表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
120/283

第四回戦開始、もやもやな始まりです

祭りの期間 十日から七日へ変更します

「ぐぅっ……はぁ。」


 案内された通路に来たと同時に、休むように壁に背をつけるフィー。

 その顔は、苦しそうに歪んでいる。


「辛そう…だね。」

「うん。大丈夫なの? 派手にやられてたけど。」

「大丈夫、少し痛むだけだ。」

「本当に?」


 大丈夫そうに見えないけどね。

 立つのも辛そうだし。


 平気そうにしているが、どこからどう見ても苦しそうだ。

 先程の戦いのダメージがそれほど深いのだろう。


「ふぅ…。まぁ、少し休めばまた戦えるだろう。気にするな。」

「戦うって…もしかして、まだ戦う気なの!?」

「当然だ。ここまで来たら一気に行く。次で最後のはずだからな。」


 次に挑むのが、闘技場最後のランク。

 この結果で、決勝に行けるのかが決まるのだ。

 フィーとしては、今日の内に決めておきたいのだろう。


「でもまだ一日あるでしょ? 挑むのは明日でも良いんじゃない?」

「いや、明日決められるかは分からんからな。挑める内に挑んで起きたいんだ。」


 明日にずらした所で、負けてしまえば終わりなのだ。

 それならば、なるべく多く挑む事に越した事はない。

 それでもと、ココルが問いかけようとした時だった。


「僕はココルに賛成だよ。いっその事、諦めるのも良いんじゃないかな?」

「ん?」「え?」


 この声って…。


 突如聞こえてきた声。

 それは、何度も聞き慣れた声。

 その声を俺達は知っている。


「し、師匠!?」


 声が聞こえてきた方を見ると、そこにはウィロが立っていた。

 呼ばれたウィロは、軽く手を挙げて応える。

 そんなウィロへと駆け寄るココル。


「師匠、今まで何したのさ。どうして声をかけてくれなかったの?」

「ごめんごめん、動けない状態だったからね。でも、ここまで来てくれたお陰で、ようやく機会を得られたよ。」


 普通なら、違うランク同士の者で話す事は難しい。

 出来るとすれば、同じランク同士が集まるこのエリアぐらいだろう。


「うん、何とか追いつけたよ。頑張ったのはフィーさんだけど。」

「聞いてるよ。君達の事は上まで来てたからね。流石だよ。」


 あれだけ暴れれば、注目の的になるのは当然の事だ。

 同じ戦士のウィロに届くのは不思議ではない。


「でもね。それもここまでだよ。」

「…え?」

「さっき言っただろ? 諦めるのも良いんじゃないって。いや、素直に言おうか。君達、諦めてくれないか?」


 その一言で、ココルが固まる。

 その言葉の意味の理解に戸惑ったのだろう。

 しばらくしてから口を開く。


「だ、だって、一緒に戦いたいから…ここに。」

「僕の手伝いかい? なら、そのまま帰ってくれると助かるかな。」

「な、何言って…。何で…そんな…。」


 何とか言葉を紡いでいくココル。

 ウィロの言葉に混乱をしているのだろう。

 助けに来たら拒まれたのだから無理もない。

 事情を知るフィーと俺を除いたらだ。


「マレーヌが人質にされている話か?」


 今度は、それを聞いたウィロが固まる。

 そして、ココルもまた同じように驚いた顔でフィーを見る。


「何言ってるの? フィーさ…。」

「知って…たんだね。」

「え?」


 今度はウィロを見るココル。

 そこでは、ウィロが俯いて顔をしかめている。

 しかし、すぐに真面目な顔に戻ってフィーを見る。


「知ってたなら話は早いね。今すぐココルを連れて帰ってくれ。」

「残念だが、祭りの間は出られない。だろ?」

「なら、僕が上に話を通す。」

「断る。助けたいのは自分だけだと思わぬ事だ。」


 説得を試みるウィロだが、フィーは聞くつもりが無いようだ。

 それもそのはず、助けたいという気持ちは皆が同じなのだから。

 そうして睨み合っていると、ココルが割り込んでくる。


「ちょ、ちょっと待って。私を無視して話を進めないでよ。何なの? ママが人質って。」

「足手まといには関係ない事だよ。僕が助けてそれで終わり。君達の出番はもう無いんだ。」


 そう言って、俺達を横切って歩き出すウィロ。

 これ以上、話し合うのは無駄だと悟ったのだろう。


「次の戦いはまだだぞ?」

「君達のは…だね。最後の戦いは一つのチームでの戦い。僕の戦いはすぐだよ。」


 そうして再び歩き出すウィロ。

 そのまま、扉の奥へと向かっていく。



 それからウィロが決勝への進出を決めたのは直ぐの事だった。

 それと入れ替わるように、フィー達が鉄格子の前に立つ。


「大丈夫、なの?」

「少し休んだら楽になった。心配かけてすまないな。」

「そう? なら、良いんだ、けどね。」


 本当かな?

 無理してそうだけど。


 平気と言いつつも、少し手が震えている。

 無理をしているのだろう。

 しかし、それよりも心配な事がある。


「喋ら、ないね。」

「仕方ないさ。あんな事があったらな。」


 そうだね。


 そう言って、黙り込むココルを見る俺達。

 休んでいる間、一言も喋らずに俯いていたのだ。

 そんなココルを心配するが、闘技場は待ってくれない。


「始まるな。行こう。」


 こちらの都合とは関係なく開いていく鉄格子

 それを潜って、今日何度目かの戦場に出る。


『さーて、派手な戦いで盛り上がってるようだが安心してくれ。祭りはまだまだ終わらねぇぜ? そんな訳で、次の戦士はこいつら。まさかの一日全突破!? そんなに戦いが好きなのか? ならば張れよちっせぇ命! 待ち受けるは闘技場最難関! 疲れたからってしょうもねぇ戦い見せんじゃねぇぞ!』

「「「わあああああああああああああっ!」」」


 歓声の中、フィー達は戦場のど真ん中に立つ。

 ウィロの言葉通り、他の戦士達はいない。

 フィー達だけの独壇場だ。


『すっかり人気もんだなぁ! んじゃあ、早速奴らに応えてやれや! おら、鉄格子っ、開きやがれっ!』


 今までの通りに、司会者の声で目の前の鉄格子が開いていく。

 すると、その奥から大きな何かが飛び出してきた。

 そしれ、そのままフィー達へと襲い掛かる。


「うおっ、いきなりかっ!」


 咄嗟に飛び退くフィー達。

 その前で、大きな牙の門が勢いよく閉じる。


『行儀悪くてすみません。ってな訳で、今回のルールはこいつの首を狩る事…。』


ぐわう!


 司会者が言い終える前に、犬のような大きな物体がフィー達を襲う。

 そして、再び大きな牙の門が勢いよく閉じる。

 しかし、それでも止まらずまだ襲いかかってくる。


『まだ喋ってるでしょ。ったく、改めて説明しますが、可愛いワンちゃんの首を取れば勝利だ! 晴れて、決勝へと進めるぜぇ!』


 ちょっ、どこが犬なのっ…うおっと!


 一つ一つの動きが素早いので休んでる暇はない。

 それでも、こちらを噛み砕こうとしているので避けるのは難しくない。

 疲労しているフィーでも避けられる程だ。


「速いだけで動きは読みやすい。これなら…。」

『簡単に。って顔をしているぜ? いい加減学べよこの野郎!』


 その司会者の言葉と共に、更なる音が開いた鉄格子の向こうから聞こえてくる。

 すると、戦っているのと同じものが二匹も現れる。


『これぞ、闘技場最終試験っ。大物数匹とのガチンコバトルううううう! まさか、ここまで来てズルいなんて言わねぇよなぁ?』


 言いたいけどね。

 でも、もう覚悟は決まってるよ!


 相手はとても強大だ。

 しかし、そんな事で怯むような覚悟で来てはいない。

 迫る門のような牙へと突っ込むフィー。


「そんなに大きいなら、頭が重い筈だよなっ。にゃんすけ!」


 あいよ!


 俺が犬の顔を蹴飛ばして逸らす。

 その隙に下へと滑り込み足を斬るフィー。

 すると、体勢を崩した大きな犬が傾く。

 それに耐えようとするも、顔に引っ張られて倒れてしまう。


「やはりなっ。こいつでも食らっとけ!」


 そのまま、倒れた大きな犬の首を斬り飛ばすフィー。

 そこから血が噴くと、そのまま動かなくなる。


「足だ! 足を狙え!」


 弱点が分かればこっちのものだ。

 ココルやリュノが大きな犬の足を狙っていく。

 こうなればやられる事は無いだろう。


「よし。私も援軍に。」


 複数人なら更なる優位に立てるだろう。

 そう思い、他の戦いへと駆けつけようとした時だった。

 倒した筈の大きな犬が起き上がる。


にゃっ!


 危ない!


「しまっ。」


 気づいた時にはもう遅い。

 立ち上がると同時の頭突きにより、フィーが吹き飛ばされてしまう。


「ぐあっ。」


 勢いよく地面を転がるフィー。

 何とか立ち上がろうとするも、力が入らない。


『おおっと、決まってしまったあああっ! 今までのダメージが蓄積している筈! 大丈夫なのかぁっ!』


 大丈夫な筈がない。

 もはや、立ち上がる事すら限界だろう。

 しかし、そんなフィーへと牙が迫る。


にゃ!


 させない!


 それを止めようとするも、その牙が逸れる事はない。

 咄嗟の事で、充分な勢いを付けられなかったのだ。


「逸らすだけならっ。」


 何とか立ち上がるフィーだが、それ以上は無理だろう。

 それでもと、剣を構えた時だった。


 大きな犬の顔が勢いよく吹き飛んだ。


「なっ!?」


 えっ!?


 顔を逸らされた大きな犬は、吹き飛んだ顔に引っ張られて横へとずれる。

 その代わり、それをしでかした者がフィーの前へと着地する。


「ココル?」


 フィーが聞くも黙ったままだ。

 代わりに、フィーを庇うように立つと大きな犬を睨み付ける。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ