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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
118/283

第三回戦開始、一触即発の戦いです

『本日ぅ、三戦目のお時間だぁ! なんと! 話題のあの新人がぶっ続けで参加! 今回はどんなとんでもを見せてくれるんだぁ? って事で、早速ギミックっオーーープン!』


 司会者の言葉に合わせて、戦場に砂埃が立つ。

 すると、それらが中央で渦巻き出す。


「これも魔法か?」

「みたい、だね。中央から、魔法の反応が、するよ。」


 戦場のど真ん中に仕掛けられた魔方陣を中心に砂埃が舞っている。

 まるで、砂で出来た竜巻のようだ。

 その竜巻の砂が増していくと、そのまま上へと延びていく。

 そして、それらの砂が何かの形を作っていく。


「塔だよ、フィーさん。」

「塔だな。随分と高いな。」


 そうだね。

 って、まさかこれを登れと?


 悪い予感通り、塔のあちこちに階段が出来ていく。

 まるで、ここから登れと言うように。

 それらが入り乱れるように繋がる事によって、砂の塔が完成する。


『さて、大体の事は見れば分かるでしょう。そう、塔の上に一番早く登り、そこにある物を取った奴が勝者だ。観客席からは、戦士を間近で見られるこの競技。戦士達よ、その期待に応えて良い戦いを見せてくれよ? そんじゃ、第三回戦っ、スターーーーートっ!』

「「「わーーーーっ。」」」


 歓声の中、始まりの合図と共に塔へと向かう戦士達。

 一番身近な階段を登り始める。

 そして、フィー達もまた同じように登っていく。


「今回は特攻は無理か。」

「仕方ないよ。急いで登ろう。」


 それしかないね。

 面倒だけど。


 今までと違って目指すのは上だ。

 空を飛ぶ以外に上への近道は存在しない。

 目の前の階段を登り続けるしかないのだが…。


『良いね良いね。順調に登れているね。でも、それだと困るんだよねぇっ。ってな訳で、今回の魔物っ来いやっ!』


 司会者の声に合わせて、砂の塔が蠢き出す。

 そして、そこから針のような鼻を持つ何かが飛び出した。

 それは、立派なヒレと鱗を持つ魚だ。


『という事で出ましたっ。砂を泳ぐ砂魚っ。これが、今度のお邪魔物っ。さぁ、戦士達の邪魔をどんどんばりばり落として頂戴なっ!』


 砂の塔の中を、自由に泳ぎ回る砂魚。

 時折、戦士達を目掛けて尖った鼻を向けて飛んでくる。

 それを、フィーが叩き落とす。


「今度は魚か。…美味しそうだな。」

「食べる気なの!? まぁ、気持ちは分かるけどっ。」

「実際、美味しい、もんね。でも、気を付けた方が、良いよ。」


 うん、上位のランクだもんね。

 そんな簡単な相手の筈が無いよ。


 どこからどう見ても、食欲を誘う立派な魚だ。

 しかし、例に漏れず食べられるだけの魔物を出すような場所ではない。

 それらの砂魚は、見えない壁の中から戦士達を強襲している。


「このまま進んだら、穴ぼこになっちゃうよ? どうするの?」

「決まってる。刺される前に抜けてしまえば良いだけだっ。」

「えっ、ちょっ、待ってよっ。」


 やっぱりそうなるよねっ。


 砂魚に構わず突っ走るフィーを慌てて追いかける俺達。

 横の壁が蠢いても、上空から影が落ちてもお構い無しだ。

 ひたすら上へと目指していく。


『ちょ、ちょっ、困るよー。折角用意した魔物を無視しないでちょーだい。…なーんてね。』


 にやりと意地悪そうに司会者が笑う。

 それと同時に、窓のような穴の横へとフィー達が辿り着いた時だった。


「まだ上かっ。」

「フィーさん! 横!」

「え?」


 上を見上げていたフィーは、ココルの言葉に横を見る。

 そこにある穴の中を見ると、何か黒い物がキラリと輝いていた。

 その直後、その中から鋏のような物が飛び出してくる。


「うおっ!?」


 危なっ!?


 咄嗟に後ろに下がってそれを避けるフィー。

 寸前で気づかなければ間に合わなかっただろう。


「大丈夫!?」

「何とかっ。助かったっ、ありがとう。」

「良いけど、次は気を付けて。」

「いや、まだ、だよっ。」

「えっ?」「えっ?」


 リュノが見ている方を見れば、大きな鋏が突き出ている。

 そして、その鋏はこちらへと向いている。


にゃにゃーーーっ!?


 まだ来てるーーーーっ!?


 気づいた頃にはもう遅い。

 大きな鋏は、フィー達へと襲い掛かる。


「ちょっ!?」「まっ!?」


 咄嗟に下がった事により、大きな鋏は目の前の階段を破壊する。

 そのせいで、進むべき階段が無くなってしまう。


「なっ、階段が!」


『はっはっはっー。危機一髪だったねぇっ。その通りっ、今回は既に大物が潜んでいたのさっ! まさか、ここまで来た戦士がこの程度で文句は言わねぇよなあっ。』

「くっ。」


 上位ランクに、今までの常識は通じない。

 こちらを邪魔すべく、全力で挑んでくるようだ。

 そしてその鋏は、フィー達の目の前だけではない。


『ちなみにですが、今回の大物はっ…。』

「分かってらぁ! 他にもいんだろっ?」


 その大きな鋏は、至る穴から飛び出している。

 どうやら大物は、一体だけではないようだ。

 それに対応する戦士達だが…。


「おっと、来るぞ!」

「面倒なっ。」


 そうしている間にも、尖った鼻を持った砂魚が飛び出してくる。

 大きな鋏の相手をしていると、砂魚の尖った鼻に襲われるのだ。

 それらの攻撃は、フィー達にも襲い掛かる。


「立ち止まってる、暇は、無いよ?」

「でか、鋏もこっち見てるっ!」


 止まれば砂魚がやって来る。

 それを潜り抜けようにも、大きな鋏が待ち受ける。

 考えてる時間はない。


「仕方ないっ。一気に飛び越えるぞ!」

「しかないねっ!」「うんっ。」


にゃ!


 行くよっ!


 迫る鋏を潜り抜けて、壊れた階段の先へと飛び込んだ。

 そして、そのまま先へと進んで行く。

 そうして、各地で魔物を避けながら戦士達が上へ上へと目指していく。

 そうして攻防を続ける中で、ついに一組の戦士が頂点に辿り着く。


『おおっと、戦士が頂点に到着ぅぅぅ。沢山の邪魔を越えて頂点に辿り着いたのはっ、なんと、新人の戦士!』


 その戦士達とは、フィー達の事だ。

 塔の頂点に立つと、辺りを見渡す。


「私達が一着のようだな。」

「うん。それで、どれを取れば良いの?」

「あれ。中央の、かな?」


 頂点の中央には、一本の剣が地面に刺さっている。

 他には何もない。

 あの剣が目的の物だろう。


「よし、行くぞ!」

「待ちな! 風よっ!」

「っ!?」


 剣へと駆けようしたフィー達の前の地面に線が走る。 

 更に、線の先に一人の戦士が着地する。


「はっ。新人ばかりに好き勝手させる訳ないじゃん?」

「くっ、追いつかれたか。」


 タッチの差で迫っていたようだ。

 その女の戦士は、短刀を軽々と回して肩に掛ける。


「っはっ、本当に女じゃん。よくここまで来れたもんだよ。」

「あんたも女だろ?」

「そうだよ? だから嬉しいんじゃん。むさ苦しい奴ばっかで飽き飽きしてたからねぇ。まぁでも、だからって手加減はしないよん?」

「望むところだ!」


 お互いは、剣との距離が互角だ。

 その剣に向かって、一斉に走り出す。

 筈だったが。


「おらっ、もう一吹き!」

「なっ。」


 女の戦士が剣を振るうと、剣先から風の刃が飛び出す。

 それは、フィー達へと襲い掛かる。


「くっ。」


 今度は直撃するコースだ。

 しかし、それを横に跳んで避けるフィー。


「どういう事だ!」

「決まってるじゃん。折角の闘技場なんだから戦わなきゃっしょ!」

「ぐっ、この戦闘狂め!」


 戦士達は、戦う為にここにいるのだ。

 このような状況で戦わないという選択肢は存在しない。


「ははっ。そうだよ? 私達は戦闘狂! 戦わずしていつ戦うのさっ!」


 飛び込んだ女の戦士は、フィーへと剣を振りかぶる。

 その短刀を、フィーが剣で受け止める。


『一触即発! 戦士と戦士の熱いぶつかり合い! やっぱこうじゃないとねぇ!』

「「「うおおおおおっ!」」」


 闘技場が盛り上がる中で、フィーと女の戦士が激しいつばぜり合いを続ける。

 その後ろを、急いで俺達が駆け抜ける。


「フィーさん! 剣は私達が!」

「頼む!」


 目的は、戦う事ではない。

 先に剣を取った方が勝ちなのだ。


「今っ!」


 そうして、剣へと飛び込むように迫るが…。


「なーんてね。」


 女の戦士がにやりと笑った直後、ココル達の前に大きな壁が現れる。

 それは、前を塞ぐように大きくなっていく。


「け、剣が!」

「魔法っ。塔と同じ、材質っ。」


にゃっ!


 何でこんな物がっ!


 塔の砂を利用した壁だ。

 その壁により、剣が見えなくなってしまう。


「おう! 間に合ったようだな!」

「ぜぇぜぇはぁ。足止め、御苦労…です。」

「どっちかと言うと、あんたのが御苦労だけどねぇっ。」


 どうやら、女の戦士の仲間による魔法のようだ。

 その仲間は、苦しそうに息を整えている。

 必死に走って来たのだろう。


「なるほど、これが狙いか。やってくれるな。」

「まあね。戦いたいのは本当だけど、勝たなきゃ意味がないっしょ?」


 戦いたいからといって、勝ちたくない訳ではない。

 初めから、これを狙って戦いを挑んで来たようだ。


「ほら、今のうちに!」

「そっちは…任せ…ましたよ!」


 息を切らしたまま、最後の気力で走り出す。

 このままでは、剣を取られてしまうだろう。

 それを止める為に、ココルが壁に拳を打ち付けるが…。


「駄目だ! 分厚いよ!」

「そりゃ、素材はここに沢山あるからねぇ。作り替えるだけの魔法に回せる分、分厚いのが作れんのさ!」


 走る魔法使いに代わって、女の戦士が答える。

 普段なら、土を生み出す魔法とそれを作り替える魔法が必要だ。

 その片方が必要無ければ、その分をもう片方に注げるのだ。


「ならば私が!」

「おっと。」


 止められるのは自分だと、女の戦士の短刀を払ったフィーが駆け出す。

 しかし、そのフィーに向かって矢が飛んでくる。


「させません!」

「くそっ。」


 もう一人の仲間が矢を飛ばして来たようだ。

 それにより、足を止めたフィーへと女の戦士が斬りかかる。


「ナイス足止めだ!」

「ちいっ。」


 迫る剣を、振り向いて受け止めるフィー。

 再びのつばぜり合いだ。

 その間にも、魔法使いの仲間が剣へと迫る。


『新人の戦士、手も足も出ず! これは、決着か!』

「ど、ど、ど、どうしよう!」


 上から行く?

 いや、間に合わないよっ。


 今から動いても、間に合わない距離だ。

 どうする事も出来ない。

 そんな慌てるココルの後ろで、背中の荷物に手を掛けるリュノ。


「ここで、力を使いたくは、無いけど。ん? 何か、来てる。」


 手を止め地面を見るリュノ。

 それと同時に、魔法使いの仲間が剣へと触れた時だった。


「させねーーよっ!」


 当然の叫び声。

 そして、その声と共に地面から大きな鋏が飛び出した。


「きゃっ!」

「おい!」


 その勢いで、魔法使いの仲間が吹き飛んだ。

 代わりに、大きな鋏の主が現れる。

 それは、身の丈を遥かに越える大きな蟹だ。


『なんと! これは、傑作だぁ! 他の戦士のチームが大物を連れてきやがったぁ!』

「って、事だ。まだ、決着は着いてないよなぁ! ひゃっはーーっ!」


 新たに現れた戦士のチームは、大きな蟹へと向かっていく。

 狙いは、足下の剣だろう。

 それを見た女の戦士も動き出す。


「やってくれるなぁ! 普段なら、喜ぶ所なんだけどなっ!」


 先に剣を取るために動いたのだろう。

 フィーの足止めをしている場合では無いようだ。

 それを、フィーは見逃さない。


「私も向かう!」

「うん! 壁が壊れたから私達も行くよっ。」

「合流、しよう。」


にゃっ!


 剣は、取らせないよ!


 大きな蟹に壁が壊された事により、俺達もまた剣へと向かう。


『っはぁ! 乱れる戦場! これを待っていたぁ! どれだけ俺達を盛り上げてくれるんだぁ!』

「「「わあああああああっ!」」」


 歓声の中、一斉に剣へと向かう戦士達。

 それに対して、大きな蟹が鋏を振るう。


「はっ!」

「風よ!」


 フィーと女の戦士が鋏を逸らす。

 その鋏は、空を切り上空へと向かう。


「良い剣だ!」

「あんたの魔法もな!」


 お互いを誉めながらも、競い合いながら掛けていく。

 その反対側で、飛び入りの戦士が剣へと飛び込む。


「貰った!」


 そのまま剣へと手を伸ばすも、体勢を崩した大きな蟹が倒れ込んでくる。


「ははっ、自分が呼んだ蟹に潰されなあっ!」

「くそっ。」


 それでも、横に跳んで大きな蟹を避けた戦士が前に出る。

 そして、剣に手を掛けた女の戦士へと手元の剣を投げつける。


「させねえよっ!」

「ちっ!」


 咄嗟に短刀を叩き込み、剣を弾き飛ばす。

 しかし、体勢を崩して後ろへと倒れてしまう。

 二人は倒れたままで動けない。

 その隙に、剣へと飛び込むフィー。


「貰った!」

「駄目だよっ!」

「え?」


 気づけば、立ち上がった大きな蟹が鋏を振るっていた。

 その鋏は、フィーへと向かうが…。


にゃっ!


 させないよ!


 近づく鋏は、俺が蹴飛ばした事により向きを変える。

 すると、あらぬ方向へと鋏が向かう。


「にゃんすけ!」


にゃん!


 今のうちに!


「分かった! すまないっ。」


にゃ!


 今更だよ!


 踏み込んだ鋏を点に、ポイントダッシュで大きな蟹へと向かう。

 その間に、フィーが剣へと手を伸ばす。


「急いで取らねば!」

「させねえっ!」

「させないよ!」


 フィーと共に、二人の戦士も駆け寄る。

 誰が取るのか分からない状況だ。

 その時だった。


「盛り上がってるとこ悪いが。」


 その男は、あの時と同じ言葉を発した。

 そして…。


「随分と暴れたようだな。お陰で塔もガタガタだろう。」


 そう言って、手に持つ大きな剣を振るった。

 すると、塔が斜めに切断される。


「な、何だ?」


 事情を掴めぬまま、沈む塔に足を取られる戦士達。

 その目の前で、剣ごと塔が落ちていく。


「おい、剣が!」

「ど、どうなってんだっ?」


 落ちる塔から逃げるので精一杯で、剣どころではない。

 その塔は、下で構える戦士達へと向かう。


「わざわざ登るまでもない。ようは、剣を手に入れれば良いだけだからな。」


 塔を剣ごと落としてしまえば良い。

 それならば、登らずとも手に入れる事が出来る。

 ルールが無い闘技場だからこそ出来る技だ。

 しかし、ついでに邪魔な物も落ちてくる。


「あらら、でかぶつまで落ちて来たぜ?」

「構わねぇよ。叩き斬れば良いだけだ。」


 先程の大きな蟹も落ちて来たようだ。

 しかし、斬ってしまえば問題はない。

 その為に、再び大きな剣を構えるが…。


「やはりかっ、邪魔をすると思ったぞ!」


 大男が剣を振る直前、大きな蟹が紫の炎に切断される。


「来やがったな。」


 大男がにやりと笑って、それをしでかした者を見る。

 その視線の先で、お面を被ったフィーが落ちていく。

 そして、お互いの視線が交差すると同時に剣を振る合う。


「決着だっ!」「決着だっ!」


 そうして、二つの剣がぶつかり合う。

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