その奥にあるものは
「それで、瘴気ってのはどこなんだ?」
「反応は奥からです。行きましょう。」
檻の横を潜り抜け、地下の奥へと向かう。
そこには、同じように扉があった。
しかし、今までと違い両開きとなっている。
「ここです。この奥から瘴気を感じます。」
「そうなのか。って、今更だが、どうやって瘴気を探しているんだ?」
「私は魔力を認識出来る体質でして。異物が混じってると分かるんですよ。」
「へぇ。」
空気中に紛れている沢山の魔力。
普通なら認識する事が出来ないがカミーユは別だ。
異物が少しでも混じっていると、異常として伝わるのだ。
「この力のせいで色々と苦労しましたが。まぁ、それはともかく入ってみましょう。」
話を切り上げて、後ろのアイナへと目配せをする。
それを受けたアイナは、今までのように扉へと向かうが…。
「あれ、開いてますね。扉の向こうにも気配なし。」
「そうですか。では、入ってみましょう。お願いします。」
今度は、二人の兵士が扉へと向かう。
そして、ゆっくりと扉を開けて中を覗く。
「こ、これは…。」
「どうしました?」
「当たりです。見てみて下され。」
扉を開けて中へと導く兵士達。
それに従い、一同が中へと入り込む。
そして、それを見る。
「魔方陣。やはりですか。」
「なんか、見てるだけで気持ち悪くなるな。」
同じく。
酔いそうになるというか。
その魔方陣から溢れる禍々しい力は、見ている者の気分を悪くさせる物のようだ。
それを受けた一同が咄嗟に顔を覆う程だ。
特に、カミーユが顔を悪くさせる。
「こればかりは、どうしても慣れませんね。」
「お嬢様は影響を強く受けるので私の後ろへ。皆さんも、それ以上近づいたら引き込まれます。下がってください。」
魔方陣の影響を受けないように身を引く一同。
それでもなお、その影響力は凄まじい。
そんな中でも、魔方陣をしっかりと確認するフィー。
「この向こうに魔界があるんだな?」
「かなりの瘴気が漏れてますので間違いないでしょう。やはり、闘技場の一部の魔物は魔界から呼び寄せているのですね。」
酷いもんだね。
こんなのがあるなんて。
魔物の待機所にあるという事は、そういう事だろう。
闘技場が本来の趣旨から離れているという明らかな証拠だ。
それを見ながら、剣の持ち手に手をかけるフィー。
「壊すか?」
「いいえ。放って起きましょう。」
「何故だ? あってはならない物だろう?」
「そうですが、潜入があったと知られたら動きづらくなります。そもそも、近づく事すら出来ません。壊すのは無理でしょうね。」
遠くから見ているだけで気分が悪くなる程だ。
これを壊す為に近づくとなると、どうなるか分からないだろう。
リスクを犯してまでやるべき事ではない。
「見ているだけしか出来ないとは、歯がゆいものだ。」
「私達の目的は調べる事です。仕方ありません。」
大事なのは、少しでも多くの情報を導き出す事だ。
今こうして魔方陣に対して出来る事はない。
一同がその魔方陣を見ている中、兵士の一人が奥にある扉に気づく。
「お嬢様。あちらに扉が。」
「まだ、何処かに通じてる? 行ってみましょう。」
魔方陣を避けるように、兵士を先頭に扉へと向かう。
そして、兵士が扉を開けて奥を確認する。
「ここにも鍵はありませぬな。奥に異常も無し。あるのは、階段だけ?」
「上に通じているのですね。アイナの探知で確認しながら進みましょう。」
カミーユの指示で、警戒をしながら扉を潜る一同。
そこにあるのは、細い通路と上へと続く階段だけだ。
やけに豪華なその階段を昇っていく。
「登り降りするだけの階段。にしては豪華だな。」
「えぇ。まるで、屋敷で見るような階段です。」
ほんとだね。
こういうのって、基本さびれてたりするんだけどね。
鉄で出来たシンプルな奴とかね
下には赤い絨毯が敷かれている。
その横の壁は、金で出来ているような装飾で彩られている。
ただの施設の階段とは思えない。
しかも、途中で一回螺旋のように回って方向転換している。
「この上には何があるのだ?」
「位置的には闘技場の右側でしょう。」
「私達貴族が観戦していた方角ですね。どうやら、戻ってきたみたいです。」
観客席の上に備え付けられた豪華な部屋がある方向だ。
カミーユ達にとっては、探索を始めた場所に戻ってきた事になる。
そのままその通路を進むと、扉が見えてくる。
「開けますぞ?」
「人の検知はありません。問題無いでしょう。」
アイナの魔法には、人の反応は感じられない。
それならばと、遠慮なく扉を開いて確認する。
すると、そこには階段と同じような見た目の通路が広がっていた。
その通路を、扉を潜ったカミーユが見回す。
「やはり、私達が通った通路ですね。でも、こんな扉は無かった筈ですが。」
「恐らくその先でしょう。位置的に先があるのは確かですから。」
貴族用の観客席へと通じる通路の先だ。
建物が一周している関係上、通路も一周しているのは当たり前なのだが…。
「調べなかったのか?」
「えぇ、行き止まりでしたので。まさか、こんな風に通じていたとは。」
貴族が通る通路とは遮断された場所にある通路。
このように遠回りしないと入れないとは思える筈もない。
「貴族が通れない通路にこんな豪華な場所が…。まさか、主催者のか?」
「そうでしょうね。恐らく先程の階段は、主催者の方が魔物を閉じ込めておく場所へと向かう場所。そうなると、ここに主催者がいてもおかしくはない。アイナ、調べてください。」
「了解。」
カミーユの指示で、探知魔法の範囲を広げるアイナ。
この通路を含め、通路と通じる部屋も調べていく。
「どうです? 誰かいますか?」
「いません。…いえ、一人だけですが引っ掛かりました。とても薄くですが。」
「一人だけ? 確か主催者は、三人家族の筈ですけど。」
「分かりません。ですが、一人だけなのは確かです。調べてみますか?」
「そうですね。そうしましょう。」
一人しかいないとなると、家族では無いかもしれない。
その人物が誰なのか気になるのだろう。
それを調べるべく、アイナの誘導に従い進んでいく。
すると、一つの扉へとたどり着く。
「ここです。どうします?」
「アイナ、見てきてもらいますか?」
「了解。」
アイナが魔法で鍵を開けて中へと入る。
すると、すぐに中からアイナの声が聞こえてくる。
「これは…。皆さん中へ。」
「? 入りましょう。兵士二人は外で見張りを。」
アイナに促されるままに、兵士を抜いた三人で中へと入る。
すると、そこには扉の付いた壁があった。
「部屋の部屋? どういう事だ?」
「それよりも奥です。そこの鉄格子から見て下さい。」
鉄格子?
この窓みたいなの?
壁の一部には、窓のように鉄格子が付いていた。
そこから俺達が覗いた時だった。
「マレーヌさん!?」
にゃ。
マレーヌさん!?
そこにいた人物に、フィーと俺は驚愕する。
その人物とは、拐われた筈のマレーヌだ。
驚くのも無理はない。
「聞こえてないのか?」
「魔法のせいでしょう。アイナ。」
「えぇ、すぐに。」
手で何かを払うように動かすアイナ。
恐らく、それで魔法が解かれたのだろう。
それを確認したフィーが再び叫ぶ。
「マレーヌさん! 聞こえてるか!」
「えっ、フィーさん?」
にゃ。
俺もいるよ。
「にゃんすけさんも?」
声に気づいたマレーヌが驚くようにこちらを見る
すると、こっちに向けて駆け寄ってくる。
そうして、ついにマレーヌと対面する。