山に潜入しました
夜に山へ潜入。
だけど、その前にご飯の時間が待っている。
昼ご飯を食べ損ねたからお腹は空いているんだよね。
「あの。誰かいますか?」
「あぁ、今行こう。」
見つけた布で床を拭き終えたばかりのフィーが、入り口の扉を開けた。
そこにいたのは、二人の女の子。
手には、蓋を被せた台を持っている。
中から良い匂いが漂ってくる。
ご飯だっ。
「村長に言われて、ご飯をお持ちしました。」
「助かる。ちょうど、お腹が空いていたんだ。」
同じく。もうペコペコです。
いくらでも入りそうです。
「じゃあ、中に入ってくれ。」
「はい。」
「分かりました。」
中に入った二人は、台を机に置いて蓋を取る。
中にあるのは干物と握ったお米だろうか。
覗き込んでいると、二人がこっちを見て薄く笑う。
何か変な事でもしちゃったかな?
「それにしても、その年齢で村長の手伝いとは偉いな。」
「そんな事ありませんよ。」
「他の女性は殆ど残っていないので。私達がしっかりしなくちゃって。」
「だから、村長に頼んだんです。」
フィーが女性だから、年の近い同性のこの子達が来たのだろう。
それでも、フィーに比べれば全然幼い。
こんな子達が働なきゃいけないほど、人が連れて行かれたのだろうか。
「準備、出来ました。」
「ありがたい。いただこう。」
にゃん。
いただきます。
干物をかじって、握ったお米を放り込む。
旨い!
「うむ、旨いな。これ。」
「良かったです。もう、保存出来る物しかなくてどうしようかって思ってたので。」
「そんなに、食事に困ってるのか。そんな物を貰ってしまって良いのか?」
「はい。どうせもう皆いなくなるので。でも、心を込めて握りました。」
もう村人全員が諦めきっているのだろう。
どうせ死ぬなら、残しても意味がないと。
そんな中、俺達の事を思って用意してくれたんだね。
「そうか。そうだな。この村の心遣い、ありがたく受け入れよう。」
そう言われると、一気に食べるのは申し訳ないね。
一口一口噛み締めよう。
ゆっくりと、少ない量のご飯を食べていく。
そして、ゆっくりと食べ終えた。
「満足だ。ありがとう。」
「はい。」
「どういたしまして。」
にゃん。
俺からも感謝。
とても良い食事だったよ。
心が温まるってこういう事を言うんだね。
心のこもった食事に満足する俺達。
満たされる心に体も安らぐと言うものだ。
「じゃあ、明日また。朝に持ってきます。」
「それまでごゆっくりいていて下さい。何かあれば、その時に。」
「ああ、帰り気を付けて。」
にゃん。
気をつけてねー。
二人は、頭を下げて帰っていった。
直ぐに、霧に包まれた。
俺達も、家の扉を閉めて中へ。
「さて。御言葉通り、ゆっくりしようか。」
部屋に戻ったフィーと俺は、端にあった布団を敷く。
その上にごろんと、しばしの休憩。
お互いに、静かに疲れた体を休ませる。
今日は、色々あって疲れた。
本当ならこのまま寝たい所なんだけどね。
ただ無心に体を休めるとしますか。
それからしばらく、辺りは暗くなる。
ただでさえ見えない外が、さらに見えなくなる。
「起きろ。にゃんすけ。」
にゃー。
起きてますよー。
体を伸ばしてリラックス。
気持ちいい。
起き上がったフィーと俺は、入り口の扉に向かう。
フィーが、扉に手をかけて立ち止まった。
「にゃんすけ。今、私は怒っている。二人の前だから堪えてたけどな。理由は分かるな?」
にゃん。
俺も同じ気持ちだね。
思いっきり、元凶をぶん殴りたい。
「そうだな。私達で解決しよう。」
今、同じ事を考えていた所だ
俺の気持ちが通じたのかな。
「覚悟完了だ。行こう。」
扉を開けて外へ。
辺りは変わらず霧に包まれている。
そんな中、こっそりと山へ向かう。
本当に何も見えないな。
記憶に頼るしかないか。
「あれは山の入り口か。辛うじて見えるから慎重さが必要になるな。」
慎重さが必要なのは、フィーの方だけどね。
この先のポンコツは、取り返しがつかないからね。ほんと。
「はぁ。魔法でもあれば、辺りをはらせれるんだが。」
魔法?
それなら腰に着けてるのがあるじゃん。
にゃっ。
「にゃんすけ? あぁ、カンテラか。」
にゃん。
一応、魔法のカンテラだよね。
どうにかできないの?
俺の言葉に、腰にあるカンテラに気づいたようだ。
カンテラなら、多少の暗さもましになるだろう。
「そうか。あまりにも普通の見た目のカンテラだから忘れていたな。」
腰からカンテラを取り出し目を閉じた。
それだけで、ランプが光り出した。
そして、辺りを照らす。
「おぉ。凄いな。」
にゃふ。
確かに凄い。
かなり向こうまで見えるね。
って。見えすぎじゃない?
「流石だな。暗闇どころか、霧も透けて見える。」
まるで、霧なんて何て始めから無かったかのようだ。
でも、あれ? 向こうからも見えるんじゃ?
とっさに樹に隠れる。
びくびくと周りを見渡す。
「怯えなくて良いさ。この効果は、このカンテラ周辺の中と聞いた事がある。」
にゃー。
そうなんだ。
流石、魔法だね。
カンテラを腰に戻したフィーが山に入る
その後をついて俺も入る。
すぐ上った所が、一部平地になっている。
「意外と整地されているんだな。」
木で出来た階段が所々にある。
人が出入りしている形跡だ。
理由もなくこんなのを作らないと思う。
もしかしたら、この山で何かしてたのかな。
「静かにっ。」
フィーがしゃがんだので、俺はその近くによった。
喋らずに指をさしたのでその方向を見る。
階段の横の壁の上。
見張りのゴブリンだ。
こっちの気も知らないで寝てやがる。
いや、こんな時間に働かされてるあいつの方がしんどいか。
というか、寝るないでよ。ありがたいけどさぁ。
フィーが俺の肩を突いて、再び上を指でさした。
その先には、道がある。
寝ているうちに行ってしまおうって事らしい。
頷き返すと、その先へ。
その場所は、平地になっている。
「何とか抜けたか。でも、ここは。」
山の中腹かな。
下にあるのは村か。
ちょうど真上だね。
「っ。にゃんすけっ。」
どうしたの?
って、あっ。
大蛇っ!
……大蛇?
目の前に紛れもない大蛇がいる。
輝く目は、まさに先程見た光り。
大きな横穴から首を出している。
間違いないあいつだ。
でも、小さい。
あれ、どういう事なの?
「行ってみよう。にゃんすけ。」
にゃん。
分かったよ。
大蛇に近づいていく。
その度に大きくなるのかと思ったけど、そうはならない。
どこからどう見ても、小さい蛇だ。
「まさか。張りぼてっ!?」
穴を覗くと首から先がない。
ただの置物だ。
下には台車がついている。
「これの影を、霧に浮かべてただけか。何だ、思ったより大した事じゃないじゃないか。」
にゃ。
ほんとだよ。シリアスを返せ。
でも、困らせてたのは間違いないから許さないけどね。
「後は、これを村人に知らせば・・・。」
急に固まってどしたの?
早く帰って知らせようよ。
大蛇が偽物と分かれば、もう怯える必要はない。
早く教えてあげれば、村人の不安も消えるだろう。
しかし、フィーは大蛇の偽物を見ながら立ち尽くす。
にゃあ。
「なぁ、にゃんすけ。どうして奴らは村人をさらったんだ?」
なんでって。あれ?
そういえばどうしてだろう。
大蛇がいないなら、さらう必要はないよね。
「大蛇に食べさせる為で無いなら、労働力として使うため?」
なるほど、そういう考えもあるのか。
ならもしかして。
「さらわれた村人が生きているかも知れない。」
そうだね。
もしそうなら良い事だけど。
「でも、それなら手下のゴブリンにやらせば良いはずだ。なぜ、村人なんだ?」
言われてみれば。
考えれば考えるほど分からなくなる。
でも、分かる事は一つ。
にゃんっ。
このまま許してはおけないよっ。
拳を握って振った。
強そうな大蛇はいない。
なら、負ける要素はない。
「そうだな。敵のアジトに乗り込んでしまおう。直接、問い詰めれば良いはずだ。」
にゃん!
その通り。
一番偉い奴なら全て知ってるはず。
なら、聞けば良い。
「でも、場所は?」
あっ。
そういえば、場所が分からないか。
「まぁ、取り合えず探して見ようか。」
面目ない。
まさかフィーに呆れられるとは。
ともかく、やるべき事は決まった。
話が終わり、横穴を出ようとしたときだった。
「おらぁ。寝てんじゃねぇっ。」
どかっ。
先程いた方が、騒がしくなった。
こっそり覗くと、顔を被り物で隠した何かが寝ていたゴブリンを踏んでいた。
片手で、斧を担いでいる。
「てめぇ。仕掛けの正体がバレたらどう責任取るつもりだ? あぁ?」
ふぎゃーーっ。
踏まれたゴブリンは苦しそうにもがいている。
だんだん動きが鈍くなり、ついには失神した。
「ちっ。仕方ねぇ。代わりのもんをよこさせるしかねぇな。」
そう言って、失神したゴブリンを蹴り飛ばした。
そして、被り物の何かが山の山道に消えていった。
可哀想なゴブリン。
あれ見たら流石に同情するなぁ。
まぁ、原因はあいつだけど。
「もしかしたら、あいつらの仲間かもしれない。行こう。」
にゃん。
そうだね。
他に方法も無いし、追いかけるしかないよね。
広場に出て、あいつが行った先を確認。
そこには、一つの道がある。
向かうとしたら、あの道しかないだろう。
「あそこか。」
その道に入っていく。
沢山の樹に囲まれ、地面には一面の葉っぱ。
だけど、あいつはいない。
「どこに消えた?」
さぁ。
全く分からない。
立ち止まって辺りを見渡す。
だけど、何もいない。
「仕方ない。他を探そっ・・・。」
その瞬間、息がつまった。
「で、あんたらぁ。何なんだ?」
死っ。
一瞬のとてつもない殺気。
フィーと俺は、とっさに前に跳んだ。
次の瞬間、背後からズドンと大きな音。
「今のを避けるか。あんたら、村の奴じゃあねぇな。」
「ふっ。当てるつもりが無かった癖に。」
「そこまで分かんのか。おもしれぇ。」
降り下ろした斧を担ぎ直した。
フィーも長包丁に手を添える。
じっとこっちを見てくる。
こっちを見定めてる?
何にしろ、殺気が気持ち悪いよ。
「お前らの目的。俺達の根城だろ? そんぐらいしかねぇもんなぁ。」
「そうだ。と、言ったら?」
「教えてやるよ。ただし。」
被り物の何かが、斧を降ろして両手で構える。
さらに殺気が増した。
動けない。
こいつ、ヤバイ。
「俺を倒したらなぁっ!」
思い切り斧を振った。
そのたったの一振りで、そいつの周りの樹がまとめてへし折れた。
「行くぞぉっ!」
その斧が、フィーと俺に迫る。