第一回戦開始、戦いの始まりです
一人、また一人と、光の中へと進んでいく。
そして、フィー達もまた頷き合って光へと進む。
すると、光が晴れて戦場へと踏み入れる。
『選手が次々と入場ーーっ! 出てくる奴等は底辺ランクの戦士達っ。上を目指して目をたぎらせるっ! 上のランクに進むのはどこのチームだああああっ!』
選手が現れる度に、歓声が強くなっていく。
しかし、フィー達が現れた瞬間どよめきへと変わっていく。
『おーっと。見慣れない顔に、動揺が広がっていくうーーっ。現れたのは、ペットと子連れの女の子っ。家族旅行の記念のつもりかーーーっ!』
「「「あははははっ。」」」
観客は、どよめきから爆笑へ。
闘技場が笑いに包まれる。
そんなフィーは、司会者を恨めしく睨む。
「私はまだ十七だっ。子を連れるほど老けてはないっ。」
「まぁまぁ。」
悪態つくフィーを鎮めるココル。
その間にも、戦士達が散らばっていく。
『はっはっはっーっ。さーって。新人もいる事だし、改めて闘技場のルールを説明するぜっ! ルールは簡単! まずは、生きて生きて生き残る事! そんで、最後に出る大物を倒したチームが上へと進むっ。簡単だろうっ?』
ルールはシンプルに、生き残って強い相手を倒す事。
勝ち残っただけでは意味がない。
勇姿を見せつけた者だけが正義なのだ。
『そんじゃ、説明も済んだことだし始めようかっ。魔物ども出てこいっ!』
司会者の言葉と共に、戦士達が出てきた方とは逆の鉄格子が開く。
すると、その奥から見慣れた奴等が大量に現れる。
「ピグルン。やはり、出てきたね。」
「あぁ、間違いない。だが、多いな。」
牧場を襲った因縁の相手だ。
しかし、その数は比べ物にならない程だ。
それを見て、一層に身構える。
『死ななきゃ回収はしてやるさ。でも、死んだらそこで終了だ。覚悟は良いなっ? 戦いに飢えた馬鹿どもよっ。底辺らしく足掻いて見やがれっ!』
大量に現れたそいつらに合わせて、戦士達が武器を取る。
そして、今か今かと前に出るように身構える。
そして…。
『そんじゃあ、本日の第一試合っ。始めーーーーーーーーっ!』
「「「うらああああああああっ」」」
観客達の歓声の中、戦士達が雄叫び上げて進んでいく。
それに合わせて、フィー達も進んでいく。
「にゃんすけ、今回、お面は無しだ。折角、戦いの技術を教わったからな。どこまでやれるか試したい。」
にゃ!
剣士としてのデビューって訳だねっ。
じゃあ、いつも通りで!
自分がどれくらい強くなったのかを知りたいようだ。
そのまま、雄叫びを上げながら進む戦士達に混じって突き進む。
そして、ついに戦士とピグルンが衝突する。
『ぶつかったーーーー! 戦士達が魔物達を吹き飛ばしていくうっ!』
戦士と衝突したピグルンが空へと舞っていく。
この程度にやられるような戦士ではないのだ。
「おらおらっ、突き進めーーーーっ! 他の奴よりも前に出るんだ!」
ピグルンと衝突してもなお、その勢いは止まらない。
前に現れるピグルンをはね除けながら進んでいく。
その後に遅れるように、フィーも追いつく。
「はあっ!」
目の前のピグルンを目掛けて、踏み出し加速する。
そして、複数のピグルンの群れを斬り飛ばす。
「フィーさん、まだです!」
「あぁ!」
ココルの呼び掛けで、迫るピグルンに気づくフィー。
飛びかかってきた二匹のピグルンに対して、後ろへと踏み込む。
「はあっ!」
その踏み込みによる勢いは、体を通って剣へと伝う。
それにより放たれる一撃が、迫るピグルン達を真っ二つに斬り裂く。
しかし、その隙を狙って他のピグルンが来る。
「くっ、にゃんすけ!」
にゃっ!
待ってましたっ!
フィーの指示で俺が跳ぶ。
迫るピグルンをポイントダッシュで蹴り飛ばしていく。
「助かった!」
にゃ!
どうも!
それよりもっ。
フィーの横へと着地する俺。
そして、目の前のピグルン達を見る。
「数が多いな。」
にゃ。
多すぎるよね。
どんどん増えてくよっ。
「だが、これしきでっ!」
迫り来るそれらを斬っていく。
俺もまた、同じように蹴り飛ばす。
それでも数は増えていく。
「きりがないな。他の連中も倒してる筈なのに。」
「いいや。よく見て、誘導、されてるよ。」
「誘導?」
リュノに従い周りを見ると、こちらにピグルンが流れるように戦士達が戦っている。
そのせいで、こちらにまとめて流れ込んでいるようだ。
『おーーーーっと。新人が囲まれたーーーーっ。古株による洗礼だあああっ!』
経験もあれば、戦場を操る事も容易いものだ。
そうして、何も知らないフィー達へと押し付けたのだ。
「悪く思うなよ新人。最初の戦いは、場所取りゲーム。出遅れたあんたが悪いっ。」
他の戦士達も、生き残らなくてはならない。
優位に立つには、安全に動ける場所の確保が必要なのだ。
その為には、無知な相手も利用する。
それに対処しようとするフィーだが、魔物が多い真ん中へと誘導される。
『おーーーーっと。追い込まれていくうううううっ。早速脱落かあっ!』
三人と一匹で対処しながら下がっていく。
もはや、引く事しか出来ない。
そんなフィー達へとヤジが飛んでくる。
「おいおい。もうちょっと粘ったらどうだ!」
「つまんねぇ戦いしてんじゃねぇ!」
観客達は、戦いを楽しみにしているのだ。
追い込まれるような情けない戦いなど望んではいない。
その悪い空気は、安全な部屋にいる者達にも伝わる。
「あらぁ? もう終わりかしら? 対した事無いわねぇ。」
「ほほっ。むしろ、ライバルが減って丁度良いですじゃ。」
「それもそうね。」
ここにいるのは、戦士を雇ってる貴族達だ。
蹴落とし合う相手が減るのは好都合なので嬉しいようだ。
そんな中、カミーユは不安そうに見続ける。
「頑張って下さい。皆。」
不安でも、信じ続けるしか無いのだ。
そんなカミーユの視界の中で、フィー達が集まる。
「フィーさん、引いた方が良いよ!」
そう言いながら、ピグルンを殴り飛ばすココル。
どうやら、対処が仕切れないようだ。
それでもフィーは、前に踏み込む。
「面白い事を言うな。この程度の雑魚相手にっ。」
更に力強く踏み込む。
「引く道理などない!」
「フィーさん!?」
勢いよく前へと踏み出すフィー。
そして、一回転してまとめてピグルンを斬り飛ばす。
「にゃんすけ!」
にゃっ!
あいよ!
フィーが斬り開いた空間に降り立つ俺。
そのまま、ピグルンの群れへと飛び込んだ。
そして、ピグルンをポイントダッシュで蹴飛ばしていく。
にゃにゃにゃにゃにゃ!
ほいほいほいほいほいっ!
蹴飛ばしては、道を作っていく。
すると、その道にフィーが入り込む。
「うおおおおおおおおっ!」
俺が蹴飛ばしたのをフィーが斬っていく。
時には流れるように斬り、またある時には一回転して斬り飛ばす。
『おーーーーっと、反撃だーーーーっ! 踊るように戦っているぞーーーー!』
その動きは、舞うように。
斬っては舞って、一つの芸術を作り上げる。
その動きに、フィーへのヤジが治まっていく。
「なんだ、あの動きは。」
「知らねぇけどなんか。」
その動きに、ざわめきだす観客達。
気づけば、フィーの剣が描く軌跡を追いかけている。
そんな中、フィーがよりいっそう強く回る。
「はああああああっ!」
今までよりも強い斬りが、ピグルン達を斬り飛ばす。
そうして生まれるのは、群れの中に広がる空間。
その真ん中で、フィーが剣を空へと掲げる。
「私はここだっ! 斬られたい奴からっ、ここに来いっっっ!」
雄叫びを上げるように叫ぶフィー。
ここにいる全ての魔物への挑戦状だ。
『な、な、な、何て事だーーーーーっ! まさかの中央陣取り! こんな無茶な事があったろうか!』
「「「おおおおおおおおおおおっ!」」」
それを聞いた観客が歓声を上げる。
フィー達へのマイナスなイメージが、一瞬にしてひっくり返ったのだ。
『逃げるが勝ちの前哨戦! こんなふざけた大馬鹿がでるなんてぇっ! でも、観客的には大大大満足だーーーっ!』
戦場の群れに出るのは、まさに自殺行為。
しかし、それにより盛り上がりを戻す観客達。
しかし、魔物達は違う。
ぷぎーーーーーーっ!
怒るように、フィーへと向かうピグルン達。
それをフィーが斬っていく。
そこから更に現れるのも斬っていく。
「あああああああああっ!」
数なんて関係ない。
現れたと同時に斬りつける。
舞うように斬っていく。
それでも対処仕切れないのを俺が蹴る。
にゃ!
負けないよ!
華麗に着地して、フィーと背中を向け合う俺。
そして、すぐに魔物へと迫る。
斬っては回っての大演舞。
その度に、観客が盛り上がる。
しかし、それを良しとしない者達もいる。
「派手に目立ってんなぁ。おい、ちょいと邪魔しろよ。」
「おう。」
端で見ていたパーティの男が弓を構える。
そして、その弓につがえた矢をフィー達がいる真ん中へと放つ。
「なっ!?」
えっ!?
咄嗟に気づいたフィーは、矢を剣で斬り落とす。
そして、飛んできた方を睨む。
「私は魔物じゃないぞ!」
「はっ。この戦いってのは、結局人同士の蹴落としあいだぜ? 邪魔して何が悪い!」
「くっ。」
確かにそうだけどさ。
でも、ひきょーものー!
悔しさに口元を引きつらせるフィー。
この戦いは、次のランクに行く者を選ぶ戦い。
魔物討伐は、その手段でしかない。
その戦士の男の言葉が正しいのである。
「ならばっ。」
だからといって、黙って見過ごすフィーではない。
近くの魔物の首を跳ねると、矢が飛んできた方へと放り投げる。
すると、先程の戦士の男が踏んづけて転んでしまう。
「ってぇ! 何しやがる!」
「人同士の蹴落とし合いだろ? 邪魔して何が悪い。」
「く、くそう!」
ナイス!
ざまーみろ!
にやりと笑うフィーに憤る戦士の男。
向こうがしても良いなら、こちらもして良いという事だ。
そして、それを見ていた周りが盛り上がる。
『ついに始まるか、人同士の戦いが! これには観客も大喜びだ!』
「いいぞ! やれやれぇ!」
「もっと争えーーーーっ!」
もはや、フィーが暴れた時よりも盛り上がっている。
そして、盛り上がるのは二人も同じだ。
「やんのかおい! やるならやったろうか!」
「良いだろう。受けて立つ!」
『いけいけやったれ! でも、争う理由が小さすぎるのは気のせいでしょうか。』
「「ほっとけ!」」
魔物を掻き分けながら距離を詰める二人。
しかし、その間に魔物が雪崩れ込む。
「くっ、邪魔だ!」
距離を詰めるには、敵の数が多過ぎる。
その数に苦戦するフィー。
そして、それは向こうも同じ事。
「ちいっ、面倒なっ。」
「いや、待て。行ってはならん。」
「えっ、でもよ。馬鹿にされたままで良いのかよ。」
戦士の男を、同じパーティの大男が止める。
抗議する男だが、大男の睨みで黙ってしまう。
「目的をはき違えるな。それに、そろそろ来るぞ。」
「来る? もうそんな時間か?」
二人して、魔物が出る方の鉄格子を見る。
そこからは、鈍い大きな音がする。
その音に、周りのパーティが反応する。
「来るぞーーーー!」
「場所的にはこっちが有利! すぐに出れる準備を!」
先程から見ていただけのパーティが動き出す。
そんな中、鉄格子が動き出す。
『盛り上がってるとこ悪いがお時間だ! 出るぞ! 今日の大目玉! さぁ、来い!』
司会者の言葉と共に、奥から鎖を引きずる音が聞こえてくる。
そして、その姿が一同の前に露になる。
「こいつを倒せば良いわけか。」
その姿は、筋肉質の猿のような魔物だ。
今日の戦いの目的の相手でもある。
『生きるか死ぬかの大勝負! 残るのは、人か魔物かどっちなんだ! 上を目指したけりゃ死ぬ気で戦え! さぁ、化け物よ! 暴れろーーーーっ!』
がああああああああああああああっ!
観客の歓声をかき消すように、魔物の雄叫びが闘技場に響く。
それを、フィーと俺が見据える。
「行くぞ、にゃんすけ!」
にゃっ!
燃えてきたね!
行くよ!
ついに、今回の目的の敵が現れた。
これを倒した者が、上のランクへと行けるのだ。
それを目指す為に、フィーと俺が構える。