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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
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重ねた絆の一撃です

「フィーさん。私、怒ってるんだよ?」


 相手を睨んだままの姿で、フィーへと語りかけるココル。

 その言葉からは、どんな感情かが読み取れない。

 

「師匠の事もそうだけど、フィーさんだって私を置いて先に行ってた。私はフィーさんと一緒に戦ってたつもりなのに。」


 それを聞いたフィーは、返す言葉が見つからない。

 その言葉で、ココルの意思を無視していた事に気づいたからだ。


「でも違ってた。そう思ったら、自分がここにいる意味が分からなくなったんだ。いてもいなくても関係ないって。私がいても関係ないんだって。師匠の言ってた通りだよ。」

「そ、それは…。」


 違うと口にしようとした言葉は続かない。

 フィーの行動自身が違わないと証明しているようなものだからだ。


「それでも私は戦うよ。だって、私だってママを助けたいんだもん。」


 足手まといと分かっても、それだけは変わらない。

 マレーヌを助けたい気持ちは、誰にも負けないのだから。

 しかし、そんな気持ちを踏みにじろうと大きな犬が立ち上がる。


「そう…だったな。すっかり忘れてた。私達で一緒に助けるんだったな。」


 そう言って、フィーもまた立ち上がる。

 そして、ココルの横に並んで立つ。


「すまない。私が悪かった。」

「じゃあ、もう二度と一人で動かないでね?」

「勿論だ。今度こそ一緒に…戦おう!」


 そうして、二人同時に武器を構える。

 共に戦う為に。

 離れた絆を結び直す為に。

 襲い来る大きな犬へと走り出す。


『まだいくか! 戦士の目はまだ死んでないっ!』


 盛り上がる司会者。

 並んで駆ける二人だが、フィーを置いてココルが前に出る。


「フィーさん、私の後に続いて! 私じゃとどめをさせないから!」

「役割分担だな。頼んだ!」


 ココルには、相手を仕留める手段がない。

 一方、今のフィーには転がせるだけの力がない。

 ならば、補えば良いだけだ。


「てやっ!」


 迫る牙を寸前まで引き付けたココルは、避けて下へと潜り込む。

 そして、そこからの拳の突き上げを顎下へと叩き込む。


「もう一発!」


 大きな犬の顔がそれたと同時に一回転。

 そのまま裏拳を相手の足へと叩き込む。

 すると、体勢を崩した大きな犬が倒れ込む。


「今だよ!」

「任せろ!」


 返事をしたと同時に、勢いのまま突っ込んでくる大きな犬へと向かうフィー。

 そのまま相手の首へと足をかけると、首元に剣を突き刺す。

 そうして、剣で裂こうとするも…。


「動かないっ。」


 剣を振り抜くだけの力が入らない。

 それでも、笑いながら残った力を腕に込める。


「だがっ、それがっ、どうしたっ!」


 意地で剣を振り抜くフィー。

 そのお陰か、肉を裂いて剣を振り抜いた。

 

「やったな!」「やったね!」


 そのまま着地すると、ココルと手と手を叩き合う。

 今度こそ倒した筈だろう。


『決まったぁ! 今度こそ一匹がノックダウン! しかし、まだワンちゃんはいるぞ!』


 まだ一匹が倒れただけだ。

 仲間の敵を取ろうと、もう一匹が迫ってくる。


「私が倒した奴だ。勢いよく殴り飛ばした筈なんだけど。」

「構わんさ。今の私達にはな。」


 この個体は、先程までココルが相手をしていたものだ。

 一発を与えたようだが、元気にこちらへと飛びかかる。

 それに対処しようと二人が構えるが…。


 忘れてもらっちゃ困るよ!


 距離を詰めた俺が、大きな犬の胴体を蹴り飛ばす。

 それにより、少しだけ胴体が傾く。


「にゃんすけ!?」


 それでも敵の動きは止まっただろう。

 咄嗟に俺を見るも、そこにはもういない。

 既に下へと潜り込んでいたからだ。


 こっちだよ!


 地面、お腹、足へのポイントダッシュ。

 更に地面の点を蹴り飛ばして顎の下へと飛びかかる。


 これならっ、どうだ!


 勢いを増した蹴りを、相手の顎へと叩き込む。

 その一撃には溜まらずに、斜め上へと顔が向く。

 そのまま俺は、フィーの下へ。


にゃん!


 行くよ!


「そういう事か! ココル、着いてこい!」

「う、うん!」


 お面になった俺を被ったフィーが前へと踏み出す。

 その後をココルが追いかける。

 そして、前に出たフィーが相手の首へと剣を突き刺す。


「ココル! そのまま剣を蹴り飛ばせ!」

「ええっ!? わ、分かった…よっ!」


 理由が分からないまま飛んだココルは、突き刺さった剣へと両足をかける。

 そのまま膝を屈めると、反動をつけて勢いよく蹴飛ばした。


「これならっ!」


 その勢いは、フィーの振り抜く力に加算される。

 その合わさった力によって、相手の首が切り裂かれる。


「これでどうだ!」


 首を切り裂かれた大きな犬は、そのまま動かない。

 それからしばらくの静寂。

 そして、横へと静かに倒れていった。


『二匹目撃破っ! 力を合わせて敵を撃破だ! 残すはもう一匹!』


 残る大きな犬はもう一匹。

 これを倒せば決勝へと進める。


「一緒なら大丈夫だ。この調子でもう一匹を倒すぞ!」

「うん!」


 もう一息だよ!


 まだ戦える。

 二人の力が合わされば問題はないだろう。

 その筈だったが…。


「終わっ、た? もう一匹は、倒して、おいた、よ。」

「え?」「え?」


 ええええっ!?


 そこには、倒れている大きな犬の上に座っているリュノがいた。

 その横には、人の半分程ある斧が立て掛けてある。


『ええええええええっ!? えーと、動かないですね。いつの間に…。まぁでも倒れたのは事実! 決勝進出だーーーーっ!』

「「「わあああああああああああああっ!」」」


 フィー達に視線が集まっている内に倒したのだろう。

 結果はどうあれ、ノルマはクリアしたのは事実だ。


『まさかの伏兵! 今まで援護に回っていた二人の大活躍により見事クリア! 見事な戦いだったぞ! 観客達も大盛り上がりだ! これでまたファンが増えたんじゃねぇの? このこのーー!』


 闘技場がフィー達の活躍を褒め称える。

 そんな中、フィー達がリュノと合流する。


「強かったんだな。いや、そういえば貴族の護衛だったな。」

「確かにそーだったね。でも、何で隠してたの?」

「反動が、大きい、からね。でも、二人を見てたら、僕も、頑張らな、きゃって。」


 なるほどね。

 使いたくても使えないんだ。


「そうだったのか。無理させてすまないな。」

「ううん。僕も、力に、なりた…。」 


グオオオオオオオオオオッ!


 リュノが言おうとした時だった。

 会場の歓声をはねのけるように、獣のような咆哮が響き渡る。


「な、何だ!?」「何なの!?」


 何の声!?


『な、ななな、何の声でしょうか! もう何もいない筈…い、いや、生きている! 今、立ち上がろうとしているっ!』


 会場にいる全ての者が咆哮がした方を見る。

 すると、そこには立ち上がろうとしている大きな犬がいた。

 しかし、それだけではない。


「見て! 何か纏ってる!」


 大きな犬の体からは、どす黒い何かが漂っている。

 それは、見ているだけで気分が悪くなるもの。


「あれはまさか。」

「瘴気、だね。」


 うん、昨日見たやつだ。


 まさに、昨日見た瘴気そのものだ。

 その瘴気は次第に大きくなり、手のような物へと変わっていく。

 その手は伸びていき、他の倒れている仲間を掴んで引きずる。


「何をする気だ?」


 更に、瘴気の手が仲間を引きずりながら戻っていく。

 そして、立っているものの中へと仲間を引きずり込む。

 すると、その顔の横から他の犬の顔が生えてくる。


「三つ首。まさか、魔界の生き物か?」

「違うよ。一匹一匹は、間違いなく、こっちの生き物、だよ。」

「じゃあ何で瘴気なんかを纏ってるんだ?」


 そう疑問を持つのも無理はない。

 瘴気を持つのは魔界の生き物だけだ。

 こっちの生き物が持っている筈がない。


『一体これは…。今までにない事で焦っておりますが…。どういう事なのでしょう。』


 予想外の出来事に、闘技場が動揺に包まれる。

 見慣れた観客達も心配そうに話し合っている。

 そうしている間にも、三つ首の犬が大きくなっていく。


「ちょっ、大きくなってる!?」

「なるほど、ね。分かって、きたよ。ここの、目的が。」

「いや、分からないんだけど!? ど、ど、どうすれば良いの!?」

「とりあえず、来るよ。」

「えっ?」


 目を離した瞬間に、三つ首の犬が頭上に迫ってきていた。


「うわああああああっ!?」


 突然の事に叫ぶココル。

 驚きながらも、三人は何とか横に飛んで避ける。


「ぐうっ、首が増えても行儀は悪いままだな!」

「そういう事じゃないよ! こんなのどうするのさ!」


 先程よりも大きさは倍に増えている。

 落ちた時に、激しい衝撃が広がる程だ。

 間違いなく力を増している。


『取り合えず、戦いは続いているようです! 一体何が起きてるんだあああああ!』


 降り下ろされる三つ首の犬の顔。

 それを逃げながら避けていく三人。

 近づこうにも、地面に顔が落ちた時の衝撃で近づけない。


「私もそろそろ限界だ。逃げ続ける訳にはいかないぞ!」

「でも、あんなのどうやって倒すのさっ。絶対体も固くなってる筈だよ!」

「あれ以上となると打つ手はないぞ! どうする!」


 どうするったって。

 無理じゃない?


 力も先程より強くなっているのだ。

 その分固さも増しているだろう。

 さっきまでの攻撃は通じないと考えるのが普通だ。

 しかし、それを聞いたリュノが斧を構える。


「仕方ない。もう、一振り。」

「どうする気だ?」

「僕が、斬るよ。その後に、二人で、叩き込んで。」

「む、無茶だよ!」

「一緒なら、大丈夫。なんでしょ?」

「っ!」「っ!」

 

 その一言で、フィーとココルが驚く。

 そして、二人で見合って頷き合う。

 二人には絆がある。

 何者にも負けない大事な絆が。


「それじゃ、行くよ!」

「あぁ!」「うん!」


 こちらへと迫る三つ首の犬。

 その顔に向かってリュノが人差し指を向ける。


「ばん!」


 そう叫んだと同時に、手を跳ね上げる。

 すると、三つ首の真ん中の顔が弾け飛ぶ。


「今だよ!」


 そう言って走り出すリュノ。

 その後を、フィーとココルが続く。

 目指す先は、三つ首の犬の横だ。


「どこに行くんだ?」

「瘴気が、溜まってる、場所! 僕が、穴を、開けるから、二人で、押し出して!」


 そう言いながら回り込むように走ると、三つ首の犬の胴体へと突っ込む。

 そして、そこに向かってリュノが斧を振り下ろす。


「ざん。」


 そう呟いたと同時に、斧が胴体を切り裂いた。

 すると、そこからドロリとした瘴気の塊が地面へと落ちる。


「ヒット、だね。後は、任せたよ。」


 そう言ったリュノの横を、二人が勢いよく駆け抜ける。

 そして、傾いた胴体へと飛び上がる。


「行くぞココル!」

「うん!」


 胴体に足をかけて更に飛ぶ。

 そして、二人同時に武器を構える。


「「はあっ!」」


 二つの力、二つの絆が合わさった一撃が叩き込まれる。


グオアアアアアアアアッ!


 それにより、斧の切り口から空気が抜けるように瘴気が吹き出す。

 すると、三つ首の犬は空気が抜けた風船のように萎みながら倒れていく。

 倒れた三つ首の犬はそのまま動かない。


『た、倒した! 今度こそ倒しました! で、良いんですよね? はい。では、今度こそ決着だあああああああああっ!』

「「「わあああああああああああああっ!」」」


 今度こそフィー達の活躍を褒め称える歓声が響き渡る。

 こうして、今度こその決勝進出を手に入れたのだった。

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