第10話:皇太子、クーデターにあってしまう(2)
【クラウド視点】
「があああああああああああああああああああああ!」
俺は大蛇となって巨大化した。その大きさは100メートル級。強さのランクはもちろん神級モンスター!
俺ッッッ最強!
兵士達が悲鳴を上げて逃げていく。ククク、俺の偉大さに畏れおののいたか。
まずは手始めにレスティアの所属していた王都の大教会をぶっ壊してやるぜ。蛇となった俺は大地をうねりながら直進していく。シルドマルク城を半壊させて市街地も大暴れ。特に平民御用達のスラム街は完膚なきまでに破壊してやった。
平民なんて生きる価値はねーからな。
俺が国王になったら男爵より下の地位の奴らは皆殺しにする予定だから全員死んでOK
シルドマルク帝国に必要なのは貴族だけであり、それ以下の奴らは全員俺の奴隷だ。
俺が町を直進していると白狐族の獣人少女がトテトテと走って逃げていた。
見た感じ12歳くらいのロリッ子。見るからに卑しい身分って感じだ。
呑気な面が気に入らねえな。気に入らねえよ。とりあえずこいつから殺すか。俺は獣人少女に向かって火炎放射を放つ。
ヒャッハー獣人は消毒だァァァ!
直線上に炎の道が続いていく。その炎は王都の端まで届くほどだった。
「うん?」
なんか違和感があった。少女がいた位置だけ上手く燃えていない。
俺はジッと目を凝らす。
そこには獣人少女を守るように、20代前後の女性が立ち塞がっていた。
鮮やかな紫色の髪をしており、変なTシャツを着ていた。Tシャツには『アイ・ラブ・マジカル・カノープス』とでかでかと書かれていた。
女性は無傷で佇んでおり、手を前に突き出してバリアを張ってる。
「ねえ、エリアル。アナタの言っていた黒色の大蛇ってもしかしてこいつ?」
「は、はい! でも、どうして皇太子がまた大蛇化してるんでしょうか? シンシア学園長はわかりますか?」
どうやら俺の攻撃を止めたのはシンシアという女のようだ。そして、シンシアの視線の先にはエリアルという青髪の女がいた。
「さあ? まあ別にいいんじゃない? 皇太子の事なんてまったく興味ないし。そ・れ・よ・り、私としては、エリシアの初恋のアレス君に会えなかったことが一番残念だわ♪」
「ちょちょちょ、なにこんな時に冗談言ってるんですか、学園長!?」
「別にいいじゃなーい。話によるとあのロザリーと駆け落ちしたそうよ♪ 早く追いかけないと今ごろギシギシアンアンしてて取り返しがつかなくなるわよ♪ あの子情熱的ですものねアンアン♡」
「もおおおおおおおおおう! 言われなくてもすぐに追いかけますよ! 大体、王都に到着が遅れたのは学園長が一晩中飲んでて昼まで二日酔いで動けなくなったからじゃないですか」
「あらあら、学園長に罪を擦り付けるなんて酷い生徒ね。アレス君に会わせるために、わざわざ王都までアナタを連れて来てあげたのに。学園長悲しいわ♪」
目の前の二人は俺の事なんてガン無視してぺちゃくちゃと喋っている。
そして、このエリアルという女には見覚えがあった。以前アレスと一緒にいた女のはずだ。俺はコイツのせいで魔物薬を浴びることになってしまった。
こいつは諸悪の根源。正義の皇太子としてこいつは必ず殺さねばならない。
「エリアルウウウウウウウウウウウウウウウ!」
俺はエリアルの名を大声で呼んだ。
「ひっ!?」
「どうやらアナタをご指名みたいよ。あの醜い化け物に握手でもしてあげたらどうかしら?」
「ほげえええええええ!?」
俺はエリアルに向かって全速で直進する。だが、俺がエリアルを轢き殺すよりも先にシンシアが間に入った。
「あらあら、私の大切な生徒を狙うなんて命知らずもいたものね。ちょっとお仕置きしてあげないといけないわね」
シンシアは右の拳に力を込める。するとそこに膨大な闇エネルギーが一気に集約していく。
「《拳術Lv10》+《闇魔法Lv10》―――《超高位混沌闇魔法術》」
次の瞬間、俺の顔面に拳が叩きこまれる。その一撃で俺の脳髄が吹き飛び、頸椎から全身へと尋常ではない衝撃が侵食していく。
俺ノ意識ハ一瞬デ消シ飛ンデイった。ダが、オレはフジミだ。またフッカツし―――――。
◆ ◆ ◆
「悪いけれど、私の魔法は魂ごと消し飛ばすから復活はできないわよ。残念だったわね、哀れな皇太子さん」
帝国最強の魔導士―――シンシア=リステオルは、さらりとそう答えて、炎となって消えていくクラウドのなれの果てに背を向けた。
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