襲撃を受けました
雷に照らされた魔物の影。
その数は一つだけではない。
「マレーヌさんは下がってて。」
「え、えぇ。」
ウィロの言葉に、マレーヌは後ろへと身を引く。
それを確認したウィロは、拳に鎧の付いたグローブを嵌める。
「すまないけど、一人でどうにかなる相手じゃない。手伝ってくれるかい?」
「任せろ!」
にゃっ!
任せて!
一つ一つの相手の影は大きい。
どれも、昨日現れた大物ぐらいだろうか。
そうなると、ウィロ一人では戦えないだろう。
「行くよっ。」
そのウィロの一言で、俺達は一斉に走り出す。
嵐に押されるも、ひたすら突き進む。
「これ以上は、暴れさせないよ!」
一気に距離を詰めて迫る。
そのまま襲いかかろうとするが…。
グアーーーーッ!
その影が、大きく跳ね上がったのだ。
そして、俺達へとのしかかろうと迫る。
「っ!?」「っ!?」
ちょっ。
それを見た俺達は、咄嗟に避ける。
その時、魔物が何かに乗っているのが分かる。
「何だこいつっ!」
「飛竜だ! まさか、そんなっ。」
その正体は、大きな翼を持つ飛竜だ。
しかも小さい。
子どもだろうか。
「どうして飛竜が!」
「知らん。って、言ってる場合かっ!」
敵は、こいつ一匹だけではない。
飛竜を見ている間にも、他の飛竜も現れる。
「よっ。」「はっ。」
いよっと。
それを、後ろに下がって避ける。
そのお陰で、攻撃を食らわずに済んだのだが…。
「くっ、奇襲は失敗か。気づかれない内に攻めたかったのに」
「仕方あるまい。戦闘開始だ!」
数が数なので、戦闘が始まる前に何匹か落としておきたかったのだ。
それが無理な今、そのまま戦闘に入るしかない。
魔物に向かって武器を構える俺達。
それに対して、魔物達もまた…。
ブギャーーーーっ!
大きな棒を振り回して威嚇する。
その直後、お互いの距離が一気に縮む。
「おらっ!」「はっ!」
飛び込んでくる飛竜を斬るウィロとフィー。
その勢いで落ちた魔物の首を跳ねる。
そのままフィーが飛竜にとどめをさそうとするが…。
グアッ!
他の飛竜が横入りして邪魔をする。
更に、その上の魔物が棒を振るう。
それは、体勢を整える前のフィーへと迫る。
「しまっ。」
にゃん!
させない!
その棒を持った魔物を俺が蹴飛ばす。
そのお陰で、棒が当たる直前で魔物が吹き飛ぶ。
「すまない。だが、厄介だなっ。」
魔物を斬ろうにも、飛竜が邪魔をする。
その飛竜を斬りかかるが、魔物が棒で邪魔をする。
その棒を避けたウィロが飛竜を殴る。
「飛竜は、生き物の頂点に立つ生き物。こんな奴等と協力する訳が無いんだけど。」
「しかし、こいつらは連携しているぞっ。」
全くだよっ。
邪魔すぎ!
実際に、魔物と飛竜の息は合っている。
その魔物を蹴って邪魔をする俺。
フィーもまた、飛竜に迫り斬りかかる。
しかし、魔物の棒で防がれる。
「くっ、協力しないわりにはだなっ。」
「言われてもねっ。僕としても、こんなの初めてだよっ。」
長年ハンターをしてきたウィロですら初めて見たものだ。
何が起きているか、知りようがない。
それでも、少しずつ数を減らしていく。
すると、乗り手を失った飛竜が単体で襲ってくる。
「ぐっ、や、やめるんだ! くうっ。こんなの、親が黙っていないはずだぞっ。」
子供が小物の魔物と一緒に戦っている。
そのような事を、親が許すとは思えない。
「そもそも、こいつらの親はどこなんだ? 普通、子供だけで動かないだろっ。」
「そのはずだよっ。一人前になるまで親が面倒を見る。飛竜も同じの筈なんだけど。」
でもいないよ。
いてほしくは無いけどね。
親がいようものなら、この程度の戦いでは済んでいないだろう。
いないのを喜ぶべきだが、そうなると疑問は解消されない。
「こうなると、誰かが手引きしてるとしか。まさか、昨日言ってたやつが?」
「昨日? 確か先導者がいるって話か?」
「だと思うっ。」
戦闘をしながら、原因の考察をする。
今回の不可解な一件。
導く者がいれば、全てが上手く当てはまる。
「そうなると、目的はなんだ? どうして牧場を狙う?」
「餌の家畜じゃないのか?」
「そう思うのが普通なんだろうけど。」
ここにあるのは、家畜と食料だ。
魔物からすれば、餌の宝庫だろう。
そうなると、狙いは絞れるのだが…。
「こいつら、もう家畜なんて見てないぞっ。」
初めの襲撃以来、家畜をいっさい見ていない。
取り押さえるような事すらしていないのだ。
「こいつらの目的はいったい何なんだっ。」
考えれば考えるほど疑問は増える。
それでも、今は対処をするしかない。
その時だった。
ずどーーーーん
再び激しい音が聞こえてくる。
「今度はなんだ!」
「音がした方は…まさかっ。」
音がしたのは、後ろの方。
つまり、人がいる建物がある方角だ。
それに気づいた時だった。
「きゃーーーーっ!」
「マレーヌさんっ!」
建物の方から、マレーヌの叫び声が聞こえてくる。
どうやら、何かあったようだ。
それを聞いたウィロが、一目散に建物へと向かう。
「今行きます!」
迫る飛竜をはねのけながらウィロが駆ける。
その後ろに、フィーと俺が出る。
「サポートするぞ!」
にゃっ!
通さないよ!
ウィロへと迫る飛竜を止めながら追いかける。
その間にも、ウィロが壊れた建物へと飛び込んだ。
「マレーヌさん!」
建物の中では、震える従業員と壁に叩きつけられたココル。
それと、その視線の先には一匹の飛竜と魔物。
そして、その魔物の手には…。
「マレーヌさんっ!」
気絶したマレーヌが担ぎ上げられていた。
それを見たウィロが飛び出した。
「おい! マレーヌさんから手を離せ!」
マレーヌを助けようと殴りかかる。
しかし、それを避けた飛竜が飛び上がる。
「おい! 待て!」
待てと呼ばれて待つような相手ではない。
そのまま空中で羽ばたく飛竜の上で、魔物がウィロを見る。
「待てーーーーっ!」
魔物へと叫ぶウィロ。
それでも、相手は無視をして牧場の方へと飛んでいく。
そして、そこへ向かって俺が迫る。
させないよ!
ポイントダッシュエアで急接近。
一気に距離を詰める。
その時、三匹の魔物を乗せた飛竜が立ち塞がるように現れる。
邪魔だよ!
それでも、魔物から魔物へのポイントダッシュ。
そして、その後ろからフィーが手を伸ばす。
「にゃんすけっ!」
にゃ!
あいよっ!
その手に向かって、お面になった俺が収まる。
それを被ったフィーが一回転。
「はあっ!」
三匹の飛竜をまとめて斬り飛ばす。
それでも、奧の一匹が立ち上がる。
「浅かったか!」
とどめをさそうと剣を前に踏み出す。
しかし、その隙にマレーヌを担いだ魔物を乗せた飛竜が飛び去っていく。
「しまっ…うわっ!」
注意が上へと向かったせいで、剣の振りが遅れる。
その隙に、飛竜にのしかかられてしまう。
「どけっ! にゃんすけ!」
すぐに払い除けて、お面を空へと投げる。
そして、もとの姿に戻った俺がポイントダッシュエアで向かうも…。
ブギャ!
にゃっ。
しまっ。
横から現れた飛竜に防がれる。
そのまま上の魔物に棒で叩かれると、地面へと落っこちる。
「にゃんすけ!」
にゃふっ。
その間にも、魔物はマレーヌを連れて去っていく。
こうなると、追いかけるのは不可能だ。
そこへウィロが追いつくが…。
「マレーヌさーーーん!」
今更来たところで、どうにかなる訳でもない。
その視界の先で、魔物を乗せた飛竜の群れが雲に隠れて消えていく。