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猫です。~猫になった男とぽんこつの元お嬢様の放浪旅~  作者: 鍋敷
引き離された親子と闇潜む闘技場 フラリア王国編
105/283

闘技場の街です

 目指すのは、目の前にある建物だ。

 近づくと、街の奥に大きな海が見えるのが分かる。


「海か。また見る事になるとはな。」

「また?」

「旅を始めた頃にな。」


 懐かしいよね。

 あんまり時間は経ってない筈なんだけど。


 目の前の海に昔の記憶を思い出していると、その海が建物で隠される。

 どうやら近くまで来たようだ。

 その頃には、空を見上げないと上が見えない程に建物が迫っていた。


「大きいねぇ。」

「大きいな。」


にゃ。


 大きいね。

 どれぐらいの高さなんだろ。


 あまりの大きさに、馬を止め三人揃って空を見上げる。

 下から見ると、空に届いていると思ってしまうほど大きい。

 しかも、大きいのは上だけではない。


「横も相当だね。どれくらいの牛が入るんだろ。」

「さぁ、どうだろうな。」


 牛換算なんだ。

 気になるといえば気になるけどね。


 あまりの大きさに、感心するしか出来ない俺達。

 まさに、圧巻とも言える光景だ。

 しばらくそれをみていると、目線を前に戻す。


「あそこに、ママと師匠がいるんだよね?」

「情報通りならな。そうだと祈るしかあるまい。」

「うん、そうだね。」


 見つかると良いね。

 俺も祈ってるよ。


 教えられた方角通りに来れた筈だ。

 この場所から見渡す限り、他に建物は無い。

 ここにいると考えるのが普通だろう。


「行くよ?」

「あぁ。」


にゃ。


 さぁ、中へ。


 覚悟を決めて、街へと馬を歩かせる。

 そのまま入り口に入ると、馬から降りて歩き出す。

 向かう先は、馬を停めておく場所だ。

 そこに着くと、ココルがある馬の前で止まる。


「あっ。ちょっと紐持ってて。」

「え? あぁ。」


 どしたの?


 いきなりフィーに、馬を繋ぐ紐を渡すココル。

 そして、目の前の馬を繋ぐ紐を手に取る。

 それを、じっと見続ける。


「間違いない。」

「どうしたんだ?」

「この馬、うちの牧場の馬だ。」


 何度も紐を見返して確認するココル。

 憶測ではなく、間違いないと断言する。

 なにやら、自信がありそうだ。


「やっぱりそうだ。師匠は間違いなくここに来てる。」

「どうして分かるんだ?」

「紐だよ。うちの紐は自前なんだけど、基本細い紐しか使わないんだ。」

「そうなのか?」


 そうなの?


 先程手渡された紐を見てみる俺達。

 確かに、複数の細い紐が絡み合って一本の紐になっている。

 他の馬の紐とは違う構造だ。


「いなくなった馬の色ともあってるし、間違いないよ。」


 確認出来なかった馬と、牧場特性の紐。

 それらが、ウィロがここにいる事を示している。

 そう確信した俺達の元に、誰かが近づいてくる。


「おや。お客さんか?」

「はい。ここの管理人さんですか?」

「あぁ、そうだけど。」


 どうやら、馬の様子を見てくれる管理人のようだ。

 馬の主がいない間に、馬の世話をしてくれる人だ。


「あの。この馬の持ち主の方を探しているのですが。」

「うん? あぁ、二日前に来た人ね。残念だけど、居場所は分からないかな。」


 あくまで、馬の世話をしてくれるだけの人だ。

 どこで何をしているかは分かりようがない。


「その人、何か言ってませんでしたか?」

「いんや。なんか急いどったようだからな。契約だけして走っていっちまったよ。」

「そうですか。」


 するべき事だけして走り去ったようだ。

 よほど急いでいたのが分かる。

 何かが起こっていたのだろう。


「ただ、ここに来たならあそこしかないだろうな。」

「あそこって?」

「ほら、あれだよ。」


 そう言って、街の真ん中にそびえ立つ建物を指差す管理人。

 その入り口からは、多くの人が出入りしている。


「ここに来たものの殆どは、あの建物が目当てだよ。あの人も鎧を着てたし、間違いないんじゃないんじゃないかな。」

「鎧を着てたら? どういう事だ?」


 疑問を持ったフィーが質問をする。

 鎧と何か関係がある場所のようだ。

 すると、管理人が不思議そうにフィーを見る。


「なんだ知らないのか? 君達も同じだから、てっきりそうかと思ったんだが…。」

「同じ? まさか、武器の事か。」

「そうさ。何せここは闘技場の街なんだからな。」


 ここは、闘技場で栄える街。

 戦える者が集う場所。

 それを聞いて疑問を浮かべるフィー。

 

「闘技場って…なんだ?」

「金とスリルを求める馬鹿が集まり、そんな馬鹿を見る為に同じ馬鹿が集う場所。ここでは、命と金が平等に扱われる。それが、闘技場だ。」


 命よりも刺激と金が欲しい。

 そのような者達が集う場所。

 ここに、人権などは存在しない。


「命と金が平等? なぜ、そのような場所に集まるんだ?」

「言っただろ? 世の中には、そういうのが好きな狂った馬鹿が一杯いるんだよ。好きなスリルを味わえるし金も稼げる。まさに、馬鹿共には最高の場所なのさ。」


 誰もが命を惜しむ訳ではない。

 そんなものよりも、命を失うかもしれないスリルを味わいたい。

 ついでに金も稼ぎたい。

 それを満たす事が出来る、唯一の場所だ。


「そこに、この馬の持ち主が?」

「だろうよ。気になるなら行ってみると良い。」


 ココルの質問に頷く管理人。

 あてがあるのはそこだけだ。

 実際に行ってみるしか方法はない。

 馬を預けた俺達は、闘技場へと向かう。



「「「わーーーーーっ!」」」


 闘技場全体に、激しい歓声が響き渡る。

 闘技場を囲むようにある席で、大勢の人が大きな声を上げている。

 見渡す限り、人、人、人。

 数え切れない程の数の人が、楽しそうに盛り上がっている。

 その人の視線が向かう先で、様々な者が武器を振る。


「こんなもんとは言わねぇよなぁ!」

「どんどん連れてこぉい!」


 人がモンスターに武器を振る。

 それに対して、モンスターが武器を振り返す。

 やられた人は、すぐさま起き上がってやり返す。

 やってやられての大乱闘だ。

 そのやり取りが起きる度に、歓声が上がる。


『さぁ! 動けるものは何人いる!? まさか、これぐらいでへばってないよなぁっ! そんじゃ、今日のメインイベントっ、始めるぜーーーーっ!』

「「「おーーーーーーーーっ!」」」


 そのスピーカーのような物から発せられる声の直後に、激しい音がする。

 その音は、真ん中の戦場から聞こえてくる。

 正確には、そこにある鉄格子の奥からだ。

 その鉄格子が、少しずつ開いていく。

 そして…。


グルオオオオオオウ!


 そこから、巨大な四つ足のモンスターが現れる。

 そいつからは、見た観客が怯えるほどの殺気が漂う。

 しかし、戦場に立つもの達は違う。


「奴を倒すのは俺達だ!」

「いいやっ、俺達だっ!」


 人など簡単に狩ってしまうような相手に、我先に飛びかかっていく。

 命は惜しくなんてない。

 目の前の獲物を求めて、突き進むだけだ。


 ここは、闘技場。

 生き残った者が英雄となる場所。

 今宵も、欲を求める人が集まる。

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