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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
107/287

因縁の相手とそのお仲間です

 叫んだと同時に、お互いに飛び退いた。

 そして、向かい合って構えを取る。


「なんだ?」「一体なに?」


 二人の注目が集まるが気にしない。

 睨み合い、構えを変えながら牽制し合う。


「おのれ魔物め。ここで会ったが運の尽き!」


にゃっ!


 ご飯をくれなかった人!

 許すまじ!


 お互いがお互いに、あの時の事を根に持っているようだ。

 一瞬の隙も見せまいと、距離を取って様子を見合う。

 そんな俺達を、ココルとフィーが不思議そうに見ている。


「知り合いっぽいけど、何かあったの?」

「さぁ? 私には何の事かさっぱりだ」


 フィーに会う前の出来事なので、知らないのも無理はない。

 そのまま見合っていると、更なる乱入者が現れる。


「おーい、どしたー。って、あの時の!」

「丁度良かった。手を貸してくれ!」


 そう言えば、もう一人いたね。

 この人は、後から来た方か。


 あの時出会った二人目の兵士風の男だ。

 当然、この場にいるのも頷ける。

 そんな、新しく来た方の袖をフィーが引っ張る。


「おい。何が起きてるか説明してくれないか?」

「かつて我々は、あの魔物に襲われたのです。ささ、危ないので下がってくだされ。」


 そう言って、フィーを守るように男が立つ。

 その男の説明に、フィーが眉をひそめる。


「にゃんすけが? そんな奴じゃ無いが。」

「いいや。こやつは悪い魔物ですぞ。さ、早く取っ捕まえてしまおう。」

「そうだな。民を脅かす魔物は許すまじ!」


 猫です。

 くっ、二体一っ。

 こうなりゃやけだ!


「「覚悟!」」


にゃっ!


 覚悟!


 飛びかかろうと、同時に動き出す。

 どちらも引くつもりはない。

 その時だった。


「へー。この子があの時のなんですね。」

「え?」


 騒ぎの真ん中に、我関せずと一人の少女が乱入する。

 そして兵士の前に出ると、俺の前で膝を折って視線を合わす。


「話を聞いた時、会ってみたいと思ったんですよ。こんな所で会うなんて運命ですね!」


にゃにゃっ!?


 え、えぇ!?

 一体、何がなんやらっ。 


 いきなりの事で、状況が把握が出来ない。

 そんな俺の顔を、嬉しそうに触り始める少女。

 しかし、それを見て一層に怒りだす兵士の男達。


「ややっ。駄目です、ひ…お嬢様! そやつは危険な魔物なんですよ!」

「でも人工物をまとってるので、契約されてる子な訳ですよね?」

「それは、そうですけども…。」


 身にまとってる、マント風のハンカチの事だろう。

 それを見れば、人に慣れてると分かる筈だ。

 それでも、納得がいかないとばかりに俺を見ている。


「ですが、万が一にもっ。」

「大丈夫、だよ。その子は人に、ついてる、子。危害は、ないよ。」

「え?」


 え?


 別の所から突然現れた新たな乱入者の声に、驚きの声をあげる男達。

 そして、俺とフィーも同じ反応をする。

 何故なら…。


「あんたは確か、前の町で会った。」

「うん、また、会ったね。」


 その人物は、前の町の本屋で出会った少年。

 フィーと俺に対して、手を振っている。


「相変わらず、面倒ごとに、引き寄せられるね。」

「不本意だがな。って、相変わらず?」


 少年の言葉に疑問を持つフィー。

 しかし、それを聞き出す前に少女が割り込んでくる。


「あなたがこの子の契約者さん?」

「そうだが。」

「へぇ、そうなんですね。」


 その少女は、フィーの顔をじっと見る。

 まるで、何かを確認するように。


「あの。私達、どこかで出会った事ありますか?」

「いや、ついこの間まで家にこもってたからな。会ってるなら覚えてる筈だ。」

「そう…ですよね。私もずっと病気でベッドの上でしたし。」


 その少女は、不思議そうにフィーを見ている。

 違うと分かっても、引っ掛かる事があるようだ。

 しかし、すぐに離れて手を軽く叩く。


「まぁ折角会ったという事で、一緒に食事でもどうです?」

「それはありがたいんだが、それどころでは無くてな。」

「うん。早く師匠に会う方法を考えなきゃ。」

「…え? どういう事です?」


 少女に今までの事を教えていく。

 牧場が襲われたこと、牧場の子と襲った奴を追いかけてここまで来たこと。

 そして、先に追いかけた仲間が戦っている事を。


「私達はすぐにでも助けに行きたい。だから、食事をする時間はない。すまないな。」


 そうだね。

 お腹が空いたけど、それどころじゃないよ。


 こうしている間にも、中で何かが起きているかもしれない。

 それなのに、いつまでもかやの外にいる訳にはいかないのだ。

 その話を聞いて真剣な顔をする少女。


「そんな事が。すぐに騎士を派遣しなくてわ。」

「それはありがたいが、騎士が守るのは国と王家だろう。呼ぶなら兵士では?」


 その言葉に、少女は驚いた顔をする。

 そして、横の兵士の男にこそっと尋ねる。


「え? そうなんです?」

「えぇ。民を守るのは兵士の仕事ですよ。」


 兵士の男もまたこそっと返す。

 騎士と兵士の役割は、きちんと別れているのだ。

 それを聞くと、わざとらしく大きな声をだす少女。


「あー。そ、そうでしたね。すぐに救援を頼めますか?」

「そういう事なら。すぐに事情を知らせましょう。」


 そう言って、兵士の男が立ち去った。

 牧場を守る為に動いてくれるようだ。


「これで、牧場は大丈夫です。安心して下さいね。」

「ありがとう。えーと…。」

「私ですか? そうですね、カミーユとでも呼んで下さい。」

「はい、カミーユさん。」


 ココルのお礼に、笑顔で返すカミーユ。

 もし、牧場に魔物が現れても守ってくれるだろう。

 しかし、その後ろでココルの後ろに隠れるフィーにカミーユが気づく。


「あれ、しゃがんでどうしたんです?」

「あー、気にしないでくれ。えーと、本物の兵士だったんだな。そいつら。」

「えぇ、私の護衛をして貰ってます。」

「はは、そうか。うん。」


 兵士の人に見られたくないもんね。

 もういないけど。


 どうやら、本物の兵士と聞いて隠れたようだ。

 そんなフィーに疑問を持ちながらも話を進めるカミーユ。


「それよりも、問題は中ですか。どう思います? リュノさん。」

「うん。外は、見尽くしたから、合ってると、思うよ。中に、何かある。」


 カミーユとリュノの二人で、そびえ立つ闘技場を見上げる。

 二人もまた同じように、中に何かがあると意見を一致させる。

 まるで、初めから探っていたかのように。


「ちょっと待て。見尽くした? どういう事だ?」

「あー、それはですね。」


 カミーユが言葉を濁すと、リュノを見る。

 その視線がリュノと交わると、すぐにリュノが頷き返す。


「実は、ここの異変を私達も追ってたんですよ。」

「追ってた? どうしてだ?」

「それは、魔力の乱れがあったからですよ。」

「魔力?」


 魔力?

 って、魔法を使う時の?


 カミーユと達もまた、この闘技場を探っていたようだ。

 魔力とは、魔法を使う時に消費する力の事だ。


「ここのそれが乱れてると?」

「いえ、ここの魔力ではないんです。各地の乱れを探している内に、ここにたどり着いただけなので。」


 初めは、闘技場を目指していた訳ではないようだ。

 魔力の乱れに関わっている内に、この闘技場へとたどり着いた。

 ここが魔力の乱れと関係しているのは間違いないようだ。


「もしかして、私達の牧場が襲われたのもそれのせい?」

「うーん。ここの辺りは、勿論、探してるよ。でも、牧場には行ってないから、違うと、思う。」

「そうなんだ。」


 牧場に乱れがあるなら、当然調べている筈だ。

 しかし、調べに向かってはいないので関係が無いのだろう。

 その事実に納得するフィー。


「私達が出会ったのは、本当に偶然なんだな。」

「そうとも、言えないし、そうとも、言える、かな?」

「曖昧だな。」

「うん。見ないと、分からない、からね。偶然と、割りきるのは、早いかな?」


 カミーユ達も、まだ調べ尽くした訳ではない。

 こうして追いかけた先が交わった以上は、関係が無いとは言い切れないのだ。


「では、中を調べますか?」

「それしか、無いだろう、ね。」


 結局は、調べて見ないと分からない。

 カミーユ達もまた、中の調査が必要との答えに行き着くが…。


「でも、貴族と契約した者しか入れないぞ?」

「えぇ、知ってますよ。だから向かうんです。こう見えて貴族なので。」


 胸に手をあて威張るカミーユ。

 カミーユの正体は貴族だ。

 つまり、闘技場に入る事が出来るのだ。

 それを聞いて、勢いよく立ち上がるフィー。


「まさか、入れるのか?」

「えぇ。中には入れませんが、探索隊を送る事は出来ます。」

「じゃあ、その中に私を入れてくれないか?」

「もちろ…ええっ!?」


 フィーの提案に、カミーユが驚く。

 どうやら、予想外の提案だったようだ。

 カミーユに詰め寄るフィーをココルが見る。


「諦めてなかったんだね。」

「折角の機会だぞ? 乗らない訳にはいくまい。」


 いくまいって…。

 まぁ、フィーらしいけどね。


 無理だと思った時に現れたチャンスだ。

 これを逃すようなフィーではない。

 その話を聞いていたカミーユは、難しそうな顔をして悩みだす。


「中に入って、どうするんです?」

「ウィロの手伝いをする。あんな所に一人でいさせる訳にはいかないからな。」


 話を聞くだけのつもりはない。

 初めから共に戦うつもりで、中に入ろうと考えていたようだ。


「命を、賭けれますか?」

「賭けるつもりはないさ。初めから助ける事しか考えていない。」

「勝算は?」

「ない。ただ悩むぐらいなら動きたい。それだけだ。」


 どのように助けるかなど関係はない。

 命を賭けられるかなんて考える余裕もない。

 ただ、今すぐにでも助けたいだけだ。

 それだけ聞くと、にっこりと笑うカミーユ。


「分かりました。採用です。」

「本当かっ!」「嘘ぉっ!?」


 まじで!?


 フィーが喜び、ココルが驚く。

 先程の答えで納得したようだ。

 カミーユに詰め寄るココル。


「ええっ、本当に? どうして?」

「えぇと…何となく?」

「まさかの考えなし!? じゃあ、さっきの質問はなんなの!?」


 ほんとだよっ。

 何の為にしたのさっ。


 どれを聞いても、意味のありそうな質問だった。

 しかし、特に採用理由には関係していないようだ。


「まぁ良いじゃないですか。ですよね? リュノさん」

「うん。僕は、賛成だよ。」

「ですよね。それに、悩むぐらいなら動きたい。いい言葉だと思いますよ?」

「だよな。」

「えぇ、私も同じ考えです。」

「ははっ。」「ふふっ。」

 

 どうやら、その言葉に引かれただけのようだ。

 二人して、考えの一致を共有する。

 その横で頭を抱えるココル。


「頭がいたくなってきた。フィーさんの見る目が変わりそうだよ。」


 諦めたほうが良いよ?

 そういう人なんだよ。この人。


 数々の困難を、共に潜り抜けた相手だ。

 フィーがそういう性格なのは、俺が一番知っている。

 そして、諦めが悪いのも知っている。


「さぁ、そうと決まれば早速向かいましょう。」

「待ってろよ、ウィロ、マレーヌ。」


 カミーユとフィーが闘技場の中へと向かう。

 その後を、ココルと俺とリュノが追いかける。


「ちょっ、置いてかないで!」

「ふふっ。楽しく、なって、きたね。」


 そう…なのかなぁ。

 先が思いやられるよ。


 一部の者が不安にかられながらも、決まった事は仕方がない。

 闘技場に参加する為にも、一同は中へと入っていく。

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