第3話:剣神、本当の道を見つける
剣士には5つの等級が存在する。
神級>王級>上級>中級>初級。
一つひとつに大きな壁があり、特に王級剣士と上級剣士の壁は厚かった。ここを超えるには努力だけでなく才能も必要とされていた。
それをなんなく飛び越えて、最高ランクの神級にまで昇格したのが勇者紋を手に入れたアレスだ。
私はそれを最初受け入れることができなかった。
その結果、尊敬していたはずの人物を、半年間も虐げてしまった。
いま思えば、そんな迷いがあったから、王級に届かなかったんだと思う。
その時からだろうか、これまで見えてこなかった、アレスの意外な一面も見えるようになった。
アレスは意外と奥手だ。
あの『二人』がアレスに好意を持ってるのは明らかだったのに、外征の期間、彼は結局どちらも選ばなかった。
本人は魔王討伐に集中するため余計な事は考えないようにしてると言ってたが、実際のところは、どちらか一方を選べないだけだと、すぐにわかった。
それをどうこう否定するつもりはない。
どちらを選ぶかはアレス自身の問題だからだ。私の役目は、彼らが不幸にならないように、それを見守るだけだ。
剣術面にも変化が訪れた。
なんとなくだが、『起こり』が見えるようになった。
起こりとは、剣術における戦いの流れのようなものだ。
『鞘から剣を抜く』という動作一つにしても、視線移動→筋肉の動き→事前動作→鞘から剣を引き抜くという四つの手順を踏む必要がある。
動きが複雑化していけば、その起こりはさらに複雑化していき、すべての起こりを見極める事が困難になる。
上級剣士の私は、これが見えなかった。
だが、彼と旅を続けるうちに、その起こりが徐々に見えるようになった。
アレスの悪い部分を探し始めた一年前の私。
アレスの良い部分を探し始めた半年前の私。
どちらもいまの私を構成する上でなくてはならないものだ。
過去は変えられないが、これから起こる未来を良い方向へと変えていく事はできる。
私は、アレスとの旅でそう悟った。
◆ ◆ ◆
こちらへ迫ってくる周りの兵士に集中する。
彼らは、まだ攻撃を仕掛けていない。
だが、いまの私には、彼らがどのような攻撃を仕掛けてくるのかが自然とわかった。
これまで見えてこなかった『起こり』が見えたのだ。
ずっと越えられないと思っていた父上の領域に、私はようやく踏み入れることができた。
ただ、不思議な事に、それに対しての喜びは一切感じなかった。
強くなることはゴールではなく、あくまで幸せを掴むための過程だ。
父上はきっとそれを伝えたくて、私を勇者パーティに入れたんだと思う。
随分と回り道をしてしまった気がする。
でも、後悔はない。
それはきっと、強さなんかより何千倍も大事な、『本当の友達』を手に入れたからだ。
私は数秒だけ目を閉じて、開眼と同時に、武闘紋を開放する。
残りの兵士の数は5名。私は彼らを全員、文字通り一瞬で叩き伏せた。
全体重をかけて一気に振り下ろされたその一振りは『神速』の域にも達していた。
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■エルザ=バルディッシュ
○装備
[武器:剣王の剣]
[防具:剣王の鎧]
[防具:剣王の靴]
[装飾品:四人の写真が入ったペンダント]
○使用可能スキル
◆身体能力強化系
《剣術Lv10》
◆称号
[剣神]
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残る相手は皇太子のクラウドだけだ。
私は、ロザリーを守るように位置取りをする。
「エルザ!? なんでアンタまでここにいるのよ!」
「ふっ……愚問だな。理由はロザリーと同じだ。私達もお前達二人についていく!」
ロザリーの問いに私はそう返した。
彼女はやや呆れつつも、嬉しそうに子供のような笑みを作った。アレスにも視線を移し、お互いに頷き合う。
「貴様ああああああッッ! おい、エルザ! バルディッシュ家がどうなってもいいのか!」
クラウドは憤然たる態度で地団太を踏む。
私の裏切りに対して、激しく狼狽してるようだ。彼が驚くのも無理はない。
バルディッシュ家はロザリーのように高い地位にあるわけではない。
それに私は一人娘。多少強引にでも、バルディッシュ家を守るために素直にいう事を聞くと思っていたのだろう。
だが、アテが外れたようだな。
「残念ながら父上は、すでに私の答えを受け入れてる。帝国の陰謀なんかにアレス達の幸せを決して奪わせてなるものか」
クラウドの方角に、父上から譲り受けた愛剣を、静かに剣先を突きつける。
その言葉に、クラウドは奇声を発して、魔法スキルの《火炎弾》を放つ。
《火魔法Lv1》のお粗末なものであったが、成長の見られないクラウドにとっては全力とも言える魔法だった。
10メートルあった距離を一瞬でゼロに変える。
両腕を振り上げて、クラウドの正中線を斬るような勢いで全力で剣を振り下ろした。
結論から言えば、私の一撃はクラウドに直撃しなかった。
剣先がクラウドの鼻先を掠めるように位置を調節したからだ。鼻先の皮膚がやや捲れた程度。数日もすれば治る程度の怪我。
だが私の本気が込められた一撃は、クラウドにとっては少々刺激が強すぎたようだ。
クラウドは尻餅をついて顔をゆがませて、恐怖のあまりその場で失禁していた。
こんな奴、斬り殺す価値もない。
クラウドからアレスに視線を戻す。
「一番良い所を奪ってすまないな」
「ううん、エルザが来てくれて本当に嬉しかった」
その言葉を聞いて、感情が高ぶって涙ぐみそうになった。口元を引き締めて我慢する。
「当然だ」
私は短くそう答えた。
その後、拍手で見送る群衆達の中、私達は王都を出発して、新天地であるハーケテュリア領を目指した。
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