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第22話:エピローグ 

 

「私達は勇者の赤ちゃん製造機なの」


 つがいになるとか、人生の伴侶になるとか、生涯のパートナーになるとか。

 もっとマシな言い方はできなかったのだろうか。発言が生々しすぎる。

 ロザリーの話をまとめると、ロザリー・エルザ・レスティアの三人は最初から魔王を討伐するために配置されたのではなく、勇者アレスの子供を孕むために配置された人事だったのだ。政略結婚といえばいいのだろうか。女性陣の顔面偏差値がやけに高いと感じたのもきっとそれを意識しての事だったのだろう。

 そう考えれば色々と合点がいく。魔王討伐パーティにしては全員レベルが低すぎるし、魔王討伐への使命感が欠けているのも頷ける。彼らからしてみれば、魔王討伐はおまけであり、一番の優先順位は勇者アレスを調略する事だったのだ。

 だが、一つだけ疑問に思う事があった。


「その割には俺に対してめちゃくちゃ強く当たっていたな」

「自分の好きでもない相手と結婚するなんて誰だって苦痛を伴うと思うわ。少なくとも私は、自分の意思で勇者パーティに加わったわけじゃないから」


 なるほど。彼らなりの抵抗だったのだろう。

 国の大事で恋愛脳全開の行動をされるのはガチで腹立つが、幼い彼らがそれを理解するのは難しいのかもしれない。ロザリーなんてまだ15歳くらいだしね。


 俺を疎ましく思っていた理由は大体わかった。だがどうして今になってそんな話をしたのだろうか。

 半年間の努力の結果、もうロザリーと結婚したいなんて一ミリも思っていない。むしろ目の前から早く消えてくれとさえ願ったほどだ。ロザリーの望みは成就したはずだ。


「そもそも、最初から言って貰えたら俺は、ロザリーと結婚しようなんて思わなかったのに」

「実際に口に出して言ってしまうと、アナタに私をクビにするための大義名分を与えてしまうじゃないの。私はクビになるわけにもいかないのよ。最低限、魔王を討伐したパーティにいたという功績がなければ家に戻る事はできないわ」


 あー。なるほどなるほど。

 俺と結婚はしたくないが勇者パーティをクビになりたくもない。エルザがあそこまで必死に俺の機嫌を取ろうとした理由がわかった気がする。


「ロザリーがベッドの上にごろんしてるのは俺への贖罪のつもりかい?」

「半分正解よ。アナタは複雑かもしれないけれど、私にはアナタの赤ちゃんを産むことでしか生きる道は残ってないの。これまでの事は全部謝るから、アナタに都合のいい女になるように努力するから、抱いて!」


 正直に言えばまったく抱きたくない。

 ロザリーは好きでもない男と結婚したくないと言ったが、俺だって好きでもない女と結婚したくない。

 ロザリーに言い分があるように俺だって言い分がある。


 だが、もしそれを告げてしまえば、彼女は自殺してもおかしくないレベルまで精神的に追い詰められているのは事実。リザレクションでせっかく蘇生したのにまた死なれたら全部無駄骨になってしまう。


 魔王討伐を半年遅らせる覚悟でロザリーを蘇生させたんだ。

 それをロザリー側の都合で全部おじゃんにされたらたまったものじゃない。


 子供を作るとまではいかなくとも、ロザリーを安心させるような言葉かけは必要なのかもしれない。

 今は精神的に不安定でも、時間が経てば精神的に余裕を取り戻すかもしれないしね。



 せっかくだからロザリーの望むように一回抱いてみようかな。

 つらはめちゃくちゃいいしね。年下だし、俺の都合のいい女の子になってくれるっぽいし。



 こう記述すると俺がめちゃくちゃ悪い奴みたいに見えるかもしれないが、俺は100%被害者側だと断言できる。

 彼らの都合に巻き込まれて魔王討伐を邪魔されまくって、挙句の果てにはいま抱かないと自殺するかもしれない奴が目の前にいる。

 古今東西、俺ほど不幸な勇者は他にいないと思う。


 俺はロザリーの端に座った。


「正直に言えば、俺はキミの事が嫌いだ。だからキミを抱く事はできない」


 俺ははっきりとそう答えた。


「う、うん……。わかってるわ……」


 ロザリーは悲しげに目を伏せた。

 彼女は何も言い返さなかった。その目には諦めの色が宿っていた。

 ロザリーは上体を起こす。ベッドの上から立ち上がり、最後にもう一度だけ謝罪をする。

 そして、寝室から立ち去ろうとした。


 その時、俺はロザリーの手をギュッと握った。

 ロザリーは少し驚いていた。やや潤んでいる、紫色の瞳が俺をジッと見つめていた。


「だからさ……まずは『友達』から始めてみようよ」

「……!」

「それは、まだ私はアレスの側にいていいってこと?」

「うん」

「あんなに悪口言ったのに……?」

「これから治していけばいい。悪いところがあるならちゃんと指摘してやるよ」


 結局のところ、俺自身がロザリーの立場を知らなかった事が原因で起こった、すれ違いだったのだ。

 過ぎてしまった過去はもう取り消せないけど、これから起こる未来を良くしていく事は誰だってできる。


 健全に相手のことを理解して、健全に相手と付き合って、健全に相手と結婚する。

 ロザリーはその段階をすっ飛ばして『結婚する』部分にしか着目してなかった。

 だから考え方が歪んだんだと思う。


「う、うん……。ありがとう……」


 ロザリーの頬を涙の線が伝った。


 勇者パーティを結成して半年が経った。四天王は討伐して、あとは魔王を討伐すれば終わりという最終段階まで差し掛かった。


 でも、ここで初めて、俺はロザリーと友達となる事ができた。



これにて一章終了です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まったく嬉しくなさすぎる据え膳でしたが、面白い落とし所だったと思います。 なかなかこのシーンで、しかも好感度ゼロの相手に、「まずはお友達から」って、出てこないですよねぇw
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