始動する闇です
戦士達を睨むドラゴン。
その直後、いきなり飛び上がってのしかかってくる。
「避けろ!」
それを飛びのいて避ける戦士達。
すると、その隙を狙ってスタークが襲いかかる。
「戦いどころじゃねぇ。すぐに片付けて観客を助けに行くぞ!」
「あぁ。」「だな。援護しよう!」
その後を、他の戦士達が続く。
しかし、ドラゴンによる振り向きからの炎で追い払われてしまう。
「ちょこざいなっ。」
「直進では無理だ! 別れて回り込もう!」
「いい考えだっ。囲むぜ!」
フィーの提案にのった戦士達が別れていく。
四方に分かれて攻撃を仕掛けるも、宙に飛ばれて避けられる。
そこから火の玉の攻撃で戦士達を払う。
「くそっ。時間をかけてられないってのに。」
悔しそうに剣を構えるバレット。
そんなバレットの下に部下達が集まってくる。
「やべえって。あねさん、観客席にいるんだろ? 助けに行った方が良いんじゃねぇか?」
「そうしたいのはやまやま何だが…。」
ズドーーーーン。
バレットが言いかけた直後だった。
観客席の一部で激しい突風が起こる。
それにより、観客席を襲う炎が散らばっていく。
「ちょっと、どうなってるの! 戦いは? 決着は? 賞金はーーーーっ!?」
そう叫ぶのは、バレットの姉だ。
叫びながら、手の扇子を振るって更なる突風を起こす。
「大丈夫…そうだな。」
「あの調子じゃ、しばらく近づかない方が良いかな。」
八つ当たりを受けるのを予想してげんなりするバレット達。
しかし、その怒りのお陰で観客が助かっている。
しかも、それだけではない。
「騒がしいと思って来てみたらどうなってるやがんだっ。」
「知らねぇが今は助けるしかねぇだろ。おら、低ランクの奴は怪我人を! そうじゃない奴は飛んでるのを落とせ!」
下のフロアから、続々と戦士達が出てくる。
騒動を聞いて駆けつけて来てくれたようだ。
観客席を助ける為に動き出す戦士達。
それを、ドラゴンの攻撃を避けたスターク達が見届ける。
「へっ。やれば出来るじゃねぇか。」
「これで奴に集中出来るな。こっちも急いで落としてしまおう。」
観客の問題はどうにかなりそうだ。
そちらは他の戦士達に任せてドラゴンを見る。
それと同時に、ドラゴンが火の玉を吐く。
「いい加減に、しろ!」
その火の玉を、スタークが拳で砕く。
そして、そこからの突進。
そのまま素早く接近すると、ドラゴンの頭を殴り飛ばす。
「続け!」
スタークの言葉と共に、他の戦士達が飛び出す。
そして、ドラゴンへと強力な一撃を与えていく。
すると、口から黒い塊を吐いたドラゴンは呆気なく倒れてしまう。
「なんだ? 思ったより呆気なかったな。」
「ありがたいじゃないか。今の内にとどめをさそう。」
「賛成だ。」
バレットの言葉に頷いたスタークは、倒れたドラゴンへと向かう。
倒れているとはいえ、死んではいないのだ。
そんなドラゴンへととどめをさそうと、拳を振り上げた時だった。
カキーーーーン。
スタークの拳が、いきなり現れたウィロによって防がれたのだった。
「なっ、何をしてやがる!」
「倒した者に点数が入る。横取りは良くないよ?」
ルール上では、ドラゴンを倒した者に点数が入る。
しかし、もうそれどころではないはずだが…。
「なに言ってんだ! それどころじゃねぇだろ!」
「いいや。主催者が言ってただろ? 戦いを続けろって!」
そう言って、ウィロがスタークをはねのける。
そんなウィロへと他の戦士達が集まる。
「ウィロ! 何をしているのか分かっているのかっ。」
「勿論だよ。そっちこそ、ここがどこだか分かっているんだよねっ。」
そう言って、駆け出したウィロがフィーへと拳を叩き込む。
そのままフィーが、空飛ぶ竜と戦うココルの下へと飛んでいく。
「フィーさん! 師匠、何して…。」
「悪いけど、大人しくしててくれっ。」
今度はココルに急接近するウィロ。
そのまま、フィーの時と同じく蹴りを繰り出すが…。
「きゃっ。」
「させん!」
ココルの前に出たバレットがウィロの蹴りを止める。
ウィロの足とバレットの剣が押し合う。
「血迷ったか!」
「ここは闘技場だよ。そっくりそのまま返すよっ!」
剣を足で逸らしたウィロは、バレットへと拳を叩き込む。
そんなウィロへと、スタークが迫る。
「くそが。どうやら、先に分からせる必要があるみたいだなっ!」
「うん。それで良いんだよっ!」
バレットとウィロの拳がぶつかり合う。
そして、お互いに互角に押し合う。
「そんなに優勝したいのか! 観客の命を放っておいてでもっ!」
「逆だよ。助ける為に勝つ必要があるのさっ!」
お互いに拳をずらして空かせると、今度はお互いに腕で打ち合う。
「助ける為? なら、今助けろよ!」
「それだと助けれないんだよっ。」
押し合って離れる二人。
すると、スタークがウィロへと拳を振るう。
「おらっ!」
「ふっ!」
それを片手で逸らすと共に、もう片方の手の拳を突き出す。
しかし、スタークもまた空いた方の手で逸らす。
そこへ、ココルが駆け寄る。
「師匠! もう止めようよ!」
「いや、止まる訳にはいかないんだっ。」
スタークから離れたウィロは、一歩後ろに下がる。
そしてすぐに、前へと拳を突き出す。
それに対して、スタークもまた拳を突き出す。
「うおおおおおおおっ!」
「うおおおおおおおっ!」
激しい衝突と衝撃が辺りに響く。
今度は、お互いの腕が震える程強く押し合う。
「流石だチャンピオン。全てを感だけで捌くなんてねっ。」
「てめぇに褒められても嬉しくねぇよ!」
「そうだね。でも、貴方にも一つ弱点がある。」
「あ?」
スタークが疑問を持った直後、後ろの観客席が大きく爆発した。
「「「うわああああああああっ!」」」
「なっ。」
爆発の原因は、首だけ起き上がったドラゴンの火の玉だ。
直撃を受けた場所は、他よりも強く燃えている。
そんな観客席へと、スタークが意識を持っていかれた瞬間だった。
「貰ったよ。」
「しまっ…。」
ウィロが拳を緩めた事により、スタークが体勢を崩して前に出る。
そして、その下に潜り込むように体を入れるウィロ。
「僕の勝ちだ。」
そう言って、スタークの胴体へと全力の一撃を入れる。
「ぐあっ!」
強烈な一撃を受けて転がるスターク。
すぐさま起きようとするも、息を吐き出して倒れてしまう。
「くそうっ。」
悔しそうにウィロを睨むスターク。
その視線の先で、ウィロがドラゴンへととどめをさす。
この勝負、ウィロの勝利だ。
そんなウィロを、悲しそうな目のココルが見る。
「師匠、どうして…。」
「ごめんココル。そして、皆。」
うつむいたままのウィロが、誰にも聞こえないように呟く。
しかし、すぐに気持ちを切り替えて主催者を見る。
「この戦い、僕の勝ちだ。約束通りここまで来たよ?」
そう主催者に問いかける。
まるで、最初から計画されていたかのように。
そんなウィロをスタークが睨む。
「は? てめぇらぐるだったのか。今回のもてめぇらが仕組んだんだな。なぁ、主催者!」
「ち、違う。我々じゃない。そうだよな?」
「えぇ、わ、私達ではありません。」
スタークの問いを慌てて否定する主催者の夫婦。
実際に、ウィロが目を合わせているのはこの二人ではない。
「でも、てめぇらの指示でドラゴンは動いた。どう説明すんだ!」
「言われても知らないんだ。なぁ息子よ。違うよな? な、何とか言ってくれ。」
主催者の夫が息子に詰め寄る。
しかし、息子は顔一つ動かさない。
その代わり、拍手を始める。
「な、何を…。」
親を無視して、拍手を強めていく。
今までの戦いの健闘を称えるかのように。
そして、次第に拍手が弱くなると拍手を止める。
「ご苦労、よく頑張ってくれた。」
そう言って、口元を歪め凶悪な笑顔を浮かべる。
「やっぱりじゃねぇか!」
「ち、違う! 違うよな?」
「そうよ。違うと言って!」
それでも、両親の声に息子は見向きもしない。
代わりに、ウィロへと一枚の板を放り投げる。
「戦士ウィロよ、約束を果たす時だ! さぁ、受け取れ!」
放り投げられた板は、ウィロの足下へと落ちる。
それを、ウィロが拾い上げる。
「師匠、何する気なの?」
「決まっている。助けるんだよ。」
そう言って、拾った板を見せつける。
そこには、魔方陣のような紋様が描かれていた。
「あれって。」
「契約札、だね。」
「契約札?」
人と精霊、それと魔物を繋ぐ力。
それをなす事が出来る札が輝きだす。
「なるほどね。こんな、簡単な事に、気づかなかった、なんて。」
「どういう事なの? リュノさんっ。」
「見ての、通り、だよ。あれが、彼のっ。」
何かを言い終わる前に、契約札の光が広がっていく。
そして、ウィロとドラゴンを包んでいく。
その光景に、一同の視線が集まる。
「おい見ろ! 闘技場が光ってるぞ!」
「今度は何だ!」
「知らねぇよ!」
周りが状況も掴めぬまま、光は強くなっていく。
そんな光の中のウィロへと叫ぶココル。
「師匠!」
「駄目だ! 危険、だよ!」
「で、でも師匠がっ!」
いてもたってもいられないのだろう。
しかし、近づくだけで危険だ。
そして、光はウィロの姿を隠していく。
「師匠っ!」
そう叫ぶココルへと、ウィロが優しく笑う。
「ごめんココル。後を、マレーヌさんを、頼んだよ。」
そう呟くと、ついにウィロが光の中へと消えていく。
その光へと叫ぶココル。
「ししょーーーーっ!」
それを見て、主催者の息子が嬉しそうに笑いだす。
「さぁ生まれよ! 最強の戦士!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
ウィロの雄叫びと共に収束する光。
そして、その姿が現れる。
ベースは人間。
しかし、各所の体のパーツがドラゴンのパーツへと変化している。
体全体を覆うのは、ドラゴンの体のような鎧。
そして、その背中には大きな翼が生えている。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」
そんな姿へと変わり果てたウィロは、全てを吐き出すように咆哮する。