魔物についての勉強です
「暗いですね。気を付けて下さい。」
足元が見えないね。
暗すぎるよ。
階段には月の明かりが届かず暗闇が広がる。
先に何があるかが全く見えない。
そんな中を、恐る恐る下がっていく。
すると、アイナの手から光の玉が飛び出す。
「どうぞ、明かりです。」
「ありがとうございます。」
その光によって、階段が明るく照らされる。
すると、先に扉の着いた壁が見えてくる。
「扉ですね。開いてると良いですけど。」
「試してみるのみだ。」
前に出たフィーがドアノブを回して引いてみる。
しかし、扉はびくともしない。
鍵が掛かっているようだ。
「駄目だ、開かない。今までの扉は開いてたのに。」
「それだけ大事な物があるのでしょう。アイナ、よろしくお願いいたします。」
「了解しました。」
フィーの代わりに扉の前に立つアイナ。
ドアノブを両手で覆うと、かちりという音と共にドアノブを回す。
すると、開かなかった扉が開かれる。
「それも魔法か。便利な物だな。」
「簡単な物しか出来ませんが。」
「いや、そこまで出来たら充分だと思うけどな。」
そうだね。
ありがたいよ。
魔法があってこその潜入だ。
魔法の便利さを、思い知らされたのであった。
そんな話をしていると、兵士の二人が前に出る。
「ここからは、我々が先陣を。」
「アイナどのは、後ろから魔法で支援を頼みます。」
「はい。」
今度は、兵士の二人が扉へと向かう。
代わりに、アイナが後ろへと移動する。
これで、潜入の準備が整った。
「では、お願いしますね。」
「「了解であります。」」「了解です。」
カミーユの声かけに答える三人。
すると、兵士の二人が扉を潜る。
その後を、他の者が続いて潜る。
「螺旋階段です。気を付けて。」
そこにあったのは、下へと続く螺旋階段。
そして、階段が巻き付くように上から下へと伸びる何かの装置がある。
その装置をカミーユが確認する。
「これは、昇降機ですね。」
「昇降機? 物を上下に運ぶあれか?」
「えぇ。上に続いているのは…。」
螺旋階段から昇降機の先を見上げるカミーユ。
場所的には、倉庫の先にあるはずだ。
その先に、アイナが気づく。
「この先にあるのは、戦場の入り口ですね。」
「魔物が出る場所か。確かに、それぐらいの場所だな。」
「えぇ。そうなると、この下にあるのは…。」
位置関係を考えると、この上にあるのは魔物が出る鉄格子の向こう側。
そうなると、この下に何があるかの予想はつくだろう。
下にあるものに確信をしながらも、兵士の二人が階段の先のある扉へとたどり着く。
そして、先程と同じようにアイナが扉の鍵を開ける。
「予想が正しければこの先は危険でしょう。私が張った魔法の壁から出ないようにお願いします。」
「了解であります。」
気を張りながら、兵士の二人を先頭に扉を潜る一同。
すると、予想通りの光景がそこにあった。
その場所を見渡すカミーユ。
「やはりここは、闘技場に出る魔物の待機所でしたか。」
そこにあるのは、鉄で出来た沢山の檻。
その中には、寝息を立てて寝ている魔物がいる。
闘技場に出る魔物で間違いないだろう。
その中を静かに進んでいく。
「沢山いるな。」
「そうですね。ランクが上がると、一度に出てくる上位種も増えますから。」
「まじか。」
「まじです。」
まじなんだ。
嫌な事を聞いたよ…。
低ランクは所詮低ランク。
大事な魔物を消費するようなランクではない。
あれでも、闘技場的には手を抜いていたのだ。
「ですが、それでも今日の敵は少し異常との話を聞きました。」
「そういえば、他の戦士が手こずってたな。慣れてる奴らの筈なんだが。」
「えぇ。武器を使う大物は珍しいとの事です。しかも、それを使いこなしてましたからね。それが原因でしょう。」
魔物が武器を使うのは、闘技場としてもありえない。
何故なら、武器を必要としないからだ。
手を抜いていながらも、相当以上の魔物を出していた事になる。
経験者が手こずるのも頷けるのだ。
「武器使いか。警戒をしておく必要がありそうだな。少しずるいが、明日出る魔物を見ておくのもありかもな。」
ここのどこかに、明日戦う魔物がいるだろう。
それを先に見ていれば、明日の対策も立てやすいだろう。
「確かに、他の方には迷惑でしょうが…。あ、あの子可愛いですね。」
「ちょっ、お嬢様!?」
魔物に駆け寄ろうとするカミーユを必死に止める兵士。
すると、仕方ないとばかりに手前から観察をするカミーユ
「うーん。もう少し近くで見たいんですけど。」
「駄目ですよ。ふぅ。相変わらず、気になった物には一直線なんですから。」
「性分なので。いつも、お世話になってます。」
なんか、そっちも大変そうだね。
気持ちは分かるよ。うん。
兵士にペコリと頭を下げるカミーユ。
どうやら、カミーユによく振り回されているようだ。
そんな兵士へと同情してしまう俺であった。
「こればかりはどうしてもです。でも、お陰で違和感に気づきました。」
「違和感?」
「えぇ。ここにはいるべきものがいないんですよ。」
「いるべきものって…。」
カミーユの言葉に、辺りを見渡す一同。
本来いるべきなのに見当たらない存在。
すると、それにフィーが気づく。
「そうか、ピグルンがいない。他の小物はいるのに。」
「そうです。ここには、前哨戦に出てくる筈の小物がいないんですよ。」
先頭が始まると、真っ先に戦う相手の事だ。
あれだけの数だから、真っ先に目に入ってもおかしくはない。
それに、ピグルンだけがいないのも不自然だ。
「段々謎が解けてきましたね。」
にゃ?
謎?
どういう事?
「謎ってなんだ? 小物がいないのと関係があるのか?」
「そうですね。その前に問題です。魔物はどこから来るでしょうか。」
「何処って、その辺に巣を作って繁殖するんだろ?」
「違います。その前ですよ。」
「その前?」
前?
前とかあるの?
当然の問題に頭を捻らせるフィーと俺。
一般的には、魔物は人のいない場所に巣くって繁殖するのが常識だ。
しかし、そうではないらしい。
「ちっちっちっ。残念、時間切れです。答えは魔界から来るんです。」
「魔界?」
魔界?
魔物は魔界から現れる。
答えを聞かされても、疑問は増えるばかりだ
「魔界というのは、こことは違う次元に存在する場所です。数年に一度、偶発的に次元がずれてこちらと繋がります。その時に紛れ込んで来るのが魔物です。」
「紛れ込む。何だか迷惑な話だな。」
「えぇ。そうですね。」
ほんとだよ。
それでどれだけ困ってるか。
違う次元から現れた存在によって、多くの人が苦しんでいる。
まさに、迷惑と言ってもいいような問題だ。
「現れる魔物の特徴としては、二足歩行でこちらの生き物と似た姿を持っている小物。分かりやすいのだと、名前の最後の方にラやルといった言葉がつけられているものですね。」
ラ行って事だね。
こっちにその概念があるか分かんないけど。
ゴブリンやリザードラ、そしてピグルン。
どれも、最後の方にラ行の言葉がある。
魔界から来た存在だという事だ。
「そしてなにより、魔物には知能がない。」
「知能がない? でも、私が見たものは知能があったぞ?」
「えぇ。だからこそですよ。」
「え? えっと、分かりやすく頼む。」
にゃっ。
せ、説明を。
「良いですか? 知能がないのは、あくまでこちらの魔物の話です。向こうの魔物は、知能があるものばかりなんです。」
「向こう? でも、元は同じ場所の生き物なんだろ?」
「えぇそうです。ですが、違う点が一つだけあります。それは、環境です。」
同じ場所から来たのなら、同じ生き物の筈だ。
しかし、それらを大きく分けるものが存在する。
それが、環境だ。
「環境か。こちらで育ったか、向こうで育ったかか?」
「そうです。向こうには、瘴気という汚れたものが漂っています。それを浴びて暮らした魔物は瘴気に飲まれ、優れた知能と力を持って育ちます。」
「優れた知能と力? まさかっ。」
優れた知能と力? もしかしてっ。
それを聞いて、フィーと俺の脳裏にある記憶が呼び起こされる。
それは、初めて戦ったゴブリン達の事だ。
大蛇から瘴気を奪った事により、あのような力を手にしていたのだ。
「どうやら、思い当たる事があるようですね。そうです。瘴気というのは、魔物に対してあらゆる物を授けます。そして、私達が追っている乱れた魔力がその瘴気です。ここまで言えば分かりますね?」
「闘技場に現れる小物は、魔界とやらから直接呼んでいる?」
「当たりです。」
知能があるという事は、魔界で育った事を示す。
それが現れたのは、直接呼び寄せている以外に他ならない。
しかし、それを聞いたフィーに一つの疑問が浮かび上がる。
「だが、数年に一度に偶発的に繋がるんだろ? どうしてこうも上手く魔物を呼び寄せられるんだ?」
「上位の魔法を使えば出来ますよ。かつて、魔王と呼ばれた者がこちらに現れて暴れた事もあります。とても時間と労力がかかると聞いてますけどね。恐らくですけど、何処かに魔界と繋がっている魔方陣があるのでしょう。」
魔界と繋がっているのなら、好きに呼び寄せられる事も可能だろう。
あれだけの数が現れたのも頷ける。
すると、カミーユが口に手を当て考え込む。
「しかし、そうなると外から集めていない事になります。民を襲う魔物を倒すという名目で闘技場の存在に目をつむってきたのですけど。こうなると、尚更主催者を問い詰めなくてはなりませんね。」
闘技場という非人道的な施設は、大陸の利益になるから許されていたのだ。
しかし、そうでないのなら話は変わってくる。
これをしでかしているであろう主催者に話を聞かなくてはならない。
「進みましょう。ここの秘密を暴いて、主催者に突きつけるのです。」
その言葉に頷く一同。
ここまでの話を聞いて、異論を持つ事は無いだろう。
新たな悪事の証拠を見つけるべく探索を再開する。
森の獣に名前がないのは、こっちの生き物アピールの為です。
ちなみに、力を取られてない大蛇の力は、港の町までを軽く含むぐらいの範囲を氷雪地帯に変えれるぐらいです。かなりの力を好き勝手に取られて使われてるんですよね。