第13話:勇者、友達の思い出話を聞く
ハーケテュリアに滞在して一週間が経過した。今日も5キロ四方の浄化を終えてキャンプ地へと帰還する。一週間ともなればそれぞれの行動が最適化されていき、手早い作業が可能となる。
だが、そこで油断してオーバーワークなどは決して行わない。俺達は無理はしないようにのんびり行動している。
魔王討伐のように、急ぐ意味なんて全くないからね。堅実に安全に進めていく事が一番重要だ。
今のところ問題などは起きてない。
プロテクトのおかげで、ゾンビゲージもみんな0%のままだし、食糧も安定供給……とまではいかないけど、そこそこ補給できてる。
すごく順調だ。
ゾンビが近づいてこないようにテント周りに結界を張って、テント本体にも結界を重ねがけする。これでゾンビが100匹襲撃してきても大丈夫だろう。
「兄さん、そんな事を考えると本当にゾンビが襲撃してきちゃいますので自重してください」
「お前は勝手に俺の心を読むな」
「それにしても、今日はスキルを使いすぎてちょっと眠いので先に寝ますね」
レスティアはテントに入って就寝した。エルザも程なくしてテントの中に入って就寝した。外には俺とロザリーだけが残された。
「ロザリーは寝ないのか?」
「私はいまあんまり眠たくないわ。アレスはどうなの?」
「俺もロザリーと同じだ。今はあんまり眠たくない」
「そう」
俺達はしばらく無言のまま焚き火を見つめる。ロザリーが薪を炎の中にポイと入れた。
「昔の私達が、今の私達を見たらどう思うのかしら?」
「たぶん誰も信じないと思う」
「そうかもね。少なくとも私は絶対信じないわ。アナタとこうやって食事を取ったり、一緒にいる未来なんて、まったく想像できないもの。未だに、これは私が死ぬ前に見た夢なんじゃないかと思うことがあるわ」
死ぬ前に見た夢。
そういえばロザリーは一回死んだんだったな。死後の世界ってどんな感じなんだろう。天国とかあるのかな。
「天国があるかどうかはわからないけれど、輪廻転生というものは本当に存在するらしいわよ」
「マジ?」
「ええ、半年前にエディアって子にゴールデンフィッシュを売った事覚えてる?」
ロザリーは直接立ち会ったわけじゃないけど、レスティアから聞いたっぽい。
「まあね。即決で金貨100枚。あの子めちゃくちゃお金持ちやね」
ロザリーは俺の発言はスルーして話を続けていく。
「その子、前世の記憶がちょっと残ってるらしいのよ」
「え? そうなの?」
「うん、シャーマンゴブリンって奴に出し抜かれてパーティ仲間を全員殺されたらしいわ」
「うわぁ……可哀想だな。そんな凄惨な記憶が残ってるのか」
「でも悪い事ばかりじゃないらしいわよ。あの嫌な記憶があるから、今回は正しく生きる事ができると、嬉しそうに言ってるもの。彼女が一番重要視してるスキルは何だと思う?」
「うーん、一回死んだ経験あるから回復スキルか?」
「違うわ。《地図スキル》よ。彼女が一番重要視してるのは情報なの。エリアルの才能を開花させたのだって、実はエディアなのよ。エリアルは元々、自分の風精霊が嫌いだったのよ」
たしか、エリアルの風精霊は、戦闘力があまりない代わりに情報収集能力がかなり高い。
エリアルの空間把握能力と組み合わされば、かなり強力な情報収集能力が生まれる。
自分の精霊を嫌ってるようには見えなかったけど、元々エリアルは自分の精霊にコンプレックスを持っていたようだ。
「みんなのように戦えないから悔しい」といつも教室の隅で泣いていたらしい。
その価値観を大きく変えたのがエディアらしい。
「どんな風に言われたのかまでは教えてもらえなかったけど、エディアの一言がエリアルを変えたのは間違いないわね」
ロザリーはこちらに視線を向けた。
紫色の瞳には俺の顔が映り込んでいた。彼女の目には、俺しか映っていない。
「私もエリアルと同じように、アナタの一言で変わる事ができたわ。まずは友達から始めよう、という言葉に救われたわ。アナタのその言葉がなければ、私は今も自分勝手な侯爵令嬢のままだったと思うの」
ロザリーはそう言って、そっと俺の手のひらを、自身の両手で包み込んだ。そして、はっきりとこう言った。
「アレス、私を変えてくれて、本当にありがとう。世界中の誰よりも、アナタを一番愛しているわ」
俺のもう片方の手が、ロザリーの体に触れる。
ロザリーの髪が少しだけ揺れて、ゆっくりと顔が寄せられる。
それはあるところまで近づき、距離がゼロになったところで止まった。
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