準備万端、いざ決勝です
決勝の日の朝だ。
準備を済ませた俺達は、待機所へと向かう。
「フィーさん体調は?」
「もうばっちりだ。いつも通りに動けるだろう。任せてくれ。」
二日前みたいにしんどくなさそう。
大丈夫そうだね。
「ふふ。やる気、充分、だね。頑張ろう。」
「あぁ。よろしく頼むぞ。」
にゃ。
僕もだよ。
一杯暴れるからね。
「そうだな。にゃんすけも一緒にだ。」
お互いの様子を確認し合う俺達。
準備も体調も大丈夫なようだ。
これで問題なく挑む事が出来る。
「よし。準備は万端だ。行こう!」
そうして、気合いを入れた俺達は待機所へと入るのだった。
そこでまず目にしたのは、ウィロと筋肉質な男の二人だった。
「やっぱりここまで来ちゃったんだね。」
「私達にも譲れない物があるからな。」
引くつもりはないよ。
俺達だってマレーヌさんを助けたいからね。
助けたいという気持ちは負けてない筈だ。
軽く言葉を交わした俺達は、決勝の始まりを待つ。
すると、新たな人物達が現れる。
「よう。言葉通り追い付いてやったぞ。」
「そうか。手強い戦いになりそうだ。」
新たな人物達とは、何かと縁がある大男のグループだ。
どうやら、決勝まで進んで来たようだ。
折れた筈の武器も、新調したのか新しい大剣を背負っている。
「当然だ。今度はずるなんてしない。しょっぱなから飛ばすつもりだ。」
「決勝じゃあ、この間みたいにいかせねぇからな。せぇぜぇ頑張るこった。」
「言われなくてもそうするつもりだ。」
そう言葉を交わした大男達も決勝の始まりを待つ。
その際、同じく始まりを待つウィロを見る。
「よう、あんた。最初の戦いでは随分と世話になったな。」
「最初? あぁいたね。隣にいたチームだっけ。」
「あぁ。お陰さんで活躍出来なくて落とされちまった。雪辱を晴らせて貰う。」
「気をつけるとするよ。」
にっこりと笑って返すウィロ。
それに対して、大男も気を張りながらウィロを見る。
どうやら、ウィロの事をフィー以上に警戒しているようだ。
そんな中、黙って目を閉じている筋肉質な男に気づくフィー。
「ところであの戦士は?」
「ここのチャンピョンだ。普段はあいつがここのトップに立って戦っている。」
そりゃあいるよね。
闘技場なんだし。
そう疑問に答えたのは大男だ。
これだけ戦士がいれば、秀でた実力者がいるのも不思議ではない。
「強いぜ? あいつ。ちなみに人気もトップだ。出ただけで会場の注目の的だからな。」
「ちなみにお前達は?」
「まぁ、中の上って所だ。程ほどの所でやらせて貰ってるぜ。」
そう言って、大男の側近が笑いながら答える。
上に行けば行くほど危険なのは、普段の闘技場も変わらない。
だから、そこそこの順位でお金を稼いでいるのだろう。
そんな世間話をしていると、鉄格子の向こうがざわめきだす。
「話はそこまでだ。始まるぞ。」
何度も経験した始まる前の予兆。
それに、戦士達の顔つきが変わる。
そして、何度も聞き慣れた声が聞こえてくる。
『皆さん。ここまでお付き合い頂きありがとうございます。ついに、ついについに、この日がやって来ました。第七番勝負最終日。決勝の時間のっ、始まりだおらぁーーーーーーーっ!』
「「「うおおおおおおおおおおっ。」」」
今まで以上に盛り上がる闘技場。
全てが決まる最後の集大成に観客達も高揚感を高める。
『そんじゃ早速、本日のヒーロー、きつい戦いを勝ち抜いた戦士達に出てもらおうか。お前らも早く見たいか? 見たいよな? 見たいって言えよ! って事でーーーっ、カモン!』
司会者の言葉と共に、鉄格子が開いていく。
まずはそこから、大男のチームが出てくる。
『まず出てきたのはこいつら。せこい方法で勝ち抜いた奴ら。でも、その実力は侮るなかれ。隠れた実力者の戦士チームだっ!』
「「「わあああああああああっ!」」」
歓声の中配置へと向かう大男のチーム。
多くの歓声がこのチームを歓迎する中、一部から荒れた声も飛んでくる。
「バレットーーーーっ! 負けたら許せないわよ!」
その声は、大男の姉の声だ。
それを聞いた大男の側近が笑う。
「あ、あねさんだ。」
「没落したとはいえ一応まだ貴族だろ。大人しく来賓席に戻れよ。」
「はっ、嬉しいくせに素直じゃないな。」
「ほっとけ。」
呆れながらも、配置へと歩いていくバレット。
その後に続くように、フィーのチームが現れる。
『次に来たのはっ、何と全ランクぶっつけ突破の狂った奴ら! そんな無茶な奴らに惚れた奴らも急上昇! 急に現れ暴れ散らかした新人にして戦闘狂チームだっ!』
「「「わあああああああああああっ!」」」
大男のチームと同じく俺達も配置へと歩いていく。
そのさながら、司会者を睨みつけるフィー。
「最後の最後まで余計な事を。もっと、ましな紹介は無かったのかっ。」
「まぁでも、子供連れよりかはましじゃない?」
「それは確かだが…ぐぬぬ。」
でも、もっと良い紹介してくれても良いじゃない?
って、期待するだけ無駄か。
もう既に、俺達の評価は決まってしまっているようだ。
今更どうこう言った所で、意味が無い相手なのを知っている。
そんな事実に悔しがる俺達の後に続いてウィロが現れる。
『そんで続いては、同じく新人の戦士。強い! 強すぎる! 全ての敵を一撃でほふって来た最強の戦士! 今回も良い一撃を見せてくれよ!』
「「「わあああああああああああっ!」」」
歓声の中、黙って配置へと向かうウィロ。
集中しているのか、いつもの余裕を見せる笑顔はない。
そして最後に現れたのが…。
『そして皆さんおまちかね。最後の戦士は誰もが知るこいつ。さぁ、姿を見せてくれ!』
その司会者の言葉に、最後の男が現れる。
その瞬間、観客の歓声がより一層大きくなる。
「「「チャンピオンっ! チャンピオン!」」」
そう呼ばれた男が歩き出す。
誰もが、その男を憧れの目で見る。
『我が闘技場の覇者とはこいつの事! そして、我が闘技場の誇り! その名もっ。』
「「「スターーーーーーーーーク!」」」
闘技場のチャンピオン、スターク。
スタークは、観客の掛け声に合わせて拳を上げる。
「ウィーーーーーーーーッ!」
「「「わあああああああああああっ!」」」
突き上げられた拳と叫び声と共に吹き荒れる歓声。
今までの歓声が前座と思ってしまう程の盛り上がりだ。
誰もがその男の存在に歓喜する。
「凄い騒ぎっ。」
「それほどの存在なんだな。」
「身が、引き締まる、ね。」
そうだね。
だって、俺達の敵になるんだから。
全ての観客達が憧れる程の存在。
しかし、俺達からすれば立ち塞がる壁なのだ。
観客が盛り上がるほど、俺達に緊張が走る。
『本日決勝に来たのはこの四チーム。紹介が終わった所で戦いを始めようか。と、その前に紹介をしないといけない方々がいらっしゃる。さぁ、来賓室の横を見てちょうだい!』
その声に、来賓室として使われるガラス張りの部屋の横に注目が集まる。
闘技場を横から見下ろすその場所には、豪華な彩りの空間がある。
そして、そこにいる人物が観客へと手を振っている。
『そう。あそこにおわすのは、今回の祭りの主催者にして闘技場の管理人。アブタール家の方々だ! アブタール家に盛大な拍手を!』
歓声の代わりに、今度は盛大な拍手が闘技場に響く。
中には、感謝の声を飛ばす者もいる。
闘技場で暗躍する相手とも知らずに…。
「あれが主催者か。随分な歓迎だな。」
「ママを連れ去った人達。」
にゃ。
全ての元凶だ。
沸き上がる怒りを押さえながらも睨みつける俺達。
そんな事もつゆ知らず、元凶は手を振り続けている。
そんな俺達を励ますようにリュノが呟く。
「大丈夫、だよ。鍵は、用意、した。頑張って、だって。」
「そうか、どうにかなったんだな。」
カミーユ達の状況を教えてくれたのだった。
そのお陰か、怒りが勇気になって拳へと宿る。
「怒りは戦いにぶつければ良い。そういう事だ。」
そう言いながら、剣へと手をかけるフィー。
そして、ついにその時が始まる。
『さて、紹介も一通りすんだ所で今度こそ始めようか。鉄格子オープン!』
主催者の言葉で、鉄格子が開いていく。
すると、そこからは沢山のピグルンが現れる。
そして、その後ろから大きな影も現れる。
「ついに来たか。」
「あれが、上位種、だね。」
「うん。牧場を襲った奴を率いてた奴。」
大量のピグルンと共に現れたのは、そいつらの上位種。
通常よりも体が大きいそいつらが、小さい奴の後ろから現れた。
『さて、ルールの説明だ。決勝戦は全部で五回のウェーブに分かれて襲ってくる奴らを沢山倒した奴の勝利だ。闘技場の全てをぶちこむようだから気合いを入れて挑めよ? しかーし、小さい奴らは点に入らないから注意だ。』
小さい奴らは、全て邪魔な奴らに過ぎない。
つまり、上位種を倒さないと意味がない。
そういった流れが五回行われるという事だ。
そして、その上位種は…。
「やっぱり、だ。でかいの、全部、瘴気持ち、だよ。」
「そういう事だったのか。了解だ。」
当然、全部の上位種が瘴気持ちだ。
知能が高く強いのも瘴気のせいだったのだろう。
『てめぇら準備は良いか? 泣いても笑ってもこれが最後。』
答えるように、戦士達が武器を構える。
「どう足掻いても、勝利出来るのは一人だけ。」
対するは、闘技場の全ての魔物。
「待った無しの大一番。命の輝き見せてくれよ? んじゃ、第七幕最終決戦。始めーーーーーーーーーーーっ!」
ズドーーーーーーーーン!
開始の合図と共に各地で爆風が起こる。
始まりの代わりを告げる四つの爆発のような風。
更に、それをした四人の者達が爆風の中から現れる。
「「「「うおおおおおおおっ!」」」」
飛び上がるように現れた四人の戦士。
その者達は、そのままピグルンの中へと落ちていく。
そして、それと共に観客達が盛り上がる。
「「「わあああああああああああっ!」」」
観客の叫びと共に吹き荒れるピグルンの群れ。
雑魚には用は無いとばかりに、ピグルンの雨の中を四つの影が進んでいく。
「リュノさん、私達は援護を!」
「分かった、よ!」
フィーを追いかける二人。
それを見た大男の側近も続く。
「おい、俺達も行くぜ!」
前に出る戦士達を追いかけるように、仲間達が追いかける。
しかし、それで追いつくか分からない程早く前に出た者達が進んでいく。
「どけっ!」
踏み込んだフィーがピグルンをまとめて斬り飛ばす。
「そこを通して貰うっ!」
拳を突き出したウィロがピグルンをまとめて突き飛ばす。
「邪魔だ!」
剣を振るったバレットがピグルンの津波を作る。
「雑魚はすっこんでろっ!」
肩から突っ込んだスタークがピグルンの壁ごと押し飛ばす。
『止まらなーーーーーい! こいつらの前に数なんて物は存在しない!』
止まる気を感じない怒濤の攻めだ。
そんな四人へと四匹のピグルンの上位種が武器を構えるが…。
「はあっ!」
「はっ!」
「おら!」
「だらあっ!」
一瞬に距離を詰めた四人が、それぞれ上位種の頭へと一撃を与えていく。
斬り飛ばされたりひしゃげたりと一撃で沈む上位種達。
『一撃っ! もはや、この程度の相手では止められないのか!』
その一撃を与えた場所からは、大量の瘴気が吹き荒れる。
この者達の一撃には、瘴気の特性など関係ないのだ。
そうして合流する四人の戦士。
「「「「次だ!」」」」
それぞれ武器を構え直して、次のウェーブを迎える。