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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
117/283

第二回戦開始、正面突破です

『あ、あー、あーー、…え?』


 何が起きたのかが分からず、闘技場が沈黙する。

 一瞬の事で、認識が出来なかったようだ。


『えーと、終わった? んでしょうか。倒したのは、新人の戦士? で、間違いないようですが。』

「見れば分かるだろっ。 私達の勝ちで良いよなっ?」

『まぁ、ルール…ですからね。はい。』


 何度も瞬きをして状況を確かめている司会者。

 何とか状況を飲み込もうとしているようだ。

 そして、強くマイクを掴み上げる。


「と、ととと、取り合えず決着ーーーーっ。勝者は新人の戦士! 見事、第一ランク突破ーーーーっ!」

「「「お、おおおおおおおおっ!」」」


 理解が出来なくても、自分の仕事を果たしている。

 その声に、呆気に取られたままの観客も取り合えず乗っている。

 そんな中、フィーの下にココルとウィロが集まってくる。


「凄いねフィーさん。あんなのを一発で倒すなんて。」

「まあな。今回もあいつが出るのが分かってたから対策を練ってたんだ。」

「分かってた? どうして?」

「え、ま、まぁ、職員の話を偶然聞いてな。ははっ。」


 下手な言い訳だね。

 まぁ、知らせる訳にはいかないから仕方ないけど。


 情報を得たのは、昨日の潜入の時だ。

 大きな猿がいたのを見ていたのだ。

 それで、今回も出てくるだろうと対策を練っての一撃だ。


『さて、勝ち残った新人の戦士の為に説明しておきますが、ランクを突破した者は、引き続き後に行われる次のランクに参加できます。もし参加したいというのなら、闘技場の職員へと知らせてください。と、いう事で解散!』


 その司会者の声で、戦士やピグルンが引いていく。

 観客たちもまた、次の戦いを見る為に各々が動き出す。

 そして、フィー達も出てきた場所へと戻っていく。


「私はそのまま出たいがどうする?」

「勿論出るよ。頑張るって言っておきながら何も出来なかったからね。」

「それはまぁ、すまない。」


 肩透かしを食らったせいか、動き足りないのだろう、

 疲れを感じさせず、やる気に溢れている。


「それでリュノは?」

「僕も、同じだよ。まだ、戦える、よ。」


 リュノも同じく疲れを感じない。

 言葉通り、まだ動けるのだろう。


「では、もう一戦行っておくか!」

「おー!」「おー。」



 それからしばらくしての事。

 フィー達は、二回戦の舞台に立つ。


『そんじゃ、二回戦だ。こっからは低ランクと違ってギミックありだ。生き残りたきゃ乗り越えてみな。じゃなきゃ、自分が死んだ事すら認識出来ないまま死んじゃうぜ?』


 司会者は、先程と同じようだ。

 その声を聞きながら、フィーが周りを見渡す。


「あいつらはいないのか?」

「みたいだね。あの後、また上にあがったんだよ。」


 あいつらとは、昨日フィー達を負かした奴等の事だ。

 ここにいないという事は、ぶっ続けの戦いに勝利して上へと向かったのだろう。

 そんな話をしている間にも、向かい側の鉄格子が開いていく。


『と、新人向けの説明をした所で始まりの時間だ。じゃあ、今日の獲物出てこいやぁ!』


 低ランクの時と同じく、司会者の声で鉄格子が開いていく。

 すると、その中から複数のピグルンが現れる。


「また、ピグルンか。」

「でも、何か抱えてるよ?」

「あぁ、確かに。」


 うん、抱えてるね。

 なんだろう。


 現れたピグルンは、三匹で大きな球体を抱えて運んでいる。

 そして各方向に散らばると、その球体を地面へと置いていく。

 次の瞬間、球体を中心に四方へ蔦が伸びていく。


「な、なんだっ。」


にゃ!


 な、なんか伸びたっ!


 驚く俺達の前で、どこまでも伸びていく蔦。

 それらは、お互いが絡まりながら端にいる戦士達へと伸びていく。

 更には、まるでロープのように蔦が宙に伸びていく。


「おっと、一体これはっ、何なんだっ。というか、どこから来たんだっ。」

「うーっ。巻き込まれるよーっ。」

「魔法、だね。あの球体に、仕掛けられて、たんだよ。多分、これが、ギミック、だね。」


にゃーっ!


 小さいから、あっという間に飲み込まれるーっ。


 足元に来る蔦を必死に避けていく俺達。

 しかし、他の戦士達は慣れたように軽々と避けていく。


『見ての通り、今日の戦いは果実争奪戦っ! ルールは簡単、果実を沢山壊した奴が勝利! でも、忘れてねぇよな? ここが、闘技場って事をっ! お前らっ、ご飯だぜっ! かもーーん!』


 勢いよく立った司会者は、言葉と共にピグルン達が去った方へと指をさす。

 すると、そこから毛に覆われた大量の何かが跳ねながら現れた。

 その口からは、大きな牙が飛び出している。


「可愛いね。」

「可愛いな。」


 うん、可愛いね。

 リスかな? ハムスターかな?

 鼠の親戚なのは間違いなさそうだけど。


 その姿からすると、げっし類の何かだろう。

 見た目は可愛く、斬りかかるのを躊躇う程だ。

 それらの生き物は、果実へと向かっていく。


『こいつらは、あんた達の戦いを邪魔するぜ。見事避けて果実を壊せるのかな? っと、んじゃあ、本日の二回戦、開始ーーーーーーっ!』


 司会者の宣言と共に、一斉に戦士達が動き出す。

 お互い距離を取りながら果実へと向かう。

 まずはお互い邪魔しないよう、確実に壊していくつもりだろう。

 しかし、そんなの構わずとばかりにフィーが飛び出した。


『おーっと! やはり、真っ先に突っ込んだのは新人の戦士! それしか脳が無いのかーーっ!』

「相変わらず、余計な一言が多い奴だなっ!」


 司会者に怒りながらも、一直線に中央へと向かうフィー。

 他の戦士が周りの果実を壊していく中、中央の果実を叩き割る。

 すると、大きな鼠達の視線がフィーへと向かう。


「フィーさんっ、気を付けて!」

「問題ないっ、ただの鼠だろうっ。」


 今までこれよりも強い相手と戦って来たのだ。

 今更、こんな弱そうな相手に遅れを取る筈がない。

 そのはずだった…。


「フィーさん! 上!」

「上?」


 あ、危ない!


 フィーが一瞬目を離した時だった。

 上を見ると、一斉に鼠が口を開けて迫ってきた。


「う、うおーっ!」


 それを咄嗟に交わすフィー。

 転がるように、蔦の上を跳んで避ける。


『可愛いだけの鼠ちゃん。って、そんな甘ったれた奴を出すような場所と思ったか! 闘技場をなめんじゃねーよっ!』

「くっ。」


 忘れてはいけない。

 魔物以外は、国には対処が困難な生き物が出てくるという事を。

 それは、こいつらもまた同じ。


「餌を奪う奴を狙うのか。完全に敵対されているな。」


 どの視線も、回りで動く戦士達を見ない。

 派手に目立ったフィーに狙いを定めたようだ。

 しかし、それで揺らぐフィーではない。


「また来るよ! 下がって!」

「上等だっ。今の私を止められると思うなよ! まとめて来いっ!」


 構えるフィーに向かって一斉に飛びかかる大鼠達。

 それに対して、フィーが真正面から突っ込む。


「はあっ!」


 飛びかかってくる大鼠を順番に斬っていく。

 斬ってはすぐに次の大鼠へと。


「皆とまた、美味しいご飯を食べる為にっ!」


 それでも止まない大鼠を、大きく回りながら斬っていく。

 まるで舞うように、演舞で大鼠を斬りながら突き進む。

 決意を固めたフィーにとって、相手がどうとか関係がないのだ。


にゃっ!


 俺も同じっ!

 負けてられないよっ!


 フィーに襲いかかる大鼠を蹴り飛ばしていく。

 点から点へと休む事なく跳んでいく。

 そうして進みながら、果実を斬っていく。


「私だって!」

「うん、サポート、するよっ。」


 ココルが大鼠を殴り飛し、リュノが親指に重ねた中指を弾いて大鼠を吹き飛ばす

 二人の狙いは、フィーを見ている大鼠だ。


「このまま行くぞ!」

「任せて!」「頑張る、よ。」 


「「「わーーーーーっ!」」」


 フィー達の戦いに観客達が盛り上がる。

 命の犠牲も構わない派手な戦いに、魅了されてるんだろう。


『いいね、いいね。盛り上がってきたぁ! 果実も順調に壊されていくーーーっ!』

「くそっ。中央のが根こそぎ取られるぞ!」

「遅れを取るな!」


 中央の果実が、フィー達によって壊されていく。

 しかし、それを黙って見ている戦士達ではない。

 戦士達もまた、果実を壊す速度を早めていくのだが…。


「おい。こっち見てるぞ!」

「ぐっ、派手に動きすぎたかっ。」


 目立てば勿論、大鼠達の狙いが向かう。

 それらの対処に追われた戦士達の動きが止まる。


「くそっ。こいつらをものともしないなんて、一体何なんだあの戦士はっ!」

「全くだ、だが大丈夫だっ。そろそろ奴が来る!」


 果実が減っているというのに、戦士達は余裕そうだ。

 その戦士達の視線が集まる先では、変わらずフィーが舞っているが…。


「魔法に、反応、あり。何か、来てる?」


 リュノが蔦の下に視線を移す。

 そこにいる何かに気づいたようだ。


「フィーさん、下。でかいの、いるよ!」

「今度は下かっ。」


 フィーが気づいた直後、下の蔦が蠢き出す。

 すると、蔦の間から大きな口が現れる。


「なっ!?」


 んっだこれーーーっ!


 大きな口は、フィーを飲み込むように襲い掛かる。

 それを、咄嗟に後ろへ跳んで避ける。

 避けられた大きなそれは、すぐに蔦の中へと潜っていく。


『おっしーーーねぇ。因みに、もう既に大物がいるから気を付けてな!』

「おい! どっちの味方なんだ!」

『勿論、盛り上げてくれる方ですとも!』

「言い切りやがったっ。」

「まぁまぁフィーさん。落ち着いて。」


 怒るフィーだが、向こうはそういう仕事なのだ。

 今更どうこう言おうが意味がないだろう。

 そんな事をしている間にも、再びそいつが飛び出してきた。


「うおっと。こいつは蜥蜴かっ?」

「だねっ。こっちを丸飲みにしてくるよ!」

「上も下も口! 嫌になるっ!」


 まるで餌の気分だよっ!

 まぁ、餌なんだろうけど。


 俺達の避けられた大蜥蜴は、再び蔦の中へと潜っていく。

 これでは、どこから来るか分からない。


「隠れた場所から、獲物を、狙うんだね。気を付けて。」

「あぁ。動き続ければ問題はない!」


 だね。

 一直線しか来ないから分かりやすいよ。


 見たところ、向きを変えるような動きはしていない。

 一度避ければそれで済む筈だが…。


『良いのかい? ぼさっとして。何か忘れちゃいないかい?』

「ぐっ、鼠の奴らか。しつこいなっ。」


 大蜥蜴と戦っている間にも、大鼠どもは襲ってくる。

 それに対処しようとした瞬間、リュノが下の動きに気づく。


「下!」

「なんっ!」


 リュノの呼び掛けで下がった直後に、大鼠を覆うように大きな口が現れる。

 そして、大鼠を飲み込んだまま蔦の下に沈んでいく。


「危なかった、ね。もう少しで、丸飲み、だったよ。まぁ、腹を裂けば、出られる、けどね。」

「食べられる前提っ!?」

「その前に喉に詰まるだろう。」

「フィーさんっ、そういう事でも無いと思うよっ! 後、詰まらずに直通だと思う!」

 

 爬虫類って喉が柔らかいもんね。

 って、それどころじゃないか。


 見えない敵に手こずっていると、その間に他の戦士が動き出す。

 どうやら、大鼠をあらかた倒したようだ。


「あいつらが引き付けている内にやっちまうぞ!」

「ははっ。今日の戦いは楽勝だなっ。」


 普段襲いかかってくる敵は、全てフィー達へと集中している。

 これほど楽な戦いは無いだろう。


「どうする、の? 取られちゃう、けど。」

「まずは、下の奴をどうにかしないと。でもっ、攻撃なんてしてる余裕は無いよ。」


 攻撃できるのは、現れた一瞬だけ。

 しかし、避けるので精一杯だ。

 どうする事も出来ないが…。


「余裕はない? ならば、作れば良いだけだ。」

「作る? どうやって?」

「勿論、正面突破だ!」

「ええっ!?」


 構わず、フィーが正面に突っ込んだ。

 そして、剣を構える。


「にゃんすけ! 敵を集めてくれ!」


にゃ!


 あいよ!


 あちこち飛びながら大鼠を集めていく。

 そして、フィーの下へと一気に飛ぶ。

 そのまま、俺と入れ替わるように前に出るフィー。


「はっ!」


 そして、追ってきた大鼠へと一回転。


「おらっ!」


 更に、逆に回ってもう一撃。

 その勢いで、大鼠達を吹き飛ばす。


「おらっ、大量の餌だぞ!」


 フィーが叫ぶと同時に、吹き飛ばした大鼠を覆うように大きな口が現れる。

 そして、そのままフィーへと突っ込んでいく。


「フィーさんっ、危ない!」

「いやっ、これをっ、待っていたっ!」


 迫る口を避けると同時に、大蜥蜴の足を叩き斬る。

 すると、斬られた足とは逆の方へと大蜥蜴が倒れた。

 そのままその下に潜り込むと、露になった首へと剣を刺す。

 そして…。


「うおおおおおおおおおっ!」


 その勢いのまま進む大蜥蜴を、踏み込んだ足で耐えながら裂いていく。

 突き刺さった剣は、首からお腹へと裂き続ける。

 更に、そこからもう一方の足を前に出す。


「ああああああああああああっ!」


 その足で前に踏み出しての踏み込みで前へと進む。

 そして、その勢いで増した勢いの剣を思い切り振り抜く。


「ちょっ。」


ズシーーーーーーーン。


 そのまま吹き飛んだ大蜥蜴は、他の戦士の行き先を塞ぐように落っこちた。


『だ、だだだ、大開帳ーーーーーっ! なんと! 大蜥蜴が一撃で開きにされてしまったーーーっ! やらかしたのはっ、またしても新人の戦士っ!』

「「「わーーーーーーっ。」」」


 大型が一撃で沈んだ事により、闘技場のボルテージが跳ね上がる。


「嘘だろっ。」

「くそっ、通れねぇっ。回り込むぞ!」


 大蜥蜴の死体に邪魔された戦士達は、真ん中へと進めない。

 回り込もうにも、その間にフィー達がその方向の果実を壊しきる。

 そして、ついに決着がつく。


『き、決まったーーーーっ。勝者は新人の戦士!』

「「「うおおおおおおおおおっ!」」」

『またしてもっ、連続ランクの踏破者が現れた! 一体っ、今回の祭りはどうなっているんだーーーーーっ!』


 盛り上がる闘技場。

 その中で、フィーが剣を振って果物の汁を弾く。


「次だ。まだ、行けるよな?」


 フィーが俺と他の二人を見ると、黙ったまま頷き返す。

 戦いが終わって、そのまま次のランクの戦いへ。

 そこで、あの者達と再会する。



「おいおい、来やがったよ。ぶっ続けだろ?」

「だろうな。だが、遠慮はしない。覚悟は良いな?」

「当然だ。」


 遠慮なんてしている余裕は無い。

 遠慮されても合わせる必要もない。

 何故なら。


「勝った奴が勝者っ!」「勝った奴が勝者っ!」


 フィーと大男が声を上げる。

 そして、並び会う戦士達の前で鉄格子が開いていく。

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