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第11話:勇者、ゾンビウイルスを一瞬で浄化してしまう

 馬車での移動二週間。俺達は目的地のハーケテュリアに到着した。

 空気が汚染されており、息を吸うだけで《浸食ゲージ》が上がっていくのを感じる。


 ステータスを確認してみると、ゾンビゲージが0%→2%に上がっていた。


「ふむ、予想以上に空気が汚れてるな。《光魔法Lv10》で《プロテクト》を張っておこう」


 俺、ロザリー、エルザ、レスティアの四人に《プロテクト》を発動していく。

 そのあと、ステータスを確認してみたが、ゲージが上がっている様子は見られない。どうやら防御は上手くいったようだ。


「レスティア、一緒に浄化していこう」

「兄さん、私程度の浄化力で大丈夫でしょうか?」


 レスティアはやや不安そうだ。少しでも自信をつけさせるために、レスティアの頭を撫でると、すごく嬉しそうに顔を綻ばせる。

 すごくかわいい。小動物を撫でてるような気分になる。


 浄化に必要な魔法スキルは《フィールドキュア》だ。これを覚えるのは《光魔法Lv7》。レスティアも魔王討伐の旅の中で成長して《光魔法Lv4》→《光魔法Lv7》に上がっている。エルザのような最高の成長《剣術Lv10》はできなかったけれど、確実に成長してるのがわかる。


 レスティアは手をかざす。


「フィールドキュア」


 手がピカーンと光って100メートル四方を浄化する。その範囲だけゾンビウイルスが死滅した。


「すごいぞレスティア。初めて使う割には完璧じゃないか」

「えへへ、そうですか?」

「ああ。お前は俺自慢の妹だ」

「妹ではなく、今は彼女ですよ」


 レスティアが言葉を言い直した。


「あ、ああ。そうだな、彼女だったな。クレアと彼女か……正直まだ慣れないな」

「もう、いい加減慣れてくださいよ」

「無茶言うなよ。こういう価値観ってのは、すぐに変えられないって」

「兄さんは頭が固いですねぇ~。ロザリーを見習ってくださいよ。初日から4Pを認めて下さったんですよ」

「4Pとか言うなよ。いつの間にそんなそんな言葉覚えてきたんだ。あと、あれは結局未遂に終わっただろ」

「そうでしたっけ?」


 レスティアはすっとぼける。

 彼女のしたたかさに俺はため息を吐いた。

 レスティアの楽しそうな表情を見て、俺は口元を自然と緩める。

 徐々にだが、確実に、レスティアの精神状態は安定していった。実の妹と知らされた時、俺は元の関係に戻れないと思っていた。

 でも、ロザリーのおかげで、こうやってまた冗談を言い合える関係に戻る事ができた。


 ロザリーとレスティアの関係は、正直に言えば、そこまで良い関係だったわけではない。

 知人以上、友達未満って感じだ。魔王を倒すためのメンバーだから一緒にいた程度の関係だった。


 でも、不思議と、ロザリーがレスティアを敵視した時代は一度もなかった。

 どうしてなんだろうと思ったこともあった。でも、あの日、3Pを承諾した時に何となくわかった。


 ロザリーはあの時俺に放った一言。


「『今はアナタが一番』だけど、『レスティアも私にとって大切な友達』ですもの。このままギスギスするよりはマシよ」



『今はアナタが一番』

 それは正しく真実だったのだろう。

 俺の幸せのために、レスティアの存在は必ず必要だった。

 だから、己の独占したい気持ちを押さえ込んででも、レスティアを受け入れた。


『レスティアも私にとって大切な友達』

 これも同じく真実だったのだろう。

 一年間の旅の中でロザリーは大きく成長し、レスティアと友情を育んだ。

 だから、友達の苦しむ姿をこれ以上見たくなった。



 いずれにせよ。俺達はロザリーの一言に救われた。エルザはやや災難だったけど、彼女が巻き込まれ気質なのは今に始まったことない。


 何故それが事実だとわかるのか。

 俺はチラリとロザリーの方を見た。彼女は俺ではなくレスティアを見ていた。そして、その表情は、子供を見守るような『優しい笑顔』だった。



 その日、俺達二人は合わせて、5キロ四方の土地を浄化することができた。


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