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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
119/283

思いと思いのぶつかり合いです

 交わる剣を押し合う二人。

 その勢いで、砂の地面にヒビが入る。


「おらっ!」


 大男が強く剣を振るう。

 すると、押されたフィーが後ろに跳んでくるりと回り着地する。


『まさかの盤面返し! しかし、それを邪魔したのは新人の戦士! 一体どうなるのかっ。』

「本気で叩き込んだのだがな。」

「ふっ、芯が入ってない攻撃など柔いものだ。」


 やっぱり、踏み込まない攻撃は駄目か。


 フィーの攻撃は勢いがあったとて、力を入れられない空中からの攻撃だ。

 地面に足ついてる分、大男が優位に剣を振るえたのだ。


「それにしても、俺達の動きによく気づけたな。このまま楽に証を取れた筈なんだが。」

「一回奪われたからな。顔を出さないのに気づけば察せるさ。」


 最初の戦いで、こちらが盛り上がっている隙を狙われ負けたのだ。

 今回もまた同じように動くと思うのは当然だろう。

 その様子に、上から見ている貴族の女性が騒ぎ出す。


「あの女っ。余計な事をっ。」

「これが闘技場ですぞ。しかし、こうなると我らの駒は動けぬな。」

「それもまた闘技場。残念ですが、見守るしか無いでしょうな。」


 飛び降りられたのは、お面を被ったフィーだからこそ出来た事だ。

 他のチームが合流するには、また長い階段を降りて来なくてはならない。

 逆に言うと、ココル達もまた来れないという事だ。


「で、一人で俺達とやりあおってのか?」

「まさかっ。なっ!」


 突然フィーが地面に剣を叩き込む。

 すると、砂の地面が大きく割れて沈み出す。


「なっ!?」

「さっきの攻撃の真似だ!」


 お返しだよ!


 先程の塔を崩して分断した攻撃を真似たのだ。

 その攻撃で、割れた地面が落ちていく。

 それと共に、証の剣も落ちていく。


「そこだ!」「させん!」


 証の剣へと飛び込んだフィーへと、大男が剣を振るう。


「くっ。」


 咄嗟にフィーが剣で弾く。

 しかし、その攻撃で証の剣が別の地面へと落ちていく。

 そして、フィー達もまた地面へと着地する。


「おい大丈夫か!?」

「大丈夫だ! くっ、やってくれたな。」


 大男の仲間達は、違う方へと落ちたようだ。

 これで、大男もまた分断されたのだ。


「仲間は来れないようだな。これで一対一だ。」

「上等だ。元よりお前を吹き飛ばして終わらせるつもりだったからなっ!」


 そう言って、大男が剣をフィーへと振るう。


「それはこちらも同じ事!」


 前に踏み出したフィーが、自身の剣を相手の剣へと叩き込む。

 鈍い音と共に交じ合う二つの剣。

 だったが…。


「重いっ!」


 押されてる!


 呆気なくフィーの剣が弾かれてしまう。

 そのまま後ろへと飛ばされるも、咄嗟に踏ん張り耐える。


「なんて一撃だ。剣を振り下ろしてただけとは思えん。」

「鍛えてるからな。力があれば何でも出来る。こんな風にな!」


 フィーに近づいた大男は、再び剣を振るう。

 それをフィーが剣で防ぐも、簡単に弾かれてしまう。

 そして…。


「おらっ!」

「ぐっ!」


 立て続けに拳をフィーへと叩き込む。

 それを受けたフィーは、今度こそ吹き飛ばされてしまう。


「大人しく寝てな。さて、今のうちに証を…。」

「まだ、だっ!」


 吹き飛ばされた場所から、大男が立っている地面を崩すフィー。

 それにより、大男が下へと落ちる。

 すると、そこに迫ったフィーが剣を振るう。


「はあっ!」

「ぐうっ。」


 またまた交差する二つの剣。

 しかし、今度はフィーが大男の剣を弾く。


「押し負けるならっ、剣を振るわせなければ良いだけだっ!」

「くそっ。」


 宙に投げだされた状態では、思う存分に力は震えない。

 踏み込んで跳んだフィーの一撃が優位に立ったのだ。

 更に一回転したフィーは、大男の鎧に剣を叩き込む。


「そこっ!」

「ぐあっ!」


 剣を叩き込まれた大男は、そのまま吹き飛び階段に突っ込みながら落ちていく。

 そして、そのまま積もった砂に突っ込んでいく。


「おい! 無事か!」

「くそっ、返事がねえっ! 生きてるだろうな!」


 仲間が呼びかけるも返事はない。

 相当なダメージを負ったようだ。

 それを見た貴族の女性が、悔しそうに拳を震わせる。


「何をっ、しているのっ!」


 そして、急いで部屋から飛び出した。


「どちらへ?」


 そう他の貴族が問うも、一目散に走っていく。

 その間にも、フィーが下へと降りる。


『おおっとぉぉぉっ! 残ったのは新人の戦士ただ一人っ! 今回も勝ち上がるのはお前かーーーーっ! もう邪魔する奴はいないのかあああっ!』

「相変わらずうるさい奴だな。まぁいいか、急いで証の剣を探さねば。」


 うん、早く終わらせなきゃね。

 もたついてる余裕はないよ。


 もたもたしていると、他の仲間が合流するだろう。

 折角一人になれたのだ。

 急いで探さねば、それどころでは無くなる。


「確か、こっちに。…あった!」


 見渡すと、積もった砂の上に証の剣が落ちているのが見えた。

 そこへと急いで向かうが…。


「バレットーーーーっ! 貴方が負けたらっ、誰が一族を再建させるのよっ! 寝てないで起きなさーーーい!」

「ん?」


 突如、戦場に叫び声が届く。

 声がした方を見ると、前のめりの貴族の女性がこちらを見ていた。

 その時だった。


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 今度は、何かの雄叫びが戦場に響く。

 それが聞こえたのは、大男が飛んでいった方角だ。

 次の瞬間、そこから積もった砂が勢い良く飛んでいく。


「なっ。」


 その砂は、波のようにフィーへと押し寄せる。

 そのまま巻き込まれたフィーは、宙に飛ばされ地面へと叩きつけられてしまう。


「ぐうっ。かはっ。」


がたがたっ!?


 だ、大丈夫!?


 いきなりの事で、息が詰まってしまったようだ。

 それから何とか起き上がろうとするも、目の前で激しい音が起こる。


「いきなりですまないな。どうしても負けられない理由があるんだ。」


 そう言って、立ち込める砂埃から現れたのは大男だ。

 先程の音は、大男が着地した音のようだ。


『うおおおおおおっ! 大復活! 決着はお預けだーーーーーっ!』


 それでも大男は、膝を曲げている。

 ダメージが無かった訳では無いようだ。

 それでもしっかりとフィーを見る。


「ごほっ。先程言っていた、再建という奴か。」

「あぁ。俺達は、いわゆる没落貴族って奴だ。財産を失ってな。家族や使用人を食わせなきゃなんねぇ。んで、建て直すのにも金は必要だ。」


 お金を失った事により、今までの生活を失った。

 それでも残ったものはある。

 それらを支えるにも、建て直すにも、お金が無くてはどうしようもない。


「だから、俺は闘技場で戦っている。そこに、今回の祭りの開催だ。そいつの賞金を得るためにも、どうしても勝たなきゃなんないんだよ。」

「そう…なのか。」


 ここにいる者が皆、戦いを望んでいる訳ではない。

 こうして、理由があって命を駆ける者もいる。

 しかし、理由があるのはフィーも同じ事。


「ぐっ…それでも。」


 マレーヌを守る為にも、フィーは勝たなくてはならないのだ。

 その為にも、剣を構えるフィー。


「そうだ、それで良い。余計な同情など不用っ! 勝ちたければっ、俺を乗り越えてみろっ!」


 そう叫びながら、大男が剣を振るう。

 それをフィーが剣で逸らす。


「無駄だっ!」


 しかし、大男がすぐに剣を振り直す。


「ぐうっ。」


 それを更に剣で逸らす。

 そして、空いた相手の鎧へと斬りかかる。


「はっ!」「まだまだっ!」


 しかし、大男の腕の鎧でフィーの剣は防がれる。


「おらっ!」


 そこから腕を振るってフィーの剣を弾く大男。

 そこで再び大男が剣を振るう。


「ぐうっ!」


 逸らす余裕はない。

 なので、後ろに踏み込んで剣を振るい対処するが…。


「おらっ!」

「ぐうっ!」


 しばらく押し合うも、すぐにフィーの剣が弾かれる。

 その隙を狙って、大男が再び剣を振るう。


「っ!」


 何とか剣で逸らすフィー。

 それでもすぐに、次の剣が来る。

 それも何とか逸らすが…。


「おらあっ!」

「があっ。」


 隙を狙っての拳がフィーに突き刺さる。

 それを受けたフィーは、後ろへと飛ばされる。

 それでも何とか立ち上がる。


「お前の剣、鈍ってるな。同情するなと言った筈だぞ?」

「いや、まだだっ!」


 それでも前に踏み出し剣を振るうフィー。


「…駄目だな。」


 そんなフィーを呆れるように見る大男。

 そして、意図も簡単にフィーを宙へと吹き飛ばす。

 そんなフィーは、そのまま地面へと落下し転がる。


「ぐっ、強い。これが、本物の強さ。かじった程度の技と借り物の力では及ばないか。」


 この力を得るまでに、どれだけの鍛練を積んだのだろうか。

 自分を限界まで追い込み、手に入れた力。

 半端なフィーの力では及ぶはずもない。

 しかし、大男は不満そうにフィーを見る。


「本物? 借り物? 下らんな。大事なのは、こいつにどれだけの物を込めるかだろ。」


 そう言って、手に持つ剣を倒れたままのフィーに見せる大男。

 大事なのは、その一撃にどれだけの気持ちが込められるかだ。


「お前にもあるのだろ? だから、俺の話を聞いてでも武器を持ったのだろ? なら、お前もそれを込めてみろよ。」


 それを聞いたフィーの目が見開く。


「あるかだと? あるに決まっている。」


 震える手を堪えて立ち上がる。


「そうだ。私にも…負けられない理由がある。」


 そして、大男と同じように剣を見せる。


「もう言い訳などするものか。」


 そうして、自分の思いを剣に込める。


「お前に勝つ。それだけだ。」


 その時、剣先の聖火が強く輝き出す。

 まるで、フィーの思いに応えるように。

 その聖火越しに、フィーが大男を睨み付ける。


「良い目だ。ならば私もっ、全てをぶつけようっ!」


 直後、両者が同時に動き出す。

 そして、思いの込もった剣がぶつかり合う。

 今度は、どちらも押されず互角の押し合いだ。


「はっ!」「おらっ!」


 それでもお互いが、力を込めて剣を振り抜く。

 すると、大男が先に剣を振るうが…。


「おらっ!」「はっ!」


 踏み込んだフィーは、自身の剣を相手の剣へと叩き込む。

 もう逸らすような小細工はしない。

 正面からぶつけるだけだ。


「ふっ!」


 その一撃で弾かれた大男の剣を潜り更に踏み出すが…。


「ふんっ!」


 弾かれた勢いを利用し、勢いを増した剣を振り下ろす。

 それに対して、踏み込むのを止めたフィーが一回転。


「はあっ!」


 同じく勢いを増した剣を相手の剣へと叩き込む。

 すると、大男の体ごと剣が後ろに弾かれる。


「そこっ!」


 そのまま踏み出したフィーが剣を叩き込む。

 それを剣で防ぐ大男。

 それでも、フィーの攻撃は止まない。


「はっ、はっ、はあっ!」


 次から次へと攻撃を与えていく。

 その猛攻を防ぐしかない大男だが…。


「しつこいっ!」


 大きく剣を振ってフィーを遠ざける。

 そこに、今度は大男が剣を振るう。

 しかし、フィーが剣を叩き込んで止める。

 そして…。


「だあっ!」「らあっ!」


 荒々しく振るわれた剣がぶつかり合う。

 技術も力も関係ない一撃がお互いを吹き飛ばす。

 すると、お互い剣で体を支える。


「はあっ、やれば出来るじゃないか。だが、このまま続けたいが限界だ。」

「私もだ。好き勝手殴りやがって。」


 お互いダメージが蓄積しているのだ。

 こうしている間にも、剣を持つ手が震えている。


「ならば。」「する事は。」

「「一つ!」」


 全ての気力を体に注ぐ。

 そして、次の一撃で終わらせるべく前に出る。


「「うおおおおおおっ!」」


 叫びながら剣を振るい合う二人。

 気持ちを込めた一撃がぶつかり合う。

 そして…。


「すまないな。」


 衝突しあった結果、大男の剣が叩き割られる。


「ほざけ。追い付いて…やるさ。」


 一瞬の間。

 直後、鎧に剣を叩き込まれた大男が吹き飛んだ。

 そうして、勝利したフィーが証の剣を拾い上げた。



 それから戦いが終わってすぐの事。


「行っちまいやがったな。」

「あぁ。」


 砂に埋まった大男が、仲間によって救い出される。


「また姉さんにどやされるんじゃないかい?」

「かもな。でも、戦いはまだ続く。最後に勝てばそれで良いだろう。」


 負ければそれで終わりではない。

 戦いが続く限り、賞金を手に入れれる可能性は充分にある。


「だな。それよりさ、どうして相手を焚き付けたんだい? あれが無ければ勝てただろ?」

「ん? そうだな。正面から打ち込んでくるあいつを見ていると、それで勝っても嬉しいと思えなくなってな。それと…。」

「それと?」

「ああいう目をした奴を見るのが好きなんだよ。」


 そう言って、大男は微笑みながらフィーが去った方向を見るのだった。

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