第三回戦開始、一触即発の戦いです
『本日ぅ、三戦目のお時間だぁ! なんと! 話題のあの新人がぶっ続けで参加! 今回はどんなとんでもを見せてくれるんだぁ? って事で、早速ギミックっオーーープン!』
司会者の言葉に合わせて、戦場に砂埃が立つ。
すると、それらが中央で渦巻き出す。
「これも魔法か?」
「みたい、だね。中央から、魔法の反応が、するよ。」
戦場のど真ん中に仕掛けられた魔方陣を中心に砂埃が舞っている。
まるで、砂で出来た竜巻のようだ。
その竜巻の砂が増していくと、そのまま上へと延びていく。
そして、それらの砂が何かの形を作っていく。
「塔だよ、フィーさん。」
「塔だな。随分と高いな。」
そうだね。
って、まさかこれを登れと?
悪い予感通り、塔のあちこちに階段が出来ていく。
まるで、ここから登れと言うように。
それらが入り乱れるように繋がる事によって、砂の塔が完成する。
『さて、大体の事は見れば分かるでしょう。そう、塔の上に一番早く登り、そこにある物を取った奴が勝者だ。観客席からは、戦士を間近で見られるこの競技。戦士達よ、その期待に応えて良い戦いを見せてくれよ? そんじゃ、第三回戦っ、スターーーーートっ!』
「「「わーーーーっ。」」」
歓声の中、始まりの合図と共に塔へと向かう戦士達。
一番身近な階段を登り始める。
そして、フィー達もまた同じように登っていく。
「今回は特攻は無理か。」
「仕方ないよ。急いで登ろう。」
それしかないね。
面倒だけど。
今までと違って目指すのは上だ。
空を飛ぶ以外に上への近道は存在しない。
目の前の階段を登り続けるしかないのだが…。
『良いね良いね。順調に登れているね。でも、それだと困るんだよねぇっ。ってな訳で、今回の魔物っ来いやっ!』
司会者の声に合わせて、砂の塔が蠢き出す。
そして、そこから針のような鼻を持つ何かが飛び出した。
それは、立派なヒレと鱗を持つ魚だ。
『という事で出ましたっ。砂を泳ぐ砂魚っ。これが、今度のお邪魔物っ。さぁ、戦士達の邪魔をどんどんばりばり落として頂戴なっ!』
砂の塔の中を、自由に泳ぎ回る砂魚。
時折、戦士達を目掛けて尖った鼻を向けて飛んでくる。
それを、フィーが叩き落とす。
「今度は魚か。…美味しそうだな。」
「食べる気なの!? まぁ、気持ちは分かるけどっ。」
「実際、美味しい、もんね。でも、気を付けた方が、良いよ。」
うん、上位のランクだもんね。
そんな簡単な相手の筈が無いよ。
どこからどう見ても、食欲を誘う立派な魚だ。
しかし、例に漏れず食べられるだけの魔物を出すような場所ではない。
それらの砂魚は、見えない壁の中から戦士達を強襲している。
「このまま進んだら、穴ぼこになっちゃうよ? どうするの?」
「決まってる。刺される前に抜けてしまえば良いだけだっ。」
「えっ、ちょっ、待ってよっ。」
やっぱりそうなるよねっ。
砂魚に構わず突っ走るフィーを慌てて追いかける俺達。
横の壁が蠢いても、上空から影が落ちてもお構い無しだ。
ひたすら上へと目指していく。
『ちょ、ちょっ、困るよー。折角用意した魔物を無視しないでちょーだい。…なーんてね。』
にやりと意地悪そうに司会者が笑う。
それと同時に、窓のような穴の横へとフィー達が辿り着いた時だった。
「まだ上かっ。」
「フィーさん! 横!」
「え?」
上を見上げていたフィーは、ココルの言葉に横を見る。
そこにある穴の中を見ると、何か黒い物がキラリと輝いていた。
その直後、その中から鋏のような物が飛び出してくる。
「うおっ!?」
危なっ!?
咄嗟に後ろに下がってそれを避けるフィー。
寸前で気づかなければ間に合わなかっただろう。
「大丈夫!?」
「何とかっ。助かったっ、ありがとう。」
「良いけど、次は気を付けて。」
「いや、まだ、だよっ。」
「えっ?」「えっ?」
リュノが見ている方を見れば、大きな鋏が突き出ている。
そして、その鋏はこちらへと向いている。
にゃにゃーーーっ!?
まだ来てるーーーーっ!?
気づいた頃にはもう遅い。
大きな鋏は、フィー達へと襲い掛かる。
「ちょっ!?」「まっ!?」
咄嗟に下がった事により、大きな鋏は目の前の階段を破壊する。
そのせいで、進むべき階段が無くなってしまう。
「なっ、階段が!」
『はっはっはっー。危機一髪だったねぇっ。その通りっ、今回は既に大物が潜んでいたのさっ! まさか、ここまで来た戦士がこの程度で文句は言わねぇよなあっ。』
「くっ。」
上位ランクに、今までの常識は通じない。
こちらを邪魔すべく、全力で挑んでくるようだ。
そしてその鋏は、フィー達の目の前だけではない。
『ちなみにですが、今回の大物はっ…。』
「分かってらぁ! 他にもいんだろっ?」
その大きな鋏は、至る穴から飛び出している。
どうやら大物は、一体だけではないようだ。
それに対応する戦士達だが…。
「おっと、来るぞ!」
「面倒なっ。」
そうしている間にも、尖った鼻を持った砂魚が飛び出してくる。
大きな鋏の相手をしていると、砂魚の尖った鼻に襲われるのだ。
それらの攻撃は、フィー達にも襲い掛かる。
「立ち止まってる、暇は、無いよ?」
「でか、鋏もこっち見てるっ!」
止まれば砂魚がやって来る。
それを潜り抜けようにも、大きな鋏が待ち受ける。
考えてる時間はない。
「仕方ないっ。一気に飛び越えるぞ!」
「しかないねっ!」「うんっ。」
にゃ!
行くよっ!
迫る鋏を潜り抜けて、壊れた階段の先へと飛び込んだ。
そして、そのまま先へと進んで行く。
そうして、各地で魔物を避けながら戦士達が上へ上へと目指していく。
そうして攻防を続ける中で、ついに一組の戦士が頂点に辿り着く。
『おおっと、戦士が頂点に到着ぅぅぅ。沢山の邪魔を越えて頂点に辿り着いたのはっ、なんと、新人の戦士!』
その戦士達とは、フィー達の事だ。
塔の頂点に立つと、辺りを見渡す。
「私達が一着のようだな。」
「うん。それで、どれを取れば良いの?」
「あれ。中央の、かな?」
頂点の中央には、一本の剣が地面に刺さっている。
他には何もない。
あの剣が目的の物だろう。
「よし、行くぞ!」
「待ちな! 風よっ!」
「っ!?」
剣へと駆けようしたフィー達の前の地面に線が走る。
更に、線の先に一人の戦士が着地する。
「はっ。新人ばかりに好き勝手させる訳ないじゃん?」
「くっ、追いつかれたか。」
タッチの差で迫っていたようだ。
その女の戦士は、短刀を軽々と回して肩に掛ける。
「っはっ、本当に女じゃん。よくここまで来れたもんだよ。」
「あんたも女だろ?」
「そうだよ? だから嬉しいんじゃん。むさ苦しい奴ばっかで飽き飽きしてたからねぇ。まぁでも、だからって手加減はしないよん?」
「望むところだ!」
お互いは、剣との距離が互角だ。
その剣に向かって、一斉に走り出す。
筈だったが。
「おらっ、もう一吹き!」
「なっ。」
女の戦士が剣を振るうと、剣先から風の刃が飛び出す。
それは、フィー達へと襲い掛かる。
「くっ。」
今度は直撃するコースだ。
しかし、それを横に跳んで避けるフィー。
「どういう事だ!」
「決まってるじゃん。折角の闘技場なんだから戦わなきゃっしょ!」
「ぐっ、この戦闘狂め!」
戦士達は、戦う為にここにいるのだ。
このような状況で戦わないという選択肢は存在しない。
「ははっ。そうだよ? 私達は戦闘狂! 戦わずしていつ戦うのさっ!」
飛び込んだ女の戦士は、フィーへと剣を振りかぶる。
その短刀を、フィーが剣で受け止める。
『一触即発! 戦士と戦士の熱いぶつかり合い! やっぱこうじゃないとねぇ!』
「「「うおおおおおっ!」」」
闘技場が盛り上がる中で、フィーと女の戦士が激しいつばぜり合いを続ける。
その後ろを、急いで俺達が駆け抜ける。
「フィーさん! 剣は私達が!」
「頼む!」
目的は、戦う事ではない。
先に剣を取った方が勝ちなのだ。
「今っ!」
そうして、剣へと飛び込むように迫るが…。
「なーんてね。」
女の戦士がにやりと笑った直後、ココル達の前に大きな壁が現れる。
それは、前を塞ぐように大きくなっていく。
「け、剣が!」
「魔法っ。塔と同じ、材質っ。」
にゃっ!
何でこんな物がっ!
塔の砂を利用した壁だ。
その壁により、剣が見えなくなってしまう。
「おう! 間に合ったようだな!」
「ぜぇぜぇはぁ。足止め、御苦労…です。」
「どっちかと言うと、あんたのが御苦労だけどねぇっ。」
どうやら、女の戦士の仲間による魔法のようだ。
その仲間は、苦しそうに息を整えている。
必死に走って来たのだろう。
「なるほど、これが狙いか。やってくれるな。」
「まあね。戦いたいのは本当だけど、勝たなきゃ意味がないっしょ?」
戦いたいからといって、勝ちたくない訳ではない。
初めから、これを狙って戦いを挑んで来たようだ。
「ほら、今のうちに!」
「そっちは…任せ…ましたよ!」
息を切らしたまま、最後の気力で走り出す。
このままでは、剣を取られてしまうだろう。
それを止める為に、ココルが壁に拳を打ち付けるが…。
「駄目だ! 分厚いよ!」
「そりゃ、素材はここに沢山あるからねぇ。作り替えるだけの魔法に回せる分、分厚いのが作れんのさ!」
走る魔法使いに代わって、女の戦士が答える。
普段なら、土を生み出す魔法とそれを作り替える魔法が必要だ。
その片方が必要無ければ、その分をもう片方に注げるのだ。
「ならば私が!」
「おっと。」
止められるのは自分だと、女の戦士の短刀を払ったフィーが駆け出す。
しかし、そのフィーに向かって矢が飛んでくる。
「させません!」
「くそっ。」
もう一人の仲間が矢を飛ばして来たようだ。
それにより、足を止めたフィーへと女の戦士が斬りかかる。
「ナイス足止めだ!」
「ちいっ。」
迫る剣を、振り向いて受け止めるフィー。
再びのつばぜり合いだ。
その間にも、魔法使いの仲間が剣へと迫る。
『新人の戦士、手も足も出ず! これは、決着か!』
「ど、ど、ど、どうしよう!」
上から行く?
いや、間に合わないよっ。
今から動いても、間に合わない距離だ。
どうする事も出来ない。
そんな慌てるココルの後ろで、背中の荷物に手を掛けるリュノ。
「ここで、力を使いたくは、無いけど。ん? 何か、来てる。」
手を止め地面を見るリュノ。
それと同時に、魔法使いの仲間が剣へと触れた時だった。
「させねーーよっ!」
当然の叫び声。
そして、その声と共に地面から大きな鋏が飛び出した。
「きゃっ!」
「おい!」
その勢いで、魔法使いの仲間が吹き飛んだ。
代わりに、大きな鋏の主が現れる。
それは、身の丈を遥かに越える大きな蟹だ。
『なんと! これは、傑作だぁ! 他の戦士のチームが大物を連れてきやがったぁ!』
「って、事だ。まだ、決着は着いてないよなぁ! ひゃっはーーっ!」
新たに現れた戦士のチームは、大きな蟹へと向かっていく。
狙いは、足下の剣だろう。
それを見た女の戦士も動き出す。
「やってくれるなぁ! 普段なら、喜ぶ所なんだけどなっ!」
先に剣を取るために動いたのだろう。
フィーの足止めをしている場合では無いようだ。
それを、フィーは見逃さない。
「私も向かう!」
「うん! 壁が壊れたから私達も行くよっ。」
「合流、しよう。」
にゃっ!
剣は、取らせないよ!
大きな蟹に壁が壊された事により、俺達もまた剣へと向かう。
『っはぁ! 乱れる戦場! これを待っていたぁ! どれだけ俺達を盛り上げてくれるんだぁ!』
「「「わあああああああっ!」」」
歓声の中、一斉に剣へと向かう戦士達。
それに対して、大きな蟹が鋏を振るう。
「はっ!」
「風よ!」
フィーと女の戦士が鋏を逸らす。
その鋏は、空を切り上空へと向かう。
「良い剣だ!」
「あんたの魔法もな!」
お互いを誉めながらも、競い合いながら掛けていく。
その反対側で、飛び入りの戦士が剣へと飛び込む。
「貰った!」
そのまま剣へと手を伸ばすも、体勢を崩した大きな蟹が倒れ込んでくる。
「ははっ、自分が呼んだ蟹に潰されなあっ!」
「くそっ。」
それでも、横に跳んで大きな蟹を避けた戦士が前に出る。
そして、剣に手を掛けた女の戦士へと手元の剣を投げつける。
「させねえよっ!」
「ちっ!」
咄嗟に短刀を叩き込み、剣を弾き飛ばす。
しかし、体勢を崩して後ろへと倒れてしまう。
二人は倒れたままで動けない。
その隙に、剣へと飛び込むフィー。
「貰った!」
「駄目だよっ!」
「え?」
気づけば、立ち上がった大きな蟹が鋏を振るっていた。
その鋏は、フィーへと向かうが…。
にゃっ!
させないよ!
近づく鋏は、俺が蹴飛ばした事により向きを変える。
すると、あらぬ方向へと鋏が向かう。
「にゃんすけ!」
にゃん!
今のうちに!
「分かった! すまないっ。」
にゃ!
今更だよ!
踏み込んだ鋏を点に、ポイントダッシュで大きな蟹へと向かう。
その間に、フィーが剣へと手を伸ばす。
「急いで取らねば!」
「させねえっ!」
「させないよ!」
フィーと共に、二人の戦士も駆け寄る。
誰が取るのか分からない状況だ。
その時だった。
「盛り上がってるとこ悪いが。」
その男は、あの時と同じ言葉を発した。
そして…。
「随分と暴れたようだな。お陰で塔もガタガタだろう。」
そう言って、手に持つ大きな剣を振るった。
すると、塔が斜めに切断される。
「な、何だ?」
事情を掴めぬまま、沈む塔に足を取られる戦士達。
その目の前で、剣ごと塔が落ちていく。
「おい、剣が!」
「ど、どうなってんだっ?」
落ちる塔から逃げるので精一杯で、剣どころではない。
その塔は、下で構える戦士達へと向かう。
「わざわざ登るまでもない。ようは、剣を手に入れれば良いだけだからな。」
塔を剣ごと落としてしまえば良い。
それならば、登らずとも手に入れる事が出来る。
ルールが無い闘技場だからこそ出来る技だ。
しかし、ついでに邪魔な物も落ちてくる。
「あらら、でかぶつまで落ちて来たぜ?」
「構わねぇよ。叩き斬れば良いだけだ。」
先程の大きな蟹も落ちて来たようだ。
しかし、斬ってしまえば問題はない。
その為に、再び大きな剣を構えるが…。
「やはりかっ、邪魔をすると思ったぞ!」
大男が剣を振る直前、大きな蟹が紫の炎に切断される。
「来やがったな。」
大男がにやりと笑って、それをしでかした者を見る。
その視線の先で、お面を被ったフィーが落ちていく。
そして、お互いの視線が交差すると同時に剣を振る合う。
「決着だっ!」「決着だっ!」
そうして、二つの剣がぶつかり合う。