覚悟を決めます
闘技場に入った俺達は、受付と話すカミーユを待つ。
それからしばらくすると、カミーユが戻ってくる。
「契約が済みました。もう後戻りは無しです。」
「問題ない。逃げる気は初めからないさ。」
「良かったです。では、これからの事を話し合いましょうか。」
契約した以上は、逃げる場所など存在しない。
後から辞めますとは許されない。
前へ進む為の作戦会議が始まる。
「先程、ウィロさんの話を聞きました。どうやら、先程にて上の階級に向かわれたとの事。会うには、勝ち進んで同じ階級になる必要がありますね。」
「違う階級だと会えないのか?」
「えぇ、階級ごとに住み分けされているようですので。」
じゃあ、入れ違いなんだね。
一歩遅かった訳か。
階級ごとに、闘技場で与えられる部屋も変わってくる。
ウィロの階級が変わった事で、会えなくなってしまったようだ。
「結局、戦わざるをえないって事だな。」
「えぇ。そういう事なので、参加をするのは明日の戦いからにしました。お互い急ぐ身なのでそうしましたが、良いですよね?」
「問題ない。」
早い方が良いもんね。
待ってもいられないし。
時間が経てば、ウィロと会える機会が減るだろう。
向こうもまた、今すぐ探るに越した事はない。
どちらも、急ぐだけの理由があるのだ。
「そうなると、後はメンバーを登録するだけ。誰が出るかですけど…。」
「こちらは、私…フィーとにゃんすけだ。良いよな?」
にゃ。
うん。
ほっとけないしね。
「分かりました。では、こちらからはリュノさんで。」
「うん、良い、よ。」
カミーユの提案を肯定するリュノ。
その肯定には、動揺は全くない。
それを聞いて疑問を持つフィー。
「そっちは一人か? 付き添いの兵士は?」
「兵士の方は、私と共に動いて貰います。貴族しか入れない場所を探る予定なので、護衛に着かせます。」
「そ、そうか。ちなみに戦いの方は?」
「うん、逃げるのは、得意、だよ? 任せて、よ。」
「そうか…。」
つまり、戦うのは無理だと。
大丈夫なの?
戦いの方に言及しないのは、そういう事だろう。
不安はあるが、リュノの自信満々な返答を聞かされては認めざるを得ない。
しかし、先程から話を聞いていたココルを除いてだ。
「いやいや、そうかじゃないよっ。そんな軽い気持ちで挑める場所じゃないんでしょ?」
「と言っても、他に協力してくれる人はいないだろ?」
「それはそうだけどさ。」
仕方ないよね。
他の人に頼める内容じゃないし。
元より、少ない人数で動いているのだ。
頼れる者も当然いない。
それでも、ココルは不満そうだ。
「そもそもさ。何でこんな物騒な場所を国が放置してるのさ。おかしくない?」
本来なら、命を軽視するこの場所の存在がおかしいのだ。
その事に納得がいかないのは当然の事だ。
「命を失う人がでるんだよね。どうして国は止めないの?」
「気持ちは分かりますけど、仕方ないんですよ。」
「仕方ないの? 誰かが死ぬのを遊びにされてるのに?」
「えぇ、仕方ないんです。そうじゃなきゃ、もっと沢山の人が命を失うからです。」
「えっ、それって…。」
なにも、こんな残酷な娯楽を認めている訳ではない。
これを許さなくてはいけない理由があるのだ。
言葉が詰まるココルを諭すように、カミーユが語りかける。
「どの大陸にもですが、国では対処しきれない程に狂暴な魔物が沢山います。ここは、それらの魔物を倒す為に用意された場所。こんな所でも民を守る為には必要なんですよ。」
狂暴な魔物が増えるほど、国での対処は難しくなる。
ならば、そんな魔物とその魔物に対処出来る猛者を一ヶ所に集めてしまえばいい。
そうする事によって、大陸の平穏が保たれる。
そんな場所を、国が止める訳にはいかないのだ。
「でも、それでもおかしいよ。」
「えぇ、そうです。それで良いんですよ。貴方のような優しい人がいるから私も頑張れる。どうか、貴方はそのままでいて下さいね。」
ココルの頭を優しく撫でるカミーユ。
必要だからといって、認めなくてはいけない訳ではない。
それを認めない優しさもまた必要なのだ。
ココルから手を離したカミーユは、振り向いて俺達を見る。
「本当なら守る為に必要な場所。しかし、残念ながら守るべき者達を傷つけているかもしれない。そのもの達を救うのが私の願いです。どうか、貴方達の力を貸して下さい。」
「当然だ。誰かを守りたい気持ちは同じだからな。」
にゃっ。
同じく、だよ。
守るものは違うけど、気持ちは一緒だもんね。
それを聞いたカミーユは、安堵の表情を見せる。
目的も、守りたいものも違う。
しかし、お互いの想う気持ちは同じなのだ。
「では、出場するのは、フィーさん、にゃんすけ、リュノさんで。」
「任せろ。」「良い、よ。」
にゃ。
こうなったら、やるしかないよね。
弱音はここで終了だよ。
気持ちを通わせた所で、覚悟も完了だ。
やる気をみなぎらせる俺達。
その時だった。
「私も、出るよ。」
「え?」
そう呟いたのは、ココルだ。
皆の視線がココルに集まる。
「私も闘技場に出るよ。」
臆する事なく視線を返すココル。
その目には、フィー達と同じく覚悟を宿らせる。
「良いですか?」
「うん。私だって守りたいもん。大丈夫、私も戦えるよ。」
アピールする為にも、拳を空に打ち付ける。
どうやら、フィー達の覚悟に感化されたようだ。
それを見たカミーユが笑う。
「そのいきです! 採用!」
「本当?」
しちゃったよ。
流石、気分だね。
またまた、カミーユの気分での採用である。
とにかく、これでココルの参加も決まった。
「参加するのは、ここにいる私以外のメンバーです。覚悟は良いですね?」
カミーユの言葉に頷く一同。
今更、聞くまでもない事だ。
「では、こちらで手続きはしておきます。さ、門に行きましょう。」
カミーユに促され、職員が立つ門へと向かう。
そこは、先程断られたばかりの場所だ。
「カミーユです。」
「うん、報告は来てるよ。そちらが、君の駒だね?」
「そうです。」
どうやら、契約の事は伝わっているようだ。
一同を見る職員とフィーの目が合う。
「まさか、来るなんてね。」
「通って良いよな?」
「ルールはルールだ。歓迎するよ。ようこそ、戦場へ。」
そう言って、職員が扉を開く。
そして、地獄のような戦場へと繋がる道が見えてくる。
「さ、行こう。」
「うん。」
にゃ。
行くよ。
その地獄への道を歩き出す俺達。
その際、リュノにカミーユが耳打ちする。
「勝手に決めておいてなんですが、守ってあげて下さいね?」
「うん、任せて、ね。必要は、ないと、思うけど。」
そう言って、先に向かった俺達の後を追いかける。
そして、カミーユの前で再び門が閉ざされる。
「頑張って下さいね。さて、私も動かなきゃ。」
俺達と別れたカミーユもまた動き出す。
自分の役目を果たす為に。
そうして、時間が過ぎての翌日。
ついに、その時が来る。
多くの武器を持った者達と門の前に立つ俺達。
「そろそろだ。準備は良いか?」
「うん。」
「問題、ないよ。」
にゃん。
ついにだよ。
ドキドキしてきたね。
開始が迫り、緊張が高まる。
そんな俺達を見たフィーの目が、リュノの背中で止まる。
「なぁ、いつの間にそんなのを持ち込んだんだ?」
「えへへ、内緒。」
リュノの背中には、斧状の形をした袋が背負われている。
昨日には、無かった物だ。
そんな話をしていると、こちらを見下すような視線が飛んでくる。
「おいおい、ガキ連れた女がいるぞ? ここは、遠足の場所じゃないぜ?」
馬鹿にするような言葉と、同意するような下品な笑いが飛んでくる。
それに詰め寄ろうとしたフィーだが、ぐっと堪える。
「お構いなく。」
それだけ言うと、無視をして門を見る。
その時、門の外がざわめきだした。
そして…。
『ようこそおいでくださいましたーーーっ! 本日もぉ、この日がやって参りましたっ! これよりぃ! ランク争奪七番勝負っ! 第四番目の初戦をっ! はじめまーーーーーすううううっ!』
「「「おおおおおおおおおっ!」」」
門の奥から聞こえるのは、昨日聞いた観衆の歓声だ。
これにより、フィー達を見下していた者達の目付きが変わる。
それほどまでに、他者に絡む余裕もなくなるのだ。
『残るイベントももうすぐ折り返しっ! さぁ、いってみようかっ! ゲーーーーーート! オーーーーーープーーーーーーーーンっ!』
その声と共に、鉄格子の門が上へと開いていく。
その度に歓声も大きくなり、強烈な光も差し込む。
そして、光が一段と明るくなり戦士達を包んでいく。