闘技場の闇です
「貴方達、ここまで来ちゃったのね。」
「あぁ、ウィロを追ってな。ココルも来てる。」
「あの子まで? 何て事…。」
久し振りにあったと言うのに、その顔は沈んでいる。
再開を喜んでいるようには見えない。
「マレーヌさん、何があった? 誰がこんな事を。」
「主催者の方です。私を捕まえて人質にしてるのよ。そのせいで、ウィロさんが…。」
「人質だと!?」
人質だって!?
無茶苦茶だよっ。
「ふざけたまねを。では、ウィロが闘技場に出てるのもそのせいか?」
「たぶん。何か実験をしているらしくて、協力したら私を離すと言ってたわ。それ以外の事は私がいないところで交わされたから知らないけど。」
「そうか。くそっ。」
ひどい。
こんなのが許されて良いの?
マレーヌを人質にされたせいで、ウィロは抵抗できなかったようだ。
闘技場で戦っているのも脅されたからだろう。
そんな怒るフィー達の後ろで、カミーユがとある事に気づく。
「脅されて? そういう事なんですね。」
「どうしたんだ?」
「フィーさんが戦ってた時の事です。ウィロさんの主の貴族を見た事がないと。その貴族が主催者なら納得がいきます。」
主催者なら観客席にいなくても戦いをみれるだろう。
なので、わざわざ観客席に向かわなくても問題はない。
これが、ウィロを駒として主を見なかった理由だ。
「主催者がこんな酷い事を。流石に見ていられません。アイナ!」
「了解。」
カミーユの指示でアイナが扉を確かめる。
鍵を魔法で開ける為だろう
しかし、鍵は開かない。
「駄目です。魔法錠です。」
「魔法錠?」
「特別な魔法の鍵でのみ開閉出来る錠です。小手先の魔法では開かないでしょう。」
そんな。
じゃあ、助けられないの?
開閉するには、特別な鍵が必要な錠。
それ以外に開く方法は存在しない。
つまり、どうする事も出来ないのだ。
「くそっ、こうなったら主催者とやらを問い詰めるしかない!」
鍵が必要なら、持っている相手を問い詰めればいい。
そう思い立ち上がるフィーの前に、カミーユが立ち塞がる。
「駄目です。人質にされている以上は、手出しする訳にはいきません。」
「では、放っておけと言うのか。こんなのおかしいだろ。」
「そうです。ですけど、アイナの検知に反応があったのは一人だけ。主催者はここにはいないという事でしょう。」
ここにいるのなら、アイナの魔法に引っ掛かっている筈だ。
しかし、引っ掛かかる事は無かった。
闘技場にはいないという事だろう。
「でも、朝になったら来るだろう。その時を待てばいい。」
「待ってどうするのです? 何かあったら彼女が殺されます。それで良いんですか?」
静かにかつ熱く睨み合う二人。
しかし、それ以上に発展しないのはフィーも分かっているからだろう。
怒りを堪えるように、悔しそうに俯くフィー。
「折角会えたってのに何も出来ないなんて。ふざけやがって。」
にゃん。
気持ちは分かるよ。
でも、どうする事も出来ないよ。
本当に、ふざけるなだよ。
マレーヌが前にいるというのに、何も出来ずにいる。
その事実に、フィーの怒りが増していく。
そんなフィーへと、鉄格子越しに寄りそうマレーヌ。
「大丈夫よ。知ってるでしょ? 牧場を一から作ったのは私よ。それに比べれば、こんなの対した事ないわ。助かる方法はきっと見つかる。それまで待つわ。待ってやるわよ。」
優しく諭すように、フィーへと語りかけるマレーヌ。
その顔には、絶望など微塵も感じない。
それを見たフィーの顔が弛む。
「そうだったな。誰よりも辛い状況を乗り越えて来たもんな。うん、マレーヌさんなら出来る気がしてきたよ。」
にゃ。
そうだね。
誰よりも強い人だもん。
きっと、大丈夫だよ。
牧場を一から作り、困った人達をまとめて助けてきた。
その心は、誰よりも強いのだ。
そんなマレーヌが、この程度の事でまいる訳がない。
「でも、ココルには内緒でね?」
「どうしてだ?」
「だって、聞いたら絶対無茶するから。」
「確かにするだろうな。」
どの口がだね。
まぁ、絶対荒れそう。
マレーヌの居場所を知れば、絶対に荒れるだろう。
自分で取り戻すと動く筈だ。
そんな話を聞いて、ある決断をするカミーユ。
「分かりました。ではこうしましょう。私が彼女を助けます。今すぐには無理ですけど。」
「出来るのか?」
「つてはあります。代わりに、フィーさん達は主催者を追って下さい。」
どうやら助ける方法があるらしい。
もし助ける事が出来るのなら、主催者とも向き合えるのだが…。
「それはありがたいんだが、どうやってだ?」
「向こうはウィロさんを闘技場に出している。そして、ウィロさんはそれに答えて勝ち進んでいます。きっと、優勝が目的でしょう。ならば、最後の決勝が決まった時に現れる筈です。」
ウィロの目的は主催者の目的だ。
それが果たされた時に、必ず現れるだろう。
「良いですか? 祭りの決勝にフィーさんとウィロさんが勝ち上がる。そして、主催者を戦場に誘き出す。それまでに、彼女を連れた私が現れる。これが条件です。」
「要するに、勝てば良いわけだ。もう遅れを取るつもりはない。任せてくれ。」
にゃー。
任せてくれー。
もう負けるつもりはないよ!
ただ勝ち進めば良いだけだ。
それさえ分かれば充分だ。
もう負けないと、闘志を目に宿す俺達。
「では、また決勝で会いましょう。」
「あぁ。だから、マレーヌさんの事は頼んだぞ?」
「勿論です。必ず間に合わせます。」
二つのチームが成功しての作戦だ。
カミーユ側も、成功させなくてはいけない。
その事実に、カミーユもまたやる気を溢れさせている。
そんな、手を合わせて誓う俺達をマレーヌが暖かく見守る。
「無理はしないでね。」
「いや、無理はさせてもらうさ。また、マレーヌさんの料理が食べたいからな。」
にゃ!
同じく!
「そう? なら、たんと腕を振るわなきゃね。まずは牧場を建て直さないとだけど。」
「それなら大丈夫だ。牧場の皆が心配するなってさ。誰に似たんだかな。」
「あら? 誰かしらね。ふふっ。」
「ははっ。」
軽く笑い合うと、マレーヌとは一度別れる。
今度は皆と笑い合う為に。
一層の決意を持って部屋を出る。
そして、次の日が来る。
昨日と同じように、フィー達は戦場に立つ。
そんなフィーの横にココルが立つ。
「フィーさん、今度は勝とうね。今日は私も頑張るから。…フィーさん?」
「ん? あぁ、勿論だ。一緒に頑張ろう。」
「?」
心ここにあらずなフィーに疑問を持つココル。
その間にも、魔物側の鉄格子が開いていく。
『今日も今日とて戦いだ! もうへばってはいないよなぁ? これからが最高潮! どんどん盛り上がってこうぜぇ!』
「「「わーーーーーっ!」」」
盛り上がる闘技場と共に現れる魔物達。
フィー達にとって負けられない戦いが始まる。
『それじゃあ、今日の第一回戦。始めちゃって頂戴な!』
「よし、行くぞ!」
開始の合図と共に、フィーが駆け出す。
『おおっと。今日の新人は特攻! 昨日の雪辱を晴らす勢いだ!』
その言葉通り、フィーの剣の一撃一撃が重い。
昨日の悔しさをぶつけるような勢いだ。
しかし、それだけではない。
(言いたいことは沢山あるがっ。)
勢いよく剣を振るうフィー。
(この闘技場は許せないっ。)
俺が怯ました魔物を斬っていく。
(でもそれ以上に、何も出来ない現状に腹が立つっ。)
次から次へと斬っていく。
(このもやもや、目の前の奴等にぶつけさせてもらうっ!)
斬って斬って斬っていく。
すると、鉄格子が開き昨日の大きな猿が現れる。
『今日もまた現れたぁ! 説明はもういらないよなぁっ! んじゃ、命を賭けたやり取り見せてくれやあっ!』
うごおおおおおあっ!
雄叫びをあげる大きな猿。
そして、目の前の群れに飛びかかろうとした時だった。
うごあっ。
次の瞬間、大きな猿の右腕と首が跳ね飛んだ。
「その前に、まずは一人で抱え込む馬鹿を殴り飛ばすのが先だな。」
そう言って、フィーが剣を振って刃に付いた大きな猿の血を払った