第4話:一方その頃
アレスの行方がわからなくなって3時間が経過した。
ロザリー、エルザ、レスティアの三人はアレスの行動に対して不満を爆発させていた。
「ほんとムカつく。私達を置いていくなんて何様よ。勇者だからってなんでも許されると思ってるのかしら」
「まったくだな。アレスに追いついたら説教してやろう」
「あの生意気な面をシバいて泣かせてやりたいですね」
今回もアレスが言っていた法則順での発言だった。
ロザリーがついて、エルザがこねて、レスティアが食べる。
まさに馬鹿トリオの罵倒餅と言えるだろう
怨嗟の声を口々に発しながら山道を歩いていく。
しばらく歩いていくと、空腹のせいでロザリーのお腹が鳴った。
「お腹が空いてきたわね。ねえエルザ、なにか作ってよ」
ロザリーが猫撫で声でエルザにお願いした。
「あいにく私は料理ができない。そういうのはレスティアに頼んでくれ」
「いや、私も料理できませんよ」
レスティアも即答する。
レスティアの言葉に残り二人の表情が凍りついた。
三人は忘れているようだったが、パーティ内の食事係はすべてアレスが担当していたのだ。
その事をすっかりと忘れていた三人は、料理を作れる人が誰もいないとわかってパニックになった。
「ちょっとアンタ! いかにも料理できますって顔してるのにどうして料理できないのよっ!」
ロザリーはレスティアに八つ当たりした。
「逆にアナタの方はいかにも料理できませんって顔してますが、まさしくその通りですね」
「なんですって!? こっちは腹が減って気が立ってんのよ。消し炭にするわよっ!」
「腹が減ってるのは私も同じですぅ~! 自分だけが特別って顔しないでください、不愉快です」
空腹で苛立っていた要因もあり、二人は大喧嘩を始めた。
あっという間に二人の仲が険悪になった。
それから20分が経過した。
山道を進んでいくと吊り橋が見えた。かなり年季が入っているようで一部の床は抜け落ちていた。
吊り橋の近くには看板がある。
【この橋、老朽化ゆえ崩落危険あり、二人以上で渡るべからず】
「どうやら二人以上で渡ってはいけないみたいね」
ロザリーが看板を読み上げた。
「それくらい誰だってわかります。わざわざ口に出して仕切らないでください」
先程まで喧嘩していたので、レスティアはロザリーが仕切っている現在の状況が気に食わないようだ。
「馬鹿なアンタのために教えてあげてるのよ」
「は?」
完全に余計な一言だった。レスティアの声色に怒気が宿る。顔は引き攣り、今にも殴りかかりそうな雰囲気が辺りを漂った。
「お、おいやめろよ。私達仲間だろ!」
ロザリーとレスティアの二人は同時に舌打ちした。
エルザは小さくため息を吐いた。
「まずは私が先陣を切って通るから、お前たちは私が渡り終えた後に通るんだ。いいな?」
エルザは高いところがあまり得意ではなかった。
だが、この険悪なパーティ状態ではワガママは言えない。
半ば自分を犠牲にして吊り橋へと繰り出した。
ミシッ、ミシッ、ミシッ。
一歩踏み出す事に吊り橋から鈍い音が鳴る。
エルザは慎重に進んでいく。
橋から10メートルほど下には大きな川があり、落ちると大変な事になるのは明白だ。
絶対に下を見るまいと誓いつつ、エルザはゆっくりと渡っていく。
ゴールまで残り20メートル。
あと少しで渡り切りそうだ。安心しかけた時、急に吊り橋全体が大きく揺れた。
エルザは大きな悲鳴を上げて手すりに摑まる。
「い、いったい何が起きたんだ?」
恐怖がエルザを襲った。
そして、エルザにとって嬉しくない形で吊り橋が揺れた理由はすぐに判明した。
エルザが渡り終えていないのにロザリーとレスティアが勝手に橋を渡り始めていたのだ。
しかも激しく言い争いながら進んでるので二人の足取りはかなり乱暴だ。
同時にミシミシっと嫌な音が響いてくる。
まるで吊り橋が悲鳴を上げているような感覚だ。
「ちょっとアンタ邪魔しないでよ! 二人以上で渡っちゃダメと看板に書かれてるでしょ!」
「そう思うなら渡らなければいいじゃないですか。今度は私の番です。アナタの方こそ順番守ってください」
「順番を守れですって? 『自分が渡った後に吊り橋を落とそう』と企ててる奴には言われたくないわ。アンタの方こそ、普段はいつも最後に喋っているんだから吊り橋も最後に渡りなさいよっ!」
「ごちゃごちゃうるさいですね。アナタには人を信じるという気持ちがないのですか? 私は天下の聖女ですよ」
「アンタみたいな外面だけがいい偽聖女なんて信じられるわけないでしょっ!」
二人は橋の上で喚き散らし、橋を左右に揺らす。
終いにはお互いを突き落そうと喧嘩が始まった。
彼らが暴れるにつれて橋の支えとなる部分が徐々に擦り切れていく。
「お、おいバカやめろ! 早く戻れ! 一人ずつ渡れって看板に書かれているだろ!」
だが二人にはまったく聞こえていなかった。エルザの渾身の叫びなど一切無視して暴れ続ける。
そして、ついに―――。
ブチチチチチッ!
紐が切れるような音。橋が中央から崩落する。
「「「ぎゃああああああ!?」」」
三人は崩落に巻き込まれて悲鳴を上げながら川に転落した。
助けてー!と悲鳴を上げるが、助けてくれる者などもちろん誰もいない。
彼らの受難は、まだ始まったばかり……。
【読者の皆さまへ】
この小説を読んで
「面白い!」
「続きが気になる!」
と思われたら、↓の☆☆☆☆☆ボタンを★★★★★に変えて応援していただけますと嬉しいです!
多くの皆様に読んでもらうためには、どうしてもブックマークと星が必要となります!
よろしくお願いします!