事態急転です
『現れるは、最上位の生き物! 果たして、戦士達を止める事が出来るのかっ!』
「「「わああああああああ!」」」
「行け! スターク!」
「お前の力を見せてやれ!」
咆哮に負けじと観客達が声を張り上げる。
見上げないと確認出来ない程の大きさの竜。
その竜は、尻尾を振り上げて目の前のスタークを襲う。
「おっと。」
それを横に転がり避ける。
代わりに、地面が砕けて破片が舞う。
しかも、その衝撃は戦場全体に広がる。
「中々やるじゃねぇか。こういうのを待ってたんだよ!」
圧倒的な力を見せられてなお突っ込むスターク。
竜へと一気に近づき飛び込んで、全力の一撃を与えるが…
「かてぇ!」
竜の体には、傷一つ着いてない。
むしろ、その衝撃がスタークの拳へと返ってくる。
更に、尻尾の一振りで吹き飛んでしまう。
「良いね良いねぇ! やれば出来るじゃねぇか闘技場!」
楽しそうに笑いながら着地するスターク。
軽くあしらわれたにも関わらず、やる気が上がっているようだ。
そんなスタークと入れ替わるようにウィロが飛び出す。
「これならどうだい?」
今度はウィロの一撃が炸裂する。
しかし、その一撃ですら通じない。
「ぐうっ。まいったね、固すぎる。」
「それが良いんだろ!」
そう言って、スタークが再び殴りつける。
しかし、それでも通じない。
すると、二人まとめて竜の頭突きによって空を舞う。
『なんと! 最強の一撃を誇る二人の一撃が通じない! どうなっているんだ! そして、ここで更なる援軍だ!』
司会者の声と共に、沢山の影が空を舞う。
それらは、翼を生やした小さな竜。
そして、フィー達にとって因縁のある相手。
「やはり来たか。とんでもない時に現れたな。」
「フィーさん、こっち来てる!」
空飛ぶ竜の一匹がこちらへと降りてくる。
そして、俺達に向かって炎を吐く。
「うおっ。」「うわっ。」「わっ。」
ぎゃーす!
それを飛び込むように避ける俺達。
空飛ぶ竜は、そのまま通過して飛んでいく。
その先で、多くの空飛ぶ竜が戦士達に火を吐いている。
「くそっ。こんなの牧場を襲った時はしなかったぞ。」
「命令、されて、たんだね。」
牧場を火で襲わなかったのは、指示をされてたから。
しかし、闘技場では本気で戦士達を焼きに来ている。
「無視をしてたら丸焦げか。」
「って前! 来てる!」
「前?」
ココルの声に前を見ると、大きい方の竜が迫っていた。
今回の的は、空飛ぶ竜だけではない事を忘れてはならない。
「ぐうっ、にゃんすけ!」
あ、あいよっ!
すぐにお面に変身した俺をフィーが被る。
そして、すぐに前へと踏み出し剣を振るう。
「このっ!」
大きな竜と剣との衝突。
激しい衝突音と衝撃が広がる。
しかし、すぐに弾き飛ばされてしまう。
「ぐあっ!」
「フィーさん!」
飛ばされたフィーを見るココル。
そこに、大きな影が落ちる。
「来る、よ!」
「え?」
リュノの声で大きな竜を見ると、そこには大きな尻尾が迫っていた。
「くっ。」「ていっ。」
ココルとリュノの一撃が尻尾を止める。
筈だったが、呆気なく払われてしまう。
そして、そこへと尻尾を振り上げる大きな竜。
「危ない!」
「くっ。」
先程の地面を砕いた攻撃だろう。
倒れたばかりで避ける事が出来ない。
そんなココルとリュノへと尻尾が振り下ろされた時だった…。
「ココルーーーーっ!」
「ココルーーーーっ!」
叫ぶフィーの声に被さるように、別の叫び声が聞こえてくる。
次の瞬間、飛び込んだウィロが尻尾を殴り飛ばす。
「し、師匠!」
ココルに呼ばれたウィロは、そのまま地面へと着地。
しかし、そこへと振り返った大きな竜の頭突きが迫る。
「全く、世話の焼ける子だ。」
「師匠…。」
それでも、ウィロは落ち着いたままだ。
その顔には、久しぶりの笑顔が浮かんでいる。
「良いかい? ココル。拳ってのは。」
そう言って、腰を落とすウィロ。
そして…。
「こう打つんだ!」
迫る頭へと拳を突き出してからの衝突。
すると、その一撃で鱗が砕かれ顔面が大きく逸れる。
『く、砕いたーーーーっ! なんと、強固な鱗を砕いてしまいましたぁ! 流石は一撃の戦士! その拳に砕けぬものはない!』
「いい一撃だ!」
「もっと見せてくれ!」
観客が盛り上がる中、汗を拭って一息をつくウィロ。
その背中を、ココルは嬉しそうに見つめる。
「私を守ってくれた。やっぱり師匠は師匠なんだ。」
ココルを守る為に危険をおかしてくれたのだ。
どう変わっても、それだけは変わらない。
それが嬉しいのだ。
そんなココルの前で、ウィロが大きな竜へと立ち向かう。
しかし、その横からスタークが飛び込んでくる。
「やるじゃねぇか新人! こっちも踏ん張らねぇとな!」
そう言って、大きな竜を殴り飛ばすスターク。
鱗は砕けなかったものの、殴り飛ばす事は出来た。
スタークもまた本気で挑み始めたようだ。
そこに、バレットも合流する。
「ようやく傷が癒えた。遅れを取り戻す!」
「おう。行っちまえ!」
部下と共に、飛ぶ竜を落としながら迫るバレット。
そして、起き上がった大きな竜の鱗を叩き斬る。
「私達も行くぞ! ウィロの援護だ!」
「うん!」「おー。」
がたがた。
おー。
出来る事はあるはずだよ。
頑張ろう。
炎を掻い潜りながらも前に出る俺達。
ココルとリュノが空飛ぶ竜を押さえている間にフィーもまた合流する。
こうして、一同が大きな竜へと仕掛けていく。
『なんて事でしょう。押されていたのが押し返していく。もうこいつらを止めれる奴はいないのか!』
大きな竜の尻尾による一振りをウィロが避ける。
そこに、竜の体へとバレットの剣が叩き込まれる。
それをはねのけた竜が尻尾の追撃。
そこで、その尻尾の下を潜ったフィーが胴体へと飛んで叩き斬る。
その一撃で怯むも、体勢を直してフィーへの頭突き。
それをフィーが避けると、代わりにスタークが頭突きを止める。
「おら! ひっくり返りな!」
脇で首を押さえると、そのまま横へと押し倒す。
そこに、一同の攻撃が叩き込まれる。
すると、ついに胴体の鱗も砕けてしまう。
「仕留めるのは俺だ! 邪魔するな!」
「おいおい、早いもの勝ちだろ?」
「当然だ! それが闘技場の掟!」
「全く、血の気が多い奴らだ。」
言い争いをする戦士達。
同時に倒してしまうと、平等に点数が入ってしまう。
だから、ここで他のチームを引き離したいのだろう。
「ん? まだやろうってのか?」
「でも、もう限界みたいだね。」
そうしている間にも、大きな竜が立ち上がる。
立ち上がったものの、大きな竜はふらついている。
最後の気力で立ち上がっているのだろう。
「んじゃあ、とどめをさしてやろうか!」
「させないよ!」「させん!」「させるか!」
一斉に走り出す戦士達。
とどめをさそうと争うように武器を振るった時だった。
開いた鉄格子があった場所から火の玉が飛んできた。
そのまま一直線に飛んだ火の玉は、大きな竜へと着弾。
それにより、火の玉は大きな爆発を起こす。
「「「「っ!?」」」」
ちょっ!?
それによる爆風で戦士達が吹き飛ぶ。
戦士達はそのまま着地。
しかし、直撃を受けた大きな竜は吹き飛んでしまう。
「もう次のウェーブか?」
「司会者! どうなってるんだ!」
『え? えーと、私に言われましても。』
動揺したかのように慌てて紙を捲る司会者。
その慌てぶりから、予定にない事が起きているのは間違いない。
そうこうしている内に、開いた鉄格子があった場所から叫び声が聞こえてくる。
「おい! お前は次のウェーブの…ま、待て!」
慌てるような叫び声だ。
直後、激しい光と共に爆発音が聞こえてくる。
「おい、何が起きてるんだ?」
「知らねぇよ。こんなの初めてだ。」
「俺もだ。何か問題が発生したのか?」
フィーの質問に、スタークとバレットが動揺する。
どうやら、闘技場常連の二人でも知らないようだ。
この現状に、観客席からも動揺が聞こえてくる。
「どうなってんだ?」
「さぁ、何か問題でも起きたんじゃないか?」
「こんな時にか? おいおい、勘弁してくれ。」
動揺が動揺を呼び、広がっていく。
しかし、すぐに収まる。
そいつの出現によって。
ズドーーーーン。
激しい音と共に、敵の待機所ごと施設が吹き飛んだ。
そして、そこから一つの影が飛び出してくる。
ギャオオオオオオン!
それは、空を飛んでいる竜と似た姿。
しかし、首は伸びて左右に両手が付いている。
その姿はまさに…。
「ドラゴン…だと?」
誰もが知る、生き物の頂点に立つ存在。
誰もが恐れ、憧れる強さの象徴。
なのだが…。
「何だ? 何かを纏ってやがる。」
「沼地からでも引っ張って来たのか?」
「沼地? いや、違う。あれは…瘴気だ!」
何度も見てきた黒い物体。
間違いなく瘴気だろう。
そんな瘴気を全身に纏ったドラゴンは、再び咆哮する。
その時だった。
「うわああああああああっ!」
「っ、今度は何だ!」
叫び声が聞こえて来たのは観客席だ。
そちらを見ると、観客席が激しく燃えていた。
しかも、それだけじゃない。
「わああああああああ!」
「きゃあああああああ!」
あちこちの観客席が燃え上がる。
それをしているのは空飛ぶ竜だ。
「おいおい、どうなってんだ!」
「おい、司会者!」
『ええっ、いや、えーーーっと。私もさっぱりで…うひゃあ!』
空飛ぶ竜の口から出た炎が司会者の席を襲う。
司会者も自分の身を守るので精一杯だ。
そうなると、問い詰める相手は一つしかない。
「おい主催者! どうなっている!」
「ええーと、い、今、けけけけ警備に連絡しててて、今すぐ配置をっ。しかし、数が足りなくて止めれるかどうかは…。」
「うるせぇ! とっととやれ!」
「は、はいぃ!」
そうして、慌てるように職員へと話す主催者。
そして、ばたばたと慌ただしくなる。
主催者にも、状況が掴めていないようだが…。
「ったく、俺達も…。」
「続行!」
「は?」
その声は、主催者の席から聞こえてくる。
そちらを見ると、先程よりも若い青年が立っていた。
「命令だ! 戦いを続けよ!」
「続けよって、何言ってやがる! そんな状況じゃねぇだろ!」
スタークが叫ぶも、青年は顔色一つ変えない。
そんな青年へと、先程の主催者が掴みかかる。
「な、なに言ってるんだ! 観客を助けないと!」
そう呼び掛けるも、そちらを見ようともしない
代わりに、宙のドラゴンへと指をさす。
「やれ!」
そう命じた直後だった。
ドラゴンが戦士達へと火の玉を吐く。
「なっ。まじかよ!」
その火の玉は、スタークの拳によって破壊される。
それによる激しい爆発音と共に煙が視界を奪う。
「くそっ。ふざけやがって…。」
「おい! 危ないぞ!」
「っ!」
フィーの声で、それに気づいたスタークが飛び退いた。
その直後、スタークがいた場所にドラゴンが落ちてくる。
そして、戦士達へと咆哮する。
「まじでやるんだな。くそがあっ。」
どうやら、観客を助けに行く事は出来ないようだ。
今にも襲いかかろうとするドラゴンに、戦士達は武器を構える。