迷子です
「こっちであってるの?」
「間違いない。」
俺達を乗せた馬は、魔物が消えた方へと駆ける。
ココルの前に俺が収まり、一番後ろにフィーが乗る形だ。
「それよりも、馬は大丈夫なのか? 三人も乗ってしまってるが。」
「大丈夫。私達の体重ぐらいでへこたれるような鍛え方はしてないよっ。」
確かに、もっと重たい物も運ぶしね。
頼りにしてるよ。
比較的軽い三人の重さを重ねてもそれほどだろう。
実際、馬は問題なく走れている。
しっかりと鍛えられている証拠だろう。
「フィーさんこそ、振り落とされないようにね。」
「大丈夫だ。じっとしていれば何も起こらんさ。」
「してなかったら、何かは起きるんだね…。」
残念な事にね。
まぁ今回は大丈夫でしょ。
捕まってるだけだし。
その何かにはらはらしながらも、馬は進んでいく。
平地を抜けて森へと。
森を抜けて山沿いへと。
山沿いを抜けて、再び平地へと。
しかし、同じ光景だらけで目新しいものは見当たらない。
「何もない…。本当にこっち?」
「あってる筈なんだが…。なぁ、にゃんすけ?」
にゃ。
あってる筈だよ。
間違いなくこっちに飛んだはずだけど。
魔物が向かった方角は合っているだろう。
しかし、どれだけ進んでも何もない。
痕跡すら見当たらない。
「フィーさん何か見える?」
「見渡す限り無しだ。そもそも、目的地がどこかも分からないからな。」
それでも、フィーが辺りを見渡す。
持っている情報は、魔物が向かった方角だけだ。
行き先が町なのか魔物の巣なのかも分からない。
「何か他に無い? 気になる事とか。」
「気になるか…。」
一連の事件の事を思い出すフィー。
襲ってきたのは、野生の魔物。
ならば、目指すのは魔物の巣の筈なのだが…。
「先導者がいる。と言うのが気になるな。」
「牧場に向かう時の話だっけ。」
「あぁ。それと、襲撃の際もそんな話をした。」
してたよね。
戦う前に。
「先導者って事は、組織で動いてる?」
「かもな。そうなると、そこらの巣でどうにかなる規模じゃ無い筈だ。」
組織で動いているとなると、ちっぽけな巣では収まらない。
相当な規模の場所にいると考えるのが普通だ。
「つまり、大きなものを探せば良いんだね。」
「そうだな。といっても、近くにそれらしいものは無いんだが。」
大きな建物なら、すぐに見つかる筈だ。
しかし、そもそも何も見当たらないからの話だ。
それが分かった所での話なのだ。
「思い当たる事は無いか?」
「うーん。こっちの方には来た事は無いしなぁ。この辺にいる人に聞くかもしれないかも。」
「現地の事は現地に聞けって事だな。同時に探して見よう。」
「うん、分かった。整地された道を辿ってみるね。」
馬に指示を出し方向転換する。
そして、直線で進むのはやめて整地された道を辿る。
闇雲に進むよりは可能性があるだろう。
そのまま捜し続けるのだが…。
「なーーーい!」
馬を止めたココルが絶叫する。
あれから探し続けたが、何も見つけられない。
見渡す限り、人工物なものは見当たらない。
「ここまで何もないものなのっ!?」
「だな。村の一つでもあるはずなんだが。」
何もないね。
本当に。
牧場からはだいぶ離れた場所まで来ている。
そろそろ、他の村が見えてきてもおかしくはないだろう。
しかし、村への看板すら見当たらない。
「整地された道があるから、人は通るんだろうけど。」
「これほど無いとなると、牧場の位置に問題があるんだろうか。」
「やっぱり人里離れてるから!? いやまぁ、自覚はあるんだけどねっ。ぐぬぬ…。」
えーと…、どんまい?
と言っていいか分かんないけど。
なんとも言えない顔で悔しがるココル。
そもそも、牧場自体が人里離れた場所にある。
人の住む場所を探すのが困難なのは当然の事だ。
「そうなると、探しようが無くなるな。やはり、元の道に戻るか?」
「戻るって言っても、あまり離れてないから意味が無いと思うよ?」
「そうか。そうなると、どうしたもんか。」
どうにもならないね。
僻地恐るべしだよ。
「このまま戻る? 一体牧場に帰って、知ってる村を目指すのも手だけど。」
「いや。あんな風に出ておいて、迷って戻って来ましたとはな…。」
なんか気まずいよね。
うん。
マレーヌを連れ戻すと別れたのだ。
それが、すぐに戻ったとなると申し訳なく感じる。
牧場に戻る案は、諦めるしかない。
「じゃあ、このまま続けるしか無さそうだね。人が通る道なのは間違いないんだし、進めば誰かと会うでしょ。」
「だな。それがいい。」
にゃ。
それでいいよ。
そうするしか無いんだけどね。
「うん。意見が一致した所で再出発。行くよ!」
このまま、誰とも会わない事は無いだろう。
そう結論付け、もう一度馬を走らせようとした時だった。
「助けてくれーーっ。」
どこからか、人の叫び声が聞こえてくる。
その声がする方を見る俺達。
すると、一人の男が走って来るのが見える。
「うん? どうした?」
「あそこ! あの森!」
「森?」
普通の森だ。
何があるの?
たどり着いた男が、必死になって指を後方へと指し続ける。
その先には、ごく普通の森がある。
そこに、一同の視線が集まった時だった。
ずごーーーーん!
「「っ!?」」
っ!?
激しい爆発音と共に、爆炎が森の奥から吹き出した。
そして、森の樹に爆炎の火が移り広がっていく。
「あ…ああっ。な…何て事だっ!」
「落ち着け! 何があった!」
「ひ、飛竜が…。飛竜に襲われて!」
「なっ、飛竜だと?」
その言葉に驚く俺達。
どうやら、この男は飛竜に襲われたようだ。
まさに、俺達が追っていた存在に。
「数は? 他にも魔物はいたかっ?」
「い、いや、一体だけだ! そ、それよりも、仲間達が!」
「仲間だと!? ココル!」
「うん!」
フィーの言葉に、急いで馬を走らせるココル。
あの燃え盛る奥に、男の仲間がいるようだ。
しかも、飛竜がいる場所に。
それを聞くと、黙っている訳にはいかない。
「急げ!」
「うん! 振り落とされないでね!」
馬の速度が上がっていく。
そして、そのまま燃え盛る森へと入っていく。
森の中では、すでに火の手が回っている。
その一部が俺達に降り注ぐ。
「何て事だ。ぐっ、火の粉が!」
「熱いっ。体が焼けそうっ。」
にゃっ。
あちちっ。
尻尾に火が!
降り注ぐ火の粉を潜りながら進んでいく。
息も苦しくなってくる。
このままでは、助けるどころではない。
「くそっ。炎には炎だ! にゃんすけ!」
にゃっ。
あいよっ。
お面になって流れる俺を、フィーが受け止めて被る。
そして、紫の炎で降り注ぐ火の粉を防ぐ。
そのおかげか、降る火の粉が減っていく。
「フィーさん!」
「火の粉は私達が! そのまま突き進め!」
火の粉を防ぎながら、森の奥へと突き進む。
それからすぐの道の先に、崩れ落ちた馬車の荷台が見えてくる。
それに隠れるように、複数の人が身を隠している。
「あれだ! 飛竜はどこだ?」
「奥にいる!」
「よし。近くへ頼む!」
「うん! 任せて!」
前方の馬車の奥には、一匹の飛竜が暴れている。
その口からは、激しい炎が吹き荒れる。
身を隠す人達は、その度に体を荷台に隠す。
「くそっ。あっち行けよ!」
「逃げらんねぇ!」
暴れる飛竜を前に、逃げる事が出来ない。
そうして身を隠していると、ついに荷台が吹き飛んでしまう。
「見つかった!」
「逃げろ!」
姿を現した者に飛竜が気づく。
すると、雄叫びをあげながら突っ込んでくる。
「やべぇ!」
飛竜と人間の力の差は明らかだ。
逃げられる訳がない。
そのまま距離を詰められ、飛竜の牙が迫る時だった。
「させん!」
前に飛び出したフィーが、飛竜の首を剣で流す。
それにより、飛竜の首が大きく逸れる。
「あ、あんたは?」
「助けだ! 今のうちに逃げろ!」
「あ、ああっ。」
話をしている間にも、飛竜が体勢を直す。
こちらに時間を与えてはくれないようだ。
逃げ始める者達を庇うように、フィーも剣を構え直す。
「さぁ、聞きたいことは山ほどある。かかってこい!」
こうして、飛竜との戦いが始まる。