親の愛情は子供へと
「そうだな。一緒にだ。」
一緒にだね。
そう言って、フィーがココルの横に並ぶ。
一緒に救うという大事な約束を果たす為に。
「行くぞ!」
「うん!」
行こー!
共に並んで駆け出すフィーとココル。
二つの影へと武器を振るう。
「はっ!」「てやっ!」
そのまま相手へ直撃。
しかし、簡単に弾かれてしまう。
その隙へ二つの影が反撃に出る。
「ココル!」
「うん、当たっちゃ駄目なんでしょ?」
迫る攻撃を二人で逸らす。
しかし、ココルが押し込まれる。
そんなココルへとスタークが迫る。
「くっ。」
「おらっ!」
守ろうとするココルだが、迫るスタークが吹き飛ぶ。
代わりに、武器を振るったバレットが現れる。
「師匠とやらを助けたいんだろう? 行ってこい。」
「ありがとう!」
再びスタークへと武器を振るうバレットを横目にココルが走る。
そして、ウィロの攻撃を逸らしているフィーと合流する。
「合わせて!」
「あぁ!」
迫るココルの拳をウィロが回避。
そこでフィーが剣を振るうも逸らされる。
それでもと、今度はココルが殴りかかる。
それを避けられるも、今度は二人合わせての攻撃を繰り出す。
「はっ!」「はあっ!」
その攻撃を避けたばかりのウィロは防げない。
そのまま攻撃を受けたウィロは吹き飛ぶ。
「よし。このまま攻めるぞ。」
「うん!」
こうして、二人の連携で追い込んでいく。
そして、バレットもまた起き上がったスタークへと武器を振るう。
「折角見せた隙だ。逃すものか!」
体勢を立て直される前に攻撃を与える。
先程された事をやり返しているのだ。
こうなれば、形勢逆転と言っても良いだろう。
しかし、そんな様子を魔族は喜ばない。
「くそっ、くそっ。どうしてだ。最強の軍団が。どうしてだっ!」
いくら強くしても敵わない。
最強の戦士が押されていく。
「ぐうっ、こうなればお前達も行くのだ!」
そう言って、地に倒れた戦士達にも針を飛ばす。
すると、その戦士達も瘴気の影に飲まれて暴れだす。
「「「グアアアアアアアアアッ!」」」
起き上がった戦士達は、すぐさま飛び上がる。
そして、攻勢を強めるフィー達へと襲いかかる。
「しまっ。」
攻めを弱めれば押し負ける。
避ける事など不可能だ。
その時、一陣の風が戦士達を吹き飛ばす。
「なっ、今度はなんだ!」
驚きと怒りで叫ぶ魔族は、風の魔法が飛んできた方を見る。
すると、そこには一人の女性が立っていた。
「あ、あねさん!」
その女性はバレットの姉だ。
そんな姉は、自身を呼んだ側近を睨む。
「何をしているのかしら? 驚いている暇があるなら戦いなさい!」
「で、でも、俺達じゃ…。」
「早く!」
「はいぃぃぃっ!」
問答無用に命令するバレットの姉。
そして、戦士達を飛ばしながらバレットと戦うスタークを蹴り飛ばす。
「ドレスが汚れるのは嫌なんじゃ?」
「勿論。でも、それよりも家紋が汚れる方が嫌ですもの。落ちたとは言え貴族。平民より早く逃げる事はあってはならないわ。今頃は、他の貴族も観客を匿ってる頃でしょうね。」
民を見捨てる貴族は恥さらし。
誇りある家紋に泥を塗る行為だろう。
それを許すほど、落ちてはいない。
「それに、逃げる主催者を拾った所、事態を止めればお金を頂けると約束をして貰いましたもの。ならば、こうやって汚れるのもやぶさかではございませんわ! ほーっほっほっ!」
「そっちが本音じゃねぇか! どうせ約束もさせたんだろ?」
「黙りなさいな。ほら、来るようですわよ。」
扇子を前に向けるバレットの姉。
その先では、スタークが立ち上がろうとしている。
それを見てバレットが前に出る。
「足引っ張んなよ!」
「その言葉、お返しするわ!」
バレット姉弟がスタークへと攻撃を始める。
事態が更に好転する。
すると、ついに魔族が動き出す。
「ぐぬぅ。こうなれば私がっ…。」
「ばん!」
手を掲げた魔族へと、強い衝撃波が直撃する。
そして、それを飛ばしたリュノが現れる。
「させないよ。」
「リュノさん!」
「集中! 目の前の相手を見て!」
呼ばれて意識を戻したココルは、フィーと共に攻撃を続ける。
その横では、バレット姉弟も攻撃を続ける。
それを邪魔するものは、側近とリュノが止める。
「負ける気がしないな。今度こそ決着をつける! 行くぞ!」
こうして、お互いの総力戦が始まる。
しかも、形勢はこちらが上だ。
そんな中、ココルがウィロと打ち合う。
「見えるよ、師匠。」
避けられたフィーの前にココルが出る。
そして、ウィロの攻撃を捌いていく。
次にどう来るのかが分かるのだ。
「何度もこうして打ち合ったもんね。」
それは、牧場にいた時の記憶だ。
来る度に、戦い方を教えて貰っていた。
その時の記憶が、ココルを動かす。
「とは言っても、あの時は手加減されてんだけどね。」
当然ながら、本気で打ち込んで来る訳がない。
でも、どう動くのかは分かる。
誰よりも、その動きを間近で見てきたから。
「全て師匠が教えてくれたもの。ううん。師匠とママがくれたもの。」
マレーヌもまた、牧場での働き方を教えてくれた。
そうして、同世代の誰よりも体は強くなった。
マレーヌとウィロによって、生き方を教えてくれたのだ。
「全てを失った私にくれた大事なもの。だから分かるんだ。二人が私をどれだけ思ってくれたのか。」
家も家族も失った自分への贈り物。
それは愛情だ。
そして、大事な家族と結ぶ絆。
『ありがとうね。引き取ってくれて。』
『ううん。それよりも名前はどうする? 聞いても分からないって。』
『確か記憶が無いんだっけ。確かに、呼ぶ時に困るかな?』
そう言って、師匠は寝ている私へと布団を被せる。
そして、ママが私の頭を撫でる。
『じゃあココルはどうだ?』
『あの弾ける実の事?』
『うん。あんな風に弾けるような元気な子になりますようにって。』
『良いわね。でも、それぐらい元気に育っちゃうと大変かしら。』
『確かに。ははっ。』『ふふっ。』
そうして、名前通りに育った私は牧場の仕事を始めるのだった。
『ママ! 一匹逃げた!』
『大変っ、すぐに追いかけて!』
『了解! 誰が捕まえれるか競争だ!』
元気に家畜を追いかける日々。
牧場の仲間も増えて、寂しい気持ちも無くなった。
そして、時々来る師匠に戦い方を教わる。
『こうしてこうだ!』
『こうしてーこう!』
『良いぞ!』
こうして私は強くなった。
牧場を襲う魔物を追い払えるぐらいには。
そして、頑張った時はママが美味しいご飯を作ってくれる。
『師匠! 食べ過ぎ!』
『いやいやそっちこそ。』
『はいはい。まだあるから取り合わないの!』
仲良く食べる食事の時間。
私にとって大事な時間。
家族の絆が一番強く感じられるから。
そして…。
『もっと元気に育てよ。』
『誰よりも元気にね。だって貴方は大事な家族なんだから。』
疲れて眠る私を覗き込む二人。
そこにあるのは私への愛情。
「ありがとう。見ていてくれて。」
ココルの鎧が姿を変える。
「ありがとう。色々教えてくれて。」
鎧が人工物の鎧へと姿を変える。
「ありがとう。私に沢山の物をくれて。」
そして何より、ココル自身も変わるのにフィーが気づく。
「ココルが成長した?」
その姿は、大きく成長した姿。
フィーと同じ程までに成長したのだ。
その姿で、ウィロへと殴りかかる。
その姿を見てリュノが呟く。
「魔装だね。」
「魔装?」
「うん。聖獣の心装の魔物バージョンだよ。」
魔物を纏う力の最高地点。
親からの愛情がココルを導いたのだ。
それを聞いて魔族が悔しそうに唸る。
「魔装だとぉ!? いくら実験してもならなかったのに!」
「当然だ! 魔物は装備、精霊は肉体。纏うものは違えど本質は同じ心によるもの。無理矢理奪うやり方で至れる訳がない!」
「くそがっ! なら、私の実験はっ!」
心の力で強くなる。
それが無くなれば、何を力に纏えというのだろうか。
その力によって、ココルがウィロと対等に打ち合い始める。
「うおおおおおおっ!」
「ウガアアアアアッ!」
拳を出しては防ぐの繰り返し。
その動きは尋常ではない速さまで到達する。
そして、少しずつココルが押していく。
「大丈夫だよ。」
目の前のウィロへと声をかける。
「ちゃんと、届いているからね。」
いつも自分を思ってくれていた気持ちは、確かに自分の胸の中にある。
「だから。」
その気持ちを拳に込める。
「今度は私がっ、届ける番だ!」
届いた事にお返しをするように。
届いた事を伝える為に。
気持ちを込めた拳をウィロへと叩き込む。
「グアアアアッ!」
鎧を受けたウィロは吹き飛ぶ。
その一撃で鎧が碎けて瘴気が溢れる。
それを見たリュノが叫ぶ。
「効いてる。でも、まだ残っている。あと一息があればっ!」
ウィロを救う事が出来る。
その時、その一息が現れる。
「ウィロさーーーーん!」
「ママっ!?」
どこからか、マレーヌが現れた。
そして、姿を変えたウィロへと呼び掛ける。
「ウィロさん! 私は無事よ! 目を覚まして!」
「ウガ、ガガアアアアアアアアッ!」
そのマレーヌの声でウィロが叫びだす。
呼びかけに答えるように苦しんでいる。
「ウィロさん!」
それでもマレーヌは呼びかける。
そんなマレーヌへと魔族が指をさす。
「余計な事をっ。雷よ!」
魔族の指から雷が放たれる。
それは、一直線にマレーヌへと向かうが…。
「お返しします!」
その間に現れたアイナが雷をなぞるように指を振る。
すると、雷が術者へと返っていく。
「ぐうっ。」
直撃を受けた魔族へと雷が拡散する。
その間に、マレーヌの横へカミーユが現れる。
「続けて!」
「ありがとう! ウィロさん!」
何度も何度も呼び掛ける。
そのお陰か、瘴気が更に吹き出てくる。
それを見てカミーユが叫ぶ。
「リュノさん! 今です!」
「充分だよ。行くよ、キール。」
『あいあいご主人。』
どこからか現れたコウモリのような魔物がリュノの斧に取り付く。
コウモリが斧を被るように包み込むと姿を変える。
そして、そこから大量のコウモリが飛び出す。
「魔装、ダ・ダイン。」
そうリュノが呟くと同時に、大量のコウモリが姿を変える。
すると、そのコウモリ達から一定のリズムの音が出始める。
「ぐっ、なんだこの不愉快な音は!」
苦しそうに耳を押さえる魔族。
その間にも、音が反響し闘技場全体へと広がる。
その音で、竜の戦士達が戦いを止めて叫びだす。
「「「ウオオオオオオッ!」」」
「な、なんだ?」
訳も分からずに周りを見渡す一同。
音に合わせるように叫んでいる竜の戦士達。
そして、苦しそうに魔族が顔を振る。
「いい加減にしろ! ぶっ殺してや…。いや、違う。確かに不快だが、そこまで怒るようなものじゃない。まさか、これがこの音の正体か!」
「正解だよ! 言ったよね? 本質は同じ心によるものって! 心と感情は裏表! 混ざったもの同士の感情を昂らせて剥離を起こさせる!」
この音を聞いた者の感情は、どこまでも大きく膨れ上がっていく。
それが、竜の戦士達を苦しめているのだ。
そうして、人と竜の感情をぶつけ合って反発させる。
実際に、苦しむ竜の戦士達が人と竜に戻っていく。
「やめろ! ゆるさんぞーーーーーー!」
怒りに飲み込まれる魔族。
そのまま怒りに我を失う。
「いい忘れてたけど、感情が昂った奴は知能が溶ける。気を付けよう。」
「なるほど。って、おい! それを先に言え!」
ほんとだよ!
って怒っちゃう所だった。
セーフ!
敵味方問わずの無差別攻撃だ。
それを聞いて慌てて耳を塞ぐフィー。
そしてついに、ウィロとスタークも解き放たれる。
「ガアアアあああああああっ!」
「師匠!」「ウィロさん!」
解き放たれて倒れるウィロ。
そんなウィロを、マレーヌとココルが支える。
「僕…は…。」
「良いんだよ。もう良いの。」
「でも…泣いて…。」
「大丈夫だよ。」
ウィロの顔に涙が落ちる。
でも、もう大丈夫。
それは、喜びの涙だから。
「おかえり。」「おかえり。」
こうして、竜の戦士の軍団は終わりを向かえたのだった。