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エピローグ

 ―――3年後


 多くの困難を乗り越えて、ハーケテュリアは再び美しい大地へと戻った。

 ロザリー、エルザ、レスティア、エリアル――あの戦いを共に生き抜いた仲間たちは今、それぞれの道で領地を支えている。

 かつて滅びかけたこの地に、再び笑顔と活気が戻ってきたのだ。


 1カ月前に行われた収穫祭では、街中が歓声に包まれ、未来への希望を実感した。

 だが、この急激な復興の裏には、もう一つの要因があった。王都では大規模な政変が起こり、国王ローグジェイドの失脚、後継争い、帝国の分裂と混乱が相次いだ。

 逃れるように人々が流れ着いたのが、復興の兆しを見せていたハーケテュリアだった。


 俺は勇者としてではなく、一人の領主としてこの地を守り続けてきた。

 領地経営など無縁だった俺を支えてくれたのは、エリアルだった。

 財政、農政、治水、人材管理――どれをとっても彼女の助けなくして今のハーケテュリアはなかった。

 聡明で優しく、誰よりも堅実な彼女は、俺の右腕として領民の暮らしを支えてくれた。


 つい先日、エリアルとロザリーが共に新しい命を授かった。

 まだ小さなお腹を撫でる二人を見て、俺は自然と涙をこぼした。

 レスティアもそれを心から祝福してくれた。「今度は私の番ですね!」と微笑むその姿は、かつての無垢な少女のままだ。


 今、俺には四人の妻がいる。


 ロザリーは家庭を、エリアルは政を、エルザは剣を、レスティアは信仰を――

 それぞれの道を歩みながら、皆がこの地の未来を支えている。


 エルザは騎士団長として兵の訓練に力を入れ、何度も領地の危機を救ってきた。

 近寄りがたいほど凛とした佇まいは変わらず、彼女に憧れる若者も多い。

 けれど、たまに見せる照れた横顔は、今でも俺の心を奪う。


 レスティアはカノープス教の司祭として、民の心を導く役割を担っている。

 仕事中は厳しい彼女も、俺の前では時折「兄さん」と甘える昔の口調に戻る。

 そのギャップに、俺はつい甘くなってしまう。ロザリーからはよく「シスコン」と笑われるが、それもまた幸せな日常の一部だ。


 ロザリーは家庭の中心であり、家族全体の潤滑油だ。

「四人も奥さんがいるんだから、誰かがまとめ役にならなきゃ」と自ら名乗り出てくれた。

 家事も完璧で、子供が生まれる日を心待ちにしている。

 彼女には将来、魔法学校の教師になりたいという夢がある。今ではシンシア学園長が遠路はるばる個人指導に訪れているほどだ。


 皆が、今を全力で生きている。

 それが、何よりも嬉しい。


 俺は、彼女たちの笑顔を守るために、今日も勇者であり続ける。

 そんな矢先だった――




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!


 大地が唸り、東の空が黒雲に包まれた。

 その雲の中から、かつて見た巨大な影が姿を現す。


「アレスゥゥゥゥゥゥ! グオオオオオオオ!」


 全長百メートルを超える大蛇――クラウド。

 あれほどの猛攻の末、学園長が討ち果たしたはずの男が、まさかの姿で復活していた。


「な、なんだあれは……!?」

 素振りをしていたエルザが目を見開く。


「クラウド殿下……まさか三度目……」

 エリアルの顔に、わずかな疲労が浮かぶ。だが、すぐに表情を引き締めた。


「皆さん、落ち着いてください。今までもそうだったように、私たちはきっと――乗り越えられます」


「レスティア!?」

 いつの間にか、神官服姿の彼女が俺たちの側に立っていた。


「兄さんのピンチと聞いて、いても立ってもいられませんでした♪」

「いや仕事サボって来るな!」とロザリーが全力でツッコミを入れる。


 だがすぐにレスティアの顔が真剣に戻る。


「今は冗談を言っている時ではありません。兄さん、どうしますか?」


 俺は仲間たちを見回した。

 エルザが剣を握り、レスティアが祈りの姿勢をとり、エリアルが小さく頷く。

 それぞれの強さが、俺の背を押してくれる。


「もちろん――正面から倒すつもりだ」


「ふふ、頼もしい言葉ですね」

「久しぶりに腕が鳴るな」

「支援は任せてくださいね!」

「……ほ、本当に皆さん行くんですか!? 私は屋敷で――」

「行くのよエリアル! みんなで戦うからこそ、意味があるんだから!」


 ロザリーの言葉に、俺たちは笑った。




「よし! 誰が先にクラウドを倒すか、勝負だ!」


 俺たちは走り出す。

 恐怖も、過去の痛みも、すべてを背負って。

 この命が続く限り、冒険も、守るべき日々も、終わりはしない。


 ――そして、新たなる物語が始まる。


これにて、アレス達の物語は完結となります。

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