む。
そして、そのまま炎の中を突き進む。
そんなフィーを見てカミーユが笑う。
「やっぱりだ。やはり貴方はクリスフィア。そう、私の初めての…友。」
笑うカミーユの前で、フィーが炎を突っ切る。
そして、ドラゴンの顔を突き刺す。
「はっ!」
その一撃で、ドラゴンの顔が持ち上がる。
ついでに傷口から瘴気が溢れる。
更にフィーは、槍を剣に戻して首を斬る。
「もっとだ!」
体勢を直したドラゴンの頭突きを、滑って避けて足を斬る。
「軽い。」
相手が足を滑らせた所で、剣を槍に変えて突き飛ばす。
「体の疲労が消えていく。」
その隙に、槍を剣に戻して斬り飛ばす。
「力が段々湧いてくる。」
倒れたドラゴンを斬って斬って斬っていく。
「私の思いに答えてくれる!」
それでもドラゴンが立ち上がる。
口には炎が迸る。
それに対して、フィーは剣を鞭に変える。
「はあっ!」
鞭をドラゴンの首に巻き付け振り下ろす。
それにより、ドラゴンの顔が地面へと叩きつけられる。
そして、振り下ろした力を利用したフィーが高く跳ぶ。
「終わりだ。」
高く跳んだフィーは、鞭を斧へと変える。
そして、ドラゴンの顔へと振り下ろす。
「お前ももう楽になれ!」
その一撃がドラゴンの頭を砕く。
ドラゴンは、大量の瘴気を出したまま動かない。
それでも瘴気は漂ったままだ。
そんなドラゴンの周りに、子供の竜が集まってくる。
キュウウウウン。
悲しそうに涙を流して寄り添っている。
「フィーさん、聖火で燃やしてあげて下さい。そうすれば、瘴気と共にドラゴンの魂は清められる。もう、誰も苦しまずにすみます。」
「分かった。」
フィーがドラゴンを聖火で燃やす。
すると、瘴気が浄化されていく。
そして、ドラゴンからでた煙が空へと昇っていく。
それを見上げる子供達。
キュウウウウン!
子供達に見守られながら、親の魂も昇っていく。
穢れからの解放を告げる送り火の煙と共に。