第7話:交渉完了
昼食後、俺とレスティアは放課後まで学園のテラスで待機した。エディアと取引を行うためだ。放課後になるとエディアがやってくる。隣にはエリアルとアンゴラもいた。
「あれれ? なんでアンゴラさんまでいるんでしょうか?」
レスティアは不思議な表情を浮かべている。
「エディア君がキミと取引をすると知ったから、ゴールデンフィッシュの実物だけでも拝見しようと思ってね。別に見るだけならタダだろう?」
たしかにアンゴラの言う通りだ。学者タイプと聞いたから頭が固いのかと思ったけど、結構臨機応変に行動できる人なんだな。
「おい、早くゴールデンフィッシュを見せてくれ」
エディアが急かすようにそう言った。それじゃあさっそく取引でもやるか。
俺は《異次元ポーチ》からペンを取り出して地面に召喚魔法陣を描き記していく。
周りのみんなはそれを不思議そうな顔で眺めている。
「アレス、どうして召喚魔法陣なんて描いてるんですか?」
「まあすぐにわかるよ」
魔法陣を描き終えた後、俺はその魔法陣に魔力を加える。すると、そこに大きな水槽が出現した。
水槽の中では金色の魚が元気よく泳いでいた。
「なるほどなるほど。ヒーリングのあとにアレスが水槽に紋章を書き加えていたのは、こういう理由があったからなんですね。やっぱりアレスはすごいですね」
レスティアが感心したような声を上げた。
「す、すごい! これが噂のゴールデンフィッシュですか。実物を見るのは初めてだ」
アンゴラが驚いた顔でゴールデンフィッシュを眺めている。
「くくく、これで私の研究がもっと捗りそうだな」
エディアは悪人面で笑っている。エリアル曰く、喋り方は独特だが結構繊細らしい。
エディアは大変喜んでおり、執事を四人連れてくる。執事達に水槽を運んでもらいながらその場から去っていった。アンゴラもエディアと一緒について行く形だ。
意外と仲がいいんだね。まあ、クラスメイトだからそんなもんか。ただ、当時の勇者パーティよりも彼らの方がはるかに仲が良くてちょっと複雑だ。やっぱり普段からのコミュニケーションって大事なんだなぁ……。
取引も済んだことだし、そろそろ宿屋に帰るか。
俺はエリアルに別れを告げてレスティアと一緒に学園をあとにした。
◆ ◆ ◆
行きと同じく、10分ほどで宿屋に到着する。
だが、宿屋に到着してもロザリーの姿はなかった。また、エルザの姿もなかった。ちなみにエルザの存在は素で忘れていた。レスティアも言われるまで気づかなかったようだ。
「あの二人まだ帰って来てませんね」
「もう17:00だぞ。いくらなんでも遅すぎる」
「何かトラブルに巻き込まれたのでしょうか?」
「わからん。ちょっと探しに行ってみようか」
「ええ、そうですね」
俺達は宿屋を出てロザリーとエルザを探す。しかし、彼らの姿はどこにもなかった。
なんだかすごく嫌な予感がする。
「あのアレス。あの二人……自殺とかしてませんよね?」
「していないとは思うけど……」
あの二人がそんな事するわけないだろ!と断言できないのが悲しすぎる。
どんだけ普段からコミュニケーション取っていなかったんだろう。
今更ながらそう実感する。
俺はスキルで彼らを探す事にした。
現在、俺はレベル1。
彼らを探すためのスキルを自力では使用できないので、レスティアの法術でサポートしてもらい、レベル14まで自身のレベルを引き上げる。
相手のレベルを上げる法術は、自身よりレベルが低い相手じゃないと適応できないので、使い勝手はこれまであまり良くなかった。
しかし、現在のように俺がレベルダウンしてる状況ではかなり効果的だ。
レベル14になった事で俺は《探知》を取得する。
このサーチはアイテムから持ち主の居場所を割り出すスキル。幸運な事にレスティアがロザリーの髪飾りを持っていたので、それを使ってロザリーの居場所を割り出した。
意外な事に、ロザリーはルーゼンベルグではなくルーゼンフォレストにいることが判明した。
ルーゼンフォレストに入った俺達は、さっそくロザリーとエルザを探し始めた。
時刻も夕方。あと一時間もすれば完全に日が暮れてしまう。夜間になればシャドーキャットのような凶悪なモンスターが出現し始めるのでそれまでに二人を見つけなければならない。
探知は使い手のレベルによって正確さが変わる。レベル14程度の探知では漠然としかわからない。
「レスティア。夜の森は危険だから何があっても絶対に俺から離れないでくれよ」
「わ、わかりました」
レスティアに一言そう伝えて森へと望む。
途中でゴブリンやコボルトと遭遇したが、問題なく処理する事ができた。
大した敵ではないが、夜が近づいて来てるからか、やや凶暴性が増している。
今日は朝からずっと歩いてるのでレスティアもやや疲れており、足取りが重そうだ。
そういえば、怠け者気質のある彼女がここまで一生懸命に行動するのは珍しいな。
「疲れてるみたいだな。少し休むか?」
「いえ、大丈夫です。二人を探しましょう」
レスティアはそのように即答した。
彼女の表情には余裕がない。ロザリーも言っていたように俺から見切りをつけられるのが怖いのだろうか。
大教会の威信にかけて、今回の魔王討伐をなんとしても成功させなければならない。
もし俺から切り捨てられると、教会内でもレスティアの立場はかなり悪くなるだろう。
昨日の件もあるので、三人を切り捨てるつもりは毛頭ないのだが、俺の気持ちがレスティアに伝わってるとは限らない。
目に見えづらいだけで、もしかしたらギリギリの精神状況なのかもしれない。
俺はレスティアを呼び止める。
そして、レスティアをお姫様抱っこした。
「え? ええ? あ、あの、アレス……?」
「無理して探しても空回りするだけだ。一旦休もう」
「で、でも……」
「あの二人なら大丈夫さ。仲間なら信じてやろうぜ」
レスティアはしばらく唖然となっていたが、無言のまま小さく頷いた。
近くにあった平たい石に、レスティアを抱えたままゆっくりと腰かける。
そして、俺はレスティアの頭を撫でる。
ロザリーの時にも言ったように過去の事は忘れて本当の意味で友達になりたい事をレスティアにも伝えた。
「俺はお前と仲良くなりたい。過去のことは一旦忘れてさ、また一からやり直さないか?」
すると、レスティアは自嘲げに笑って表情に暗くした。
「私は……アレスの友達になる資格はありません」
「そんなことない」
俺の言葉に、レスティアは首を振った。
「アレスがそう言って下さるのは本当に嬉しいですが、私には本当にアレスと友達になる資格はないんです……。
ロザリーが死んだ時、エルザは泣いていました。ですが私は、自身に責任が及ぶ事を恐れる気持ちしか頭の中にありませんでした。ロザリーの事を悲しむ気持ちなんてこれっぽっちも浮かんでこなかったんです。アレスが責任は全部自分が取ると言った時、私は安心してしまいました。私はもうこの時点で、アレスの仲間である資格を失ったんだと思います。アレスに言われて自分の弱さに気づきました。同時に、自分の醜さにも気づいてしまったんです。仲間が死んでも自分の保身しか考えられない。こんな私が仲間であって良い訳がない。今だって、ロザリーとエルザが死んで自分の立場が悪くなる事への恐怖で頭がいっぱいです。こんなこと考えちゃダメなのに、私の中の弱い心が保身ばかりを考えてしまっているんです」
あの時と同じように、美しい金髪を掻きむしりながら、レスティアは唇を歪ませて泣いていた。
綺麗な顔は、涙でぐちゃぐちゃになっていた。
レスティアが、周りの影響を受けやすい性格であることは、俺も重々承知していた。
エリアルのような穏やかで優しい人物が側にいれば優しい性格になるし、クラウドのような人物が側にいれば彼女もそれに近づいていく。
喩えるなら白き糸だ。白糸は何色にも染まるのだ。
『理想の自分』と『現実の自分』。
その大きなギャップが彼女の良心を苦しめている。
正しい方向に進もうとすればするほど心の溝は深くなっていく。
聖女として正しくあろうとする教育を受けてきた、という背景もあるのだろう。
俺は何も言わず、彼女をそっと抱きしめた。
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